ヒロインの一人にTS転生したので主人公を他のヒロイン達に押し付けたら……   作:メガネ愛好者

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 どうも、メガネ愛好者です。

 第五話を書きなおしました。以前の話と全く異なる内容ですのでご注意を。

 正直な話、シリアスとかいらないからコメディを増やしたい。もっと気楽に読めるようなマイルドな話にしていきたい。後、早くロアちゃんにメガネをかけさせたい。
 そんな方針で書いていく所存です。それでは。


 PS.気が付いたらお気に入りの数がとんでもないことになっていた……これ一桁間違っていたりしません?
 とにもかくにも、多くの読者様方に読んで頂けてメガネ好きは感謝感激です! これからも私めの作品で楽しんでいってもらえたらなと思います。



第五話・行動開始!

 

 

 ライルが王都に行ってから三日が経った。

 

 この三日間、オレはただただベッドで惰眠を貪っていた。

 まあ寝ること自体は好きだし、体調も悪かったから別に損した気はしないんだけどさ。寝ていたおかげか体調もある程度良くなったし結果オーライだろ。

 

 

 それにしても……結局あの症状は何だったんだろ? 前世でもあそこまで体調が悪くなったことなんてなかったもんだから正直焦ったわ。……もしかしてこの世界特有の病か何かだったりする? うわ、なんか急に不安になってきた……

 

 

 ……よし、深く考えないことにしてとりあえずは食事を取ることにしよう。

 

 実のところ、昨日まで体調が悪かったせいか食欲がわかなかったんだわ。そのせいでもうお腹が空きすぎて辛いのです。早く何か食べたいなり。

 

 この時間帯ならまだ母さんも台所にいるだろうし、昨日の残りが残ってないか聞いてみよう。せっかく作ってくれたものを粗末にするつもりはないからね。何より母さんの料理は美味しいから食わずにいるなんて勿体ないわ。

 

 

 

 ……と、その前に風呂だな、うん。

 現状、体がベトベトしていて気持ち悪い。昨日の体調不良でかいた冷や汗から始まり、その上で寝苦しさから寝汗もかいてしまったからな。さっさと汗を流してスッキリしたいところだ。その方が気持ちよく朝御飯を食べられることだろう。

 

 ベッドから立ち上がり固まっていた身体を適当にほぐしたオレは、クローゼットから着替えを取り出し風呂場へと歩を進め始めた。

 

 

 しかしここで一つのハプニングが発生した。

 部屋を出た先で丁度オレの様子を見にきた母さんとバッタリ鉢合わせしてしまったのだ。

 

 

 その際に母さんから滅茶苦茶心配されてしまった。

 その原因として、あれからずっと部屋に引きこもってたからって理由があるんだけど、実はそれに加えて食欲がわかなかったことや部屋で体調を崩していたことも含まれていた。食欲はともかくとして、どうして体調が悪かったことを母さんが知ってるんだよ……

 

 話を聞くと、どうやらオレの顔を見ただけですぐにわかったそうなんだ。かなり顔色を悪くしていたみたい。

 あちゃー……心配かけないようにと黙ってたのに即バレしちまった。そんなに具合が悪そうな顔だったのかね? 今度からは部屋を出るときに一度確認するようにしよう。一先ず、心配かけてごめんな母さん。

 

 ……え? これのどこがハプニングなんだって? いやいや、これはほんの序ノ口さ。問題はここからだ。

 

 とにもかくにも……ここで改めて、一言だけ言わせてくれ。

 

 

 

 

 

 「なんで(風呂場に)入ってきてるのさ!?」

 

 「せっかくだから一緒に入ろうかとね。それにロアは病み上がりなんだし、お母さんとしてはあまり無理をさせたくないのよ」

 

 「余計なお世話だよ! 一緒に入るなんて歳でもね——ないでしょ!? オ――ワタシ一人で入れるから母さんは出てってよ!!」

 

 「えー。ケチー」

 

 「ケチってそんな子供みたいな駄々のこね方しな————ヒャッ!? ちょ、何処触って……っ、何やってんだよ母さん!!」

 

 「んー? 娘の成長を噛み締めてます。ロアも大きくなったわねぇ」

 

 「はーなーれーろーーー!!」

 

 

 現在、風呂場に襲撃者(母さん)が来訪していた。正にハプニングである。

 

 

