レベルMAXのユーリがエステルを守るお話   作:ニコっとテイルズ

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「僕と彼女で食事に行って楽しい。映画に行って楽しい。遊園地に行って楽しい。じゃあ、告白しよう」 
 こういう順序をたどってカップリングが成立するのが普通の恋愛です。
 これを帰納的恋愛と呼びます。誰も呼ばないでしょうけど。

 これに対して本作のように、
「告白する→一緒に買い物をする。一緒に料理をする。ベッドインをする」
 という、結論最初主義的な恋愛を演繹的恋愛と呼びます。誰も呼ばないでしょうけど。
 ただし、ユーリのようにイケメンナデポなヤツと、エステルのようにチョロ甘なヤツでないと成立しない偶発性の強い手段です。
 要するに、フィクションでしか……というよりフィクションでもなかなかお目にかかれない方法です。お勧めはしません。

 なお、かなりどうでもよいのですが、昨日まで帰納の機能を勘違いしておりました。
 ……はい、これが言いたかっただけです。勘違いしていたのは本当ですけど。
 すみません、いつも阿呆な作者で。


4.光と影

 ここは、世界のへそ。この世界――テルカ・リュミレースの中心点に位置する海域だ。

 そこに一隻の大型船が漂流していた。いや、“漂流”と呼べるならば、この船の乗組員である海精の牙(セイレーンのきば)の連中はむしろ粋がったであろう。

 しかし、無遠慮に真実を照らし出す満月の光は、時化や船の故障といった生易しい空想を照らし出してはくれない。

 

 照らし出しているのは、ただただ夥しい数の遺骸である。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 そして、そんな無慈悲な真実を見詰めることができる人間はたった一人。しかも、もうしばらく時間が経てば、自分が人間でなくなることを自覚している男であった。

 「人間でなくなる」という意味が、単に人を殺めてしまった罪悪感という喩えならば、慰めになるどころか、そもそもこの男はこんな死体の山を築いてはいない。

 倒れている己の仲間や護衛対象の乗客のように、物理的に魔物へと変化(へんげ)するという意味だからこそ、男は自分の得物を振るわざるを得なかったのだ。

 

 男の身体からは、肌が焼け落ち、段々と骸が剥き出しになりつつある。

 そして、その骨は肥大化して、理性というものを削ぎ落してから、強力な魔物へとその身を窶(やつ)すのであろう。 

 ……その顛末は、目の前にいる死体たちが如実に示しているのだから、間違いはない。

 

「………………」

 

 どういう仕組みかはわからない。なぜこんなことをされたのか全くわからない。

 わかっていることは、この船――ブラックホープ号にあった大量の魔導器と術式がいきなり発動し、大量のエアルが仲間や乗客に注ぎ込まれ……魔物たちの饗宴という地獄絵図となったことである。

 そして、男にできたことは、馬謖を斬る思いで魔物に変化してしまったほぼ全員を殺害し、彼らが人を殺める怪物になるという不名誉を被らないようにすることぐらいであった。

 右手に拳銃、左手には船の錨を模した剣――奇しくも処刑用の剣に似つかわしい――をもって、一人を除き全員を殺害した。

 

(首領(ボス)……)

 

 そして、あとただ一つやるべきことは、重症に呻く己の首領を楽にし、自らも慣れ親しんだ海へ投擲すること。

 仲間を殺すことを躊躇った(しかしそういう人間でなければ自分が慕い付き添うことはなかった)心優しき首領――その金髪を万感の思いで眇(すが)める。

 思い起こされるのは、自分たちの船を得るのに四苦八苦、借金を重ね、大方外れに終わった宝探しの日々。

 僅かでも報いがあれば、また大仰に飲み食いして借金を増やす馬鹿な日々。

 ――そんなすべての心覚えを、この老女と共に築き上げてきた。

 

 もしも。

 もしも、海精の牙(セイレーンのきば)に伝わる不老長寿の妙薬アムリタが今手元にあれば、首領に飲ませる絶好のタイミングであったであろう。

 ただ、そんなことは歴史から虚しき空想を捻り出すのと同じこと。今回の仕事では使わないに違いないと、アジトに置いてきてしまった。

 今からアジトに向かっても、徒労に終わるのは首領の状態から見て一目瞭然。

 首領が変貌してしまった仲間に身体が硬直している間に、刃が腹部から背中まで貫いたのを、男は目撃してしまっていた。

 真夜中の、こんな世界のど真ん中の海で船が通りがかってくれることを期待するのも……劇の中だけの話であろう。

 

