母神様の云うことにゃ。 作:ふま
今日に至ってはアノ本も手にせず、何処か落ち着かない様にも見える後姿。
気が着けば、私はその背中からどんどん離れて行ってる。
黙って着いて来たのは良いが何処へ行く気だろう。それにしても・・・
カカシ殿は、何処まで私の事を知っているのか、ゲンマの願いを聞いた時そう思った。
忍である彼らには情報収集などお手の物だ、隠せはしないだろう。
___ある晩の丑三つ時、
魘されながら布団の上でもがいている私に気付いた彼がベッドから降り、
様子を覗っていた。夢の中、小太刀を振り回してた私は___あろう事か
振り上げたその手をカカシ殿に掴まれて目が覚めたのだ。
もし本当にこの手に今、刃があったらと思えば・・・ゾっとした。
静かな、まだ青い夜。月明かりを背に、顔を両手で覆う私と
何を云おうか迷う様なカカシ殿の端正な横顔としなやかな肩が照らされていた。
片膝を着いたまま黙って傍に居た彼は優しく、寂しげな声で云い出した。
『俺ももう限界かな、苦しんでる君を見ないフリするのはさ・・・。』
それまで何度も魘されて目覚めていた私をカカシ殿は知っていたのだ。
『俺もね・・・?誤って殺してしまった仲間の夢を、一時は毎晩の様に見ていたよ。
辛いかもしんないけど・・・もし良ければ俺に___聞かせてくれないか?』
あの夜の悪夢を語るには覚悟がいる。
自分に刻まれた傷が、左門様をお守り出来なかった理由になってしまった事を。
『聞いて・・・、後悔されなければ良いのですが___』
私はまだ旅の途中にある。それを話したとて___
恥を掻き捨てるだけだと心を落ち着かせ・・・では近々にと答えるに留めた。
何時話そうか、勢いが無くては話せない気がして悩む____
ゲンマのヤツ・・・もしかして何かウッカリ口を滑らせたんじゃないだろうね。
やっぱり帰って来てからの八香の様子が変だ。今も後ろでぼんやり歩いて来てる。
形式上、”亡命”である彼女の扱いはさっき話しておいた。
それに今頃、書状が届いている筈だ。それを気にしているのかも知れないな・・・。
「カカシせんせー!」
あっ・・・頭痛が; よりによってあの3人に見つかるとは___
はしゃぐナルトに、サクラ、そして無愛想なサスケである・・・。
「めっずらしーィ、カカシ先生がアノ本を持たずに歩いてるなんて!」
「そう云えばそうだよなー・・・!さてはカカシ先生・・・これからデートか!?」
「ばッ。。。馬鹿いってんじゃないよ・・・!」
ハッと気が付く____八香が他人のオーラ全開で俺たちを追い越して行った事に。
お陰で連れだとナルト達も気付かなかった。ただ、サクラの声が3人を引き止めてる。
「うわぁ・・・今の人ナニ・・・!?、すっごい可愛い・・・。」
「見えなかったけど___何だかスゲーいい匂いがしたってばよ・・・・!」
「今噂の、自の国の巫女だろ_____亡命して来たって云う・・・。」
ナルトは見損ねた様でフテ腐れていたが、サスケは薄っすらとだけ知っている様だった。
不味い、見失っちまう___俺の焦りをサスケが見逃さなかった。
「おい、お前ら。稽古に付き合う俺の身にもなれ___もう行くぞ」
ニタリと、恩を着せてやったぜ的なサスケの子供らしくない黒い笑み。
___まぁ一応恩に切るけど。「じゃー!」と慌ててサスケにまた続いて行った。
八香は移動が速い___後を追ったが易々とは見つからない。まさか、まかれたか?
