母神様の云うことにゃ。 作:ふま
___『確かに惜しい逸材であるが__安心せよ。何より本人が望んでおらぬだろう。」
彼女を忍にするツモリはない、___火影様はそう云っておられた。
俺はそんな事に安堵しながら今・・・、印を組もうとしている。
「さ___じゃァ、そろそろお送り致しますよ。よろしいですか?」
「我々もご一緒しますのでご安心を。」
ついさっき___人騒がせな御館様が、二人を心配し連絡を遣してきたそうだ。
俺は皐月にお伺いをたてライドウも不安気に囲まれてる彼女に言葉を添えた。
イワシを加えた3人でマーキングしてある城の入り口までこれから転送という所で。
「ゲンマ様____」
「何です?」
「はたけ様は、何故・・・私を別人だと見破ったのでしょうか・・・。」
「さぁ・・・ソコまでは俺にも解りませんね。」
そりゃそうだ;俺だって騙されてたんだから。しかしながら騙せるだけの実力も持っていた。
今思えば、彼女が素直過ぎたってトコが、”おかしい”と疑うべきだったかもな・・・。
こうやって見ていると痣の入り具合がジャマするだけで__流石に良く似ている。
瞳の色の違いを除けば、髪色も同じ艶やかな甘栗色でややツリ目がちな猫の様なまぁるい眼。
DNA鑑定では____本当の姉妹であると判明した。彼女だけが実の妹であったのだ。
「理由はどうあれ・・・ゲンマ様を含め皆様を騙した事、どうかお許し下さい。」
「いや・・・姉上、八香の提案に乗ったまでのことでしょう。貴方に罪はありませんよ。」
まったく・・・アイツめ、ハナから俺達に邪魔させまいとこんな茶番を仕組みやがって。
見当は着いているさ___大方、左門の後を追う為に・・・俺達を追い払ったんだろ・・・?
命日に事を起こすなんざ、いかにもお前らしい・・・。
(空しいよ__俺達が、何処にも割り込む隙間もないってのか・・・?)
カカシは最初からソレを疑っていて___敵を欺くにはまず味方からってか。
お前達、ちょっと似たもの同士じゃねぇか・・・? まるで本当のアニキみたいだよな。
カカシ本人も八香は、妹の存在でしかないと思ってる様だが・・・どーだかねぇ。
もし___俺と同じなら・・・左門って亡霊に嫉妬の一つや二つ、あったんじゃねぇか・・・?
「じゃ、行きますよ・・・!」
(___八香・・・頼むから、イイコにしてろよ・・・?)
そうだ、この時、俺は何故か言い様の無い不安を微かに感じていたんだ____
「____じゃ、頼むよ?」
「ええ、先輩もゆっくり休んで下さいよ?」
ああ云っても本当に休めるかどうか___交代の時間、僕はそう云って彼と見張りを代わる。
眠る八香を見降ろして、思わずそっと頭に手を触れてみた。柔らかい感触に何故かほっとする。
・・・全て終った彼女に、また新たな不穏な風が吹かねば良いが。
「八香さん・・・ヒトツ、枷は外れたんだ__君も休息を取らないとね・・・。」
左門と、部下の仇討ち___君はどんな形であれ主君に忠義を立て、己の復讐も果たした。
三代目は、僕らに云ったんだ。
『御主等とて、ワシの命令を優先させたであろう___?』
逆の立場で考えれば納得せざるを得ないし、”下”と書かれた書状も拝見させて貰った。
許してあげる他なかったんだが・・・死ぬって事だけは絶対許さないからね。
火影様が説得したとは云え、僕には君が思い止まるとは思えなくて__不安なんだ。
(君には、生きてこの里の力になって貰いたい。否、そうじゃなくても君は死んじゃいけない。)
年下だけど、僕が味わった事の無い、微塵であれど敗北感を感じさせた初めての女性。
不謹慎だけど、君が木の葉に居てくれる事で僕にもひとつ、楽しみが増えると思っていたんだ。
こまっしゃくれてて、いつも堂々としているけど・・・何故だか危なっかしくて。
(程よい喧嘩相手だった君が居なくなるなんて___僕は御免だよ・・・?)
僅かに浮いている___静かな水音、暖かい・・・風呂の中か?
髪が優しく梳かれている、時々地肌に当たる指の感触___カカシ殿・・・?
『酷く返り血を浴びたもんだな___』
違う・・・一体誰だ・・・左胸に、指先が伝う・・・痣をなぞっているのか。
『あんな殺り方では___悪人に同情する・・・ククク』
何を云ってるんだろう。私が誰かを殺めたのか・・・?
