レベルMAXのユーリがエステルを守るお話   作:ニコっとテイルズ

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ここ最近読んだ本で、間違いなくベストだと推薦できるのは『完全自殺マニュアル』(著:鶴見 済、太田出版、1993)です。
 タイトルの通り、首つり、リストカット、飛び降り、薬物、ガス中毒……、おおむねの自殺の方法がものすごく具体的に記載されています。
 例えば、飛び降り自殺の注意点として、「腰や足だと未遂に終わるかもしれないから頭から落ちろ!」「確実に死ぬためには、地上20mの高さが必要」「救急車を呼ばれて助からないように、目立たない場所を選べ」とあるように、笑いが止まらなくなるほど事細かに書かれています。ついでに、残念ながら未遂に終わってしまった人たちによると、飛び降りよりも注射の痛みの方が痛かったそうです。

 人間に生きる意味なんてない。一人死のうが社会に大きな影響はない。生きたきゃ勝手に生きればいいし、死にたきゃ勝手に死ねばいい。自殺を止めるべき根拠なんて存在しやしない。それがこの本のテーマです。
 夫婦円満幸せに暮らしてたけど、ある日妻が認知症を患って暴力も辞さない人になってしまい、夫が介護で疲れ果てて殺してしまって逮捕されたとか。仕事、子育て、家庭生活……全部努力でこなして幸せに暮らしてきたけど、何とか生き永らえようとして選んだガン治療の痛苦で何か月も悶えながら死んでしまったとか……。幸せに生きていても、介護なり病気なりで一変し、拷問のような終末期を迎えてしまう可能性があります。
 それに引き換え、首つりに至っては、方法さえ間違わなければ(特に30センチの高さが大事)、痛みを感じることなく(法医学者が証明済み。実験したら意識が途絶えて死にそうになった)、それどころか快楽すら感じてすぐに逝ける。……自殺者って本当に不幸なんでしょうかね?

 ……でも、この本がベストセラーとなった年に限って、逆に自殺者が減ったらしいです。人間ってやっぱり不思議。
 多分、いざとなったら死ねばいいって言うのが、日常の精神安定剤として機能しているのだと思います。私もそう感じますし。
 理系じゃないからわかりませんが、なにぶん24年前の本ですので薬物などのデータについての記載は古いそうです。首つりとか飛び降りについてはたぶん変わらないと思いますが。
 まぁ、そんじょそこいらの本よりは、よっぽど真を突いている本です。不謹慎に見えるタイトルとは裏腹に、当時の評論界でこの本を大きく批判する人はおらず、むしろ評価されていたらしいです。
 以上、こんな本もあるんだよという意味で、古典よりも価値がありそうなものを紹介してみました(私はあんまり古典を読んだことがありませんけど)。

 長文失礼しました。では、本編をどうぞ。
 


5.夢の終わり、現実への回帰

エステルは、ユーリに膝枕をしていた。

 

 無駄に豪華すぎる自室のソファに座り、自分の膝にユーリの頭を載せている。

 大いに興奮しながら、エステルは、己の腹の方を向いて眠っているユーリの重みと温かさを感じ、そのサラサラとした長髪を梳(くしけず)っていた。

 

 ちなみに、ユーリの顔は基本的には見えていない。

 というのも、エステルは市民街の学園の制服を着用していて、その赤と黒のチェック柄のスカートで、ユーリの顔を覆っているからである。

 ――そして、ユーリが目を醒ました瞬間に見る光景を必ず自分の履いている黒いパンティーにするようにしていたのであった。

 自分の生脚の上でユーリが寝返りを打ちそうになる度に強引にスカートの中に引き戻す辺り、とても徹底している。

 規則的な寝息が股間を刺激して、背徳的なくすぐったさにムズムズする。

 自分の太ももが水枕のようにきちんと柔らかいかは、ちょっと不安だったりもした。

 

「はぅ……」

 

 自分の膝を枕にユーリが寝ている幸福と、起きた瞬間にまた怒られるかもしれない憂鬱に、エステルは少し複雑な溜息をこぼす。

 ユーリが勉強に疲れて、本当に珍しくぐったりと眠っている時にこうしたのは良いが、こうやって破廉恥なことをしてしまったら、また機嫌を損ねてしまいそうで恐い。

 けれども、これは賭け。あれこれやってるのに、全然振り向いてくれないユーリに対しては、こうやって強引に攻めるぐらいでちょうど良いのだ。

 ……何だかんだ言って、ユーリは自分の傍から離れないし。

 

 ――しかし、詰めが甘いのがエステルである。

 

「ふわぁ……」

 

