母神様の云うことにゃ。 作:ふま
(このままでは__また体温が下がってしまう)
妹の様な存在だった八香に俺は今
背徳感がどうしても拭えないまま・・・
ゲンマと俺とでは彼女に抱く感情が違う・・・だが後悔はもう、したくない。
例え君に後で恨まれようが___君が、生きてくれればそれでいい。
それに俺にしかできない事もある。彼女の意識に触れる事だ。ずっと、その奥に。
「今、何処にいるんだ___?」
保温の為、掛け布団を被せたまま肌を合わせ、耳元で低く訊ねる。
その肌は手で触れれば、さらりとした冷たい絹の思わせる手触りでとても滑やかだ。
最初に、医者が見せた彼女の裸体に衝撃を受けた事を思い出す。
三代目が云った様に__少女から、ほぼ女の体へと形成されてはいるが
所々にまだ少女の名残りが残っていて、一度汚されたとは思い難い、清らかな体である。
鎖骨下まで伸びる紅いツタ模様と小さな柘榴模様がより一層その体を美しく引き立て
触れても良いものかと____恐れを成すぐらいなのだ・・・。
これは嫉妬だろうか? 俺は右京に対し、思うのだ。
”よくも、躊躇い無く・・・この体に、汚らしいシルシを付けられたものだ”と。
____そして溜息が漏れた・・・。
(君が___大人になるまで待つ楽しみを・・・俺は失うんだな。)
そう思えば、開き直れるだろうか? 自問自答をしながら俺は君を抱き締める___
手を伸ばせばほんの僅かに___ピク!と彼女の体は反応を見せた・・・。
「俺は此処だ____頼む、手を・・・握り返してくれ・・・・!」
無と云うのは、こんな物か_____闇である。
ふと見れば、小さな穴の様に見える光・・・重い体を引きずってソコを目指してる。
気がつけば明るくなっていて。何処かで見た風景に___錯覚を起こす。
明るくなったと思ったのは___炎の中あの日、何重にも襖を開け放ち左門様を探したあの時。
『__________左門様』
現実とは違う、光景を私は見ていた。息が詰まる。
左門様が香を炊き、切腹の準備をなさっているなどと____!
『八香____君が此処に居ては不味い。私はまた君を失いたくないんだ。』
『・・・・・! あの時とは違います・・・!』
『解るんだ、兄上のしそうな事は・・・。だから君は此処に居てはいけない。』
『嫌です・・・!せめて・・・一緒に・・・・!!』
私はやはりそうだったと・・・苦しくてどうしようも無くなっている。
左門様は・・・私を逃がしたかったのだと___だから・・・でも・・・!
『心を取り戻させてくれた左門様を、御独りで逝かせるワケには参りますまい!!』
そう云ってしがみ付こうとした矢先___片方の腕が、何者かによって捕らえられた。
振り切ろうとしても、その力は強く・・・私を左門様から遠ざけようとするのだ。
『目を覚ませ、八香___!』
『・・・・!??』
記憶が交差し、混乱を招いた。そこで私を止めたのは___カカシ殿・・・!?
しかし誰あろうと、今ここで怯めば私は独りぼっちになってしまう___
目の前にいる左門様に手を伸ばせば彼も片膝を立ててその手を掴もうとしてる。
何故、邪魔をする____! 私の意識の、怒りに火が着いた。
『_____・・・!』
『止せ・・・!!!』
左手を翳す____直ぐに炎が膨れ上がり、彼を覆い包んだかに見えた。
『・・・・・・・・・!』
『君らしくない威嚇か・・・無駄だよ___さぁ・・・!』
『嫌だ_____! 放して____ッッ!!!!』
爆炎の中からズンズンと歩み寄って来た彼は__更に強い瞳で・・・私を腕に引き込んだ。
目をやれば、悲しげな表情の左門様は手を降ろしてしまわれた。
「左門様・・・・・・・・・・・!」
ハ・・・と目蓋を開けば___熱い息が、熱く湿った体が、私を覆い尽くしていて。
その眼の力か___ナカに入る事で・・・私に接触したのかと直ぐに理解した。
「_____酷い人だ・・・・!」
覆い被さったまま私を見つめるカカシに声を絞り出していた。
「君を・・・このまま彼に渡す訳には行かない____」
「この・・・! バチ当たり・・・!! 放せ・・・!今日は左門様の命日ぞ・・・!!」
「・・・・落ち着け・・・!」
「ずっと、この日を待っていた・・・!何故、邪魔をする・・・!」
嫌いだ・・・!! 大嫌いだ・・・・!!!
私はこの身に感じる彼を追い出そうと___体を捩り、頼りなくも暴れた。
(膝裏を・・・!)
息が止まりそうになり、叩く為に平手になっていた両手は彼の胸でギュと拳を結ぶ。
余計に入り込んで来ては私を繋ぎ止める___何処かがきゅんとして・・・震えて動けない。
「君には___置いて行かれる者の辛さが解ってる筈だ・・・!」
「____そんな事・・・! ぁ・・・!」
「独りにはしない____逝かせない・・・!」
激しくなる・・・何も許さない、力強さ___何時の間に、こんな・・・!?
自身の言葉と、気持ちとは裏腹な、恥ずかしい位の敷布団の心地悪さにドキリとする。
一体、何の術を・・・! 疼き、震え__揺らされて、思わず自らの手の甲を噛んだ。
「止せ・・・・!」
「・・・・・ッ!」
「まだ・・・・脈が弱い。時間がないんだ、すまないが・・・。」
皮下出血した私の手を奪い、ついでに脈を取った。そう呟くとカッ!と彼は左目を見開く。
何をする気だ・・・、迂闊に見てしまう。それは脳内に入り込み、模様が焼きついた。
グラリと天井が揺れたかと思えば一瞬の吐き気を覚えた。それは酷い眩暈である。
「君が戻って来るまで・・・暫くの間だけだ、許してくれ・・・。」
その言い草・・・これは______まだ目を醒ましていないという事か・・・。
では・・・此処は? 一体、私は今、何処に存在していると云うのだ____?
