母神様の云うことにゃ。   作:ふま

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22、命日・二日前

 

 

「年老いてからのダイエットとは感心しない___ちゃんと食べておいでか。」

「相変わらずだの・・・、そなたは・・・。」

 

八香は「年老いて」と云うが、想像よりずっと若い・・・初老から後半と云うべきか。

その老人__、御館様が皐月に肩を借りながら身を起こすと、苦笑いを浮かべている。

顔色は悪いと云う程ではないが、痩せたせいで寝巻きから覗く鎖骨が嫌に目立っていた。

こうして見ていると温厚そうな__あんな発想で外貨獲得しようとする自由人には見えない;

「近こう___」と声がした。八香が俺に向けて頷くのでその御前にて膝を着いた。

 

「__此度の事、誠に感謝している・・・。火影様にも宜しくお伝え下され。」

「は_______!」

「紫紺より聞き及んでおり申す、下弦や水無月による襲撃を止められず、申し訳ござらん。」

「頭をお上げ下さい、出来れば___下弦の方も引き渡す所存であったのですが・・・。」

 

悪僧・下弦の事は書状にて、三代目とその後もやり取りがあった為、彼もその事情を知っていた。

木の葉にとっては大した実害もない為、密に賠償金の申し出も断ったと聞いている。

三代目にしてみれば、彼の地の巫女である八香を保護と云う名目で奪う形となってしまった事の方が心苦しかったのではなかったか。

今もこうして・・・暖かい眼差しで彼女を見る彼を見れば尚そう思った筈だ。

 

「皐月、御館様を一度診て貰おうかと思う。シズネ殿・・・どうぞ此方へ。」

「はい・・・・!」

 

シズネは呼ばれるとパン!と両手を合わせ、御館様の胸に両手を当てる。

精神統一をし、その体内の流れを見る。そしてその後、ずっと当てたまま治療に入った様だ。

 

「私の最後の晴れ舞台__、途中で具合が悪くなられては困りますのでな。」

「あぁ・・・そうだな・・・。」

 

憎まれ口を叩く八香に穏やかに笑みを浮かべている___この関係が羨ましくも思えた。

突然、彼は咽るかにゴボ!っといったセキをし始める。皐月が心配そうにシズネに顔を向けた。

 

「今しばらく____御辛抱願います・・・!」

 

医療忍術の治療の過程らしい。「大丈夫___」安心させるかに八香は御館様の手を握っている。

まるで、霊媒師に悪霊を祓われた様に・・・ご老体はスゥと意識を手放された。

 

「________ぁ、」

「シズネ殿!」

「シズネっ!?」

 

ゲンマが倒れそうになるシズネを腕に抱いた。

テンゾウも片足を立て、近寄ろうとしてた___その直ぐ後だ。

 

「使い過ぎましたな・・・少し、お待ちを。」

「 「「 ・・・・!? 」」 」

 

八香がそう云い、ゲンマの腕の中の彼女を覗き込む。巻いたショールから零れ落ちる髪を手で除け

深く目蓋を閉じると_____接吻をした!?

まさか、チャクラを吹き込んでいる!? 何だこの・・・ドキドキ感は・・・。

 

( (  お、オンナノコ同士の・・・。  ) )

 

唇を合わせたまま時々、目を開けてシズネを見つめてる八香が・・・何だかエロ過ぎる;

ゲンマからは見えないが、俺とテンゾウの位置から様子がハッキリ解る。お陰で二人とも赤面だ。

 

「むッ・・・。」

「戻りましたか・・・?」

「・・・き、キ・・・スゥゥ!!!?」

 

自身を覗き込んだ少女の顔の近さに慌て、両手をバタつかせた後、カクンと首を擡げてた。

まさかファーストキ・・・いやまさか、まさか。いくらオクテのシズネと言えど・・・!

 

「これ__シズネ殿。チャクラは戻ったのか戻っておらぬのか?それとも、もっと所望か?」

 

ぴたぴた、頬を軽く叩いて真面目に云う彼女___新たな一面を垣間見た。案外Sかも知れない。

「ショモウ・・・!」いやいやゲンマ、君、何もしてないよね?何、堂々とドサクサに紛れてる!

 

「___わしも所・・・いや、八香、止さぬか。破廉恥であるぞ・・・!」

 

アンタもか__!イキナリ目覚めたバカと・・・いや、御館様は皐月の手からむくりと起き上がる。

シズネのお陰か、顔色が見違えるようだ。その様子に「はッ!」と声に成らぬ息をあげた皐月。

御館様の、ナニかに気付く。前に回り、我々の視線から遮る様に寝巻きの乱れを慌てて直してる。

 

(アレまさか・・・意外とオゲンキじゃぁ・・・? )

 

シズネはどうやら余計なトコまで元気にしたらしい。フード下に見える皐月の口の、食い縛り。

解ります、セクハラですね。見たくも無いモッコリとか・・・とゆーか、どんな目で八香を見てる!?