 この世で最も強くて、格好良くて、さらに美しさまで兼ね備える勇者様の無防備な姿も、ずっと眺めているとどうしても飽きて来る。

 時折スカートをめくってユーリの寝顔を覗き煽情的な気分になってから閉じるを繰り返すと、段々と眠気が伝染してくるのも当然のことであった。

 昨日計画を思いついて以来そのまま保ち続けた緊張と興奮で、前の晩によく眠れなかったのも大きい。

 視界の外縁にある黒のハイソックスに包まれた足と茶色の革靴を脳が認識しなくなり、視界の中心を占める大好きでたまらないユーリの寝顔も眠気のせいで遮られてくる。

 

 そして、うつらうつらとお花畑な頭を揺らし続け、ついにはカクンと俯き、高級な櫛を片手に、エステルの意識がなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――夢だった。

 

 夢で眠った瞬間に起きるのもどうかと思ったが、ひとまずはあんな羞恥心を自ら曝け出すような真似をしているのが現実の自分ではなくてよかった、とエステルは夢の中とは別の意味の溜息をごちた。

 安堵とは別に、自分の深層心理はいったい何を考えてるのやら、とも思ったが。

 

「気が付いたか?」

「はい……」

 

 硬いながらもあったかい枕と、髪の毛を優しく梳(す)いているタオルケットの触感を心地よく感じながら、反射的にエステルはユーリに返事をする。

 タオルケットに包まれているせいか、視界は暗い。

 でも、なんだか、黒と肌色が混じってるような……

 

「えっ!?」

 

 嗅覚が回復した時、エステルは気が付いた。

 昨日何度も嗅いだユーリの……雄々しいながらも恐ろしいまでに甘い匂い。それが脳髄を強烈に刺激している。

 ということは、自分がいま臥所(ふしど)にしているのは……

 

「すすすすみませんっ! ……ふにゅっ!」

「まだ寝ておけ。立ち上がんのは、ちゃんと身体が回復してからにしろよ」

 

 慌てて起き上がろうとしたエステルは、頭を押され強制的に寝床へと戻された。もといユーリの太腿へと戻された。

 

 そう。夢とは逆に、ユーリが、エステルに膝枕していたのであった。

 

 自分の髪の毛を梳(す)いているのは、タオルケットではなく、ユーリの手櫛。

 目を醒ました時に見たのは、ユーリの鍛え上げられた腹筋と普段着の黒衣。

 膝枕をする・されるの彼我がひっくり返っているだけで、夢と同じ状態であった。

 

 膝枕と言うのが、するのもされるのも男と女のどちらでもいいのかな、と思いながらも……

 

 

 

 しかし、今はそれを考えるべきではない。

 ――どうして気が付いたらユーリの膝の上にいたのかということを推測しながら、ハルルの街の悲劇を思い出さなければならなかった。

 

 

 

「それで……生きてる人は?」

 

 頭を撫で続けるユーリに、エステルは上目で訊ねた。

 

「………………。ダメだった。誰もいねぇ」

「そんな……」

 

 眉を寄せ、険しい顔でユーリはかぶりを振る。

 そして、エステルの髪の毛を梳(くしけず)る速度が増す。

 もはや、良く整えられた髪をグシャグシャにせんという勢いであった。

 しかし、そんな些末なことにエステルの意識は行かない。行くわけもない。

 

「わたしたちが……もっと早く着いてたら「エステル」」

 

 どうしようもない方向へ思考が沈潜しようとするエステルを、ユーリは鋭い声で制す。

 

「……こんなことは誰にも予想できなかった。

お前は、何も悪いことをしちゃいねぇ……それをきちんと認識しておけ」

「でも!」

「そうやって、何度も何度も『ああすればよかった』『こうすればよかった』って考えに逃げて、現実と向き合わずにただ時間だけを浪費するヤツをオレは何度も見てきた。

……少なくとも、この事件でエステルは何も悪いことをしちゃいねぇし、昨日からここに着くまでの行動にほとんど余計なことはなかった。

だから、そうやって自分を責め立てるんじゃねぇ。――それこそ、ここで死んじまったヤツに迷惑だ」

「……ユーリ」

 

 相変わらず、ユーリの言葉には実が伴っている。

 経験や観察に裏打ちされた確信があるからこそ、ここまで自分の心に響くのだろうと、エステルは思う。

 それは、慰めとまではいかなくとも、確かに取り留めのない思惟に堕落していくことを回避させる矯正力は持っていた。

 ……でも、それでも。

 

「……わたし、まだしっかりと受け止められません……うっうっ……」

 

 世間から隔離されていたエステルが、あまりにも忌憚なき真実を受け止めることは、まだ、できなかった。

 感受性豊かな彼女は、死んでしまった人と街の苦しみと無念をどうしても想像してしまう。

 

 魔物に噛まれた時、どれほど痛かっただろうか。

 自分の身を守ろうとして自分の家に火をつけた時、どんな思いだっただろうか。

 まだまだ未来のあったはずの子どもたちが、ここで生涯を終えてしまうとは、どれほどの心残りがあっただろうか。

 そして……街のシンボルであるハルルの大樹は、自分の街を守れなくて、どれほど悲しんでいるだろうか。

 