 だから、海精の牙(セイレーンのきば)の参謀役――サイファーは決断した。

 

「すみません……首領……」

 

 自らの不甲斐なさとこれからの所業に心の底から謝罪しながら、サイファーは、老女のこめかみに銃口を突きつける。

 

「あり……がとうなの……じゃ……今まで……」

「っ!!」

 

 喋れなくて当然の状態から振り絞られた首領――アイフリードの感謝の言葉は、結果としてサイファーの最後の逡巡を奪い去った。

 引き金を引いた時、悼むというより驚愕の感情が己を席巻したのに気付いた時には――

 

 

 

 ついに、愛すべき者を殺してしまっていた。

 

 

 

「ふぅ………………ふっ」

 

 その瞬間、まるで一仕事終えた時のように溜息をつけたことで、サイファーは己のかわいさというものを完全に捨て去ることができた。その事実に思わず笑みがこぼれる。

 

 ついに、精神まで怪物になることができたようである。さらば、死することになにをか躊躇う必要があらんや。

 

 サイファーにそんな生への執着を捨てさせることこそが、アイフリードなりの最期の贈り物なのだ。サイファーは、そう思うことにする。

 

 そんな無慈悲なはずの慈悲に心から感謝の想いを捧げ、先に死に逝ったアイフリードの姿を目に焼き付けながら、ついにサイファーは己の口の中に銃を突きつける。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 ――世界の中心に水没した愛が、錨に引っ掛かることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗くてじめじめとしていて重い。

 クオイの森というところを三つの形容詞に集約するならば、このように結論づけられる。

 

 聳え立つクオイの森の大木は、弱肉強食をそのままに、枝を広げ、葉を増やし、縦横無尽に日光を独占する。

 そのせいで疎(まば)らにしか陽の光が森の中に入って来ず、運良くその場所を獲得できた花の周囲を萎れた下草が恨めしそうに囲んでいる。

 土壌からの水気も木々に覆われて拡散できず、さらに葉の群れの蒸散によって森の上下に水分が囲われており、暗中で纏わりつくような湿気が肌を蔓延った。

 そして、生育悪く日光を得られなかった不憫な葉たちは、恨みの籠った二酸化炭素を排出し、森の空気をどんよりと重くする。

 先ほどまでいたカラッとした太陽の下にあった草原地帯とは真逆で、しかもクオイの森の呪いの話が頭から離れないエステルにとって、この森の中を歩くのは不気味で不快で気が重かった。

 

 とはいえ、前方を歩く影そのもののような様相のユーリの背中は、そんなエステルの胸中を晴れやかなものにしていた。

 森に入る前の不安げな表情もどこへやら。この人について行けば絶対大丈夫であるという無条件の信頼が、その背中から醸されているのである。

 

「蒼破刃!」

 

 それは、蒼い剣圧が一の剣の振るいで四方八方に飛び散って、全ての魔物を一撃で仕留めるからでもあり、

 

「きゃっ!」

「おっと……大丈夫か?」

「は、はい! すみません……」

「気にすんな」

 

 視界不良で大木の根っこに躓いたエステルに事も何気に手を貸して、転倒を防いでくれたりしたからでもある。

 

「………………」

 

 しかし、それらだけに終わらない。

 エステルはさり気なく差し伸べられた逞しい手の平の感触を思い出しながら、すぐに周囲の警戒に移ったユーリを見遣る。

 昔の言葉だと、「影」は「光」の意味を持ったらしい。どうしてそんな意味を持ったのかを、エステルは今現在まざまざと実感させられていた。

 一見森の闇の中に溶け込みそうなユーリの姿は、それがユーリであるが故に、確かに光り輝いている。

 ごく稀に木漏れ日に入った時に光の中から現われる大きな人影にエステルが覆われたときは、暗いはずなのに明るかった。

 

『光は影の 影は光の 果てまで付いて行くのだろう』

 

 エステルは、自分の好きな歌詞のフレーズが、これほどまでにマッチングしている情景に出くわすとは、想像だにしていなかった。

 まさしくそうなのだ。ユーリという男は、その二つの端境を自由に行き来できる。

 巨木よりも存在感の大きな影の輝きに、せいぜい自分は、小さな光として追従するに過ぎないのだろう。

 

