ヒロインの一人にTS転生したので主人公を他のヒロイン達に押し付けたら……   作:メガネ愛好者

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 どうも、メガネ愛好者です。

 …………約二年と六ヵ月ぶりかぁ(白目)

 更新が遅れて申し訳ありません。一先ずある程度形になったので投稿します。
 これもすべてはハーメルンに投稿されし偉大なるTS作品のおかげです。明日を生きる希望が湧いてくる……!

 また、此度の投稿と合わせて一話から五話を加筆修正しました。
 ぶっちゃけ久しぶりに書くので至る所で矛盾のオンパレードだったんですよね。ある程度は辻褄合わせをしたつもりではありますが……未だに「……うん?」と首を捻るところが幾つか隠れていたりします。少しずつ修正していくつもりではありますので、暫しご了承ください。

 加えて、人物紹介については未だ修正しておりません。これについては今章が終わり次第修正しますのであしからず。

 それでは。



第六話・前途多難

 

 

 気づけば調合を始めてから半年ほどの月日が経っていた。

 

 この半年間、オレは相も変わらず自室に引きこもっては今や半ば趣味と化した調合作業を延々と繰り返している。

 最初の一歩から躓きはしたものの、調合法に関しては街の図書館で資料を見つけたから別にそこまで頭を悩まされた訳ではなかった。実際、調合法さえ分かればそう難しい作業でもないことが分かったし。

 

 というか、飲食関係の調合品に関しては料理をしているのとほとんど大差ないんだよなぁ……

 調合手段としては『煮る』『焼く』『蒸す』『漉す』等の手段を取るんだが、それ自体は料理するときの調理法と似通ったところがあるから別段難しいことじゃない。拍子抜けもいいところだ。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと……特別何か新しいことを始めたって感じがしないんだわ。

 

 そんな訳で、オレにとっちゃ調合自体は然程難しい作業ではなかったりする。それを半年間も続けていれば……っと、ほらこの通り――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『へドロドロした黄土色ポーション(?)』の出来上がりだ!

 

 

 「こうして不良品が量産されていくってわけよ……」

 

 

 はい。そう簡単に上手くいくわけがないっつーね。

 知ってたよ? 世の中そんな甘くないって。ゲームのようでいてこの世界は歴とした現実だってことは転生してから嫌と言うほど味わってきたさ。

 

 「でもよ、流石にこれはなぁ……」

 

 手に持つ瓶詰めした黄土色の液体……『ゲテモノポーション』と名付けたソレは、ヘドロのような粘りと吐き気を催す程の悪臭を放っていた。

 

 

 実はこのゲテモノポーション、本来の姿は()()()()()()()である。

 

 

 『薬草』『水』『ミドリキノコ』と全体的に緑色の素材が多い故か、回復ポーションは完成品も透き通るような緑色の飲み物だ。(因みにミドリキノコとは、傘が緑色で直径5㎝程のキノコだ。サッと炒めたミドリキノコは酒のつまみにあうらしい)

 

 使い方は普通に飲むか傷口にかけるかの2つ。外傷を治したい場合は直接かけた方が効き目がいいらしい。勿論飲んでも外傷は治るが、飲む場合はどちらかと言えば内傷を治す場合の方が多い。

 

 味は前世で言うところのスポーツドリンクのようで、元が草とキノコの出汁だったとは思えないぐらいに美味しかった。その上健康にもいいらしいので、別に冒険者だけの必需品って訳じゃない。一般家庭で風邪薬として使われることもあるそうだからな。一種の万能薬ってやつなんだろう。

 

 そんな回復ポーションの作り方をザッと説明すると——

 

 1.すり鉢に薬草とミドリキノコを入れてすり潰す。

 

 2.時折水を入れつつペースト状になるまで続ける。

 

 3.ある程度すり潰したら布に包んで湯水に浸す。

 

 4.湯水が全体的に緑色に変色するまで滲ませる。

 

 5.それから数分間煮込んだ後に容器に移しかえる。

 

 6.最後に冷水でゆっくりと冷ましていけば完成。

 

 ——とまあ、大体こんな感じ。

 

