母神様の云うことにゃ。 作:ふま
それから数時間後の午後3時___正気に戻ったテンゾウの案内で例の宿に無事に着いた。
格子戸の傍に小ぶりな柳の木が立ってたりと、旅館並みの作りに一同驚いている。
八香は感情が表に出ない為か、目の前に立ってお辞儀をした女にも動揺せずに腰を折ってた。
「まぁまぁ・・・!随分お疲れのご様子・・・、ささ、此方へ。後は私にお任せを。」
「あぁ・・・どうもアリガト・・・?」
「奥に参りましょう。此方の方は少し横になられた方が良いですね。」
え___?此処に給仕さんなんて居たの?
肩を貸していたテンゾウを見て驚きの声をあげた女は直ぐに俺と代わってくれた。
長い鴉の濡れ羽色した髪を片方に結わえ垂らし、白地に涼しげな笹模様の柄の着物を着ている。
「あの、君は___?」
「はい、涼《りょう》と申します。一時、皆様のお世話を仰せつかっております。」
振り向き様に、ニッコリと微笑みそう答えていった。
色白で背が高く、案外力持ち? 年は20前後ってとこか。
(テンゾウったら気が利くじゃないの。どっからこんなお嬢さんを連れて来たんだか。)
「私は湯を沸かしてくる。」
「え?君が?いや、」
「私がすれば早い。この位の事はさせてくれ。」
「俺が」と云う言葉を遮ってまでそう云うと八香は直ぐに中庭へと出て行ってしまった。
罪滅ぼしってとこか;フロを炊くと言っていた彼はあんな状態で、コキ使う訳にも行かず。
「数時間しかいないのに勿体無いな・・・それにしても凄いな、テンゾウさん。」
シズネとゲンマが一通り見て戻って来た。そう、もう石の国を超えれば近い。
八香にも無理をさせた分、休ませないといけないんだが・・・やっぱり俺が__
「?」
代わってやろうかと、そう思って腰を上げた時だ。
微かに騒ぐ声が聞こえた。雑音程度のものに、3人共が顔を見合わせている。
テンゾウの声のした方に慌てて向かうと___
「さー、暫くはご安静になさいませよー。」
涼が水桶を持って会釈した後、俺を押しのけるかにそそくさと出て行った。一体・・・?
彼は歪めた掛け布団から程々なスネ毛の片足を晒し出し、呆然と天井を見つめている。
布団を汚されては大変と、強引に体を拭かれ浴衣に着替えさせられたか。
ハハーン。じゃー、さっきの声は若い女性にひん剥かれて嬉し恥ずかしの歓喜の声ね;
お前そんなウブだっけ?____と色々思ってジーっと見てる俺に慌てて見たクレを整えた。
「あ・・・!セ、先輩・・・!いや、何でもありませんから!」
「テンゾウ殿?お風呂が沸いたので入られよ。」
「いや・・・!女性が先にどうぞ、僕はもう少し休みます。」
ヒョッコリ報せに来た八香に、落ち着きを取り戻してそう云った。
背中を向けて___耳まで赤くなったり・・・? よく解らん・・・。
「じゃー、八香さん。一緒に行きましょうか。」
「シズネ殿、悪いがお先に入って下さい。私も少し休みたい。」
えぇ・・・と残念がる彼女に俺は目配せ、ゲンマは「行け行け」と手で示してる。
例え女性でも体をマジマジと見られたくないんだろう、それに休んでくれるなら丁度良い。
此処を出てから、任務を終えて木の葉に戻るまで油断は出来ないのだ。
次、何時ちゃんと休憩が取れるか解らないし、ね・・・。
「さてと___」
涼の案内で寝間に向った八香と風呂に行ったシズネ。
俺はゲンマと二人、地図を広げ出した。安全なルートの確認である。
「では、皆様お気をつけて___」
「涼さん、お世話になりました。本当に助かりましたよ。」
更に3時間が過ぎた。軽い食事を取ってから俺達は宿を後にする。
