母神様の云うことにゃ。   作:ふま

10 / 30
10, 弱点

_______ あれからもう直ぐ1年か。私は何も変わってはいない 

貴方様を失った記憶も色褪せず____変われない・・・

変われるはずもない____

 

 

 

「・・・オイ・・・! あのコ!」

「あぁ・・・。」

 

先を歩いているコテツ達が思わず振り返った、通り過ぎていく行く少女。

僕はその声に顔を上げる____まさに今、思っていた彼女が目の前に現れた。

黒くシンプルな2本の簪でクシュっと纏められたヘアスタイル、

口元を隠してしまいそうな、薄く優しいイエローのショールから覗く白く細い肩。

柔らかそうな後れ毛がふわりと風に舞う___桜色した唇がほんのり色香を放っていた。

こうしてみて見ると・・・彼女は垢抜けた部類で、とても熊慣れしてるなんて思えない;

 

しかしどうした___もう陽が暮れているというのに・・・?

立ち止まり、影にいる護衛である筈の暗部の者に密かに尋ねた。

 

「どうなってる・・・あの方向じゃ逆だぞ。」

「俺たちの任務は護衛のみ・・・何かあってからでいいでしょう。」

 

熊事件の事が暗部の反感を買っているのだ。

あの実験体の死体を見れば大蛇丸がらみの事だと明らかだった。

しかし、何かあってからでは火影様の意に反する・・・。

 

「納得できないなら良い、後は僕がやる。」

 

鬼子母神が如何なる者かは知らない。

彼女が強靭な生命力だとしても心はどうだ___僕と同じ闇を抱えさせたくは無い。

引け、と伝えれば早々に散って行く。望む所だったのだろう。

そうは云ったものの、非番だったもので面もなければ完全に素の状態である。 

少し離れた所でないと彼女に気付かれてしまう。なにせ只者ではないからな。

 

ダメだ、このまま行けば繁華街を抜けて人気のない場所に出てしまう。

この間は、僕は暗部の1人として立会いをしたからメンは割れていないとは言え。

なんて声を掛けたらいいのか迷う・・・。

いや、嘘でも何でもいい・・・神社の辺りで意を決し、とうとう彼女の肩を掴んだ。

 

「この辺りは危ないですよ?変質者がよく出るんです。」

「__________。」

 

アチャー・・・ヨリによって変質者はマズかったか;

振り向いた彼女の、小さく愛らしい顔の真ん中・・・鼻がヒクリと動いたかと思えば。

 

「馬鹿め___なぜ着いて来た・・・、来るぞ・・・!」

「!?」

 

八香は矢継ぎ早に、僕の体を両手の平で思い切り弾き飛ばしたのだ。

そして自身もその場から弾け、避ける。

僕たちの間に飛び込んで来た殺気。両者共にタッ!っと体制を整え3体の黒い影を見据えた。

 

「お坊・・・・・・・!?」

「・・・自の国の僧兵だ。」

 

若い2人に迫力は感じないが、後ろに控える年配な坊主の高圧的な眼差し。

知り合いなのか彼女の痛い位に感じる緊張感がハンパない。

 

「捕獲しに来たと云うワケか___?」

 

八香の問いにも3人揃って何も云わず、ただ不気味に左に数珠、そして右手に札を持っている。

アレは何だろうな・・・ツノの生えた、不気味にも面白くも見える魔物の文様が入った札だ。

 

「・・・・!!」

 

速い・・・! 札を手に、一斉に八香目がけて3人が飛んでくる。

だが流石に彼女のスピードには追いつけない様だ。

しかしこれでは、彼らを捕らえる事は非常に難しい。

チャクラを無駄に使えば肝心な時に彼女を助けられなくなる___分が悪い。

 

「・・・八香ッ!」

「 「 ・・・・・! 」 」

 

声が聞こえた途端、木の上を逃げ回ってた彼女がガクン!と脚で枝にぶら下がり

頭の簪を素早く抜き放つ。変わり編みされた長い髪が落ちきる前にはもう手を翳してた。

 

ボウッ・・・・!!! ビュ!!!

 

火遁術の独特の呼吸音で察知したのか?