 そんな死んでしまった人たちの想いを汲み取ってしまうと、体の内側からこみ上げてくる涙をどうしても抑えきれない。

 

「わかってる。……オレはここにいる。エステルが泣き止むまでずっとここにいてやる。

……だから、今日は思う存分泣いておけ」

「はい……あ゛りがどうございます……」

 

 エステルの涙声を搔き消すように、ユーリの手櫛は素早くなる。

 耳に垂れるピンクの髪の摩擦が、紛れもなく自分と現実とを遊離させていた。

 

 そして、エステルはユーリのお腹に顔を押し付ける。腕を背中に巻き付け、しっかりと固定する。

 ――人がいるという温もりを、今日ほど感じた日はなかった。

 

 でも、それと同時に――

 

 

 

 

 

 

 

 夢は壊された。迂回されていた現実へと回帰してしまう。

 

 

 

 ――ハルルの街は滅んでいた。

 

 

 

 桜吹雪のピンク色の花びらがハルルの街を訪れる旅人たちを優美に歓迎するような理想的な光景はない。

 桜の花びらの堆積のせいでハルルの街に住んでいる人々が、玄関の掃除の手間を増えて内心迷惑しているような現実的な光景もない。

 

 視界を席巻する光景は、ただひたすらに死体と魔物と炎だけであった。

 

 夕日影に感嘆することなく、遠目に映る黒煙を見咎めてユーリと二人で急行したところ、まず街の入り口で多種多様な武器を持った大人たち……だけでなく子供たちまでもが何人も血を流して死んでいた。

 それだけでエステルには十分にショッキングな光景であったが、ユーリがお前の治癒術を待っている奴がいるから今は踏ん張れ、と叱咤してくれたことで辛うじて正気を保てた。

 とはいえ、家々から立ち込める炎と煤煙、人と魔物から漂う渾然一体となった腐臭、そして、オオカミの魔物たちによるムシャムシャという咀嚼音……入口から見回した限りで既に生存者の存在は絶望的に思われた。

 

「生きてる奴らの前に、まずはコイツらを片づけねぇとな」

 

 憤怒の表情で目を尖らせるユーリは、いつものように片手だけで剣を引き抜き、臨戦態勢を取って駆け出した。

 エステルもそれに続いて剣と盾を構えたが……結論から言えば、その必要はなかった。

 

 まず、ユーリは人を丸呑みできそうなほどの巨大なオオカミの魔物――ガットゥーゾという凶悪な魔物だ――が飛び掛かってきたところを、

 

「円閃牙!」

 

 剣の根元を支点とする縦の高速回転で真っ二つに切り裂いた。

 そして、周りにいたその仔たち――ガットゥーゾ・ピコを、ついでとばかりに淀みない袈裟切りの連続で屠る。

 

「守護方陣!」

 

 さらに、剣を地面に突き立て……天まで届かんという勢いの、同心円状の光の柱をつくりだした!

 

(すごい……)

 

 エステルが思わず魅入るほどの、強烈な守護の光柱。

 それを認めて、ハルルの街に散開していた魔物たちが続々と集まってくる。

 狙いは、もちろんユーリ。けれども、エステルには、ユーリは絶対に負けないという確信が持てた。

 

「へっ! どっからでもかかって来いよ!」

 

 不敵に挑発したユーリの瞳は、恐らく笑っていなかっただろう。

 

 飛べない大型鳥のアックスビーク3体を、『幻狼斬』という瞬時の背面取りで、あっという間にまとめて切り裂く。

 巨大な蜂の魔物のビーたちは、『爆砕陣』の火炎の一撃で大地に叩き伏せる。

 そして、多少知恵があったのか、個々では敵わないばかりに小型の魔物のウルフたちが一斉に噛みつこうとしたところを『烈砕衝破』の衝撃で一気に蹴散らした。 

 最後に、鈍重な大木の魔物であるトレントを、ユーリの十八番(おはこ)とも言っていい『蒼破刃』の蒼い剣圧で吹き飛ばす。

 

 こうして、ひとまずの魔物退治に終止符を打った。

 

 

「………………」

 

 ここに来るまでの道中で、高精度なカリキュラムのようにエステルに相応の敵を回し続けたユーリが、一切の手加減をしないとこうなるということをエステルはまざまざと思い知らされた。

 一体どれほどの魔物と戦い続ければこうなるのか、エステルには見当もつかない。

 しかし、言うまでもなくそんなことに思索を耽らせるべき時ではない。

 

「エステル、行くぞ」

「ええ」

 

 まずは生存者を見つけないと。

 

 

 

 

 

 まず、ユーリの『守護氷槍陣』の氷で火を消失させ手近な民家に踏み込むも……炭化した人の姿しかない。

 火の巡り具合からして、もう少し早く来ていれば、と思うが、どうしようもないことと強引に割り切って次の場所へと向かう。

 もちろん家々を回る途中で、生きている人間がいないか目を凝らしたが……皆既に事切れていた。

 

