ヒロインの一人にTS転生したので主人公を他のヒロイン達に押し付けたら……   作:メガネ愛好者

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 どうも、メガネ愛好者です。

 とある方の作品を読んでいたら……気づいたら書き上げていた。
 後悔はない。それでは。




第一話・『主人公○○○○作戦』始動

 

 

 唐突だが学生諸君、特に中高生の君達に聞きたい事がある。

 

 

 君達は——”ギャルゲー”というのをやったことがあるかな? 主にPCソフトの方の。

 

 

 そう、PCソフトの方だ。未成年の良い子の皆の為に家庭用ゲーム機へと移植された健全なものではなく、18歳以上の者達にのみプレイする事が許された禁断のゲーム——とは名ばかりで、18歳未満の学生達も密かに入手してはプレイしているであろうゲームのことだ。もっとわかりやすい言い方をすればエ○ゲーと言った方がいいのかもしれないが、あえてここではギャルゲーと称する事にしよう。

 

 

 とはいえ、一概にギャルゲーと言っても様々な方針、趣向がある。

 主に挙げられるのは「ストーリーを重視したもの」、「キャラ達の心理描写を重視したもの」、そして「色気のある濡れ場を重視したもの」の三つだとオレは思う。その他にも様々な要素があるとは思うが、とりあえずその三点の出来が良ければ名作として数えられるのではなかろうか? 例えイラストが粗末なものでも、内容を重視する者にとっては十分に抜け——コホン、楽しめるのだから。

 

 

 次に、そんなギャルゲーの濡れ場について簡単に考察してみる。

 家庭用ゲーム機では対象年齢の関係で上手いこと省かれているが、本来のギャルゲーには大なり小なりの濡れ場が存在する。寧ろ無い方が珍しい。恋愛を重視したものなどは特にそれが顕著であり、主人公と複数いるヒロインの中から一人、または複数でそう言った行為をするシーンが必ずしも一つや二つは存在するだろう。

 ソフトなものからハードなものまで選り取り見取り。「人の性癖って恐ろしいネッ!」と常人の理解を越えた特異(マニアック)なものまである始末……ホント人の性欲って凄まじいと思うよ。いや、割とマジで。

 

 

 さてと、ギャルゲーについていろいろと語ってみたけれど、とりあえずこの話題はここまでにしておいて……本題に移ろうと思う。

 

 ここまでの話を聞き、あまりギャルゲーに詳しくない者もある程度の理解を深めてくれたとは思う。思うことにする。あまりわからなかったのなら、とりあえずは「大体のギャルゲーには主人公とヒロインの絡みがある程度は存在する」とさえわかってくれていれば助かります。

 

 

 それでは…………もしもの話をしよう。

 

 

 もしもだ————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は、はじめまして! ボクのなまえはライルって言います! こ、これからよろしくね?」

 

 「…………」

 

 

 ——見知ったギャルゲーの世界に()()()()転生して、目の前にハーレム系主人公が現れたとしたら……君ならどうする?

 

 

 「もう……ロアもきちんとご挨拶しなさいな。あまり不愛想だとライル君に嫌われちゃうわよー?」

 

 (寧ろ嫌ってくれて構わないからオレに関わらないでくれねーか? ……なんて、母さんが見てる前で言えねぇよなぁ……)

 

 

 ——しかも転生先が()()()()()()()()()()()()()()()()に憑依する形だったとしたら? ……元成人男性のオレは一体どうしたらいいんだろう。

 

 

 ……一応言ってはおくけど、オレは同性愛者なんかじゃないから悪しからず。

 例え今のオレが女だとしても、精神面では目の前の少年と同じ男なんだ。彼方さんはともかく、男の心を持つオレにとってはもう抵抗感バリバリでしょうがない。体は女の子だからと言って全部受け入れている訳じゃねーんだよ。

 

 とりあえずライル君や、オレの顔見て照れくさそうに顔を染めるのやめてくれる? なに意識してんの? お前の初恋の相手になんぞオレはなりたかねーぞバカヤローが。

 

 

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 

 

 オレは今から約六年前、この世界――『オルトリデア』に転生した。

 