表の雨がより一層激しさを増し___部屋に入った稲光が反射する。
そう云って私を見降ろす、真剣な顔・・・でも何処か寂しそうな眼をしてた。
紫紺は確かに___手っ取り早い方法を彼に教えた。本当に余計な事を・・・・。
「・・・・・・・・!」
「我慢するな・・・。」
押し付ける様なくぐもる、御頭様の呻きと___ドキ!とする様な彼の、甘い囁き声がした。
あんまり長いこと掛かってるんで、私もついに耳栓を取り出したワケだが・・・
時々は表に妙な気配がないか窺わないといけないものだから当然ソレを外す事もある。
そう云う時に限って、木戸の向こう側から心臓が跳ねあがる様な、色気のある声がする。
私には、どうあっても御頭様をお救いしなければならない使命がある。
例え人の手、体を借りてでも。
しかし___この雷雨、本当に左門様のお怒りを感じずには居られないな・・・。
申し訳ありません、左門様・・・。私たちにはまだ八香様が必要なのです。
貴方の・・・”悪っるい兄上”亡き今、あの”モヒトツ頼りない御館様”の為、しいては自の国の為。
解っておいででしょう___あのお方は優しいが故に
最後はああ云う形で八香様を守った貴方を__独りで逝かせたと、ずっと悔やんでおられた。
御頭はもう十分苦しみ続けている、もう・・・悪い夢に現れるのもどうかお止め下さい。
そろそろあのお方にも___自分の為に生きる事を許してやって下さいませ・・・。
どうか・・・私からもお願い致します・・・。
「え・・・・・嘘・・・。」
夜が明け始めたらしい。カラスの変な鳴き声が聞こえ、窓から青白んで行く様子が見える。
いくらなんでも___長い。私は初めて木戸に近づき、耳を立てる。
「_________。」
まだ続行中のご様子・・・まだお子様の私には、とても説明できない音が致します。
えと・・・・、はたけ殿・・・? もしかして、あの・・・ずっと禁欲生活してらした?
「~~~~~~~!」
(・・・・・!?)
ヤバィ___ヤバィぞ・・・! 今の、声に成らない小さな悲鳴は何だ・・・!?
もしや・・・はたけ殿、本当に御頭様の毒に当たったのではあるまいな!?
_____どうしよう・・・、どうしたら___!?
ドキドキ、ワクワク、ハラハラで木戸前で金縛りの様に固まってしまう。
そんな時、開けていた小窓から適度な大きさの葉っぱが水滴を含んで落ちて来た。
閃いた_______!
俺は何に狂わされているかやっと解った・・・この香りである。
疲れたと感じれば、また彼女の唇を求めてしまい___チャクラを補充する。
意識がまだ遠い彼女は求められれば、自然と俺にソレを分け与えて悪いループとなっていた。
この、何処かで嗅いだ事のある___懐かしい白百合を思わせる香り。
抱けば抱くほど芳香を漂わせ、自我を失わせていく。
美しい背中を見せ、荒い呼吸のまま倒れ込んでいる八香にもう近づいちゃいけない。
(正気に戻らねば・・・・、本当に彼女が壊れてしまう・・・。)
「________!?」
そんな時だ・・・この場に全く!と云っていい位、不似合いな音が流れてきた。
ピープププー、ピーピピピー、ピ・プププププ、ピー♪
草笛でまさかの_____”蛍の光”!??
とてもマヌケな音に呆気に取られてた俺はスッカリ治まった自分にハッとなる。
外が明るい____慌てて辺りを片付けると気を失ってる彼女を抱き上げ出した。
「______如何です?」
結局はまた二人して風呂に浸からないといけなくなり、呆れ顔の紫紺が彼女の様子を尋ねた。
「脈も正常値に戻ったかな___」
俺も忍だ、疚しさを隠すのには慣れている___飄々とした態度で答えてた。
まだ少年の紫紺に、アレコレ云うのは大変よろしくないと思った。
「____まったくもう・・・何時戻ってたんですかねぇ?」
「これはアレよ? オトナの、深ぁ~い、事情があってコウなった訳で____」
「知りませんよ? 御頭様に殺されても文句云えませんからね。」
「ソコは君の手腕の見せ所でしょ? 俺に頼んどいて、それはナイんじゃないの?」
う。。。と、紫紺が黙る。俺が、「紫紺に頼まれて」と云えば怒りの矛先はあっさりと彼に向けられる。そうなれば、彼女は彼をどう処分するだろうか?
「きっと解雇か___八つ裂きか・・・丸コゲ・・・かな?」
「いやぁああああああ!!!」
なんかの有名なアノ絵みたいに、両方の頬を自ら押し挟んで悲鳴をあげた。
きっと八香は、部下である紫紺に怯えさせるほどの罰を与えた事があるに違いない;
「わっ・・・解りましたよ、もぅ・・・。私が出来るだけの言い訳をしておきます故。」
「頼んだよ?」
彼女の段々と戻ってくる血色の良さ。俺はその髪を湯船で梳いてやりながら__少し微笑む。
(早く____戻っておいで。)
最初の背徳感は何だったのか____俺は、どんな感情の違いがあっても
”君が好きだ”と言う感情に何ら嘘偽りはないと・・・いつか彼女に伝えたい。
今回の事で、君が俺に憎しみを抱いても構わない。
君が生きて、そこに居てくれるのであれば___いつか、チャンスはある。