 すべての家の火災を止めて生存者がいないことを確認し終えた後、今度はハルルの街の外を隈なく調べた。

 しかし、やはり全員が全員明らかに死んでいるとわかる状態であった。呻き声すら、全く聞こえない。

 ……喉笛を切り裂かれていたり、内臓が剥き出しになっている死体などは、エステルには一瞥するのが精一杯である。

 そして、太陽が沈み切っていないというのに暗夜行路を駆けるような気分で、街の頂上部、ハルルの桜の大樹の根元に辿り着くが……やはり生存者はいない。

 その樹に埋め込まれた結界魔導器の魔核の弱々しい光が、街の人を守れなくて申し訳ないと謝罪しているように見えた。

 

「………………どうして結界が作動しなかったのでしょうか?」

 

 こんなにも無機質で乾ききった声を発したのは、エステルにとって生まれて初めてのことであった。

 その問いかけに、言っても慰めにならねぇだろうが、とユーリは前置きしてから答える。

 

「ハルルの街の結界魔導器は、満開の季節になると結界の働きが弱まっちまう。

そん時に魔物に襲われたみてぇだ。 

……ここの地面、緑色になってんだろ。これは、ハルルに着いた時、最初に襲って来た魔物の毒だろうよ。

これをこの樹が吸収しちまって、結界が機能しなくなったんだろうな」

 

 ユーリもやるせないという溜息を隠さない。

 

「……騎士団の人たちは、何を?」

「巡礼のこと言ってんのか? アイツらにそれを期待するだけ無駄だぜ――本当に」

 

 エステルのイフの願望を、ユーリは容赦なくバッサリと切り捨てる。

 憤りを包もうとする配慮は全くない。

 

「……………」

 

 エステルは、二の句が継げない。

 魔物の毒を吸収した大樹の桜の花びらは、黒ずんで見える。

 それと連鎖して、自分の唇もザラついてくるようにエステルには感じられた。

 そんな呆然自失のエステルをユーリがいったん引き戻す。

 

「エステル。取り敢えず、宿に行こうぜ。今日はもう考えるのは止めな」

「……はい」

 

 覇気の消失したエステルは、我を張ることなく、ただただユーリの声の導きだけに従った。

 

 

 

 

「野郎……」

「あっ……あっ……!」

 

 木をあしらってできた――もう既に半壊の様相を呈している宿屋の入り口を開けた途端。

 

 顔が半分消失していた男の姿が視界に飛び込んで来た。

 半面だけ残った、慄きが張り付いた表情が、断末魔の状態を如実に表している。

 

 ユーリはそれを見て、そして宿屋の惨状を認めて、低音ながらも今までにない憤怒の声を上げる。

 しかし、その怒声がエステルの耳朶を打つことはなかった。

 

 ……今までは、微かながらも、生きている人がいるという可能性に縋って何とか気丈に振舞おうと努めてきた。

 だから、およそ人の姿を取らなくなった死体を見ても、生存者が存在しているはずだという希望で認識を強引に屈折させてきた。

 

 ――しかし、火の手の回った家の中で見た原形を保っていない人々、さらに外に遍満する死者を見続けて、生存者がいるとは思えない現実を無意識下で認めた時。

 エステルの中で、ギリギリの所で張り詰めていた緊張の糸が切れてしまった。

 それ故、眼前の凄惨な死体をしかと脳が認識し、その直截的な衝撃を処理しきれなかった。

 

 エステルの視界は、真っ暗になって、膝が折れる。

 

 ――頽(くずお)れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「……もう大丈夫か?」

「はい……ひとまずは」

 

 エステルは、自分を情けなく思いながら、ようやくユーリの膝から頭を上げる。

 そして、ベッドの上のユーリの隣におずおずと座りなおした。

 

 まただ。

 結局また、ユーリに頼ってしまった。

 こんなんじゃ、いつまで経ってもユーリのためになることができないというのに。

「ほれ」

ユーリはさらに自分にハンカチを突き出す。

しかも、泣きはらした顔からそっぽを向いて、自分の羞恥心を気遣ってくれる。

――まったく、どこまでも紳士的な人だった。

ありがとうございます、と顔を伏せながら礼をし、エステルは、どこまでも柔らかく、しかし乾いているハンカチに顔を埋めた。

そして――ほんの僅かだけ顔を拭って、すぐにユーリにハンカチを返す。

「もういいのか?」

「はい……」

 

 ユーリは少し目を丸くしていた。

 エステルとしては、このハンカチにあんまり長い時間頼りたくなかったのだ。

 ほんの少しでも、気丈なところを見せたくて。

 とはいえ、まだ顔が火照っているのは間違いないだろう。

 なので、宿屋の部屋に張り巡らされている別のことを訪ねることにする。

 