 転生した……言葉にすると簡単だが、実際に転生した立場からしてみれば割とシャレにならない状況だったりする。

 前世で培ってきた価値観や常識なんて全く……とは言い切れないけど、そのほとんどは通用しないところがあるし、文化や環境の違いもあるしで当初は戸惑いが隠せなかった。

 幸いにも前世の記憶にある知識にこういった展開――所謂『異世界転生』というものを知っていたおかげでそこまで取り乱すこともなく冷静でいられたけれど、流石にそれが実現するとは夢にも思わなかったから全くとは言い切れない。今でも若干の困惑は心に根付いたままだったりする。

 

 何故転生する事になったのか? それはオレにもわからない。

 神様に会って転生させてもらったなんて記憶はないし、そもそもいつの間に自分が死んだのかすらわからない。もしかすると死んで転生したという訳じゃないのかもしれないから判断しにくいところだ。

 

 気づいた時にはこうなっていた。そうとしか言えない。

 まあ別にそこまで前世に未練があった訳でもないし、あーだこーだ言っても元に戻れる訳じゃあないんだから、ここは諦めて現状を受け入れるしかないわけだ。人間諦めが肝心さ。

 

 そんな感じで異常な事態にも平常心を保てていたせいで、生まれたばかりのオレはうっかり生命の産声を上げるのを忘れてしまっていた。——つまりは泣くのを忘れて死にかけた。割と冗談抜きで。

 赤ん坊は産まれてすぐに泣かないと酸欠で不味い事になるって聞いたことがあるが、まさか自分の身を持って知る事になるとはね……そのせいでオレを産んでくれた二人目の母さんに二重の意味で涙を流させてしまったことを今でも罪悪感が残る程に申し訳ないと感じている。そのせいか母さんにはどうも頭が上がりません。今生のオレのヒエラルキー最上位は間違いなく母さんです。

 

 

 そんなオレが転生したこの異世界は、前世で良くやっていたゲームの一つに酷似していた。

 極端に言えば前世で言うところの”ファンタジー”に分類される世界で、現代社会に生きる子共達なら一度は誰もが憧れるであろう魔法が一般的に知られている。日々の生活に魔法が使われているぐらいには身近なものなのだ。

 

 そして、このオルトリデアにはとある役目を持った者達が数多く点在していた。

 その名は『開拓者』——少し前までは『冒険者』と同類視されていた、この世界で最も有名な職業だ。

 

 開拓者。それはこのオルトリデアの彼方此方に現在する、未だ人類が足を踏み入れた事が無く全貌が一切掴めていない未開の地——通称『未界』を文字通り”開拓”する者達の総称である。

 未界へと赴き、いまだ見ぬ生物、環境、物資を調査、回収することが主な目的となる。勿論未開の地という訳で調査には危険が付き物だが、収穫があればそれ相応の報酬が国から与えられるので腕に自信のある者はこぞって開拓者になっていった。

 

 しかしそんな開拓者ブームも今や鳴りを潜め、近年ではその数が激減している。

 理由は単純明快であり、先程も言った通り危険だからだ。

 未開の地という事はこちらの常識が通用しないことがあるのと同意義であり、それによって未界に足を踏み入れた者達が消息を絶つ——要は死んでしまう者達が続出した。

 未知へのロマン、富への欲求が人々の心を惑わせ、身の程も知らずに未界に挑戦してしまう。未界に向かうまでの道中は夢と希望が溢れているだろうが、その後に待ち受けるのは絶望と後悔。九死に一生を得た帰還者達は、その身をもって味わった恐怖を忘れることはないだろう。

 "未界探索は命がいくらあっても足りない"……それが常識となった今、進んで開拓者を目指す者が減るのは当然の既決ってもんだ。

 

 そんなこともあってか、今では"開拓者認定試験"ってのを受けて、それで国が定める基準を満たさないと開拓者になれなくなった。そうでもしなければ死者という名の行方不明者が増える一方だったからな。国としても無為に犠牲者を出す訳にはいかないが故の処置だったんだろ。

 この処置に不満はない。別にオレは危険を冒してまで夢を追うようなチャレンジャーではないからな。……ただ、もっと早くにこの処置を国は考えられなかったのだろうか? そうすれば今生の親父も……いや、やめよう。過ぎた話を蒸し返す必要は無い。