 オレはこの手順通りに調理した。下手にアレンジを加えるようなことなんてして一切していない。慣れもしない内からレシピ通りに作ろうとしないなんて言語道断ってやつよ。そんなん失敗するに決まってるし。

 

 

 それなのに……結果はこれだ。

 

 

 「一体何がどうしたらこんな気色悪ィ色になるん……?」

 

 調合において調薬系統はかなりシビアな部類に入ると言われている。

 それぞれの素材に対する分量、温度調節やらの状態維持、工程に費やす時間等々、様々な条件をクリアすることで調合は成功する。だからただ混ぜたりなんだりするだけでは劣化品や粗悪品が出来てしまうし、極稀に変質してしまうことだってあるらしい。

 つまり、これは単純にオレの経験不足が引き起こした事態ってことになるんだろう。

 

 

 ……なるんだろう。普通に考えたら。

 

 

 オレはこの結果にどうしても納得できなかった。どうしてもただの失敗で片付けることが出来ない理由がオレにはあるんだ。

 

 先ほど言った通り、調合において変質系のアイテムは極稀に出来てしまうアイテムだ。

 そもそも変質系のアイテムは狙って作れるようなものじゃない。何らかの要因はあると思うけど、現時点でそれが何なのかまでは解明されていないようだ。少なくとも街の図書館で読んだ資料の中には原因らしいものは載っていなかった。

 

 現状では調合ミスによって生まれる劣化品や粗悪品とはまた異なる失敗事例——通称を『変異化』と呼ばれている。これはゲームでいうところの『大失敗』に分類されているものだ。

 ある意味ではレアなアイテムとも言えるのだが……無論、全くもって嬉しくないアイテムである。

 

 そして今しがた作ったゲテモノポーションも、ゲームにおいて『変質したポーション』と一括りにされていた回復ポーションの変質系だと思う。絶対にそうだって断言することはできないけど……多分、間違ってはいない筈。

 

 因みにゲームにおいての説明文はというと……

 

 

 『最早ポーションと呼べる代物ではなく、一銭の価値も需要も無い。処分に注意すること』

 

 

 ……中々に辛辣なものだった。まあ反論の余地はないんだけどさ。事実その説明文通りに現状処分も儘ならない事態になってるし。

 

 今は蓋をしてるから問題ないけど、その蓋の下には一度(ひとたび)触れば数日の間は決して匂いが落ちないんじゃないかってぐらいの悪臭を放つ液体が納められている。またヘドロのような粘りがあるせいでなかなか洗い流すことも出来ないし、洗おうとするとその際に使った水に液体が侵食して悪臭を広げるという二次被害が起きてしまうのだ。

 ……ホント、何があれば元がポーションの素材だけでこんな劇物を生み出せるのか……甚だ疑問である。

 

 何はともあれ、上記の理由から現状処分するのも一苦労なのだ。一度ゲテモノポーションの処分を経験したオレからすれば、ただの劣化品や粗悪品よりも圧倒的に質が悪い代物である。

 

 ……処分中、ふと「これ、下手すりゃ一人でバイオテロを引き起こせるんじゃないか?」などと不穏なことを考えてしまった辺り、相当気が滅入っていたのかもしれない。

 いやだってしょうがないだろ? 考えてもみろよ。生ゴミと汚水をジックリコッテリ煮込んだモノを更に馬糞と一緒に発酵させたような代物をさぁ……あー、すまん、もう無理。思い出しただけで吐き気がする程気分が悪くなってきやがった……ちょっと休憩させて…………おえっ

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 ……よし、それじゃあ話を戻そう。

 

 意図せずして出来てしまう変質系のアイテム、ゲテモノポーション。これを作ってしまったことに何故オレは納得できないのか?