 母さんとしては病み上がりのオレを気遣っての行動なんだろうね、これ。

 だってたまにこういったことがあるもん。オレが体調を崩していたり気分が落ち込んでいたりする時は決まって普段以上のスキンシップを取ってくるからね。

 

 だけどな母さん……それ、逆効果なんだ。

 

 これでもオレは前世で一応成人を迎えていた一般男性だったんですよ? そんなオレに今年で30歳とは全く思えない母さんの姿(女性の裸体)は目の毒なのです。今にも心臓が爆発しそうな程に高鳴っててヤバいのです。きっと顔が熱くなってる原因は風呂の熱だけではない筈だ。

 

 そもそもな話、母さん見た目は十代後半と言われても違和感がない程に若々しいもんだから目のやり場に困るんだよ。知らない人に姉妹ですって言って通じるレベルよ? もしもオレが男で転生していたら間違いなくオレの息子が反応してたところだったわ。

 母に欲情する息子とかいろいろとアウトな状況になってたところだよ。……初めて女として転生してよかったっと思うなんてな。ハハハ……ハァ。

 

 因みにここで一つ暴露すると、元々オレは『ロア』みたいな子が好みでした。——そんな『ロア』を少し大人びさせて髪型をショートヘアにしたような女性が母さんだ。

 

 

 うん、バッチリオレの好みに入ってるわ。……今の立場だと全く喜べねぇけどな!

 

 流石に実の母をそういった目で見るなんてことはしたくない。言ってしまえばオレは"『ロア』の紛い物"なんだけど……それでも母さんにとってはこの場にいる『ロア(オレ)』が実の娘なんだ。下手なことして悲しませるような真似はしたくない。

 

 だからオレは普段から意識しないようにしてるんだけど……それでも至近距離に近づかれたり過度なスキンシップをされてしまうと堪えが効かなくなりそうで冗談抜きにヤバかったりする。自分の好みにドストライクな女性を前にして無心になれとか無茶ぶりにも程があるだろう。

 

 くそぅ、オレが一体何をやったって言うんだ……これ以上のスキンシップはオレの鉛の精神(誤字に在らず)が堪えられん。さっさと風呂を済ませてここから出よ——

 

 

 「……あら? ロア、もしかして……また胸大きくなった?」

 

 「————え?」

 

 早々に風呂場から撤退しようと考えていたところで、耳を疑うような情報が飛び込んできた。

 同時に脳内で状況を整理することである程度気を逸らそうとしていたオレの思考は、その唐突に告げられた現実(凶報)によって強制的に戻されてしまう。

 

 

 気がつくと、母さんは背後からオレの慎ましやかな胸のふくらみを鷲掴みにしていた。

 

 

 「—————————ッ!!?!?」

 

 

 この瞬間、声にもならない悲鳴が風呂場に木霊した。

 今のオレって、こんな声も出せるんだなぁ……そう現実逃避しないとやっていられそうにありません。徐々に男としてのプライドが崩れていくような気がしたオレであった。

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 風呂(生き地獄)済ませた(乗り越えた)後、オレは母さんと二人で朝飯を囲った。——え? あの後どうなったのかだって? ……思い出させないでくれ。

 

 

 基本的に母さんとは朝飯時と晩飯時に話すのが多い。理由としては昼の間、母さんは店で働いているため忙しくて話す暇が無いのだ。

 母さんが経営する料理店は結構繁盛しているらしく、昼時なんかはいつも満員になるらしい。まあこの街は然程大きい街でもない為、満員と言っても十人いくかどうかって程なので母さん一人でも十分に切り盛り出来ている。

 

 ただ数日前まではレイラさんが接客をしてくれていたので、その分の仕事が増えてしまったから少し忙しさが増したみたい。近々バイトを雇おうかどうか悩んでいるようだ。

 

 何だったらオレも手伝おうかとも提案したけど、それに対して母さんは柔らかく微笑みながら「無理はしないで」と告げてきた。

 

 どうやらまだ本調子じゃないことを見抜かれてしまったようだ。心の整理と十分な休養を取るようにって言われてしまえば反論など出来まいて……うん? 心の整理? なんのこっちゃろ?