 

 

 そうして開拓者が減り続ける一方で、ここのところ台頭してきたいるのが冒険者って奴等だ。

 

 冒険者、またの名を何でも屋と言って、主に開拓した土地で起こる様々な問題の解決を生業としている。場合によっては開拓者の支援もするそうだ。

 

 そんな冒険の要素どこ行ったと言わんばかりの役職なんだが……これが割と稼ぎがいい。

 冒険者はいずれかのギルドに所属して、ギルドから出される依頼をこなしていくのが主な流れとなってくる。個人の依頼から国が出す依頼とその範囲に制限はなく、報酬もそれによって変動するようだ。

 

 その中でも”開拓者からの依頼”が最も稼げるらしい。

 開拓者にとって資金の減りなど些末なことなのだろう。ケチって命を落としたなど笑い話にもならない以上、開拓者は金をケチらない。ただのお使い程度の依頼で魔獣を数体狩る以上の金額を出すなどざらにあるそうだ。

 そして、そんな開拓者が出す簡単で儲けの良い依頼を冒険者が見逃す筈がなかった。まるでハイエナのように依頼書へと群がり、我先にと手を伸ばす彼等の必死さには最早呆れる一方だ。場合によっては依頼書を取り合って不毛な争いまで起きる始末……

 

 

 ハッキリ言おう。オレは冒険者が嫌いだ。

 

 

 周りの迷惑も考えず、儲けることしか頭にない荒くれ共を誰が好意的に思えるって言うんだ。確かに日々を生活していくにはお金を稼がねーとだけど……少なくともオレは、人に迷惑かけてまで稼ぎたいとは思わない。それだったら少ない稼ぎでひっそりと平穏に暮らしていた方がよっぽどいいとオレは思うんだ。

 

 しかし、そんな慎ましやかに生きようと考える人間なんてそうはいないだろう。大抵の奴等は巨額の富を得るために冒険者を目指していく。純粋に人助けをしたいとかの理由で冒険者になる奴等もいるにはいるだろうけど、それも少数でしかない。

 

 こればかりはもうどうしようもないと諦めている。オレがあれこれ言ったところでどうにもならないことなのはわかってるし、そもそもオレはあまり冒険者に関わりたくない。あんな守銭奴共と関わるなんて真っ平ごめんだ。

 前世では憧れていた冒険者も今では悪い印象しかない。理想と現実を思い知らされて気分はガタ落ちである。

 

 そうして人々は開拓者の依頼を初めとした稼ぎの良い仕事を求め、次々と冒険者を目指していった。巷では「冒険者になれるかどうかで人生が変わってくる」と密かに囁かれるぐらいである。いろいろと重症だろう。それだけ冒険者の稼ぎが魅力的だってのか? オレは全く惹かれないんだけどな……

 

 とはいえ冒険者ばかり増えては国や街の住人達が困るというもの。何せ冒険者になる者達が増えれば、その一方で他の職に就く者達が減るのだから。

 農業、漁業、建築業等々、一般的な職に就く者が減っては生活が成り立たなくなってくる。一時期はアルエ(リンゴに似た果物)一つの値段が収穫不足によって何倍にも値上がりした時期があったが、アルエ一つで値上がり前のマルーヌ(メロンに似た果物)を一つ買える状況に冒険者志願者達は不味いと思わないのだろうか? それを知ってなお冒険者になりたいと? 少しは危機感を持ってくれ。主に生活面の方で。

 

 その結果、まただ。また似たような措置が施されたんだ。

 今回は国ではなくギルド側で合否をつけるそうだが、開拓者と同様に冒険者になるためには"冒険者認定試験"を受けて見事合格しなければ()()()()()()冒険者になることが叶わなくなったんだ。

 

 例え開拓者よりは比較的安全だからと言って、死亡案件が全くない訳ではないからな。この世界は未界からやって来る魔獣達に日々脅かされているのだし、冒険者はそれの対処も行わないといけないんだから危険であることには変わりない。これも当然の処置と言えるだろう。

 

 ……ただこれに関しても国はもっと早くに動くことが出来なかったんかねぇ。現状を見てればその先どうなるかだなんて開拓者問題の時に十分思い知ったはずだろうに……

 

 

 

 