 

 ——違う、そこじゃない。

 

 オレはゲテモノポーションを作ってしまったことに納得できないんじゃない。それ事態に関しては別に何もおかしなことじゃないからどうこう言うつもりはないんだ。

 オレがどうしても納得できないこと、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……どうしたもんかなぁ」

 

 今しがた作ったゲテモノポーションを机に置いたオレは、おもむろに周囲を見渡した。

 そんなオレの視界に映るのは——部屋の一角を埋め尽くさんばかりに広がる()()()()()()

 

 

 そう、ゲテモノポーションは一本だけではなかったのだ。

 

 

 手始めにとポーションを作り始めてからはや半年。

 

 今しがた作ったのを含め……全部で83個

 それは、この半年の間にオレが生み出してしまったゲテモノポーションの総数だった。

 

 「……おかしくない?」

 

 いや、間違いなく何かがおかしい。

 ただ失敗して出来たならともかく、極稀にしか出来ないって言われている変異化したアイテムがなんでこんな大量に出来るん? 参考資料だと月に一つか二つは上手い下手関係なく出来てしまうなんて書いてあったけど、割とポンポン出来るんですけど? 全然"極めて稀"じゃないんですけどぉ!?

 極稀って言ったじゃん!! 極稀の意味わかってんのか!? 一度辞書引いてこいってんだよゴラァ!!

 

 「くそぅ……オレには転生者補正ってやつはないのか? 全然思い通りにいかねぇ……」

 

 あんまりな結果におもわず机に突っ伏してしまう。

 ホントもう、なんなんだよコレ……普通のポーションを作ろうとしたのに結果は異臭を放つヘドロを大量生産とかどういうことだ? これがゲームだったらクソゲーもいいところだぞ。

 ポーション作りは基礎中の基礎だから誰にでも作れるぐらい簡単だって資料に書いてあったのに……全然そんなことねーじゃんかよ! 誰だよあれ書いたの!? いい加減なこと書いてんじゃねーよバカヤローが!!

 何が回復ポーションだ! もうこれ"壊腹(かいふく)ポーション"とかそんな感じになってんじゃねーか!? ……いやお腹を壊す程度で済めばいいけどさ。てか見た目からして絶対飲むもんじゃねーだろコレ……

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いっそ魔獣にでも飲ませてみるか?

 

 

 ――おっと。いけねぇ、つい思考が変な方向に向かいそうだった。流石にやつあたりでやっていいことじゃなかったな……

 

 さて、そんなわけで物寂しい程にシンプルだったオレの部屋も、今やこの半年間で作ってきた失敗作によって物置部屋のようになってしまった。最早年頃の少女の部屋とは言い難い環境に軽く現実逃避をしてしまう。……いやまあ元男であるオレの部屋と年頃の少女の部屋を同一視していいのかと問われれば首を横に振らざるをえないけども。

 

 

 ……あ、そうだ。ここで一つご報告。

 

 なんとこのゲテモノポーションの表現に困る悪臭のせいで母さんに調合のことがバレちまった。流石に匂いまでは隠せなかったよ。

 

 それで結局オレが調合師を目指していることを母さんに知られてしまったわけだけど……まあいつまでも隠し通せるなんて思ってなかったし、その内報告しようとしていたことが早まっただけでそこまで支障があるわけではない。……流石に調合を始めてから一週間後にバレるとは思わなかったけどな!

 

 ならなんで隠れてやっていたのかって? んなもん事情を聞いた母さんが――

 

 

 「もしかして……ライル君の為だったり?」

 

 

 ――って問いかけてくるのが目に見えてたからだよぉ!!

 

 いや違うから! 別にそんなんじゃねーから! ……ぁ、いや、全く違うって訳でもねーんだけど……それとこれとは関係なくて……ない……いや、あるのか? あれ、どっちだ……?

 

 ……ぁぁあああッ! くそっ、どう説明したらいいんだコレ!? 本意不本意入れ混じっててわけわかんねぇ!!?

 

 

 フゥ……フゥ……お、落ち着け、オレ……一旦冷静になって考えるんだ……

 

 

 あー……ええっとだなぁ……これは……つまり…………義務?

 

 

 義務……うん、そうだ。義務だっ!

