母神様の云うことにゃ。 作:ふま
「よく我慢した」
「・・・・・」
俺は移動しながら八香を軽く褒めた。彼女は口を噤んで鼻から息を吐き出してる。
解ってるさ・・・納得もしてないし、中断したのも仕方なくであって本意じゃないって事もね。
業を背負わせたくない__で、自ら手を下そうとしたのか・・・。
手を握った事により、俺は心を読まれたのかもしれないとヒヤリとしたんだ。
人に頼らないクセが着いている八香らしいと云えば、らしい。
だがゲンマの云う通り・・・、虚しくなる。何故__解らないんだ? 俺達が居る意味を。
怒る事も、悲しむ事も、いろんな感情を彼女は取り戻してはいる。しかし他、何かが足らない。
「俺もあの場に居たんだ___気持ちは解る。」
彼女をチラリと見流しついでに後ろにも目をやりながら俺はそう続けた。
あの水無月はシズネに診させた後、テンゾウがオンブして連れてる。
以前、八香に使ったあのツノダイシの札が彼女にも効くと云うので背中に貼っておいた。
(もしもの時の為、制御用にいつも持ち歩いてる俺である)
「あの村に預けられた事に感謝している___救われたんだ」
「預けられた___? 誰に・・・!?」
「覚えてない、顔も名前も__」
初耳だ。彼女が云うには___左門を失ったその後の記憶がぽっかりとないらしい。
ただ、自の国を脱してから何処かで保護されたと聞いていた。
「たぶん、村長の知り合いじゃないだろうか。いろいろと世話してくれた・・・。」
憶えていないとか・・・危うい話しだ。俺はいのいちさんの言葉を思い出してしまう。
『無意識に封印している箇所が多い』
スペシャリストの彼でさえその扉を開く事が出来なかった。
左門亡き後に君がまた、辛い目に合ってなけりゃ良いんだが・・・。
人は弱い__酷く辛い記憶ほど、奥深い所に追いやってその扉に錠を掛けたがる。
「私には、尊い居場所だった___」
本当に君は解り易いコだ・・・、思わず溜息が出る程に。
だが預けられたとは気になるな___誰が、どんな人物だったんだろうか。
「どうした___?」
ゲンマが声を掛ける。石の国も越え様とした時、一瞬、彼女が目を鋭くしたのだ。
そして、何故か目蓋を伏せる・・・まるで、安心したかの様に・・・。
「___迎えだ」
「「 何? 」」
止まる合図を出したものの、俺達には何も聞こえないし、見えはしない。
殺気を隠し俺達は一応の陣形を取る。それをよそに彼女は続けて云った。
「久しぶりだな____一兎《イット》。」
「「「 ・・・!? 」」」
「お久しゅう御座います・・・お頭様、良く御無事で。お待ち申しておりました。」
総毛立つ・・・! 何の気配も感じさせなかった事に・・・。
ポッポッ・・・と、その姿は狐火の如くと光り、あちこちに木の枝に灯り始めた。
夜明け前の幻想的な灯火はやがてヒトの姿となり、雲水衣装の者らが姿を現す。
そして、その内の一兎と呼ばれた者か、俺達の目の前に表れ、網代笠のまま片膝を着いた。
「まぁ、途中、落第巫女の手のものに襲われたが無事だ。」
「それは____水無月様!? まさか」
「そのマサカだ。御館様に引き渡す。」
話しを聞いていると、何と無く見えてくる___あの襲撃が水無月の独断であった事。
俺がもし右京なら、彼女をこの地に迎え入れてから事を起こすさ。
巫女の交代をして、民衆を黙らせた後でね・・・。余程、八香を恨んでいるらしい。
「御同行の皆様方。この度、自国の騒動にお力添えを頂き、誠に感謝しております。」
スクリと立ち上がり一兎と、周りの衆達が一斉に頭を下げた様だ。
あくまでも顔は見せないとか___違和感を覚える。
「一兎、カタイ挨拶は後で良い。皆を安全に里に着けるが先ぞ__」
「___は!・・・では、お頭様。到着次第、御館様に御目通りを。」
「何、この時間にか?」
「はい、既にお待ちで御座います。他の方々は屋敷へ案内します故・・・。」
「それはお断りしますよ?___俺達は彼女の護衛ですので・・・ね。」
俺は間にズイと入り、相手を威圧する。俺達だってガキの使いじゃない。
大体、信用できるのか? これが裏方の流儀かもしれないが網代笠も取らず、顔も見せない。
昔は八香の部下だったかもしれないが、彼らが右京に寝返ってる可能性も無きにしも非ずだ。
「バカ殿め、耄碌しおって。人にものを頼んでおいて無礼千万もいい所だ。構わぬ、皆で向う。」
「は・・・・!では、我々が先行を。」
紫紺の様に、口答えもしない。彼はこの中でも特殊な存在と云う訳か。
里の中にやっと足を踏み入れると___早朝であるのにも関わらず賑わっている・・・?
