母神様の云うことにゃ。   作:ふま

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11、綺麗な毒

 

 

ヒュッ・・・・、ザクッッ・・・・・・・!

 

 

俺の放ったクナイが彼女のショールを切り裂くと、墜ちる寸前の坊主の体が崩れた。

手応えの無くなった布を持ったまま、八香は着地してる。

いつも無表情だが、傾けた顔は憮然としたかにも映った。

 

「カカシセンパ・・・イ・・・!」

 

俺は耳栓を抜きつつ、テンゾウに手を貸して立たせた所だ。

見た所、下弦は元・忍だ。口から特殊な音を出して男二人の動きを封じた。

だが、流石に八香は師匠の攻撃には慣れていると云った所か___対抗策を知っている。

ゲンマはグイと千本を上向けながら俺を軽く睨んだ。

 

「全く貴方は・・・、こんな時でも遅刻ですか・・・。」

「すまん。だが気にするな___彼女はハナからタイマン勝負を望んでた・・・。」

 

彼女だけが途中、俺が見ている事に気付いてた様である。

八香は___こうなる事を想定していたのか?俺の邪推だろうかと後で思う。

リングはちゃんと着けてる様だ。何故、使わなかったんだ___?

 

「気に食わぬか___」

 

彼女の冷えた声。破れたショールの片割れを坊主から滑らし手に取ってる。

やはり怒ってはいない様にも見える・・・。

 

「八香・・・悪いが、ソイツは火影様の命により捕獲する事になった。」

「____ご随意に・・・」

 

そして嫌にアッサリ引くじゃないか? ますます怪しい。

ゲンマ、そしてテンゾウを後に、俺をも通り過ぎて行こうとした八香。

真直ぐ目も合わさずにこう呟いた。

 

「持てば良いが___」

「八香____?おい・・・!」

 

そう云い残し、スタスタ足早に消えて行った。今のはどう云う意味だ。

思わず溜息を漏らしてたゲンマが俺に目配せをする、こっちは任せろと・・・。

 

「テンゾウー?お前はココを手伝ってくれるよネー・・・?」

「えッ・・・はぁ・・・・;」

 

後を追わせない様にコトを押し付ける俺。コイツもかなり彼女に肩入れし出した気がする。

それは暗部が今此処にいないワケで解る。実験体というキーワードが彼を変えたんだろう。

何か、ぼんやりしていると思ったら小声で八香が何か云ったらしい。

 

「さっき・・・、”助かった__礼を云う”って・・・彼女が___」

「アレー?それ、1人で頑張った八香に言わせちゃうぅ?」

「そう言わないで下さいよ・・・!」

 

両手を拳に、くしゃと顔を皺寄せて悔しそうに云っているが___顔が赤い。

あまりオススメはしないな。八香はまだ___”殺し”しか知らない少女だ。

誰にも託す事は出来ないよ・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

追い着けば彼女は人気のない川べりの白い岩に、破れたショールを広げて見ていた。

本当は大事なものだったのではないかと思う。

 

「私なりの、情けだった___他に言いようが無い」

 

背後の俺に呟いた。つまり、何も聞くなと云う事か。

内心思う。さっきと云い、16歳の乙女の云うセリフじゃねえよな・・・。

 

 

「先に____手当てをさせて貰えませんかね。」

「手当て・・・?」

「ココ・・・!服が破けて随分擦り剝いてるみたいだ。まず、傷を拭きますか。」

 

指先をチョンと見えてしまってる肌に当てる。さっき、投げ飛ばされた時のものだろう。

月明かりの下、手拭を澄み切った川水に浸して適度に絞りながら振り向いた。

 

「・・・・・!!」

 

ドキ!を通り越して、ギクリ!!とその場で固まってしまう・・・これを見ても良かったのか?

アオザイを解いた後ろ向きの上半身、その左側。

白い背中には、美しくクッキリした肩甲骨と、紅い模様があった。

それは下に行くほど細く伸び、尻にまで達している様だ。とても病後に残った痣だとは信じ難い。

あまりに妖艶であった・・・。

 

「痣には絶対触れない様に____毒がある」

「・・・・毒!?」

 

そんな俺の想いとはヨソに、彼女の深刻な声に思わず触れそうになってた手を止める。

馬鹿な・・・? だが後ろから見える八香の横顔は本気だった。

幸いその部分に擦り傷は及んでおらず、彼女の云う通りに痣には触れずに置いた。

 

(一体誰が____そんな事を・・・?)