 

 

 確かにオレが調合師になるきっかけにライルが関わっているのは間違いないさ。でもそれは、決してオレがライルに好意を寄せてるからとかじゃなくてオレ(ロア)が本来やらないといけなかった役割を補う為の対策ってだけなんだ。加えて言えば単純にオレ自身が調合に興味があったってのも大きかったりするわけで……

 

 つまり何が言いたいのかっていうと、結果的にあいつの為になるかもしれないってだけで別にオレはライルのことが好きだから始めたってわけじゃないんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………わけじゃ、ないんだけどさ。

 

 まあ……その、なんだ。あいつはさ……一応……友達だしさ。

 友達同士で助け合うのは当然だってよく聞くし……そういった意味ではライルの為ってのもあながち間違いじゃないのかもしれないなぁ、なんて……

 

 それに、友達が危ない目に遭うことを知っていて放置するとか……オレにはできそうにないし。

 

 これから先の未来、あいつはきっと数多くの厄介事(イベント)に巻き込まれることになると思う。

 例え冒険者になる道を諦めても、例え開拓者になれなかったとしても、あいつがあいつである限り……きっとそれは、変わらない。

 

 変えられない……そんな予感がするんだ。

 

 ……そうなるのがわかっていてさ、心配しないわけ……ねーじゃんかよ。

 

 ……あいつには散々酷いことも言っちゃったからな。せめてもの償い……になるかはわかんねーけど、やろうと思う。

 例え、嫌われたっていい。あいつが無事でいられるなら……嫌われたって、構わない。だから、オレは…………

 

 ……少しでも、ライルのことを支えてやりたいんだ。

 

 ……ッ、と、とにかくだ! 何はともあれこれ(調合)に関してはオレが好きでやってるだけのことだから、それ以外の理由なんて所詮は"ついで"でしかないんだよ!!

 

 

 

 ……だからね? 母さん。そんな意味深にニマニマと微笑みながら視線を送ってくるのやめてくれる? ……オレがライルのことを特別視してるって? 誤解です。あっても友達第一号ってだけです。そういった意味では特別なのかもしれないけど、多分母さんが思い浮かべてるような"特別"とはまた別物っていうか……いやホント照れてるわけじゃないんだって!! 男のツンデレとか誰得だよ!? 今のオレ女だけどさぁ!?

 

 

 

 ……え、傍目から見てるとそうとしか思えないって?

 

 

 

 ……………………え? 嘘、マジで言ってるソレ?

 

 

 

 …………えーっと…………

 

 

 

 ……あれ? そういや今なんの話してたっけ? ――あぁそうそうっ! 調合バレについてだったな! さっさと続き話さないとだったな! うんうんっ!

 

 ……後生だ、深く詮索しないでくれ。頼む……

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 ……何はともあれ、母さんにオレが調合師になろうとしていることを知られてしまったわけだけど……これが意外にもいい方向に進んだ。

 

 なんと、母さんが積極的に協力してくれるようになったんだ。

 

 欲しい素材を用意してくれたり、調合に必要な道具を買ってくれたり、母さんが知っている限りの知識を教えてくれたりと、何から何までお世話になりっぱなしだ。正直頭が上がらない。まあ前々から頭は上がらなかったけど、余計に上がらなくなった気がする……

 

 母さんとしては「娘の夢を応援したい」からという理由で支援してくれているようだ。……なんとなく別の意図もありそうだけど、もうこの際深く気にしないことにする。うん、きっとそれがいい。態々藪蛇を突つくことなんてないのだ。触らぬ神に祟りなしである。

 

 それと、オレが何かを要求すること自体が珍しいってこともあってか結構奮発してくれているようだ。

 

 あー……言われてみればそうかもしれない。確かにオレは転生してからというもの、あれやこれやと物を欲しがることがなくなったと思う。

 

 衣服やアクセサリーなどに興味が引かれるわけがなく、武器や防具などは買っても宝の持ち腐れ。本に関しては図書館で借りられるので態々買う必要もなく、おやつに関してはあるもので作ってしまえば事足りてしまう。こうも条件が揃っていると、態々何かを買う必要もなかったのだ。

 

 というか、今でさえ女手一つで働いている母さんにこれ以上余計な負担を掛けさせたくはないじゃないか。子供なら甘えるべきとも言うだろうけど、生憎とオレは精神年齢だけで言えば既に大人だし、下手に頼んで困らせたくないし……

 