 

 とまあ、長々とこの世界について語ってきたわけだが、とりあえずは前の世界とはまた一風変わった世界であることさえ分かってもらえればそれでいい。

 

 その中でも『未界』に『開拓者』、そして何よりも『オルトリデア』という名称が、この世界が前世でよくやっていたギャルゲーに酷似していることに気づけた理由だった。

 

 それはノベルゲーが主とされるギャルゲーの中でも珍しい"ダンジョンRPG"要素が加えられた作品だった。それもあってか結構印象に残っている。

 まあやっていたのもオレが学生の頃だったからどういった物語だったのかまでは曖昧にしか覚えてないけど、それでも登場キャラの名前や印象はバッチリ覚えてるし十分だろう。

 

 

 

 因みにここは前世でやってたゲームの中でも結構気に入ってたゲームの一つだったりする。この世界に行けたらなーなんて妄想に更けたことさえあるぐらいで、だから転生当時は嬉しくて子供みたいに(まあ当時のオレは実際に子供だったんだけど……)はしゃいでしまったこともある。

 

 ……でも、だからと言って全ての物事が上手くいく訳でもない。実際にこの世界で生きることになってからというもの、やっぱり現実はそう甘くはないんだって思い知らされることが多々あった。

 その理由に先程の『冒険者ハイエナ問題』や『冒険者インフレ問題』、『冒険者ロクデナシ問題』があるのだけど……それ以前に、もっと身近なところに最大の問題が隠れていたわけでありまして……

 

 

 

 

 

 『ロア・イーリス』

 

 それが今のオレの名前であり、前世のオレが良く知る人物……いや、良く知るこの世界(ギャルゲー)住人(登場キャラ)の名前だった。

 

 物語開始時の年齢は18歳。主人公より一つ年上で、サラサラな薄水色の髪を腰まで伸ばした見目麗しい可憐な美少女だ。

 

 穏やかかつ純粋な性格の持ち主であり、自身の信じる志を最後まで貫き通そうとするその凛々しい姿はまるで物語で語られる聖女のように思えよう。

 助けを呼ぶ声があれば危険を承知で一目散に駆け寄るなどの健気さと献身さも兼ね揃えており、人助けのために奔走する彼女の姿はとても眩しくあった。

 そんなロアに胸を打たれ心惹かれた者は決して少なくはないだろう。事実オレもその内の一人だったし。てか一番好きなキャラだったし。

 

 そしてそんな彼女は四人いるヒロインの紹介欄にて二番目に紹介される、言ってしまえば第二ヒロインと言う立ち位置だった。

 

 主人公の幼馴染ポジで、大体主人公が五歳の頃に出会うことになる。

 出会ってすぐに意気投合した二人はそれから毎日二人で遊ぶようになり、いつしか家族同然の関係へと仲を深め合っていく。それは五年後に主人公が別の街へと移り住むことになる一週間前まで続き、その頃には主人公に対して淡い恋心を抱くようになっていた。

 そんな彼女に知らされる主人公との唐突な別れに彼女と主人公はふとした拍子で仲違いしてしまい、そのまま二人は関係が拗れたまま離れ離れになってしまうのだった。

 

 その後、主人公と縒りを戻すタイミングを逃した彼女は、主人公と再会するまでの間ずっと後悔に苛まれることになる。生来真面目なせいもあって、人一倍重く受けとめてしまっていた。

 再開した後もお互いに自分が悪いと思っているせいかどうにもギクシャクしてしまい、そのうえ他のヒロイン達が主人公の傍にいることが多いせいで話し合うタイミングも逃してしまう。「この二人不器用過ぎない?」と何度もどかしく感じたことか……まぁそれが良かったってのもあるんだけどね。

 

 最終的には縒りを戻すか、彼女のルートに入っていればそれ以上の関係になるのだが……まあその話は置いておくことにしよう。別に今必要な情報でもない。

 

 

 問題は、そんな彼女にオレが憑依してしまったということだ。

 

 

 勿論のことだがオレは彼女じゃない。確かに今のオレは『ロア・イーリス』だけど、本来の『ロア・イーリス』とは名ばかりの別人でしかないのだ。

 