照れ臭そうに、丁寧に挨拶をしてるテンゾウをカカシと見遣って笑った。
よほど気に入ったのだろう、不調も不機嫌もいっぺんに治った様子である。
「大丈夫___あともう少しだからな。」
八香は浅く頷いた__自の国が近づいて来るに連れて緊張が高まってるのか
口数は更に減り、心なし顔も強張って見えるのだ。警戒してか腰に2刀の小太刀も携えてた。
本心じゃカカシも俺も行かせたくない。火影様だってそうであろうが、立場上の事もある。
「これだと予想してたより早く着いちゃいそうだねェ__。」
「・・・。」
「ま・・・、面倒な事はさっさと済ますに限るよ・・・学校の宿題みたいにね・・・!」
カカシの云う事に返事の言葉もない___複雑なのだろうなと察せられる。
柔らかい話し口調、そして微笑みは彼なりの励ましであり、諭でもあった。
そう云う事を丸ーく、云える様になったんだな、カカシも。ジジ臭いが感慨深い。
暗部に長く居過ぎていると・・・益々、彼の闇が深くなってしまうと___
いつも誰も寄せ付けない空気を身に纏ってて、同期の誰もが心配した時期があったからだ。
(これがヤツの、素なんだよな)
「カァー」と鴉の鳴く声がし出した。それが数匹で、あまりに忙しく鳴くのである。
木の上を飛び移りながら俺達は彼女を挟み、神経を研ぎ澄ましてた。
出来れば陽が暮れ落ちる前に近づけたら、普段から睡眠不足な彼女を少しでも休ませられる。
だがそんな焦りを彼女に気取られてはまた無理をしようとするだろう。
「何か来る・・・・!」
察知しては急変する空気、八香が耳を澄ます___
「西方向から約6人__風切る音からして忍のよう・・・。」
「___迎え撃つぞ。八香、君は下がりなさい・・・ホラホラ、もっとウ・シ・ロ!」
左右の腰に携えた2刀の小太刀、掛けようとした手をカカシがペチ!と叩いてる。
チラと見遣る片目に彼女が訴え掛ければ、奴はニッコリ笑って誤魔化してた。
シズネが手を引き、後ろに庇う___守られるのはやっぱりまだ慣れないらしい。
おい___、緊張感漂うシズネの背後でその顔は止せ___ヒョットコじゃあるまいし。
俺の戦意まで削ぐんじゃねーよ・・・;スネてる場合か・・・でも・・・!
(あんな顔も出来るのか・・・!)
そう認識した時、顔に影が出来た気がした。こんな時に__自分を諌めて前を向き直す。
「___ここは一気にカタを着ける・・・!」
打って変わるカカシの冷静な声にテンゾウも俺もその気になった。
現れたのは5人___? いや、上に1人隠れてやがるか。
額当には揃いも揃ってドコかしらのマークに横一文字の傷が付いている。
高みの見物をしてる奴はリーダー、もしくは雇い主かもな。
バウンッッ____!!
「__________ッ!」
上での爆発音と僅かな悲鳴に舌打ちしてる抜け忍達__どうやら後者の方か。
左目を見開いたカカシが起爆札付きのクナイを素早く投げていた。
三人がその気配に気付かない訳はない。俺達は素早く印を結ぶと相手を見据える。
「テンゾウ!」
「解ってます・・・!」
テンゾウの気配が上に消えたのと同時に火遁で視界を遮り、飛び出したカカシが雷切を打ち込む。
所詮、寄せ集めの忍者崩れか__連携など皆無に等しく、クナイもだいぶ無駄にしていた。
(こりゃヒドイ連中だ)
「オイ!テメェ、何ジャマしやがる!!」
「ぁあ!? そりゃ、こっちのセリフだ!!」
挙げ句に仲間割れしながら、俺達に挑んでくるとは・・・。
プッ・・・・!!こめかみに千本を叩き込み、振り向き様にもう1人を薙ぎ切った。
( ( あと・・・1人・・・。) )
俺達は上を見上げた___テンゾウは何を___?