 ただそんなオレの気遣いも、母さんにとっては逆効果だったようだ。

 

 金のかからない子供と言えば聞こえはいいのかもしれないが、どうにも母さんとしてはそれが頼られていないように思えて少し寂しかったらしい。遠慮なんてしないで名一杯甘えてほしかったと……

 

 だから今回、オレの為に何かしてやれることがとても嬉しかったみたいでさ……良かれと思って遠慮してたんだけど、なんだか一気に申し訳なくなってしまったのはここだけの話。

 

 

 

 そんなわけで、母さんの支援もあって作業に関してはなに不自由なく行えてるんだけど……結果は御覧の有様で。

 これじゃ支援してくれた母さんに申し訳なさすぎる。不出来な娘でごめんなさい……

 

 言っておくが、別にゲテモノポーションしか作れていないってわけじゃないんだぞ? 普通に成功することだってたまにはあるんだ。たまには。

 ただそれと比べて劣化ポーションや粗悪ポーションの方が断然多く出来てしまうんだ。変質ポーションは言わずもがな。

 

 因みに劣化ポーションは単純に回復量が低下。粗悪ポーションは良質なポーションと変わらない回復量なのだが……味が悪くなる。とにかく不味い。まともに飲めたもんじゃない。下手すりゃ味覚がおかしくなるぐらいだ。傷口に直接かけるのも他のと違って"痛む"からな。傷は治るがとにかく染みて痛いらしい。

 

 例え回復するからとは言ってもこんなんじゃどっちも売りに出せるわけがない。これじゃ失敗したも同然だ。

 

 「……どうしたもんかなぁ」

 

 何度目ともなる呟きに、オレは未だ答えを出せないでいる。そのことにオレは内心かなり焦っていた。

 

 

 

 半年が経った今、物語が始まるまでに残された時間は後六年半。まだまだ時間はある……とは言えないのが正直なところだ。寧ろ足りないかもしれない。

 

 というのも、調合師はただ調合していればいいってわけじゃない。調合以外にもやることはたくさんあるんだ。

 

 調合に必要な素材の調達はどうするのか? 調達に必要な資金はどう手に入れるのか? もしも自分で調達することになったとして、その手段と調達先の割り出しはどうするのか?

 

 何より調合師として活動するにもまずは一度王都に行って、そこにある『調合師組合』ってところに個人登録しなきゃならないみたいなんだよ。

 未登録の調合師は自身が作った調合品を他所に売りに出せない決まりになってるみたいだからさ。いつかは王都に行かねばならんのだろうけど……

 

 

 「そうなるとなぁ……下手すりゃあいつと――」

 

 

 ――ライルと再会してしまうかもしれない。

 

 

 王都の調合師組合近辺には冒険者達の活動拠点である『ギルドハウス』が複数建てられているからな。そのせいであの一帯は特に冒険者や開拓者がひしめきあってやがる。

 ライルが今後どうするかは……まあ多分諦めきれずに冒険者か開拓者のどっちかに目指そうとするだろうから……あの辺りにライルが出没する可能性が出てくるんだよなぁ……

 

 

 ―—因みにここで少し補足すると、実のところ冒険者には二通りの呼び名が存在している。

 一つはギルドを転々とする『フリー』の冒険者、もう一つはギルドに所属している『マルチ』の冒険者だ。

 

 

 フリーは各地のギルドで自由に依頼を受けることができ、またそれぞれのギルドの方針に縛られることがない。ただ依頼を受けられるといってもギルドにとってフリーは結局のところ"余所者"でしかないため、フリーはギルドからの支援を受けることができないというデメリットがある。自由に活動できる代わりに孤立無援の状況を強いられてしまうようだ。

 

 まあ個人的に仲を深めることでマルチには及ばないながらも他のフリーより待遇をよくしてもらえることがあるみたいだが、それは例外というもんだ。

 

 そしてその例外中の例外ってのが……ゲリックさんなんだよね。

 

 以前にも話したかもだが、ゲリックさんはフリーの冒険者だ。しかも他のフリーとは異なり、行く先々のギルドで手厚く歓迎(勧誘)されている。流石は【最上位】の冒険者様といったところか? まあ結局のところギルドには入らず終いなんだけど。