 彼女のような真面目で健気で一途な性格とは程遠く、怠け者で自己中でいい加減な奴……それがオレだ。

 自慢出来るようなことなんて何一つ無く、ただただ無気力に日々を暮らしてきたオレが何故よりにもよって彼女に憑依してしまったのだろう? 憑依するなら主人公に憑依して彼女と添い遂げたかったですハイ。

 

 因みに自分が『ロア』だってことに確証が付いたのは産まれて数年後のことだった。

 最初は名前を聞いて「いや、まさかな……」と思う程度だったんだけど、成長するにつれて鏡に映る自身の姿に見覚えのあるシルエットを思い起こさせ、またこの世界がオルトリデアであることを繋ぎ合わせれば……まあ、認めざるを得なくなったわけだ。

 正直言って認めたくはなかったけど、現実逃避したところで何の意味もない。受け入れるかはともかく、受け止めなければならないことは確かだった。

 

 

 

 そんな彼女には大事な役割がある。それは主人公の旅を支えることだ。

 

 主人公は物語開始時に正式に冒険者となる。それから様々な出会いやら幾多もの死線を潜り抜けていくわけなんだが……主人公補正とも言うべきか、様々なアクシデントが次から次に発生するんだ。

 事によっては主人公の命の危機に繋がるイベントも発生し、その中のいくつかはロアがいなければ詰むレベルにまで発展する問題があったりする。

 その為、主人公が無事生き残るためにはロアの協力が必要不可欠であって、それがなければ乗り越えられない可能性が出てくるんだけど……そこで一つ、問題があってなぁ……

 

 

 実は、ロアに憑依してしまったオレには――”冒険者適性”が無かったんだ。

 

 

 先程も言ったが、冒険者になるには認定試験を受けて無事合格しなければならないんだけど……その基準の一つとして、冒険者は何かしら魔獣と戦うことの出来る(すべ)を持たないといけないんだ。

 

 剣術、弓術、槍術、魔術……その他にもある戦闘技術を持ち得ているか? 言ってしまえば"クラス適正"を持っているかが冒険者となる第一基準になってくる。

 何せ冒険者は依頼が無くとも魔獣と戦うのを義務付けられているからな。それが出来ない者は冒険者になることは叶わない。戦えない奴が冒険者になんてなるんじゃないってことだ。

 

 前世の成人男性だった時のオレならともかく、今のオレは非力な少女だ。

 武器を振るう程の筋力も無ければ、戦場を駆け回れるだけの体力もなかった。更には魔術を行使するのに必要な魔力も無かったけど、これについては仕方ない。

 ロアは生まれつき保有魔力が平均よりも低かったからな。全く無いわけじゃないが、魔術を行使できるだけの魔力量は残念ながらなかった。

 

 

 それならどうして彼女は冒険者になれたのか? それは彼女に『聖術』の適正があったからだ。

 

 聖術とは魔術と鏡合わせに位置するもので回復や防御に特化した後方からの支援を得意とする力だ。主に神官や僧侶などが習得するこの術を『ロア』もまた習得していた。

 本来の『ロア』は修道女だったからな。15歳までは街にある教会で働いていて、そこで彼女はとあるきっかけから聖術を習得することになる。そうして彼女はそれを期に冒険者の道へと歩んでいくことになるわけだが……

 

 

 実は、聖術を習得するために必要なのが————信仰心なんだ。

 

 

 ――え? オレ? 無神論者ですけど何か?

 

 

 そう、オレには聖術に対する適性がなかった。だって信仰心なんて欠片もありはしないのだから……

 今から信仰心を持つなんて真似も出来る気がしない。神様なんてそんなすぐに信じられる訳がないだろ? 転生した時に会っていたのならともかく、気づいた時には転生していたオレが一体何を信仰しろと? 無理ゲーすぎるでしょうよ。

 ま、まあ別にいいけどね! だってオレ、さっきも言ったけど冒険者とか嫌いだから! 冒険者になんかなりたくないし? あんなろくでなし共の仲間入りなんて御免だし? だから冒険者になんてなってられるかってんだ! ……ホントだよ? 聖術とか魔術なんかは使ってみたかったとは思うけど、冒険者にはなりたくないし。正確にはなりたくなくなったし。

 

 