 それでも。

 大きな人が自分を求めている限り、自分は矮小ながらも付いて行く。

 願わくば――自分の優しさがほんの僅かでも輝きに同化できることを信じて。

 

  

 

 

 

 

 

 

 もうしばらくだけ、エステルにとっての輝かしい時間は続いた。

 

「エステル。ちょっと行った所に、魔物が群れているから、ちょっと別のところで時間を置くぞ」

「そうなんです? ならそうしましょう」

 

 先導するユーリの視線の先を追うと、確かにウルフの群れやキラービーといった魔物たちが奥の草叢に屯(たむろ)していた。

 何かを囲っているようだが、ここからでは遠くて彼らの獲物は見えない。

 でも、ほとんどの魔物は同種族同士ですら社会を構成したりはしないので、時間を置くというのは当然のことと言える。

 もとより、魔物狩りのために旅をしているのではないのだから。

 

「ほれ、エステル。こっちこっち」

「は~い」

 

 ユーリが足早に先導した先には、

 

「わぁ……!」

 

 赤、紫、橙、黄色と豊かな色彩の花々で覆いつくされた花畑があり、エステルは感嘆の声を上げる。

 まるでその花の色を意図して真似たかのような蝶々も優雅に舞っている。

 サラサラとそよぐ清澄な風音ともに、渾然とした薫りが、うっとりと目を瞑るエステルの鼻腔をくすぐった。

 

 どうやら、何らかの要因でここだけ大木が生育できず、結果としてできた陽だまりに花畑が生成されたようだ。

 植物の憎しみを具現化したような、うばたまの暗黒樹林と僅かに分け隔てたところで、ここだけは植物が仲良く調和しながら明るく暖かく軽やかな空間が形成されている。

 そんな桃源郷のような景色に、エステルは大いにはしゃいで、花畑に向かって駆けて行く。

 

「すごい! すごいです! 世界にはこんな場所があったんですね!」

 

 自らを歓迎する花園を乱さぬように気を付けながら、エステルは若草の絨毯の上で蝶たちと同化した。

 外という長年夢想していた空間の理想を体現した光景に自らが溶け込んでいることすら、およそ信じられないものであった。

 それが幻想ではないと確かめるように馨しい香りで肺を満たし、柔らかな草原に足がついていることを確認するべくクルクルと舞う。

 齢18に至るまで一切実現できなかった美しい自然との共演を、飢えを満たすようにエステルは享受していた。

 

「はふぅ……」

 

 そして、自らが現(うつつ)にいることを全身で証明しきった後は、まるで花や蝶の一員となるように仰向けに寝転がった。

  

「すげえはしゃぎようだな、おい……」

 

 半ば呆れるように、しかし感慨深げな声を上げながら、ユーリは笑みを浮かべる。

 

「だって、ずっとずっとずっと、こんな景色を夢見ていたんですよ! だからとっても嬉しいです!」

 

 小さな桜の花は、花畑から興奮冷めやらぬ声音で、周りの花々の花粉を舞わせた。

 

「ユーリも! こっちに来てください! 一緒に楽しみましょうよ!」

「ああ……わかったよ」

 

 ユーリの声こそはやや気怠げであったが、足はそうでもなかった。

 花のない所を歩きながら、大の字になっているエステルの傍にゆっくりと腰を下ろす。

 そして、華の興演に目を細めながら、自らも楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 しばらくの間、自然の囁きだけが世界に存在する音であった。

 蝶のパタパタと舞う音すら耳を撫で、時折風が閑やかに芝生をそよぐ。

 そんな幻想のような理想空間を、エステルは光である影と共に、精一杯享受していた。

 

 そして、十分に間をとった後、エステルがそんな静謐さと麗(うら)らかさをかき乱さぬように祈りながら、そっと口を開く。

 

「……ユーリ、ありがとうございます」

「ん? 何がだ?」

「わたしをお城から連れ出してくれて。こんな綺麗な場所にまで連れてきてくれて」

「選んだのはエステルだろ。お前が自分で行きたいって手を引かなきゃ、ここまで来なかったわけだし。

お前が旅に出たいって言って初めてここまで来れたんだろ」

 

 ユーリは、若草と同化したような双眸を直視しない。

 