「この、わたしたちを覆っているものは何なんです?」

「これ? 『結界』ってやつさ。一日だけなら、魔物も風雨も完全に凌いでくれる代物だよ」

「そんなすごいもの、よく持ってますね」

「ま、いろいろ旅してきたからな」

 

 ユーリの語調には、誇らしげな色はまるでなく、むしろ自嘲の色が濃かった。

 結界の外を旅立つのは並大抵の人間にはできないことなのに、そんな風な口調になるのが、エステルにはちょっと信じられない。

 しかし、それを訪ねる前に、太陽が沈む方角とは反対の窓を流れるように眺めていたユーリは、エステルに向き直りある提案をする。

 

「明日、墓をつくってやろうぜ」

「墓……?」

「ああ。このままこの街を放っておいて、街の奴らが魔物のエサになるのは後味悪いだろ?

なら、オレたちで墓つくって、ほんの少しでも慰めてやろうぜ」

「ユーリ……! はい!」

 

 慈しみの籠ったユーリのアイディアは、エステルの心を震わせ、この街に入って初めての笑顔を齎した。

 それは――どうやら満面の笑みだったようで、ユーリの顔を逸らさせた。

 そんなユーリの仕草の意味に気付かず、エステルは首を傾げながら、どうしたんです、と訊ねるが、

 

「何でもねぇよ。……さ、今日は早く飯食って、とっとと明日に備えっぞ」

 

 ベッドから立ち上がったユーリは、テキパキと言って、部屋の出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ――桜の木の下には屍体が埋まっている

 

 最初にこのフレーズを聞いた時、何と倒錯的なこと……とエステルは思ったものだが、まさか、自分の手でそれを実現することになるとは夢にも思っていなかった。

 ……いや、この場所に来るまで、ある意味でずっと自分は夢の中にいたのかもしれない。

 お城という無菌室にずっと隔離されていたから現実を知らなかっただけで、外にいる人間はずっとずっとこんな刺激の強過ぎる日常を享受していたのだろう。

 ユーリの出現、クオイの森の花畑、ハルルの街……事実は小説よりも奇なり、というのは紛れもなく真実なのだと、エステルは心の底から実感していた。

 

 さて、そんなエステルは現在、朝日を浴びながら、この街を見渡せるハルルの桜の大樹の前で、シャベルを使って穴を掘っている。

 少し硬い土を切り出し、目一杯掬ってから土砂を放り投げる――呆れるほど単調で、しかし結構な重労働であるが、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を装着しているエステルにはあまり関係のないことだ。

 

 武醒魔導器(ボーディブラスティア)。装備者の能力を高める魔導器である。

 これを装備しているからこそ、この世界の人間は、体躯に勝る魔物と渡り合え、常人では不可能な剣技や魔術を用いることができる。

 ……まぁ、これがなくとも普通の人とはズレた鍛え方をしているエステルは、かなりの体力があるのだが、それには触れないでおく。

 

 エステルの役割は、ハルルの大樹の前に共同墓地の大穴をつくること。

 ……それは肝要なことであると彼女も理解しているのであるが……結局ユーリに重責を担わせているという自責の念に蝕まれてもいた。

 

 ユーリの役割は街に点在する死体の回収と運搬。

 一夜明ければ、絶望的な腐臭が漂い、散乱する血と肉を求めて魔物が再び跋扈するハルルの街。

 遺体に対してまだ生理的耐性が付いておらず、しかも一撃必殺で魔物を屠れるほど強くはないエステルが、死体を拾って回るという芸当ができないのは明々白々。

 なので、どう考えても自分に課せられるべきなのは、そのどちらもしなくて済む単純な労役しかないわけであるが……理屈では納得できても、感情的には納得しがたかった。

 

(こんなんじゃ、ダメなのに……わたし)

 

 魔物にやられて、人としての原型を留めていない亡骸を回収し続けることは、ユーリにどれほどの精神的負担を課しているだろうか。

 誰もが目を覆いたくなるような現実を……どこか朧げなところがある気がしてならない青年に直視させ続けるとは、あまりにも甘え過ぎてはいないだろうか。

 こんなことで、本当に良いのだろうか。

 そんな昨日からの後ろめたさから来る悶々が、エステルの心で蜷局(とぐろ)を巻いている。

 

 ……魔物の断末魔の鳴き声が響き、勇ましい剣技を垣間見ながら、今日こそは何か恩返しをしなきゃ、とエステルは心に決め、シャベルで土を掘りながらそれを考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お。かなりでっけー穴ができたな。……お疲れさん、エステル」

「ユーリこそ……辛かったでしょうに……本当にお疲れさまでした」

 

 太陽が南中したころ、ユーリがリヤカーを引きながら大樹の前までやって来た。

 その荷台に乗っているのは、藁に巻かれたり、ずた袋に入れられたり……場合によっては絨毯が巻かれた夥しい数の遺骸である。手近なものに包(くる)んで仮拵えの棺としたのだろう。むろん、物資も人手もないこの場では致し方のないことである。