 

 

 

 食事を終えて使った食器の片づけを手伝った後、母さんは店の準備があるからと家を出ていった。

 これも慣れたものだ。傍目からだと11歳の少女を家に一人置いて仕事に行くっていう前世では育児放棄と思われかねない状況ではあるが、このオルトリデアではこれが普通のようだから問題は無かったりする。

 

 

 オルトリデアは日本と比べて年齢層の認識に違いがある。

 簡単なところで言うと、日本では20歳で成人を迎えるところ、オルトリデアでは15歳で成人を迎えるようなんだ。

 

 これには当初驚いた。ゲームや設定資料にはそんな情報載っていなかったのもあって、それを知った時は戸惑いを隠せなかった。思わず20歳じゃないのかと母さんに問い返し、逆に何処でそんな話を聞いたのかと不思議そうな目で問い返されてしまった。勘違いしている子みたいでなんだか恥ずかしかったのを今でも覚えている。

 

 

 そして12歳にもなれば独り立ちしていく者も現れてくるようで、元日本人としては違和感を感じて仕方がないんだよなぁ……12って中学校上がりたてってぐらいの歳だろ? こういうのをジェネレーションギャップって言うのかな。

 

 今のオレは11歳だ。この年齢は前の世界で言う中学生高学年ぐらいの認識らしく、もう十分に一人で物事を考えられる年頃なんだと。身長はまだ137か8ぐらいなんだけど……まあ深く気にしてもしょうがねーか。あーだこーだ言っても、今はこれが常識なんだから慣れていくしかないわな。

 

 

 それに、オレとしてはこの状況は好都合だから別に不満はないんだけどね。

 何せ母さんが働いている間、周囲の目を気にすることなく自由にやりたいことをやれるんだからな。

 

 

 母さんを見送った後、オレは自室へと引き返す。

 風呂に入ったことで気分もスッキリ、朝飯も食ったし眠気もバッチリ解消済みだ。

 そして家にはオレ一人……今までならこの時間帯はライルが遊びに来ていたけど、今日からはそれもない。

 

 部屋の扉を開き足を踏み入れる。

 部屋の中には机にベッド、後は本棚やクローゼットがあるぐらいで味気ない内装となっている。前の世界だったらこれらに加えてテレビやパソコンなどの電化製品などがあったが、この世界は科学が進歩していないのもあってそういった機器は存在しない。

 

 こればかりはどうしようもない。確かこの世界は中世ヨーロッパの時代に近しい背景だって設定資料に書いてあったし、そんな時代に電化製品なんてある訳がない。

 まあ中世ヨーロッパがどういった世界観なのかなんて深く知らないし、漠然と「これがそうなのか」程度の認識しか持てないんだけどさ。

 

 時折ゲームやアニメが恋しくなることもあるんだけど……ない物ねだりをしたところでどうしようもないわな。部屋の中で出来ることをするしかない。

 

 

 「まあ、だからと言って楽しみがないわけじゃないんだけどな」

 

 

 扉に鍵をかけた後、オレは机に置かれている数冊のノートを手に取った。そしてその中から一冊選んでノートを開く。

 

 このノートこそ、オレのこれからの人生を支える道しるべとなるだろう。長い月日をかけて書き記し、オレが前の世界からこの世界に持ち込めた唯一の財産————

 

 

 その名も————『調合リスト』だ。

 

 

 以前にこの世界の元となった(であろう)ギャルゲーの話をしたときに、ダンジョンRPG要素が加えられていたという話を覚えているだろうか?

 

 そのRPG要素なのだが……これが結構作り込まれていたんだよね。それこそ本格派ダンジョンRPGとして売りに出せるんじゃないかってレベルで。当時のオレに「別にギャルゲーと一緒にすることなんてなかったんじゃないか?」と言う疑問を抱かせるほどの仕上がりだったと思う。……そのせいかシナリオとか設定は割と適当な感じだった気がするけども。

 

 そしてここからが本題になるんだけど、そのRPG要素の中に『調合システム』って言う機能があったんだわ。

 設定上ダンジョンなどではモンスターや宝箱から様々な素材がドロップされる。『調合システム』とはそれらを用いて回復薬や装備品などの様々なアイテムを調合することができるんだ。

 中にはストーリーを進めるために必要なキーアイテムや物語を重点に進めたい人用に取り入れられた救済アイテムなどもあったので、ゲームを進めるにあたり結構重要なシステムの一つとなっていた。

 

 

 このノートにはそれらの重要なアイテムから日用でも使える汎用アイテム等、前世で記憶していたほぼ全ての調合品を書き記している。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんかもね。