「それでも……ユーリがいなければ、わたしは……」

「よせよ。そうやって礼を言われるやつじゃねぇよ、オレは」

 

 ユーリは本気の感謝の言葉を受け取ろうとしない。

 でも、エステルにとってそれはちょっと面白くない。

 なので、たまには趣向を変えて攻めてみることにした。

 

「もぅ……いいじゃないですか。素直に受け取ってくれたって。

わたし、ユーリにはとっても感謝してるんですよ?」

「……ったく。自分を危険に晒そうとしたヤツに何を言ってるのやら」

「あ、自覚はあったんですね」

 

 まぁ確かに昨日のユーリはオオカミそのものであっただろう。

 とは言え、ちょっと乱暴だけど、それ以上に自分を満たしてくれる優しい人という像は、エステルの中では崩れない。

 少なくとも、奥の道に陣を張っているウルフたちとは訳が違う。

 魔なる性質を持つウルフたちは、エステルをこのような幻想的な空間に誘ったりはしないのだ。

 

「……まぁ、いいです。いつかわたしが、頑張って恩返しをするんですから」

 

 ほんの少し拗ねたようにエステルは、目を瞑る。

 

「ほう、そうか? なら、一つ頼みたいことがある」

「え?」

 

 ユーリの真剣な声色が、再びエステルの焦点を涅色(くりいろ)の瞳へと合わせさせる。

 瞳の中の色も、ユーリの剣技と同じくらい尖鋭なものに見えた。

 そして――

 

 

 

 

「ずっと生きててくれ」

 

 

 

 

 再び、静寂(しじま)が二人の間に割って入る。

 しかし、先ほどとは性質を異にする静けさだ。

 今度は、風のそよぎも、蝶の羽音も、エステルの耳には一切入ってこない。

 恐らくエステルの意識を取り戻させたのは、僅かに目に入らんばかりの嫋(たお)やかな髪の毛がユラユラと動いたからであろう。

 

 ユーリの瞳を瞳として認識でき、ようやっと己の意識を奪った言葉を釈した時、

 

「ふぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 また、エステルは真っ赤になって飛び跳ねた。桃源郷は熱く眩くなり、そして重力がひっくり返ってしまったのだ。

 図らずもユーリと思い切り距離を取り、剣も盾も装備しないが、臨戦態勢に近い構えを取った。

 そして、先ほどまでの自分が如何に無防備な状態であったのかを再認識した時、また戦慄する。

 

 オオカミの前で何という格好をしていたのだ。自分を頂いてくださいと、お皿の上に載っているような状態ではなかったか。

 自分を夢の世界へと連れ添ってくれても、所詮オオカミはオオカミ。

 あそこにいる魔物ほどではないが、確かに警戒すべき存在なのだ。

 特に、臆面もなく放たれるどんな蜜よりも甘い言葉。

 それが上辺だけの甘言であるならば、どんなに良かったか。

 そうではなくて、真剣勝負の緊張の込もった、まさしく真の言葉だからこそタチが悪い。

 まだまだ心が脆弱なエステルにとっては、余りにも切れ味が鋭過ぎた。

 とはいえ、昨日よりは、ほんのちょぴりだけ強くなったエステルは、

 

「だ、だから、突然そんな……は、恥ずかしいこと言わないでください!」

 

 肩で息を吐きながら、たどたどしくもしっかりとした仕返しができた。

 しかし、相手は真剣を鞘には収めない。ただ、朝食のような甘い攻撃の幕無しではなかった。

 

「いや、エステル。……これは大事なことだ。

絶対にオレより先に死ぬんじゃねえ。そうなったら、オレはお前を許さねえからな」

「………………」

 

 エステルは、思わず言葉を失う。

 ユーリの言葉が、あまりにも強い芯に支えられ、あまりにも真っすぐ過ぎて、とてもとてもすぐには言葉を返せるようなものではなかったのだ。

 そして痛烈を超越した言葉は、エステルの心に違和感を齎す。

 

 どうして自分にここまで?

 一目惚れってだけで、男の人はこんなに強い言葉を?

 わたしがお姫さまだから? 