間違いなく・・・イチャパラを持参してない俺を差し置いて、貴方様が一番、破廉恥ですって・・・。

 

「さて・・・、皐月よ。あと数時間じゃ。そなた八香と稽古は良いのか?」

「あぁ、そうでした。姉様、稽古場に参りましょうか。宜しければ他の皆様も。」

「八香、そなたの衣装を用意させた。とは言え巫女衣装を新調しただけだがな。取りに参れ。」

 

ナニ事も無かった様に、まるで常識人の様に__振舞うオッサン。(←見る目が著しく変わる俺)

他の者は移動、俺は彼女のお付として御館様と同行し、部屋の外で待つ事にした。

さっきの今なので、少々不安を覚える___耳を研ぎ澄ます・・・悲鳴でもあれば直ぐ突入だ。

 

「お待たせした・・・。」

 

案外直ぐ出て来た八香は両腕に風呂敷包みと面を抱えている。あの御札の、降魔の面らしい。

何か話したのか、目に動揺が見える・・・?俺が声を掛けるのを察したか、彼女は稽古場に急いだ。

 

「少し話しがある___参られよ。」

「私に___?」

 

送り出した御館様が結構な力で俺の肩を引き止め出したのだ。

その部屋と云うのは云わば趣味の部屋と言おうか。鷹狩りの隼が飼われている傍ら

キッチリ、”八香・成長記録コーナー”が設けられており、あの写真館はほんの一部だと思い知る。

 

「これは____」

 

その中の一枚に釘付けとなる____ 雲水姿、網代笠を上に傾ける少女の姿。

「こっち向いて!」と声が聞こえそうな、後ろから声を掛けられて振り向いた、凛々しい眼差し。

レンズ越しとあっても、この鋭く、射抜く様な眼差しを向けられれば石にでもなれそうである。

 

「八香をやっと見つけ出した時のものだ。初めて見るカメラに警戒してな;」

 

彼曰く__

彼女と出会ったのは鷹狩りの帰りだったそうで、成程、彼女が越後屋を見て思い出す訳だ。

御館様は彼女や、紫紺、一兎と他の子供達を、寺の住職である下弦に大枚をはたき引き取った。

下弦が武道の稽古を着けた子らだ。まして彼女に至っては相当フッ掛けられた筈である。

幼い美少女を言葉悪くして言えば”買い取った”のだ、奥方様が知ればが怒り狂うであろう。

そこで腹心の家臣であった子無しの小田原家に養女に取らせ、通いで城に上げさせていたのだ。

 

「引き取るまで__傭兵の様な生活をしていた割にあやつには__不思議と血生臭さは一切無く

本当に、世間の事は何も知らぬ、無垢な小坊主にしか見えなんだわ・・・。」

 

裏方の衆の原型である自の国の僧兵小隊はサムライのいる国々では知られた存在であった。

けして衣服に血を纏わないと噂の、その尼御前《アマゴゼ》が彼女である事を後で知ったと云う。

 

「あやつ、アア見えてなかなか繊細な上に強情でな__最初は左門でさえ扱いに困っておった。」

 

チラりと彼が見遣った写真には・・・容姿端麗と噂の青年と、八香の白拍子姿で舞う姿があった。

長い黒髪、涼しく優しいその眼で彼女を見つめていたのか。俺達の周りにはいないタイプの男だ。

俺は敢えて踏み込んでは聞かなかった、この老い先短いかも知れぬ男に今更、問いだ出してもな。

左門が還ってくる訳じゃない___きっと彼女もそう思って今日をやり過ごすのだろう・・・。

 

「恐らく、この役目を終えれば・・・暫くは燃え尽きた様になるだろうよ。

度を過ぎる無口さ、そしてあまり食事を取らなくなる。以前にもあった事だ。

あまり気にせず、見守ってやってはくれまいか、日にち薬と思ってな・・・。」

 

「・・・・憶えておきましょう。それはそうと御館様、降魔祭の式の警備はどうなってます?」

 

予め、神社には武器持込を禁ずる事、預かり場を設ける事。一般でも式を見学できる為、

その中に裏方の衆が私服で紛れ込む。その他にも警護にも一切抜かりはないと云う。

そして俺は何かあった時の為に最前列に座る必要があった。その席を1つ確保して貰った。

後は会場を見てから考えるとしよう___

 

 

 

 

____『ゲンマ、この祭を見届けたら直ぐに撤退する。彼女を無事、木の葉に連れ帰るぞ。』

カカシが隙を見て俺にそう云った事を思い出している。それが任務であると。

 

「紫紺__、姉様でないと息が合わぬと申すか?」

「ややや、けしてそう云う訳では・・・!」

 

稽古場では皐月が紫紺にムチャ振りをしていた__降魔祭の八香の代わりをせよと。

舞の中で二人が疫病神と、降魔となった大師が戦う殺陣のある場面があるらしい。

俺はそんな様子を遠巻きに眺めてる。頭の中は任務に関わる全てで一杯だった。

 