 

 

 RPG要素をやり込み、設定資料などを好き好んで読んでいたこともあって素材の名前やどういった見た目の物なのかをオレはほぼ正確に覚えていた。こういった趣味のことに関しての記憶力にはかなり自信がある。今回はそれが幸いした。

 

 そして前世の知識が使えるかの確証を得るために街の図書館にある図鑑や資料を記憶と照らし合わせ、更にはより正確な情報にするためにと身近な場所(主に東の森)へと実際に赴いて素材を確認したりもした。

 

 

 そうして出来上がったのがこのノートだ。言ってしまえば前世の知識をフル活用して作り上げた攻略本ってところか。

 ……え? なんでそんなものを用意したのかだって? まあ急と言えば急な話だったかもしれないけど、特に難しいことでもなんでもないんだわ。

 

 

 簡単な話、これこそがロアの抜けた穴を埋める対策の一つだってことだ。

 

 

 本来のロアは信仰心に溢れ、回復や支援系の聖術を駆使してライルや他のヒロイン達を支えていた。

 しかしこの世界のロア、つまりオレは聖術を使える程の信仰心を欠片さえも持っていなかった。

 

 無神論者のオレにとって、神様などと言った眉唾な存在を信じることなんて出来るわけもない。あっても仏壇を通して仏様に手を合わせる程度のものだ。とても信仰心に溢れているとは言い難いだろう。

 

 聖術が使えない以上、オレが冒険者になれる可能性は限りなく低い。寧ろ0と言っても過言じゃない。

 そもそも冒険者になること自体に抵抗があるので、オレがライル達のパーティーに加わって冒険するなどといった未来は既に存在しないのだ。

 

 

 しかしそうなるとゲームの物語的にいろいろと問題が発生してくる。

 

 冒険者である以上、危険とは常に隣り合わせだ。魔獣によって致命傷を受けたり、毒などといった状態異常に身を侵されるといった場面が度々出てくる。

 一応ヒロインの一人である魔術師の子が回復魔術を使うことが出来たけど、どちらかといえばその子は火力メインだったからなぁ。元々魔術は支援系を得意としてはいないから、回復魔術と言っても応急処置程度の効果しか発揮しない。こればかりはどうしようもないんだわ。

 

 

 ロアの抜けた穴はかなりでかい。このまま物語通りに事が進んでしまえば、ライル達の中から死人が出てくるような事態に陥りかねないのだ。

 

 冒険者になる気がない以上、オレが首を突っ込む必要は無いのかもしれない。結局は他人事だし、ライル達に危険が迫ったところでオレに出来ることなんてたかが知れてる。

 

 

 それでも、ライル達が危険に陥る可能性があることを知ってて何もしない程、オレは薄情者になったつもりもないんだよ。

 

 

 なら一体どうするのか? どうやってロアが抜けた穴を埋めるのか? ——その答えがこのノートにある。

 

 

 例え癒し手がいなくとも、要は回復する手段があればいい。

 

 支援する者がいないなら、自らで出来るようになればいい。

 

 それらを可能にする方法が無いんなら——新たに作ればいい。

 

 

 

 

 そしてオレは決めたんだ。オレはこのノートを用いて————『調合師』になることを。

 

 

 

 

 調合師。またの名を『道具(アイテム)合成屋』。

 この世界に溢れる様々な素材を合成し、貴重な薬や特殊な道具を作り出すことを生業としている者達の総称だ。

 

 開拓者や冒険者と比べるとマイナーな職業だが、その重要性は開拓者に次いでいた。

 一般的に知られている素材や開拓者が持ち帰った素材などを調合し、既存にはない道具や薬、その他諸々を作り出すことが主な仕事になってくる。そうして作り出された調合品を国に献上し、街の発展へと繋げていくわけだ。

 

 勿論既存に知られている調合品を量産して売りに出すことも調合師の仕事だ。そんなすぐに新規の調合品を作ることなんて普通は出来ないんだし、ある程度の稼ぎを確保することも重要になってくる。

 

 

 ゲームでは街や拠点にある調合屋に素材を渡すことで完成品が手元に戻ってくるようになっていた。これが『調合システム』である。

 

 これがまた便利だった。

 何せ必要な素材さえ分かっていれば普通に買うよりも安く手に入れられるからな。まあより良い道具を手に入れるためには希少な素材が必要になってくるんだけど。

 