巻き上がる業火が札もろ共、坊主二人を焼き焦がす。連携プレイを見せたのはゲンマだ。

 

「あと一枚か・・・?」

 

クナイを手にそう云い、着地した彼女を守るかに立ちはだかる。

特上である彼は非番であった僕より情報を持って此処に現れたのだろう。

驚くべきは、昨日今日来たばかりの___

忍術とは無縁の八香と此処こまで息を合わせられるとは。

 

「下弦と云うこの荒法師、、裏の顔は暗殺請け負い及び暗殺者養成、戦の人材派遣

捨て子の人身売買等・・・一番の悪僧にして、嘗ての師・・・私に感絞め教育をした張本人」

「・・・・・!」

「”如何なる苦痛にも・・・決して声を洩らすべからず”」

 

そう云って八香は顎で彼らを指す。確かに、焼け朽ちて行く坊主らは声を挙げなかった。

「洗脳だな」相手を睨み付けたままゲンマが云う。

その教えをもし今も彼女が守っていたならば、最期には同じ様な死に様を見せるのかと

単純に、僕と同じ事を感じたのかもしれない・・・。

 

 

 

 

 

”如何なる苦痛”を味わった時___

皮肉な事に、彼女はある程度”感絞め”の呪縛から逃れていた筈だ。

ヘドが出る___

最初に何故、彼女を暗殺者として育てる事を考えたのか。

殺生をする彼女を見ていれば解る。センスだ___無駄な動きが一切ない・・・。

さっきもそう・・・奴らの動きが鈍った絶妙なタイミングでアレを投げた。

二人の坊主の額に深く突き刺さった簪の事だ。まるで討ち漏らしを防ぐ玄人じゃねえか。

だが___イルカや子供達を見る目、言葉に嘘は無かった。俺はそれを信じる。

 

「高僧のお前が誰の指図で来たのだ」

「問答無用・・・!」

 

「 「 ・・・・!? 」 」

 

キーィィイイイイン!

 

坊主が初めて口を開いたかと思うと突然イヤな音が鼓膜を突き抜ける。

テンゾウも俺も思わず耳を塞いでしまう。

 

「借りる__」

「ッ!」

 

その隙にテンゾウのポーチからさっとクナイを2本奪うと飛び出す八香。

俺は”行くな”と伸ばし掛けた手も、激しくなる奇音に堪らずまた戻らせてしまう。

おい待て___坊主がいつの間にか札ではなく小太刀を両手に構えている。

それでクナイを___くそ、この音は一体・・・!

 

キン・・・・・・!

 

_____始まってしまったか。

クナイと小太刀は何度もぶつかり合い心地よい金属音を響かせてた。

彼女は上手く距離をとって坊主の周りを跳びはねながら攻撃を仕掛けてる。

オッサンも容赦ねぇ、ハナから彼女の首から上を蟷螂の様な動きでブンブン迫ってくる。

距離が縮むと勢いのあるカカト落としを狙ってくるあたり殺意丸出しだ。

いい体格とは云えないが、相手は男。当たれば粉砕してしまうだろう。

八香も嘗ての師匠相手に鍔迫り合いに持ち込まれない様注意を払っている。

 

しかし、鳴り止まぬコレだ・・・! ブブブと鼓膜を破らん勢いだ。

何とかならないか・・・テンゾウは後ろでとうとう膝を着いちまった。

このままでは俺も三半規管がやられそうだ・・・。

 

ドサッ・・・・・!

 

「やこ・・・・う!」

 

跳びが足らなかったか足首を片方掴まれて投げ飛ばされてしまった所だった。

クナイを投げ放ち、接近を防ぐ___マズイな、暗器で対抗するツモリか。

素早くブン!と両脚を回転しながら立ち上がったのは着地場所をずらしたのか。

即座に垂直に飛んで来た腹蹴りをかわす為、離れたんだろう。

ガッ!それを腕に抱え込み、抵抗させぬ様に足首の急所を指で押さえた?

激痛に歪む、怪僧の顔。流石、人の体を良く知っている・・・狙うは膝だ。

空かさず八香は渾身の力で押し捻り切った・・・この最中、イイ音が俺にも聞こえた。

 

「は____ぅグ・・・・!!」

 

「 「 あ・・・・!? 」 」

 

ピタリと奇音が止んだのである。俺はやっとの想いで相手を見据えながら印を組む。

フラフラになってる坊主をせめて仕留め様と____

 

「火遁____、八香っ・・・・・!?」

 

ブワリと空気に混じる殺気が広がる・・・!?まるで今、開放されたかに。

彼女は待っていたんだ、坊主のスタミナが切れる頃合を。

 

首のショールを外したかと思えば高く跳んだ____ぐるり、首に巻きつく薄黄色い布と

バサ・・・・!と翻る、アオザイ___

怪僧の首が在り得ない位、後ろに反ったのが影で解った・・・。

 

 

「下弦___お前は良く云ったな、”此処に稽古は無い”と・・・。」

 

それは懐かしむ様な・・・残念そうにも聞こえる、彼女の声だった____

 

 

 

 

 

 

 

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