『早く目を醒ませ・・・お前の事が知りたい__』
_____目を、そっと開ければ紅く光る二つの眼光に体がビクリと跳ねる。
イヤだ・・・! 読むな、読まないでくれ・・・!
意識が吸収されて行くのが解る____突然、ぷつりと繋がりを断ち切られた。
『______お前、名は?』
『・・・・・・・・ヤコ・・ウ・・・・』
途切れ途切れの息で答える。男の顔が、ぼんやりと見え始めた。
骨太い手が体に食い込む。抱き上げられ、ズブ濡れの長い髪と全身をタオルで包まれた。
『チャクラも残ってない様だ・・・このまま休め。』
囲炉裏の火の近くか、この部屋はとても暖かい___
炭がパチパチと小さな音を立ててる・・・頬に一筋、伝う感触があった。
(私があの方を殺したも同然なのだ____)
私に心があったと云うのなら、その心はずっと・・・その言葉に支配されていた。
私に愛があったと云うのなら___その愛はもう死んだのだ。
心も愛も失ってしまった・・・また、ただの殺戮者に戻るだけ・・・・。
『__俺はまだこの世の果てに留まるつもりだが・・・、お前にもその理由があるだろう。』
『・・・・・・・。』
紅い瞳の男は背を向けて言葉を掛けた。ガッガッと、少し乱暴に炭を突いている。
笑いたくなった___この男、私の何かを見て・・・腹を立てておるのだと・・・。
『優しいのだな』
『それはどうかな』
男が即答する辺り、この男は自覚したくないだけで本当はそうなのであろうと感じた。
そして振り向くと、私を包んでいたタオルを急に開き出した。
やはり否定したいのか____私は眼を瞑る。
『お前をこの場で犯しても___ソウ云えるか・・・?』
『条件がある____その後で・・・このアザを貫いてくれ。』
『子供が・・・・・・・・・!!』
睨んだ後__ふんと、言わんばかりに顔を逸らし、またタオルを元に戻し布団を掛けた。
結局は優しいんじゃないか。そのガキを殺せもしない。
『ヤコウと云ったな___お前にはまだすべき事がある。仇を討て___』
仇、か・・・。と私は思っている。
無意味にも思えた。左門様は帰って来ないのにと___
『何になる____もはや無意味・・・。』
『お前の、生きる糧となる___ソイツを、生かしておくのか・・・?』
『____殺した後どうなる。また生きる意味を失うだけ』
『・・・! シ____!』
けたたましい音と宿屋の者らの悲鳴が聞こえた___
「此処に女を運んだヤツは何処だ!」数人が乱入して来て、そう怒鳴り散らしてる様だ。
『お前はそこででじっとしていろ____』
『・・・・・。』
バン!と障子が不躾に開け放たれる。男はスクと立ち、立ちはだかる___
『いたぞ!! 化け物は弱ってる! お前・・・どけ・・・!』
(化け物・・・? 弱ってる・・・・私の事か・・・・?)
『コイツが兄ィらの頭を吹き飛ばしやがった・・・バケモンだ・・・!!』
踊り込む、どうみても堅気ではない連中らに男は怯むどころか人数分の足音が揃うのを待つ様に。
カッ!と目を見開いた。
『黙れ・・・・!!!』
「 「「「 ・・・・・・・! 」」」 」
全員が____ガクリとその場に膝を着き崩れたのを男は、全員を庭に放り出し始めた。
そんな事よりも・・・、私が・・・頭を吹き飛ばしたとは・・・・?
『_______』
『止めろ、記憶を辿るな・・・!』
男が私に忠告したがそれは止まずに・・・さっきのならず者の男が見張り役であった事に気付く。
雨が降る中___通りで、肩が当たったと云うだけで男たちは私を連れ去り
人気のない廃寺に連れて行き___手と脚の自由を奪い、手篭めにしようとしていた・・・。
(貴様らもケダモノか・・・・・!!)
その感情と共に高熱を感じ、呪詛がハッキリと脳に思い浮かんだ瞬間だった。
ビシュ!!顔にまで生暖かいものが飛んで来た。気が着けば酷く生臭く、辺りは血に塗れ・・・
「・・・・・・ッ!!!」
此処は病室___荒い息を落ち着かせた・・・テンゾウ殿が居眠りで隅に座っているのが見えた。
夢だ・・・いや、過去の夢である。それは、封じられた事実・・・。
「ゥ・・・・・・!」
顔も思い出せぬ、あの男はやはり優しかったらしい___私に封印を施したか。
酷く頭が痛んだ・・・夢によって無理やり思い出したせいだ・・・。
(_____鬼子母神・・・いえ、母上様よ・・・。何故に此処まで、私に力を・・・?)
私は脇の下に隠しておいた___ヒトガタをそっと剥がした・・・・。