 

 

 マルチはその逆だ。基本的に所属したギルドの依頼しか受けられなくなり、ギルドの方針から背くことも出来なくなる。その代わりギルドから多くの支援を受けることができるんだ。例えば好条件の依頼を優先的に回してくれたり、武器や防具の整備やアイテムの補充なども一部負担してくれたりするそうだ。まあこれについては各ギルドで待遇の差があるみたいだが、少なくともフリーよりは断然厚待遇だ。

 

 そういった経緯もあって、最近の冒険者は大体がいずれかのギルドに所属しているマルチであるらしい。初心者であれば先輩方が指導してくれるみたいだから、態々フリーになる者なんてほとんどいないんだとか。

 今やフリーになるのはいくらか余裕があって自由に活動したいって奴か、ただの馬鹿か、周囲に溶け込めないはみ出し者ぐらいだ。そのせいかマルチと比べてフリーの印象はあまりいいとは言えないらしいな。

 

 

 ……え? 冒険者が嫌いなわりには随分と詳しいじゃないかって?

 そりゃそうさ。なんてったって、常日頃からどこぞのバカヤローが聞きもしないことをペラペラと口にしてたからな。耳元で騒ぎ立てるもんだから不服にも覚えちまったんだよ。

 

 

 因みに、本来の流れだとそのバカヤローは物語開始以前の二年間をフリーで活動していたりする。

 最初の一年をゲリックさんから指導を受けつつ共に活動し、後の一年はゲリックさんと別れて一人で活動していた筈だ。

 

 そんなある日、依頼先で危機に陥ったマルチの少女を助けるところから物語が始まるわけだ。

 

 そしてそのマルチの少女ってのが……お察しの通り、第一ヒロインである。

 そこからはあれよあれよと事が運び、最終的には彼女達のギルドに所属することでマルチになるわけだが……まあそれについてはまた今度暇なときにでも話すとしよう。詳しく語りだしたらきりがないし、何より印象深い場面以外は朧げにしか覚えてないから詳しく話せないんだよ。悪ぃな。

 

 

 

 そんなわけで、組合に行くには多くの冒険者が行き交う区域を通らなければならず、何の考えも無しに行けば高確率でライルとエンカウントしてしまう可能性が極めて高いのだ。

 流石にあんな大喧嘩した手前、顔を合わせるのは勘弁願いたい。どんな顔して会えばいいのかわからんし、正直言って気まずいし……てか本来の流れなら再会するとしても六年半後――物語が始まってからになるから、今再会するのはいろいろと不味い気がするんだよなぁ。

 

 だから当分の間は登録しに行くことが出来ないんだけど……それはそれで困るんだよなぁ。

 

 調合品を売れないってのは現状かなりの痛手だ。今のうちにある程度の活動資金を貯めておかないといけないオレとしてはかなりマズい状況だ。いざ物語が始まったときに調合師としての活動ができないだなんて笑い話にもなりゃしねぇよ。

 

 第一目標を『()()()()()()()()()』にしているオレにとって、資金調達の目途は早いうちに済ませておきたいところである。

 

 「どうしたもんかなぁ……」

 

 考えれば考えるだけ気が重くなる。……いやまあライルと遭遇すること前提で組合に登録しに行けばその点に関しての問題は解決なんだろうけど……でもなぁ、会いたくないしなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——そんなオレの葛藤を遮るかのように、不意に部屋の扉からノック音が響いた。

 

 「——ロア、今少しいいかしら?」

 

 「……え、母さん?」

 

 扉の先から聞こえてくる母の声。おかしい、この時間帯はまだ店で働いてるはず……?