 

 汗ひとつ掻いていない状態でユーリは、エステルの掘り進めた――小型の隕石が衝突したかのような大穴に死体をなるべく丁寧に据え置いて行く。

 肩で息をしているエステルも、お祈りをし、一体一体に謝まりながら、意を決した表情で死体の安置を手伝うことにする。

 ……手伝おうとするエステルを、ユーリは一瞥したが、結局何も言わずにそのまま死体を優しく置いていく。

 

 2人は何も言葉を交わすことなく、ひたすら遺体の安置を進めていった。

 

 

 

 

 

 太陽が西に沈みそうな頃。

 ユーリがリヤカーを何往復かして、すべての遺体を墓に入れ尽くし、さらに今度は2人で土を元に戻し終える埋葬が完了した。

 その後、ユーリが大樹に上り、なるべく大きな桜の枝を一本切り取り、加工して墓標をつくる。

 十字架の墓標に、『ハルルの街の人 ここに眠る』とエステルが文字を刻んで、共同墓地は完成した。

 

 そして、2人は目を瞑り、日が完全に暮れるまで手を合わせ続け、ハルルの街の人たちの無念を慰めた。

 

 ――黙祷を終えて、エステルが目を開けた時、ハルルの街の結界魔導器の魔核が一瞬強く輝いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「し、失礼します……」

 

 言った後に、別に挨拶をする必要はなかったではないか、とちょっと後悔したエステル。

 その手には……

 

「ん? ……おっ? お前がつくったのそれ?」

 

 お皿の上に載ったサンドイッチがあった。

 ユーリはかなり意外な表情を浮かべ、緊張のあまり足元がぎこちないエステルを見遣った。

 

「は、はい……」

 

 エステルは、初めて自分でつくった手料理――と呼んでも良いのか不安であったが――をユーリの元へとおっかなびっくりと運んで行く。

 

 お墓をつくり終えた後、さすがにユーリも疲れが出たのか、ベッドの上に腰かけたまま放心している様相だった。

 なので、エステルはこっそりと宿屋の階下にある辛うじて残っていたキッチンで、サンドイッチをつくっていたのだ。

 ユーリが自分のためにしてきてくれたことと比べれば、象と蟻ぐらい微々たるものであるが――エステルなりにできることを考えた時、最終的にこれしか思いつかなかった。

 クオイの森でつかの間の休憩をした時に、ユーリが作ってくれたサンドイッチを、エステルはこっそりと眇め、頭に叩き込んでいたのだ。

 

「……ふっ……んじゃ、いただきますか」

 

 ユーリの口から漏れ出た笑いがいかなる意味を持つのか。

 あいにくとサンドイッチをユーリが手に取った途端に顔を伏せてしまったエステルが、その含蓄を吟味することはできない。

 そして、ユーリは、エステルのサンドイッチを頬張った。

 

「………………エステル。お前、なんで塩コショウ振ったの?」

「はえっ!」

「うぅーーー、しょっぺー」

 

 残念ながらエステルの懸念は杞憂に終わらず、風船が目の前で破裂したかのように飛び上がってしまった。

 そもそも生ハムとレタスを柔らかなパン生地で挟んだ簡素なもの(ユーリの作ったように、ゆで卵をつくってからみじんに刻んでマヨネーズをかけるなんて高等なことはエステルにはできないから)であったが、その塩分の素を塩コショウと誤解していたのが運の尽き。

 生ハムに十二分に含まれている塩気が、塩コショウによって過剰なまでに引き立てられ、高血圧の人が卒倒しそうなほどの強烈なしょっぱさが口の中に纏わりつくのだ。

 素朴な味で塩分を和らげ、シャキシャキとした食感を提供してくれるはずのレタスも、さすがにこれには敵わない。

 結果、常人が食べるには、ちょっと憚られるようなサンドイッチになっていた。

 

「ご、ごごごごごごごめんなさいっ! わ、わたしが罰として全部食べますっ! 「いやっ、いいって」……へ?」

 

 別の意味で高血圧になっているエステルが、お皿をひったくらんかという勢いでユーリの元へと駆け寄ったが、ユーリはお皿をヒョイと上に持ち上げてしまった。

 

「オレのために作ってくれたんだろ? なら、いただくさ、全部」

 

 そう言って、ユーリは大きく口を開けて、ヒョイとサンドイッチを放り込む。

 ……さすがにクールな顔でとはいかず、しばらく顔を顰めたが、口から塩気が抜けた後は、いつもの澄ました顔に戻っていた。

 

「……だ、大丈夫です?」

 

 ユーリが見せた漢(おとこ)ぶりよりも、身体の方を心配するエステル。

 

「ああ、へいきへいき。……でも、今度からは頼むぜ」

「………………ほぁっ」

 

 ……自分の目の前にいる人はどれだけすごいのだろうか。

 剣技は超人、博覧強記にして、料理は絶技。そして、他人を慈しむ心を忘れない。

 