 ――違う。そんな風に見られたことは一度もない。“エステル”以外の目で見られたことなど全くない。

 なら――

 

「わたしとユーリって、どこかで会ったことが?」

 

 自分の記憶にはないが、ここまで想われるようなことがユーリにはあったのだろうか。

 もはやそれぐらいしか思い浮かべられない。

 

「………………」

 

 鋭い視線を送り続けたユーリは、その言葉で目を落とした。

 それを見て、はじめてエステルはユーリを上回った気がする。

 しかし、迷子の子犬のようにシュンと俯くその姿を見て、喜悦に浸ることなど到底考えられない。

 むしろ、触れてはいけないものに触れてしまったようなそんな罪悪感すら感じる。

 でも、ユーリの心を支えられるのなら支えたい。自分が微力ながらでも力になれるなら――

 森に入る前にそう考えたことを思い出し、エステルはユーリが口を開くのを待った。

 

「あ、あの……」

「わりぃ………………まだ、説明できそうにねぇ。

……もうしばらく、待ってくれ」

 

 その懇願は、縋るような憐憫さを伴っていた。

 優しさの塊であるエステルが、それを無下にすることができるはずもなく、

 

「はい……」

 

 ユーリに合わせるように、声のトーンを落として頷いた。

 

「でも、約束だ。お前は、エステルは、絶対に生きてくれ」

 

 強い調子のユ-リの言葉に、

 

「はい!」

 

 気圧される形ではあるが、エステルは声を張り上げた。

 

「良い返事だ」

 

 ユーリは、瞳を閉じて、嚙みしめる様に満足気に首を縦に振る。

 

「……さて、アイツらも散ったみたいだし。そろそろ行こうぜ」

 

 気が付くと、森の奥のオオカミやキラービーの群れはなくなっていた。今なら安全に抜けられる。

 

 そして、再び前を行くユーリの背中を追う時間が始まった。

 だが――

 

「………………」

 

 現代語の“影”には、きちんと影の意味があることを、エステルは、はっきりと思い出させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ出口だ」

 

 ユーリの声音は平時のものに戻る。 

 花畑を抜けて、ほんの僅かながら魔物と戦い、無傷のまま二人は森の出口に着いた。

 ようやく花畑以外で、燦燦たる太陽を浴びることができるようになるのだ。

 もっとも、エステルにとっては、そんなことよりも眼前のユーリの状態が気掛かりであった。

 花畑に入る前の方が、よっぽど明るいように思える。

 

 とはいえ、迂闊には訊けない。 

 もちろん、先ほどのユーリの躊躇いを慮ったからでもある。

 しかし、それ以上に、心なしか森の出口に向かうにつれて、ユーリの影が色濃くなってきたように思われるからというのが大きい。

 それはちょうど、あの魔物の群れがいた前後に差し掛かった頃合いからのことであった。その辺りから、とてもとても訊ねられるような雰囲気ではなくなったのである。

 

「はい、ハルルの街が楽しみです」

 

 ほとんどというより完全に虚偽の笑顔を、エステルは人生で初めて浮かべた。

 そして、声をきちんと弾ませられたかどうか――そんな心配をするのも初めてのことであった。

 

「んじゃ、とっとと行きますか」

 

 闇の森から眩しい太陽の下へ、ユーリは進み出る。

 その瞬間、目に突き刺さる太陽のせいで、影は見えなくなった。

 とはいえ、強い光で影がかき消されたというよりは、誤魔化されて消されたようにエステルには思えてならない。

 しかし、これから行くハルルの街を想いながら、エステルはユーリに黙って追従せざるを得なかった。

 

 

 

 

 ――太陽を浴びながら、ユーリは、もう一度だけ暗黒のクオイの森を見つめ返した。

 

 

 

 

 




 むむぅ……もう少し進む予定だったのですが、なかなか思うようにはいきませんねぇ。
 というより、予定ではとっくの昔に「ユリエス」は完結していて、読者様が私に呪詛を投げかけているであろう「ルーク」の方に戻っているはずだったのですが……一文一文紡ぐのがすごく大変で、体力が保たないのです。あと、脳がアウトプットではなくインプットを求めている期間であるというのもあります。
 とはいえ、一週間でたったこれだけの文しか書けないとは……速筆を自慢していたころが懐かしい。
 
 あ、感想返しは、6話か7話が終わってからやります。それまでちょっと読者様からの影響を受けたくないので。ついでに言うと、今この作品のUAもお気に入りの数も評価も把握していません。もの凄く繊細な作品なのです、これ。はい。
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