「__________!」
高台の、大きな木の上で羽音を聞く。鷲が鳴いて旋回する中心に彼女を見つけた。
何であんなトコに!? 俺が木の上まで辿り着けば、探し当てたか・・・と彼女は呟く。
木の枝に腰を下ろした八香は腕を差し出して待った。
「何やってんの・・・そりゃ探すでしょ!」
「スリコミとは恐ろしい物だ___見たままに親だと信じてしまう。」
「え___?」
大きな羽を収めて肩に停まったイヌワシにそう云ったのか___
俺か、彼女自身の事を云ってるのかと一瞬思う。
「そのコは・・・?」
「私が育てた。御館様の鷹狩りの趣味で飼わされたイヌワシ___名は”越後屋”だ」
「___”ポチ”でも良かったんじゃないかなぁ・・・?」
イヌワシに”越後屋”・・・八香にネーミングセンスがない事は良く解った。
でも不思議だな、その”越後屋”が彼女に頬ずりをしてる様な仕草を見せてる。
「コイツを見ると、あの時の御館様を思い出す・・・。」
「・・・・・・八香?」
「あの陰気メガネが云った事は大体合っている。あれは熊の肝臓を売った帰りだった。
私はその集落で雨乞いの儀式に遭遇した。”人柱”《ヒトバシラ》という言葉を初めて知った日でもある。」
あの日の事_____立ち止まり、泣き喚く子供の声に雲水姿の網代笠を上向けた。
幼い少女が立ったまま柱に括り付けられまさに今、埋められようとしていた。
その様子を後ろで、馬上で見ていたお侍に何であんな事をするのかと訊ねたそうだ。
『この村ではずっと雨が降らず、年貢も納められない。生贄で神様にお願いするんだよ』
『雨が降れば良いのですか___?』
『・・・そうだな』
そう答えを聞いて、彼女は遠くから少女に手をかざした。
突風が吹くと縄が切れ、自由になった少女をまた捕まえようと大人たちが彼女を囲む。
「______!」
彼女が指をさせば・・・大人達はつむじ風に阻まれ怯るんだ。
少女が逃げて来るのを庇って後ろにやると吐き捨てる。
『___もうこのワラシに手出しは無用』
彼女がそう云えば・・・
村人の頭に、大粒の雨が落ちた___人々が歓喜に沸く中、八香はまた帰路を辿った。
「そのお陰で___私は探し出された挙げ句、巫女にされた・・・その時のお侍が
御館様であったのだ。そんな事がなければ私は左門様と出会う事も無かった。」
彼女は言葉を続ける___越後屋を撫でながら・・・。
「以降私は___巫女と、自警団でもある裏方の長の兼任となり手を汚してきた」
少し・・・言葉を詰まらせるようになった。
見ているのが辛い程、息苦しそうだ___止めたくなる・・・。
「そんな私にも向き合って下さる、妾腹の次男である左門様というお方が現れた・・・。
何でも話せる・・・本当に、憎いお方であった・・・・。だがそれが、嫉妬を買った様だ。
私は嫡男であるその右京の騙まし討ちに合い・・・この身を汚されてしまった・・・。」
「・・・・・・。」
解っている・・・・けど、本人の口から聞けば尚更痛い・・・。
「左門様は___本妻の顔色を伺い、
何も右京に沙汰を申し付けることはなかった御館様に見切りをつけた。
そして心が壊れ、ただ日々を呆然と過ごす私をお引き取りになり、別荘地へ移り住んだ。
それもあり、
御館様も流石に嫡男を相手にしなくなってしまい、右京はまた酒に溺れるようになった。
そこで彼が思い付いたのが左門暗殺計画だ。お守りできる存在がいないウチにと・・・。」
彼女はその日、湯治と称し下女らによって都ハズレの湯の町へと移された。
左門よりの命令だったという。
夜___就寝前、彼女は声を聞いたのだと言った。
”八香・・・お前を守ってやれなくて本当にすまなかった・・・”
彼女は、遠い所にあった自分の意識をそこで取り戻した。
覚醒した彼女は下女らの護身刀を奪い、形振りかまわず屋敷を目指して走った。
「だが___遠くに見える屋敷には火が放たれ、
私は無我夢中でそこへ行き着こうと阻む奴の手の者を皆殺しにした」
辿り着いた崩れ落ちそうな一室には
白檀が焚かれ・・・白拍子の格好をした左門が崩れていた。
彼は___その日、襲撃されるのを知っていたのだ。
”守ってなどと・・・一度も望んではおりませなんだぞ・・・”
まだ少し暖かい左門を肩で担ぎ、崩れ落ちる屋敷から池の辺まで出てきた。
硬くなってきた体を摩り腕の中に抱いたと云う___
「蓮がお好きだった」
声が擦れて消えそうな声で呟く。
____肩を並べて・・・蓮の花を見たであろう彼女に何とも云えない気分になる。
「ゴメンよ___俺はそんな話しを君にせがんでたのか・・・。」
「カカシ殿が謝る事ではありませぬよ・・・。」
行け、と越後屋を放し肩をぱんぱん叩く。顔を挙げれば瞳が潤んでいるのが解った。
俺は隣に腰掛け細い肩を摩った___また、ごめんと云いながら・・・。
「八香、君は___復讐を考えているのか・・・?」