 外見だけのイケメンではなく、内面まで完璧に――男らしい。

 

 ――そんな偉人が、自分だけを見てくれる。

 そこまで思い至って、エステルは感嘆の吐息を漏らす。

 

 ……とはいえ、生憎と魅力だけで人間は構成されてはいない。

 

「んで、エステル」

「は、はい!」

「さっき“罰として”って言ったよな?」

「………………はい!?」

 

 ユーリの目の色が変わった。オオカミモードにチェンジだ。

 エステルの心がガンガンと警鐘を鳴らす。

 ユーリと接していれば嫌でもわかる剣呑な眼つき。

 確かにユーリに何かしらの貢献をしたいとは思っていたが……それとこれとはまた話が別なんです!

 そんなエステルの一歩引いた……けれどあらゆる意味で逃げ場がないという現実に思いを馳せてしまった畏怖で開ききった瞳に――ユーリは安心させるような笑みを浮かべる。

 

「心配すんなって。罰ゲームはただ一つ。着替えてもらうってだけだ」

「え? ……きがえ?」

「そ。オレの荷物にいろんな服入ってるから、オレの指示したやつを着て来るだけだって」

「ほ、本当にそれだけです?」

 

 疑心でエステルの目が窄まるのも無理なからぬことである。

 

「本当だって。頼みたいことは、それだけだよ」

「……わかりました。どれですか?」

 

 とても不安ではあるが、サンドイッチでユーリに負い目のあるエステルは、さほど抵抗することなく従うことにした。

 

 

 

 

「これで……いいです?」

 

 エステルは、おずおずと訊ねる。

 こげ茶色の半そでのワイシャツを、ベージュのネクタイで締める。

 下は、真っ黒なミニスカートに正面だけネコの肉球がペタンとあしらわれている。

 同じく太もも付近まで覆う真っ黒なニーハイソックスは、肌とのコントラストを大胆に際立たせる。

 端的に言えば、サービス精神旺盛なお店の三毛ネコウェイターの格好であった。

 

 エステルは、この衣装を内心ちょっと恥ずかしく思いながらも、可愛らしいなと思っていた。

 ここでどうしてユーリがそんな女性用の服を持っているのかを疑わないのが、彼女が純真無垢なお姫様たる所以である。

 そして、自分で着心地を確かめるように、その場でクルっと一回転した。

 

「……ああ、すげぇいいよ」

 

 そんな何とも形容しがたいユーリの声の方をエステルが振り向いた時、

 

「へ?」

 

 頭に何か被せられた。

 なんだろう、と上を向き手をかざしてみると少し弾力はあるけど柔らかな触感が手の平に残る。

 

「ネコミミだよ」

「ネコミミ……? どうしてそんなものを………………!?」

 

 ユーリが発情していた。気づいた時には。

 今まで以上に鼻息を荒くし、目を爛々とさせながら、自分の前に聳え立っている。

 これはまずい……エステルはそう直感して、反射的に踵を返そうとした。

 しかし、野生のオオカミよりも俊敏なユーリから逃げられるはずもなく――

 

「きゃっ!?」

 

 グイっと腕を掴まれ、そのままユーリと一緒にベッドの中にズルズルと引きずり込まれた。

 柔らかなマットレスの感触とともに、眼前には馬乗りになったユーリの姿。 

 昨日は安心感で包み込んででくれたユーリの胸も、

 

「ふにゅう…………!」 

 

 今は自分を逃がさないための漬物石になっているようにしか思えない。

 自分の全身を覆いつくしているユーリは、今度は首元の匂いをスンスンと嗅ぐ。

 気分的には、クマに食べられないように死んだふりをしている人のようなものであった。

 匂いを検められ、気に入られれば食われる。

 ……いや、ある意味食べられるという運命は決まっているのだが、乙女の矜持としてそう簡単に捕食対象とはなりたくないところである。

 

「ユーリ! 今は不謹慎ですよ!」

 

 眉を尖らせて抗議したが、果たして自分は本当にハルルの街の人たちを想って言っているのか。

 むしろ、単にだしにしているだけではないか、と感じながらもエステルは咎めの言葉は上げた。

 すると、ユーリはおもむろに顔を上げ、先ほどよりも口角を吊り上げる。

 

「不謹慎、ね。

ここには二人しかいねぇから、そう言ってくれるだけ幸せだよ。

そういうことを言ってくれる奴がいて、どんなに幸せなことか……」

「あっ……」

 

 しみじみと、感慨深げなユーリの声音は、ハルルの街に2人しか人間がいないという事実をエステルにまざまざと思い出させる。

 もちろん忘れていたわけではないが、“不謹慎”という言葉に囚われたところで非難する人間がいないことが、エステルの心中に寂しさの糸を引いたのであった。

 自分たちがこんなことをしていても咎める人がいない――心が針でポッカリと穴を開けられた気分になる。

 