「一年に一度のもの、まして昨年は中止されたのですぞ___覚えているワケが___」

「騒々しいな___私が代わろう。」

「助かった;;」

 

八香が戻って来た。俺に預けたその面は・・・皮肉だな、お前が疫病神を演じるとは・・・。

あの疫病避けの御札が彼女にも効く___確かに無礼な話しだよな。

まるで彼女が体内に、撲滅した筈の”赤ばしか”をまだ保有しているみたいじゃねぇか。

 

「ゲンマ様?考え事ですか?」

「いや___紫紺、そういや何故、去年は中止に?」

「・・・・それは・・・。」

 

急に少年の顔が曇った。そして皐月と稽古をしてる彼女を複雑な面持ちで見てる。

 

「左門様がお頭様の辞退をお申し出になったのです。丁度、今時期だったもので___」

「そうか・・・。」

 

心、壊れた彼女に舞は踊れない・・・。左門は里の外れの屋敷で八香を療養させていた。

暗部からの報告書じゃ確か、降魔祭の二日後に彼は暗殺されたと記されてた。

彼女は俺達が想像するより、もっと複雑な想いでこの国に戻ったのだろうと察せられる。

殺してやりたいのに殺せない___この帰国が、八香にとってそれが全てじゃないと思いたい。

 

(カカシがああ云ったのには・・・言い知れぬ、恐れがあったのだ。)

 

御館様と八香の、何人も割り込めぬ親子の様な関係を見た。

彼女が里心を着けてはいけない、やはりこの地に留まると言い出されては困るのだ。

火影様は彼女が新たな脅威になるのを懸念してはいるが、それ以上に彼女そのものを保護したい。

”亡命”と云う形もあると、俺が提案した時。あの人の目の輝きは十分にそれを悟らせた。

カカシもそこは心得ている__それに加えて、ヤツ自身も八香を大事に想い始めているのだろう。

そしてもう1つ、右京との接触を避ける為___カカシは己の暴走を恐れているのではないか。

 

(俺も人の事は云えないな・・・。人のフリ見てなんとやら・・・だ。)

 

「おー、やってるね。あれ、テンゾウは?」

「隣の部屋でシズネを見てくれてますよ。」

 

噂をすれば本人が、彼女らの稽古を見て呑気そうに云ってる___何かあったか?と逆に勘ぐる。

俺は一番気になっている事を口にしていた。

 

「カカシさん、右京が何か事を起こすとしたら__」

「帰りだな。」

 

即答が返ってきた。考える所は同じか。

 

「御館様は式で事を起こさない様に__観光客を招き入れたんじゃないかと思う。内紛があると

漏れれば他国に弱みを見せる事になる、それはあの男も望む所じゃないだろうしな。」

「式を見に来るだろうか___?」

「現れる筈だ、・・・・恐らく、シビレを切らせてる。」

 

彼女を傷つけたのは___弟・左門への嫌がらせだけじゃない。

水無月を強行に走らせたのは女の嫉妬心・・・つまり、右京とデキている・・・いや、”いた”か。

稽古場に来る途中の事だ、皐月が俺に云ったんだ。

 

___『姉様が心配です。ゲンマ様、右京は姉様を”夜叉”と呼び、退治すると豪語しておりました。

そのクセ、気色の悪い__記念館で同じポスターをどれも3枚づつ買い漁ったりとか・・・。』

『・・・・・・。』

 

え____ヲタク? 剣豪って聞いたけど!? 鑑賞用、保存用、遊ぶ用・・・? 

って、ヤメロ!!遊ぶ用ってなんだ!!許さねェ・・・!遊ぶ用使ったらマジ、ブッコロス!!

怒りでボキ!ポケットに入れてた拳が大きく鳴る。危うく千本へし折って口を切るトコだった。

 

「ゲンマ__? 聞いてる? ナニ震えて鬼みたいな顔になってんの!?」

「え____? あぁ・・・聞いてますよ。気にしないで続けてください。」

 

思い出すだけで、そんな顔になってたか・・・迂闊だった。俺は片手で顔を一撫でしておく。

兎も角だ。彼女が云うには、八香が戻ると知って水無月はアッサリ捨てられたのだと云う。

 

(馬鹿め___何を期待してやがる・・・・!)

 

「俺達はヤツを八香に近づけない様にしないとね・・・。」

「持ちませんからね・・・。」

「耐えて5秒だな・・・、それ以上は俺も__、ん・・・?もう良いのかい?」

 

八香が俺達の元に戻って来た、途端に笑顔になるカカシ・・・役者だな。

 

「何とかやれるだろうと思う。そろそろ行かないと。」

「そうだね、じゃぁ____行こうか。」

 

久々に皐月と交えて嬉しかったのか。彼女の瞳が、微笑んでいた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

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