おかしな感じだった。鎖国状態である筈のこの国に様々な服装の人達がいるのだ。
八香はショールを目の下から覆い直した。用心で顔を隠すのと、嗅覚を守る為であろう。
昨日が宵宮だったか出店はそのままで営業しており、いろんな匂いが充満していた。
「一兎、何故遠回りをする?」
「どうにも人通りが意外に多いので・・・目立ちます。」
俺達は訝しげに一兎を見る。逆に目立たないだろうと思われたからだ。
マヌケな事を指摘させて貰うなら、屋根の上を集団で移動してる君の仲間のほうが気になる;
まぁ、仮に人気のない所で俺達に何か仕掛けるならさっきの場所で良かった筈だ。
何か見せたくない物、或いは避けたい所があるのだろうか?
「此方の方が近い・・・、あれは何だ・・・?」
「いや・・・えッ・・・・ア!」
仮設で建ってる様な施設の前で一兎は第一印象にそぐわぬ声を上げた。声音を変えていたか。
何か、マズイものを見つけられた時の少年の様だ。彼女の不機嫌そうな声に止まるしか他ない。
祭りで一時的に設けられたものなのだろうか?
建物には【巫女・記念館】という看板が下がっていたのだ。
「わ・・・!お頭様ッ、ダメですッて・・・!」
「どうダメと云うのだ・・・、____」
ヅカヅカと入って行く八香を止める一兎。
「あの___拝観料を__」
「あのスカポンタン・ジジィめ」と彼女が毒づくのを知らず、受付係りが後を追って行った。
振り向き様、彼女はグイ!と顔のショールを下げて黙らせている。
「本人から金を取るツモリか・・・!?」
「ひィイッ!ご無礼を・・・!!」
(拝観って;そこは入場料って言いなさいよ。。。)
つい3人とも、慌てて捜してた財布を出さずに済んだ___中に入ると少しヒンヤリした空気。
この時間にも関わらず、オノボリさん丸出しのヲタク様御一行らが何組かいて写真を撮っていた。
八香は壁に掛かる写真パネルを見渡し、
吸った息を溜息に変換したかに肩を動かす位、大きくゆっくりと吐き出してる。
「こ、これは___・・・!」
「全て八香さん____?」
「オイ・・・!____なんで水着姿までありやがる;」
シズネがあんぐり口を開け、テンゾウが軽く一周している。
ゲンマに至っては明らかに盗撮のアングルで撮られた写真にイラツいていた。
痣が写らない様にした配慮と努力が垣間見える一枚だと俺は思ったケド。
「一兎___それ程までに財政が切迫しておるのか?・・・答えよ。」
「はい・・・、そして今回の降魔祭限定と云う事で、鎖国を解いた次第でして・・・。」
外貨習得か。苦肉の策だな。
だから噂を聞きつけた各国の巫女ヲタク達がこうして集まってるのね;成程。
・・・しかし、まるで成長記録だな、これ・・・。
「一体・・・、この写真はどなたが?」
「バカ殿に決まっておろ・・・? 事あることにカメラを持参しておったからな。」
俺、知らないし__;涼しい顔して怒ってる八香が怖い。
面会の時は気を抜けないな・・・年寄り相手に暴れられたら困る。
一通り見て出ようとすると、何にも置いてないテーブルが出口付近で目立ってた。
一兎が係りの者を呼びつけると、2、3人やってきて急いで商品を陳列し出す。
「お見苦しい所を。申し訳御座いません、客が爆買いされますのでスグにこうなります。」
て・・・、オオィ!グッズまであるの!? 彼女の顔がプリントされたマグやらTシャツやら。
バカ売れでウハウハじゃない・・・結構高いよ? え?? 後ろから手が伸びて来た!?
オジさん邪魔!って露骨な視線をチラリと遣し、物色もさしてしないでごっそり持っていく。
(恐るべし・・・ヲタク市場・・・!)
