無職転生-異世界に舞い降りる魔族の王-   作:傾国の次郎

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二話

 

 

謎の声に導かれるまま俺は転生した。

俺が転生した世界はアースガルドという名前の世界らしい。

神の大地と呼ばれる島を中心に六つの大陸といくつかの島々、古代都市郡という空に浮くラピュタ的なナニカの更に上空には幻と云われる天空人の住まう天空界だの、海の底には竜宮城とおぼしき巨大帝国があったりと、とにかくファンタジー要素がこれでもかと詰め込まれた世界だった。

 

転生してしばらく経ってから気づいたのだが、この世界はドラクエの要素だけではなく、他にも様々な要素が入り交じった歪な世界であることがわかった。

 

ドラクエにはいなかったモンスターや生物がそこかしこにいるし、中には前世のゲームで見たことのある奴等もいた。

その種類は多種多様で、タイトルもジャンルも関係なく存在していた。

 

そんな世界でいま俺は、ひとつの悩みを抱えていた。

 

 

 

 

転生してからおそらく数年は経っただろう。

最初は良かった。

未知の世界、未知の都市やそこに暮らす住人たち、高い壁や門に守られた街を一歩外に出れば、そこには数えきれぬほどの冒険と危険な魔物やモンスター、そして時には人間同士の戦争に巻き込まれたり深い森の奥に暮らす古代部族の儀式に参加したりと、異世界の日々を満喫したものだ。

 

だがしかし、俺はいまひとつの壁にぶつかっていた。

物理的な意味の壁ではない。

俺が抱える悩みとは、単純に俺自身が強すぎるということだった。

 

転生特典をもつ俺は、この世界の住人たちよりもはるかに生物としての格が上だったのだ。

最初はそれでもよかった。

単純に誰よりも強いということは、死のリスクが低いということだ。

それに無双もできるし気分もよかった。

全能感が身体を満たし調子に乗っていた部分もあっただろう。

そして気分が完全に戦闘民族化した俺は只ひたすら強者を求めて世界を渡り歩いた。

その過程で随分と名前も売れ、世界最強の一角とまで云われるようになった。

俺を倒して名を売ろうと、幾人もの猛者が勝負を挑んできたが、俺の心を奮わせる者はいなかった。

俺以外の最強候補とやらに勝負を挑んでは倒し、挑んでは倒しを繰り返していたら、地上に敵がいなくなってしまった。

気付けば俺は独りになっていた。

 

 

どうしてこうなったのか、いまや俺は死神の代名詞としてしか呼ばれない。

俺が近寄れば皆逃げていく。

あるときは一国の軍隊を差し向けられたこともあった。(当然吹き飛ばしたが)

 

 

 

俺の心は渇いていた。

俺はただ、二度目の人生を楽しんでいただけなのに。

俺はただ、自分と互角に戦える存在が欲しかっただけなのに。

俺は間違えたのか、失敗してしまったのか、どうするべきだったのだろう。

 

 

 

世界から拒絶された俺は独り月を見ていた。

「……虚しい……。」

 

誰よりも強い、それこそが自分の足枷になっていた。

特典のひとつ、HP自動回復は瞬間再生能力並み、自動MP回復は、元々の膨大なMPもあわさってまさに無尽蔵。

つねにマホカンタにいたっては魔法や呪文は元より魔力を使う事象や理すべてを拒絶する始末。

素の能力自体が冗談みたいな強さなのに、それらの能力が加わって完全に化物だった。

圧倒的な強さをもつと世界を征服してやろうとかは微塵も思わない。

いや、かつてはそう思ったこともあるが、楽しくないのだ。

どうせ自身を倒せるような奴はいないし、そこまで征服欲もない。

そう考えたら虚しさだけが残った。

 

 

 

そんな時だったのだ。

あれが起こったのは。

 

 

 

あの日俺は一人深い森の中を歩いていた。

この森の奥には泉が湧いており、その泉には万病を癒す神秘が宿っていたのだ。

外傷は瞬時に治る俺の身体も、病気には勝てない。

そのため時折こうして泉の水を採取しに来ていた。

俺は腰にくくりつけた巾着型のアイテムボックスから瓶をいくつか取りだし、泉の水を詰めていく。

アイテムボックスの容量はほぼ無限、生物は入れられないがアイテムボックス中は時間が止まったままなので、食糧を大量に入れておける。

よくあるやつだ。

 

 

 

瓶に詰める作業を終えた俺は、ふと周りの景色を見渡した。

この世界に来てから身に付いた気配察知の能力によると、辺り数キロ圏内に生物の気配はない。

いつものことだ。

魔物やモンスター、普通の野性動物は強者の気配に敏感だ。

俺が近づくのがわかったのだろう。

特に気配を隠してもいなかったので、皆逃げたようだ。

俺は振り返り泉を見た。

別に何か思ったわけでもない。

なんとなく振り返った俺の目に映ったのは泉の上空ちょうど俺の目線の辺りに光る玉が浮いていた。

先程まであんなものはなかった。

空を見ると、何やら不吉な紫や黒い雲が渦巻いていた。

嫌な予感のした俺は全力でその場から離れようとした。

その時だった。

光る玉が一層激しく耀きだし、空から無数の木々や瓦礫、建物のようなものが降ってきたのだ。

 

そして俺は光る玉の耀きの奔流に飲み込まれ意識を失ったのだった。


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