母神様の云うことにゃ。   作:ふま

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17, 角大師

 

 

(八香は自分と闘っている___)

 

 

その帰り、「昼も過ぎたし蕎麦でも食べに行こうか」って話をして間もなく

彼女は”先に行っててくれ”と小声で言い残し、執務室横にあるトイレへ急いで入って行く。

それを横目に見送るゲンマは”アー・・・”と息に近い声を出し、呆れ顔で一瞬天井を仰いでた。

 

「後から行きますよ」

 

彼は慌てる事無くポケットに手を入れ、ゆっくりとした足取りで彼女を追って行く。

蕎麦どころじゃないだろうけどな___たぶん、俺と同じ事を思ってる。

軽く手を挙げ、下に降り様とすると紫紺がまだ立ち止まったままな事に気が着く。

眉間に皺をよせ、悲痛な表情で「きっと私を恨んでおられる・・・」と呟いた。

 

 

「時々___私だって思い出すんです。救出された後のお頭様を・・・私だって辛い・・・。」

此処まで酷く彼女が患ってる事を目の当たりにしたせいか。

片手拳を握り締めわなわなと体を震わせる___彼は彼で当時の事で苦しんでいたのだ。

 

その日___

屋敷に連れ戻された彼女を見て左門は険しい顔で「二人にしてくれ」と人払いをさせた。

下女らが慌しく湯の入ったタライと手拭、そして包帯と着替えを運んだすぐ後だ。

『今すぐに・・・、屋敷中の鏡を撤収せよ・・・!』と____彼は涙声で叫んだのだと云う。

 

「あんなに取り乱された左門様は初めてでした。無理もありません・・・。八香様のお体は

紅いアザを塗り潰すかに・・・無数のどす黒い痕で埋め尽くされていたんですから・・・。」

「・・・______!」

 

紫紺は下を向いて廊下に涙を落としてた。肩を一度揺らしてやるしか出来ない俺。

しかしゾっとする話しだ・・・

彼女じゃなくても吐き気がする___神聖なものを汚す事に夢中になった男のアトでもあるのだ。

あの男は八香から何もかも奪った。強さも誇りも、巫女としての威厳も、そして左門をも・・・。

 

「俺も___万が一の時は、自分を保てるか自信が無くなってきたよ・・・。」

 

それは右京と云う外道が、俺の居る場で彼女の前に現れでもしたらって事を指している。

己の右手を見やる・・・有無言わさず__俺が先に殺してしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・!」

 

女子トイレの中から響く苦しげな声を聞きながら壁に背もたれ腕を組む。

彼女の悪い記憶は・・・何処まで八香の体と精神を蝕むのだろうか。

気丈な様でも一旦扉が開けばアアやって体調を崩す。そこで靴音が聞こえた。

ハンカチで白い顔色を半分隠しながら出て来たはいいが俺を見ようともしない。

 

「____不甲斐ないな・・・。」

「・・・・八香、お前さんのソレは病気だ。一度診て貰った方がいい。」

「心配ない、いつか治る___」

 

彼女自身、嫌気がさしてる様だ。弱い自分を俺達に見せ過ぎていると・・・。

「待て。」と彼女の後ろに着いてそれ以上先を歩かせない様、後ろから肩に片腕を回す。

それでもまだ動こうとするので背中をぐいと引寄せた、本当に云う事を聞かない女だ;

さっき退出させた時もそう__俺は、まだ無理だ、休んでろと云ったのにな。

頭ヒトツ分、背が低い八香の柔らかい髪を肌に感じながら俺は少し切なくなっていた。

心許無いんだよ_____強がるのも大概にしてくれ・・・。

 

「お前は向こうじゃ___裏方の頭で巫女なんだろうけど、

俺たちの前では何も強い八香で無くったっていいんだ・・・ちったぁ、頼れ。」

「ゲンマど・・・」

「ゲンマ・・・!あと、返事はどうした?」

「げ、ゲンマ;____解った・・・。」

「ヨーシ!イイコだ・・・、忘れんなよ?」

 

ポケットから手を出し、捕らえたままの彼女の頬を軽くプニっと摘まんでやった。

約束だろ・・・?賭けに勝ったんだからな!そこはちゃんと呼び捨てて貰わねえと。

火影様の前じゃあまり馴れ馴れしくもできないが、今は誰も___「アヒィー!」

 

「・・・・・・・・・。」

「「 ・・・・・・・。 」」

 

何処からか沸いて出て来たであろう、ライドウとシズネが顔を引きつらせた上、

俺と目を合わせると、赤い顔を同じ左斜め下方向に反らしやがった・・・;

 

「俺は何も見てないから・・・____イツノマニアアナッタ?(ボソ)」

「わ、私も・・・見てないしィ・・・・。ソンナノシルカ!(ボソ」

 