「あーーーーーーーーーー!」
割りと控えめな声が上がる___マズイ・・・指差されてるな。ヲタが実物に気が着いたらしい。
ざわざわ・・・ヒソヒソとなる会場。「行こう」と、俺はメンツに合図をして彼女を引っ攫う。
「しかし八香・・・君、ほんと御館様に溺愛されてるね・・・。」
両腕で抱えた彼女に俺はボソリと云う。後ろに聞こえない様に。
写真で解る___彼女を想い、愛おしいと云う気持ちが伝わってきた・・・。
親バカである父親の様に__
「そうは思えませぬよ____」
「どうして。」
「あのお方が・・・あの時動いて下されば、何か変わったかも知れない___」
「・・・・・・そっか・・・。」
恨んでいるのか、右京を野放しにした事を・・・。ま、確かにな・・・。
屋根の上に上がると立ち止まる、本丸らしき城が見えてきた。
「此方からどうぞ___」
一兎が案内したのは何と城の裏通路である。この先に、御館様へ近づく部屋があると云う。
影の者しか知らない、秘密の通り道だ。もう何百年も前に作られたものらしいが・・・
俺達を信用していると云う事か? 普通、こんな道は他国の者には絶対教えない。
隠し扉を地面から立ち上げ、階段を下りていく。下に行く程に空気は冷たい。
石畳のトンネルを、一兎の灯した明りを頼りに進んで行く・・・そしてまた長ーい階段。
すると、ポッとほんのり明るい四角い出口が見えてきた。辿り着いたのは納屋っぽい部屋である。
この暗い中、人の気配___?背後にハッとなる___!
「うわッ!!」
「アヒィー!」
突然表れた、蝋燭の明りに照らされた少年の顔にテンゾウ、シズネが思わず悲鳴を上げる。
「まったく・・・。」ゲンマはそう漏らすと八香の前でクナイを降ろしてた。
「はーたーけー殿・・・・。いらっしゃーい・・・!」
「し、紫紺か・・・。ソレ止めなさいって・・・!
「お待ちしていましたよ、お疲れでしょ?隣の間にどうぞ。」
アウェイでないせいか、嫌にリラックスしていたずら小僧の様に笑ってる。
ま、テンゾウの背中のお荷物を見るまでは、の話しだが。
「道理で姿が見えないと思っておりました__皆様、誠にご無礼を・・・!」
「次期巫女の皐月だ」
廊下に出ると不思議な格好の女性が現れて「お見知りおきを」そう云った。
顔は鼻から下しか見えない紫色の頭巾、そして同色の着物。俺達に深々とお辞儀をしている。
そうかと思えばパチン!と指を鳴らし、テンゾウから水無月を手の者に受け取らせた。
「皐月、御館様にな。」
「承知致しております、姉様。さて皆様、朝餉の用意がして御座います。どうぞゆるりと。」
「では私がご一緒致します、どうぞ___」
静々と立ち去っていく皐月と呼ばれた存在は正反対の方向へ歩いて行った。
紫紺がホッとした表情で隣の間に誘導するかに手を差し向ける。
驚くのはその給仕の人数だ。各自用意されたお膳の空の器に目の前で配られ用意される朝食。
「バカ殿の配慮だ。毒が入っていない事を示す為に」
「お頭様;人前でバカ殿とは;;」
「お前は黙っておれ__安全は私の鼻が保証する、安心して召し上がられよ。」
こりゃ、そーとー八香は怒ってる___あの記念館に。更に無機質な話し方で解る。
見栄とはいえ、財政難でありつつ客人を持て成すに充分すぎる豪華なメニューにも。
「さっきの___皐月って人は何故、あんな頭巾を?」
"空気読まない番長"のテンゾウが聞いた。給仕達もピクリと反応してるってのに。
思わず全員が箸を止めた。シズネなどはしんじょの取って置きの海老を丸呑みして咽ちゃってた。
「痣は3人それぞれ、残り方が違うと云う事です。どうかお察しを。」
止めてくんない___? 隣からチクチクする様なトゲのオーラが痛い。
冷気さえ感じて俺は思わずお茶を啜る。これ以上彼女を不機嫌にしないでくれ。
「失礼致します、姉様___」
我々が食事を終えた頃だ。すうと障子が開くと、先程の皐月が控えている。
その口元___八香に似ていると気が付く。彼女の方はもしや・・・?
頭巾と云ってもフードに近いもので時々はチラリと見えてしまうものだ。
俺の目の傷と同じ様な感じだろうか、左側に伸びてる細いツタ模様を確認した。
「参りましょうか」
少し落ち着いたか、いつもの調子で八香は俺達にそう促し席を立つ。いよいよ面会か。
皐月に着いて廊下を歩いて行くと特に華美な襖絵の前で彼女は一度座り、声を掛けた。
「御館様、お連れ致しました」
「____うむ」
どうぞ、と八香に続き我々も入る様に促された。
奥の寝所の前まで彼女は寝屋に近づき、一度座り頭を着ける。腸は煮え繰り返ってるだろうが。
俺達は用意された分厚い座布団に座られその様子を見守っている。
「_____一段と・・・美しくなったな・・・。」
「________ご冗談を。」