 それに完成品も確率で良し悪しが決まる。『調合成功』ならいいが『調合失敗』になると貴重な素材がただのゴミに生まれ変わるという悲惨なことになりかねない。そこはプレイヤーがどれだけやり込むことが出来るかで変わってくるだろう。

 

 

 因みにオレはこの『調合システム』に結構お世話になったプレイヤーだ。 

 レベル上げの為に魔獣を狩っていれば自然と素材は溜まっていったし、何より調合品リストの欄を埋めていくのが結構好きだったんだよね。元々資料や図鑑などを読むのが好きだったので、こう……コレクター精神をくすぐられた訳でありまして。

 

 それによってオレの調合品リストには空白の二文字は無くなったよ。つまりコンプリートしてしまった訳です。だからこそここまで詳しくノートに書き記せたって訳なのだ。

 

 ただ、このノートにはある種の危険を孕んでいた。

 

 

 「ノートに書いた内容が全部正確なものだとして……他人に知られたらいろいろと不味いことになりそうだよなぁ」

 

 

 貴重なものほど、それを欲する者達が現れかねない。そうなった場合……このノートを奪いに来る輩が出てくる可能性もあるんだ。

 

 特に調合師達にとっては喉から手が出るほどの価値があるだろう。何せ既存には知られていない調合品の数々がここに記されているのだ。それを知れさえすれば国の発展に大きく貢献することが出来、その報酬として億万長者も夢じゃない。金に目がない奴等は特にこのノートを欲しがるはずだ。下手すれば卑怯な手を使ってくる事だってあるかもしれないな。

 

 

 別にオレは有名になりたいとか金持ちになりたいなんて願望はない。適度に調合品を献上しつつ、安定した収入で平々凡々に日々を暮らせていければ万々歳だ。

 つまり、このノートは良くも悪くもオレの未来を左右する。平穏な生活を送れるか、面倒事に巻き込まれるかはオレの使い方次第って訳だ。

 

 とにかく他人に知られていいことなんて一つもありはしないので、このノートの内容はオレだけの秘密にしてある。誰にも知られてはいけないのだ。

 

 

 まあオレが誰かに教えない限りは情報が漏れることなんてないだろうけどさ。

 

 

 何せこのノートに書かれている文字はオルトリデアで使われている『リデア文字』ではなく、この世界の人間には知り得ないであろう()()()を使っているからな。オレ以外に読める奴なんているわけがない。

 

 

 そもそもな話、こんなガキの書いたノートの内容を誰が信じるっていうんだ? 例え内容を話したところで子供の絵空事だと思われるのが目に見えているし、下手をすると頭の心配をされるかもなしれない。流石にそれは御免被る。

 

 「よし、んじゃやるか!」

 

 さて、説明も程々に実験を始めていこうか。

 母さんは仕事で家にいない。ライルも王都に行って、他に親しい友達もいない。つまり誰にも知られずに調合することが出来る環境が整ったって訳だ。

 

 この時をどれだけ待ったことか……今の段階では誰にも知られたくなかった以上、ライルが王都に行くまでやるにやれなかった。

 

 何せあいつ、昼間は決まって家に来たからな。実験する隙なんて見つからなかった。夜は夜で母さんがいるから下手に物音を立てたら怪しまれる。別に母さんになら知られてもいいかもしれないけど……念には念を入れんとね。

 

 

 しかしそんな悶々とした日々ももう終わり。今日からはオレの新たな門出、未来の凄腕調合師ロアの初めの一歩なのだ! よっしゃあテンション上がってきたー!

 

 

 「とりあえず基本から始めていこうかな。確か薬草と水、後はミドリキノコを調合すればポーションが出来たはず。素材は予め集めておいたからこれで…………」

 

 

 ……………………

 

 

 「調合……」

 

 

 ……………………………………

 

 

 「んー……あー…………なるほど」

 

 

 そうか。そういや、そうだったな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……調合のやり方調べるの忘れてた」

 

 未来の凄腕調合師、ノート作りに熱心になるあまり、調合の仕方という初歩的な事を調べ忘れるのであった……(笑)が付かないように今後気をつけよう。

 

 





 調合システムは某モンスターなハンターゲームの調合に近い感じです。

 次回『悪戦苦闘、そして再会』お楽しみに。

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