 しかしそうなると主人公……もうライルでいいか。あいつが冒険者となって旅に出た際『ロア(オレ)』がいないせいで死ぬような羽目になってしまうかもしれない。

 何せロアは主人公パーティーの回復支援担当だ。ヒーラーがいないパーティーとかぶっちゃけ詰んでるといっても過言じゃない。ゲームでならまだしも、現実だと割と洒落にならない事態だ。

 

 ……これは個人的な気持ちの問題だが、知り合いが死ぬかもしれないとわかっている状況を無視できるほどオレは非情になれない人間だったりする。それも自分が何かしら関与してると余計にだ。

 

 本来なら冒険者志願者になんて関わりたくないんだけども……あいつとは知らない仲じゃないからな。不服にも幼馴染であるわけだし……それに、その……

 

 ……友達でも……あるから、な。

 

 ……いやだってしょうがないだろ? いくら不愛想に振舞って遠ざけようとしても、あいつは気にした素振りも身せずに歩み寄ってくるんだぞ? 何度か「オレに関わるな」って言ったこともあったけど……それに対してあいつなんていったと思う? 「ヤダ」だぞ? そんでもってめげずに何度も話しかけてくるんだよ。

 子供ってスゲーよな。何でもかんでも自分の納得する形にならないと、とことんまで諦めねぇんだから。ほら、よくあるアレだよアレ。玩具屋とかでよく見る欲しいものを買ってもらえずギャン泣きする子供。アレと似たような感じだったわ。あまりのしつこさに結局根負けしちまったじゃねぇか……

 

 

 てかライルってこんな強情な奴だったっけ? ここまで押しが強い奴じゃなかった筈なんだけど?

 だってゲームではあいつ結構ヘタレだったんだぞ? ヒロインに迫られた時なんて、羞恥に逃げ出すか有耶無耶にしていたぐらいなんだぞ? そんな奴がなんでこんな積極的になってんだよ。子供だからか? 子供だから好奇心旺盛になってますってか? ふざけんじゃねーバカヤローが。

 

 

 ともあれ、ライルの執拗なまでのスカウトアタック(仮)に不覚にもスカウトされてしまったオレは、しょうがねぇとばかりにある程度の距離感を保ったままライルの相手をすることにした。

 

 ……にしてもなんでライルはオレにばっか話しかけようとするのか。

 言っておくが、この世界がギャルゲーを元にしてることもあってかそこいらにいる少女達は割りかし美少女揃いだったりする。下手をすればロア(オレとは言ってない)に負けず劣らずの美少女だって普通にいるんだ。

 それなのにあいつはそんな美少女達に見向きもしないでオレばっかりにヘイトを向けて————あぁ、そっか。『ロア(オレ)』がこいつのヒロイン枠に収まってるからか。成る程成る程ははははは…………クソが。

 

 「ロア! 次はあっちに行こう!」

 

 「はいはい……」

 

 「ほら早く!」

 

 「そう急かすなよ、全く……」

 

 そんなオレ達の関係は……おそらく良好なんだろう。

 主人公とかヒロイン関係無しに考えれば、別にオレはそこまでライルを嫌いにはなれなかった。寧ろ一人の……と、友達っ、としてなら一緒にいてもいいかなって思うぐらいにはまあ……気を許してはいるし、この先ライルが死ぬかもしれない可能性をどうにか出来ないものかと悩むぐらいには絆されてしまったのだろう。隙あらば仲を深めようと攻めてくる主人公の行動力に、前世コミュ障だったオレは戦慄するしかなかったのだった。

 

 それでもライルに異性として好意を持たれたくないと思うのは、元男としてはしょうがないことだと思う。

 だってこいつギャルゲーの主人公なんだぞ? しかも元がエ○ゲーだ。勿論の事ながら、ライルとロアが()()()()()()()をするシーンもあるわけでありまして……しかも割と多かった気がする。下手するとメインヒロイン(第一ヒロイン)よりも多かったような……?