「ま、オレたちは、きちんと墓つくって死んだ人たちを慰めたんだ。

街のやつらが、オレたちに対して恨むようなことはないと思うぜ。

むしろ、自分たちのせいで生きてる奴らが楽しめねぇってんなら、それこそ無駄に傷つけちまう……。

……だからな、エステル。オレたちは、オレたちの時間を楽しもうぜ」

「ユーリ……! はい!」 

 

 ユーリの話はとても理に適っている。

 慈しみの声音に乗り、スーッと頭に入った理屈が、エステルのちょっと頑なだった脳をほぐす。

 死者をきちんと悼んだ自分たちは、確かに生者として現世を楽しむ権利があることについてはエステルも納得した。

 

「………………はい?」

 

 ――とはいえ。

 『オレたちの時間を楽しむ』ということは……

 

「ちょっ、ちょっと待ってください、ユーリ! それって結局わたしを襲いたいってことじゃないですか!」

「何だよ、人聞きの悪い。それに今、『はい!』って返事をしたろ?」

「……っ」

 

 まるで悪徳商法のような手口を使い、止めとばかりに悪戯っぽくウィンクをするユーリ。

 一般市民であれば、詐欺だと抗議の一つでもしただろう。

 しかし、そこは次期皇帝候補のエステル。

 そのウィンクに一瞬絆(ほだ)され、さらには自分の言ってしまった言葉に責任を感じてしまう世間慣れしていない箱入り娘。

 「そうかも……」と心の中で思ってしまった時点で負けである。

 もっと言えば、ユーリから視線をずらしてしまった時点で負けなのであった。

 

「つーことで、いただきます」

「ちょっ……んっ!」

 

 今日も今日でキスから始まり、エステルは抗拒不能状態へと陥れられた。

 

 ネコミミによって本能が刺激されたユーリは、以前よりも攻めが激しかった。

 エステルの唇を塞ぎながら、ユーリの右手はエステルの胸をワイシャツ越しに揉み立てられたのだが、前よりも力が入り過ぎていて少し痛かった。

 とはいえ、キス攻めから解放されてトロンとしたエステルのワイシャツの中をまさぐって、手で直に胸を揉んだ時はそんなことはなかったのであるが。

 

 クルっとひっくり返されてミニスカート越しにお尻を、ゆっくりとねっとりとバレンで摺(す)るように撫でまわされる。しかし、押し付け具合が強く、臀部が変わるんじゃないかと、エステルは少し心配した。

 とうとうスカートの中に手が侵入する。ネグリジェよりもある意味でスカート越しの方が、秘所を暴かれるときの羞恥心が強くなる気がするな、とエステルの中途半端に残った冷静な部分は思っていた。

 白いパンティー越しに撫で上げられ、段々畑よろしく直にお尻に触れる段階になった時……ユーリも飽きたのか趣向を変えようと思ったのか、ぺチーンとお尻を叩き始めた。

 

「あぅっ!」

 

 さして痛くはないのだが、突然の打擲にエステルは嬌声を抑えきれない。自分で上げた艶めかしい声で、ほんの少し理性が返って来る。

 何というか、このままだとユーリに従属するような感じがして……でもそれが嫌な感じがあんまりしないのが、エステルの自分探しの成果であった。

 

 そして、もう一度仰臥の姿勢に戻され、今度はユーリに正面からギューッと、強く抱きしめられる。

 ……それは、何か不足している栄養素をエステルから吸い上げているようであった。

 

 ユーリの匂いは確かにとても甘美で強烈ではあるが――それでも慣れと言うのはやって来る。

 まだ完全に耐性ができたわけではないが、エステルの全ての理性が失われるようなことはなくなっていた。

 なので、顔は相変わらず真っ赤であるが、ほんの少しだけユーリを観察する余裕がエステルにはできていた。

 

(やっぱり……わたしにすごく執着している……)

 

 背中に巻き付かれる2本の腕の強さは、ベアハッグを彷彿させる強烈な締め付け。

 ニーソックス越しに巻き付いている脚は、蛇が獲物を締め付けているかのようであった。

 クオイの森で違和感があったから何かあるとは思うが……それにしてもここまで自分を拘束したいと思うほどの、執着の根源はどこから来るのだろうか。

 

(ダメ……もう限界……)

 

 それが体力なのか、理性なのか、あるいはその区分自体どうでもよいのか。

 エステルにはよくわからないが……ひとまず今日の意識はここでおしまいのようだ。

 

 

 人が鏖殺(おうさつ)されてしまったハルルの街。

 この無人の街で2人だけの夜はこうして過ぎていった。

 

 

 

 

 




う~ん。R-15は付けているからいいとして、R-18に引っ掛かるかな? 
個人的には、第一線を越えるかそれに準する行為でなければセーフだと思ってますが……まぁ、ダメならアカウントロックが来るのでしょう。 

次回は、久々に死亡しない原作キャラが登場します。お楽しみに。
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