確保した、この良いポジションを今更ヤツらの為だけに手放す気は無かったのか、

ただ、いつもと違う俺を見られた事で体が凍り着いただけなのか____静止。

 

「・・・ゲンマ?知り合いか?」

 

何の感情も無く、八香は前に回った俺の腕を両手で捕らえたまま俺の顔を見上げてる。

ソレは彼らを余計に誤解させる様なモエ仕草だとは知らず、フツーに訊ねていた。

 

「あぁ____、同僚だ・・・。」

 

 

 

 

 

 

_____ん?やっと来た・・・・、ゲンマと八香・・・あれ、シズネと一緒?

それに何だ、あのゲンマの引きつったまんまの口元と片眉が吊り上った妙な顔は。

肝心の八香は__良かった、顔色も少し良くなった様でほっとした。

 

「カカシさん・・・お久しぶりです!」

「やぁ・・・ゲンキみたいだねー。綱手様はどうしてるの?」

「あー・・・私が火影様に呼ばれたんでフテちゃって賭博場通いでしょうね;」

「アハハ・・・君も苦労すんね・・・。」

 

シズネが呼ばれた? まさか__三代目は・・・?

 

「遅くなってすいません、カカシ先輩・・・!」

「え???」

 

テンゾウ?いや、呼んでないケドな; 

八香とゲンマ以外の人物が蕎麦屋に揃ったもんで疑問符が頭に浮かぶ。

 

「フォーマンセルで向かう事になったんですよ。」

「そうなの・・・?」

 

え・・・て事は、俺、ゲンマ、テンゾウ、シズネ?

稀にみる異色な組み合わせだな・・・。まぁ悪くはない。

そしてシズネの投入___これは間違いなく、八香のメンタル面を心配した配慮であろう。

今の彼女には同じ女性の存在は必要だ、そして機会があるならば・・・って事か。

 

「カカシ殿、紫紺は・・・。」

「あー、誘ったんだけどねぇ。急ぐんだって。」

 

座敷席、オイデ・オイデとぱんぱん俺の隣の席を叩いたらゲンマまでくっ付いて来た。

シレっとした顔で八香の隣に座るとお品書きを開いて見せてやってる。

すっかり保護者とゆーか、オモリとゆーか。最近、護衛でも何でも無くなってない!?

もうひとつ気になるのは彼女の向かいに座った、やたらニコニコなテンゾウである。

 

「うぬは・・・暗部ではなかったか?」

「そういえば___何時から知っていたんです?」

「最初からに決まっておろ?____胡桃臭かった。」

「くるみ・・・クサ・・・・」

 

「あと、冷やしニシンソバで。」と、メニューを見ながら云い足すいつもの無表情な八香と

仲良くしましょうオーラが敢え無く粉砕した彼。目だけ笑ったまま、口が片方に吊り上ってる。

この二人だけ、相性の点ではやや心配だ;

 

「後は日時だねェ・・・。」

「降魔祭だろうな__恐らく」

「それはイツ____?どんなお祭り?」

「明後日か・・・。遥か昔、疫病から村を救ったとされる大師の命日だ。僧兵が持っていたあの御札はツノダイシと云って、降魔となった大師の姿__無礼な話、何故か私にも効くと云う訳だ。」

 

その御札を門前に貼ると疫病の神が退散して行くと云うものだ。

昔、降魔祭で他の寺から振舞われたその御札に偶然触れて、気絶してしまったらしい。

俺の疑問に彼女が不満気に答えた___ああ、この御札のことか。

 

「ヨリによって」

 

___バタン!

 

「おい!?」

「「 八香さん!? 」」

「ぁ、___本当だったんだ・・・・。」

「これは___おい!アンタ・・・一体どう云うツモリですか!!」

 

座敷席で良かった。

「ヨリによって」云い掛けた彼女は、座ったまま真後ろに倒れ気を失ってる。

彼女を起こそうとしたゲンマがその背中に着いた御札を発見し俺に怒りを露にした。

 

「まー落ち着いて。悪気はなかったんだ。

て云うかコノコ、また騙されてるんじゃないかと心配になってね。」

 

ゲンマに、自分の肩を指差して”痣の毒”の一件を思い出させた。口に出しちゃうとシズネへの説明がまた面倒になる。・・・ま、半分は悪戯な気持ちだったのは隠しておこう。

 

ペリ!っと彼が御札を剥がした途端、彼女は嘘みたいにパッチリ目を開いた___

まるで何事もなかった様に目をキョロっとさせまた俺を方を見てる。

驚いてるゲンマに支えられたまま、冷静な口調で続きを話しだした。

 

「降魔祭とは・・・。

いとも簡単に私を封印出来る物を、一般市民にまで売らないで欲しいものだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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