「・・・・・!?」
「おい・・・・。」
ドドドドドドドドド!!!
木を逆さまに下って来たのは少女!?
伸びて追いかけてくる木材に捕まるまいと凄い形相で駆け下りて来るではないか。
俺達の手前で女はダン!!と木を蹴り跳んだ___あの跳躍力・・・まさか!?
「八香ぉおおおおおおッ!!!」
「なにッ!?」
「・・・・・・・意外過ぎるラスボスだな(ボソ」
クナイを構えるシズネに、嫌に冷静過ぎる八香。
「させ「るか!」「ないよ・・・!?」
瞬身で間に割って入る俺達の呼吸を読んだ八香がサ!と手を翳す、カカシもソレを察した。
「「 火遁・豪火球の術____! 」」
「・・・・・ぐァ!!!」
渦巻いた炎に焼かれたであろうその身を大木に投げ出され、声をあげた。
ほう・・・何故、風を抑えたんだ? 本当ならもう丸焦げな筈である。
俺達は直ぐにその訳を知った。
「すまぬ・・・こやつ、知り合いなのだ。」
シズネを軽く押し退け、八香が腰のものを抜く。そして徐に右肩の衣服を破ったのだ。
似てる、ツタだけの痣だ。この女も紅ばしかだったのか?___彼女は言葉を続けた。
「この女と、皐月は__私の細胞からの抗体で命を繋いだ、いわば義姉妹」
「その子が水無月か____?」
カカシが問うと、彼女は無言で頷いてから小太刀を少女の胸へと振り上げ出した・・・!
「慌てるんじゃないよ・・・!」
「慌ててなどおりませぬよ___?」
「・・・・止めておけ・・・八香・・・!」
二人共が・・・彼女の強行を止めに腕を掴んでいた___既に目の色が違う。
殺気を感じさせる事も無く、まな板の上の魚の骨を絶つかの様だった。
八香は今こんな冷えた顔をしてはいるが内面、コイツに憤怒している。
・・・以前、カカシが云った「殺しでしか答えが出せない」と云う事だ。
これじゃ殺戮者同然だ。落ち着いて、ごく当たり前の様に彼女は人を殺め様とする___
「これは___キスケ殿と村人達への弔いの刃・・・、何故止める?」
「火影様に、一旦は復讐を忘れろと言われただろうが・・・?」
「どうしてもと云うなら八香さん、君を拘束しなきゃならない・・・!」
なら何故、手加減をした?戦闘の上で相手が死んだのなら誰も文句はないのに。
少なくとも俺とカカシは、それならいっそ「俺が」と思っている。
皆の本音は・・・お前に手を下させたくないだけなんだ。
「忍である貴方達が__何も、自分以外、まして私などの業まで背負う事はない・・・。」
「_____!?」
心が読まれた気がした__カカシなどは思わず彼女の手を離している。
ウッカリ、ヤツと顔を見合してしまった。まさか、同じ事を?
「それは君も同じじゃないのか? 全部自分のせいにして、背負い込んじゃって・・・。」
「あんまり寂しいこと云うな___大体・・・任務の度にそんなモン、背負ってられるか。」
「・・・・・案外、僕らはタフに出来ているんでね。君の考え過ぎかな・・・。」
力を抜き、やっと刃を下ろした八香。俺はそれを取り上げ鞘に収めてやった。
瞳に輝きがないものの「すまない」とポツリと漏らしてる。
「解りゃいいんだ」そう云うとワザと乱暴にショールの上から頭を撫でておいた。
そんな俺達を横目に、カカシがただ唖然と見ていたシズネを呼ぶ。
「歩けない程度で治療してやって。逃げられると面倒だし、ね・・・。」