母神様の云うことにゃ。 作:ふま
「国を捨てる前に、一度帰国せよと・・・。」
彼女は落ち着いた様子で三代目に云った。
俺はカカシと八香の二人を此処、火影室に連れて戻って来た。
傍には返事の書状を持ってきた紫紺と云う少年が控えており八香を見上げている。
国を捨てると云う言葉に反応したのか、複雑な表情だ。
キセルを手に座る火影様も溜息混じりの煙を吐き出している。
「そうなのだが・・・、紫紺とやら。罠を仕掛けるツモリではあるまいな?」
「いえ___御館様にその様なお考えは毛頭御座いません。自の国では今
干ばつが深刻化しており、八香様のお力が必要かと判断なされたのです。」
俺は思い出していた、記録にあった鬼子母神が云ったという言葉だ。
”この子を大事にせよ・・・村の窮地を救う者となろう・・・!”
あの国で今も語り継がれる伝説だ。
そこで民達が口々に言うのは___巫女様を大事にしなかった罰だ、
これは母神様からの天罰に違いないと。
不満を募らせる民の為にも早々に新たな巫女がいると云う事だ。
「お家騒動にもなりましたが、次期の巫女を末の皐月様に指名された事で
表向きは沈静化でき、八香様から引き継ぐ形で儀式をせねばなりません。
何より・・・もう長くないと自覚しておられます故、お会いしたいのでしょう。」
「古臭い儀式の為に彼女を戻らせるのは馬鹿げている・・・だがしかし無視も出来ぬ。」
「ま・・・ウチにケンカを売るほど馬鹿でもないでしょうが___派閥があるんだろ?」
チラとカカシが紫紺の顔を見やった。
表向きは沈静化___同じく、そこに引っ掛かったのだ。
「お察しの通り、嫡男・右京ともう1人の巫女候補であった水無月が
近頃不穏な動きを見せているのもまた事実・・・他国から抜け忍を雇っている様で__」
「なるほど・・・噂通り、世間知らずの痴れ者・・・我らと事を構えるか」
「八香・・・・!?」
さっきから黙って聞いていた彼女の足元がグラついたのに気付く。
慌てて背中を支えてやると、ハッとした様に真直ぐまた立ち直した。___顔色が悪い。
「貧血か_?八香殿」
「いえ・・・。火影様、少し外で休ませてやっても宜しいでしょうか。」
「・・・そうするがいい。」
(八香___今の君じゃ7人の仇どころか、君が8人目になっちまう・・・。)
「はたけ殿・・・お頭様はまだ・・・。」
「あぁ、解ってるよ・・・。」
心配顔の紫紺の言葉を軽く制した___
ゲンマが彼女を部屋の外に連れ出したのを見届けると、三代目に事情を話す。
八香が心的外傷後ストレス障害を抱えて、悪夢やフラッシュバックに悩まされている事を。
そして憎きその男の暗殺を考えている事も・・・。
「あれでは成し遂げられるとも思えませんね・・・名が出ただけでアアだ。」
「失敗すれば___そんな男の事、殺さずに幽閉でもするかもしれぬのう・・・。」
心がまた壊されたらどうする___感締めがほぼ解けた今の彼女は意外に脆い。
「だが、書状では穏便にとして置きながら、此方側に暗殺されたとあってはな。
相手は一応の跡取り・・・まぁ、ケンカでも売られれば別の話になるがの。」
ガチャ・・・!
八香が白い顔のまま戻って来た___明らかに無理をしている。
後から来たゲンマは片目を瞑り、呆れた様に俺に首を降ってた。
”言うコトなんか聞きやしねェ”そう言いたげである。
「お願いがございます」
「____ダメじゃ。」「却ッ・・・下!」
「じゃー、諦めないとな。」
「まだ何も・・・;」
同時に即・拒否された上にゲンマから肩を叩かれてる・・・。
どうせ「独りで帰らせてくれ」って言い出すんだろ?
俺は溜息を殺しつつ、彼女と向き合う。皆が思ってる事だ。
「少しは頼ってみたらどうだ?前に云った筈だ、”君1人守れない我々じゃない”ってさ・・・。」
「我らを見縊って貰っては困るのう・・・?」
「全くです・・・もう貴方は此方側の人間だ___そんな事、聞けるワケないでしょうが。」
ま・・・、私情で物言ってる3人が言って説得力あるかどうかだか;
確かな事は、皆が君を放って置けなくて、助けてあげたいって思ってるって事だ。
「ただヒトツ、復讐は一旦忘れて貰いたい__出来るかの・・・?」
そう云って三代目は手の平を彼女に差し出す___胸が動く位に貯めた息を吐き出した八香は
観念したかに取り出した小瓶をその手の上に置いた。中には藻の着いた様なタネが入ってる。
紫紺が鼻をグズらせた音の後、八香は静かに云った。
「___そうすると致しましょう・・・。」
三代目の、物言う眼力には勝てなかった様だ・・・流石はヒルゼン様である。
こうもアッサリ・・・彼女に”種”を出させるとは___
「ではこれにて失礼いたします___」
「うむ」
ゲンマとカカシ、それと紫紺が八香を連れて此処を後にした。
窓の外を眺めながら、彼女は忍に向いているなと思う。鍼医者にしておくには誠に惜しい存在だ。
(彼女が___”戦場の静御前”とは今だ信じがたい・・・。)
自の国では”裏方の衆”を名乗る集団の長であり___
その戦い方も体術や剣術に特化した忍の様な戦いぶりだと聞く。
特に八香は剣術に秀でており、剣聖と謳われた左門の一番弟子・・・。
戦場では二刀の柳葉刀を背負い、
部下を片手の合図だけで操りながら舞い踊るかに敵を斬り進むと云う。
だがそれも昔の話___
スタミナ命の”裏方の衆”は女は16、男は18歳でお役目御免となるそうだ。
(もうこの地に___根を降ろしてくれんかのぅ・・・。)
ワシとて___そんな運命に翻弄された、この少女をムザムザ死に急がせたくは無い。
八香は、彼の地の忍達よりずっと・・・必要以上に人を殺め過ぎている。
しかし彼女に何の非があろうか___係わった大人達が悪かっただけの話しじゃろう?
たまたま生まれ、不治の病に掛かり・・・数奇な運命で鬼子母神に加護を受けた子供だ。
____『なぁ、じじぃ・・・あの姉ちゃん、どうなるんだ?』
クマ騒動の後、木ノ葉丸が心配して聞きおったよ。どうして気になるか訪ね返してみた。
『”よう頑張った___偉かったぞワッパ”って・・・こう・・・、ムギュって。』___
血は争えん___真っ赤になってそう答えよった。子供は敏感に感じ取っておる様だ。
あの胸にハグとか羨ま・・・いや、優しい心がちゃんと残っていると・・・。
「テンゾウよ___」
「は・・・!!」
この男、同席は表だってはしていないが一部始終を見ている。
「もう面は要らぬ___役目は解っておるな?」