 

 そこでオレは気がついた。時計の針が既に夕飯時を過ぎ去っていることに。

 

 「あれ、もうこんな時間……」

 

 「余程作業に集中していたのね。一度声をかけたのにも気づかなかったみたいだし」

 

 「え、そうだったの?」

 

 全然気づかなかった。

 今の時間から逆算するとなると……さっき作り終えたゲテモノポーションと丁度格闘していた辺りか。あの時は目の前の劇薬から目を離せないでいたからなぁ……

 

 凄いんだぜ? アレ。緑色だった液体が最後の(冷水で冷ます)行程に入ると急速な勢いで黄土色に変色していくんだ。その瞬間をオレは何の感慨もなく……最早悟りの域に達していたんじゃないかって心境でジッと眺めていた。誰かが見れば「死んだ魚の目になってた!」って言うんだろうなぁ、ハハッ。

 

 「ご、ごめんなさい……」

 

 「別にいいのよ。それだけ一生懸命にやってたってことなんだから。……でも、次からは時間を確認しながらするように。いいわね?」

 

 「……わかった」

 

 「よろしい」

 

 母さんの説教とも言えない指摘を素直に受け入れつつ、オレは散らかった調合器具の一つ一つ片づけを始めるのだった。

 

 今日はここまでにしよう。流石にあんな結果続きじゃ夕食後も作業を続ける気になんてなれないし。気分転換も兼ねてゆっくり休もう……

 

 そうして調合器具を片付けてる間も母さんはドアの前に立っている。もしかして片付け終わるのを待ってくれているのかな? なんて考えたところで――

 

 「……それでね、ロア」

 

 「ふえ?」

 

 ——そこで再び、母さんの声がオレの意識を遮った。

 片づけが終わるまでじっと待ってるのかと思っていたばかりに、咄嗟に返事をかけられて少し驚いてしまう。そのせいで何とも締まりのない声が出てしまった。

 

 なんだか最近、ことあるごとに年頃の少女みたいな声を意図せず出すようになってきてる気がする……これは少し気を引き締めた方がいいかもしれない。気づいたときには身も心も女の子になってましたとか流石に笑えないです。

 

 「実はね、ロアに少し話があるの」

 

 「えっと……何?」

 

 オレが再び母さんへと意識を向けたのを期に、母さんは改めて話し始めた。

 

 それにしても……なんだろう、この感じ。なんか嫌な予感がするんだよなぁ……

 

 母さんが改まって何かを話すときって、大抵オレが何かしら関与してることだろうからついつい身構えてしまう。経験上、オレにとって不利益になることを母さんがするとは思えないんだけど……

 

 「ロアは今日が何日か覚えてる?」

 

 「え? 確か……『羊月(ようづき)の十三日』だったよね?」

 

 母さんが聞いてきたのは今日の日付についてだった。

 とりあえずオレは素直に答えたけど……日付なんて確認して何がしたいんだろう? 母さんの意図がどうにも読めない。

 

 あ、因みに羊月ってのは日本でいうところの三月のことだ。

 この世界では月の名前が数字じゃなくて十二星座に置き代わってるんだよね。まあオレはそこまで日付を気にしないタイプの人間だから、今日が何日かなんて正直どうでもよかったりするんだけども……って、今はこんなことどうでもよかったか。

 

 「うん、正解。それじゃ……今日から一週間後が()()()かは覚えてる?」

 

 「一週間後……何の日か……?」

 

 何の日かって……あれ、何かあったっけ?

 一週間……七日後と言えば羊月の二十日だよな。その日がなんだって…………

 

 

 ……うん? ()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………あ゛っ

 

 

 「ま、待って。確かその日って……」

 

 「フフッ、思い出した?」

 

 

 思い、出した……思い出してしまった……ッ!!

 

 

 そうだった……羊月の二十日って()()()じゃないか!? なんでそんな大事なことを忘れてたんだオレ!? ボケるにはまだ早すぎるだろう!?

 

 その日は……その日は、あいつの――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ロアもこのままライル君と喧嘩別れしたままじゃ嫌でしょ? いい機会だし、お母さんと一緒に行かないかしら? ライル君のお誕生日会

 

 

 

 ……どうやらオレは、本来の流れとは異なり六年半も早く――あいつと再会することになりそうです。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 ロア・イーリス、王都行き決定。

 ライルとの遭遇確率——100%

 ――――――――――――――

 

 





 さて、忘れてしまったプロットを記憶の底から掘り出さねば……


 ……とりまさっさとメス堕ちさせてぇです←
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