 

 男に抱かれるなんて、例え今のオレが女だとしても絶対に無理だ。前世のオレだったら「男×TS少女とか何それご褒美?」状態だったのだろうが、実際に自分がTSする側になってからは正直喜べんとです。今ではその構図を考えるだけで鳥肌が立ってくる。メス堕ちとか悪夢でしかない。

 

 だから無理。絶対無理。何が何でも無理である。今もライルに手を握られているだけで身の危険を感じてからか心がざわついて落ち着かない。心臓に悪いことこの上ないのだ、きっとそんなことをされた日にはトラウマにでもなるか精神が病んでしまいそうだよ……

 

 

 

 しかし、そんな胃に穴が空くような日々ももう少しで終わる。オレは晴れてライルから解放されるのだ!

 

 今のオレは11歳、ライルは10歳だ。それが意味することはなんだと思う? ——そうっ、ライルが別の街に移住するのだ!

 

 

 まだそのことをオレ達は知らされていないが、おそらくはもう少しだろう。そうなれば物語が始まる七年間は平穏無事に過ごせる筈っ! やったねロアちゃん! ようやく自由になれるネッ! (あれ、これフラグじゃ……)

 

 この街を離れたライルは別の場所で七年間を過ごすことになる。そうしてあいつはいずれ冒険者になり、とある一つの出会いからヒロイン達がいるギルドに所属することになるわけだ。そうなれば同ギルドに所属する他のヒロイン達とライルのエンカウントは避けられないだろう。

 きっとあの三人の女子力に当てられれば、ライルだってこんな男勝りな口調+不愛想な奴なんかを好きになったりしない筈。寧ろ本物の女子とやらを知って、オレを悪友ポジに収めてくれたら万々歳である!

 

 つまり、オレがこれからやるべき行動はただ一つ——

 

 

 (他のヒロイン達にライルを押し付けよう。うん、それがいい)

 

 

 ロアには悪いが、オレはライルのヒロインから離脱させてもらうぜッ!!

 

 

 オレは冒険者にならない(てかなれない)ならライル達がいる街に行くこともそうそうない筈だ。疎遠な男女と仲を深めるよりも身近な美少女たちに目移りするのは確定的明らか! これで後はオレが抜けた穴をどう埋めるかだけだが、それももうすでに考えているので問題なしッ!

 

 フフフ……完璧だ、完璧すぎる……ッ!

 

 女子力の欠片も無いオレなんかよりも女子力の塊みたいなあの三人に囲まれていればオレを異性として意識するなんてことはありえない。幼馴染と言うアドバンテージも、数年会わなければ忘れてしまうに違いない。昔の記憶なんて新しいことに埋め尽くされて忘れちまうもんだしな。それはそれで少し寂しい気もするが……まあ仕方ないだろう。

 

 後はライルが街を出ていく際に盛大に大喧嘩してろくでもない女として嫌な記憶を植え付けられればミッションコンプリートかな? あわよくばその忌まわしい記憶を癒す意味でヒロイン達には頑張って頂きたい。

 

 ……ただ、これによってライルとの関係に亀裂を生むことにはなるだろう。もしかしなくても、友達としてはいられなくなるかも……

 ……そしたらオレ、また一人に……

 ……まあ、しょうがないことだ。気にするほどのことじゃないさ。

 

 

 

 さて、おそらく今週中にライルは移住することを知らされるだろうから今の内に準備を進めておくか。

 ライルが去っていった後、オレにはやるべきことがあるからな。それこそがオレの抜けた穴を埋める秘策であり対策だ。こればかりは絶対にやり遂げねぇと。

 あいつに個人的な理由で嫌な想いをさせて傷つけるんだ。罪滅ぼしとは言わないけど……あいつが死なない為にも全力を尽くそう。それぐらいはするべきだ。怠け者だなんて言ってられねぇ。

 

 

 よし、それじゃあ始めようか――――『主人公押し付け作戦』を!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——こうして始まったオレの『主人公押し付け作戦』だが、まさかこの作戦のせいであんなことになるだなんて思いもしなかった。何が完璧だバカヤローが……

 

 





 薄水色でボサボサな髪に無愛想な表情と気だるげに開く藍色の瞳。
 地味目な黒縁の眼鏡をかけ、ゆったりとした服の上からでもわかる程度には発育の良いスタイル……物語開始時の主人公の容姿は大体こんな感じです。

 因みに幼少期(11歳)の主人公の髪はまだサラサラで、視力も低下していないので眼鏡をかけておりません。
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