母神様の云うことにゃ。 作:ふま
「結局・・・また戻って来たんですね」
何でもお見通しのテンゾウが門前にて、彼女を抱いて連れ帰った俺に問う。
呆れた様子の彼も、「火影様の命さ」といえば黙るのは知っていた。
「薬師カブトに狙われている・・・、捨て置けんといった所かな」
「・・・それほど利用価値のある人材という事ですか」
バッサリ云ってくれるな。
まー正直、俺もあの時は驚いた。俺達とは違う戦い方にね・・・。
結局また病院のベッドに戻ってきた彼女を見ている・・・
サモン様って・・云ってたな。八香はどうも相当な闇を抱えた少女だ。
彼女は崩れ落ちる家屋に瞳ごと体を震わせて気を失った。
「まー・・・、しばらく休ませてあげないとね。。。」
俺はそう独り言で、おでこに掛かる前髪を払ってやった。
___________「お頭様・・・・!」
「・・・・・!!」
夜更けの病室で目覚めたのは、よく知っている声が私を呼んだからか。
目の前の、ソコソコな美少年は心配顔で私を覗き込んでいた。
「紫紺か______もう、お頭はよせ」
「心配しておりました・・・!あの里が襲われたと聞き・・・・!!」
「水無だろう・・・?」
「・・・・・・・・・・・恐らくは。」
「ならば・・・お前達も逃げるべきだ。既にハブられておるじゃろうが・・・;」
「いえ・・・、そうおっしゃるならば、全員がそうです。」
「・・・・なんと・・・・。」
紫紺によれば、
裏方の衆全員が水無月に謀反を起こす寸前で孤立しているのだと云う。
「あいつは・・・いづれ私が消す。」
「お頭様・・・・!」
「許されぬ事をしでかした・・・。許すわけに行かぬ。」
「では・・・・、お戻りに?」
溜息を大きく吐く。言い争いが続く予感がした。
「巫女には戻れぬ・・・お前も知っておろう・・・。皐月に託すさ」
「しかし___皐月様はまだ14で・・・!」
「私は12だったぞ、それに水無月より優秀だ」
「それは確かに____ですが、鬼子母神様の加護もなければ・・・!」
「紫紺よ___私が、タマタマだっただけのこと・・・問題はない。」
「しかし・・・・!」
額を手で覆う__いつもこうだ・・・。
だが、こやつぐらいなのだ、こうも私に食い下がるのは。
「良いか、紫紺。私に期待を持つのはよせ。それよりも・・・
水無月は妹でさえ手に掛けるだろう。裏方のメンツにかけて守るのだぞ。」
「お頭様のご意向、皆に伝えまする・・・・承知___」
フッと消えた。
これで良い・・・私はしばらく動けそうにないのだから・・・・。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
「はい、そこでストップ・・・! 君は何者かなー?」
里に戻ろうと屋根に出てきた少年に軽い刺激を与えて足止めしたんだ。
ビリビリと体を震わせて
腰を下ろさざるを得なくなった状態の彼の前、膝を着き俺は問うのだ。
「え・・・・あの・・・・名は紫紺と申す・・・。」
「あのコとどう云う間柄?」
「・・・あのこ?まさか、お頭様の事か・・・?」
「お頭サマ?ヤコウはそんな大層な肩書き持ってるのかい?」
「・・・自の国の巫女であり・・・裏方の衆の長ぞ・・・!」
軽いショック状態の為か面白い程ぽんぽん喋ってくれる。
皆こんなスナオだとイビキなんかはお役御免だろうにねぇ。
彼、紫紺はヤコウの部下であり、世話係りでもあると云った。
そして俺に失礼を詫びたのである。
「どうやら彼女は俺たちの敵に命を狙われてる様なんだ、その理由を知りたい」
「・・・・・・・・!」
「その様子じゃ、何か心当たりがあるんだろ?彼女を守る為に此方も情報が欲しい、頼むよ。」
ジッと俺の目を見た後、彼は手をよこした。俺は迷わず手を握る。
これはどうやら、ヤコウにも通じるこの子達の、人を信じる為の手段なのだと察した。
「___ドコから話せば良いのだろうな・・・時間がない。手短だが・・・。」
月の明りの下、どかっと諦めたかに屋根にあぐらをかいた。
彼らは自の国の者。
元は自然と共存する、穏やかな民族だった。
「その昔、鬼子母神が村に現れ、村の子供たちを攫って食らうという事件が起こった」
そして・・・
同時に紅バシカが大流行した年であり、死にかかった捨て子が増えていた。
村の長老は、もう村の子供に手を掛けさせない為に
捨てられた子を生贄に鬼子母神と交渉しようとした。
「その時、差し出されたのが・・・お頭様だった・・・。」
「・・・・・!」
「だが、思わぬ方向に事が進んでしまったのだ」
全身に、
紅いツタ模様のついた子を差し出された鬼子母神は・・・抱き上げ、泣いたのだ。
その悲しみにより、長老はもとより側近まで殺された。
___『このか弱き赤子に免じてお前たちを許そう・・・
私の悲しみを炎と風のような強さに変えて、この子に与える。
大事にせよ・・・村の窮地を救う者となろう・・・!』____
以来、鬼子母神は消え、彼女の体には他の紅バシカにはない痣が残ったという。
(ツタに咲く、あのザクロの実の模様か・・・・。)
尾獣とはまた違う、鬼子母神の加護を受けた少女か・・・。
「お頭様はやがて、美しく成長なさるにつれて・・・村の有力者に目をつけられた」
「・・・・?」
「強く、美しいばかりに・・・召し出されたのだ」
村の有力者に見初められ、
自警団として我々裏方の衆ができたのだと彼は云った。
それは有力者の息子、二人の兄弟のためのものであった。
長男は粗暴な豪剣を振るう野心家、
次男は・・・とても穏やかな人格者で剣聖と謳われた。
おまけに女性と見まごう美貌の持ち主で長男には煙たがられていた。
「左門様は・・・。心より、お頭様を大事に思われていた・・・。」
「その左門は・・・もしや誰かに殺されたのかな」
突然、紫紺とやらの顔つきが曇った。
「お察しの通り・・・しかし、これ以上は申し上げられません。」
何を思い出したのか、きゅ・・・!と目を瞑って美少年は顔を反らしてしまった・・・。
クチを割りそうにない雰囲気は十分感じ取れる。
「八香様は・・・あの事件以来___自ら里を去ったのです。」
「で・・・・、アノ村に辿り着いたか・・・。」
「我々は納得していない。
八香様こそが私たちのお頭、どんなに離れていようと・・・変わりない。」
「あ。ちょっと!」
「急ぎの所用にて御免。お頭様をお頼み申す・・・!」
では、これにて!と、きびすを返し立ち去った紫紺。
左門という男は____彼女にどんな傷を残してしまったのか・・・。