 

 

 

 

 

______その頃、

テンゾウと二人、取調べ室まで下弦と呼ばれる坊主を運び入れた後

取り調べる為にアオバの手を借りていたんだが・・・。

 

「ッ・・・・・ひでェ・・・・!」

「・・・・・?」

 

気を失ってる坊主の額に手を当てながら鼻をぐずらせ出した・・・?

彼だって俺たち同様に大抵の忍らのヒド過ぎる過去を見てきた筈だ。

 

「あのコを___金稼ぎの道具にしか思っていない・・・。」

 

今日の夕方____初めてコテツらと彼女を見かけたと言うアオバだった。

割と冷静な彼がグスと、赤い鼻を袖で拭きつつ語ってくれた。

 

悪僧・下弦は___里から金を出させる目的で彼女を預かり、その実

自分の思うまま動く、特殊な僧兵を作るべく彼女を暗殺者に育て上げた。

 

修行だと云って、まだ幼い彼女に熊を狩らせ、解体させ、肝臓や肉を売り歩かせた。

同じくまた修行だと云い、隣国での戦に参戦させたりして報酬を得ていたらしい。

まー・・・此処までは戦争孤児だったりな、忍の子でも有りがちな過去だ。

 

「彼女が怪我をして戻って来た時コイツは・・・手当てした者を必ず毒殺してる」

「 「 え・・・!? 」 」

 

___翌朝・・・吐血して死んでいる者を、ワザワザ幼い彼女に見させてはこう云う。

「お前の、痣の毒のせいでこうなった。だからそれは誰にも触れさせてはならぬ。」と。

誰とも、心を通わさせない為か___

例え小坊主であろうと、あれだけ綺麗なものに触れない男はいない・・・。

これも”感締め”の一環なのか。殺された者が親しければ親しい程、心は壊れて行っただろう。

 

「こんなコトって・・・酷過ぎンだろ・・・あのコ、良くグレずに育ったよなァ・・・グスッ」

 

 ( ( かなりヒネちゃってるケドね・・・!  ) )

 

アオバの言葉にまさかテンゾウと同じ事を思ったのは後で知った話しだ。

 

「_____じゃ、続きを頼むよ」

「もーカンベンして・・・;;」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____ひとつ俺と、賭けをしませんか。」

「・・・・賭け?」

「ええ」

 

ゲンマは私の背中の傷に軟膏を塗りながらそう云った。

左側の視界に少しだけ彼が見えたので、胸を隠していた布をキュとまた引き上げてる。

「もういいですよ」と両肩に手を置いたので服を着ようとしたその瞬間___

 

「・・・・・・・・・!?」

 

肩の痣に触れた、暖かく柔らかい感触にビクりとなる。

それが唇だと解ると___サッと血の気が引いた。何故・・・!?

 

「これで俺が明日生きてたら・・・、俺の勝ちって事でどうです?」

 

唇が離れた直後、また始まるフラッシュバックに悪寒を覚えた。

赤く染まる布団、畳・・・。”キレイだね”と、指先でほんの少し触っただけの者でさえ

死体はどれも喉を掻き毟る仕草のまま、酷く苦しんだか人相が変わってしまっていた。

 

 

___『坊主から聞き及んでいる。これは確かに猛毒だな・・・!』

自分を覗き込み、そう云った男は____触れなかったのだろうか?

苦しい____息が・・・呼吸が難しい・・・。

 

「・・・朝には・・・皆、死んでしまったと云うのに・・何故だ・・・!」

「・・・・! 落ち着いて・・・、ゆっくり呼吸するんだ・・・。」

 

大きな掌が混乱する私の背を摩る____止めてくれ・・・!

『お前の、痣の毒のせいでこうなった』下弦の戒めの言葉が過ぎる。

 

体から心が引き剥がされる気がした、何処かが痛む、何処かは解らない。

座ったまま、とうとう両手を着き、ぐらりと横倒れになる。

覗き込むゲンマが何か云ってるのが解った___滲んで、それも霞んで行く。

 

「______ろ、し・・・て・・・。」

「・・・・・バカ!!しっかりしろ・・・・!!」

 

(夜が明ければ___もうゲンマ殿に叱っては貰えないのか・・・)

 

頭の隅で、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

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