母神様の云うことにゃ。 作:ふま
「”根”にしては_____随分な急ぎ働きだな」
「 「「 ・・・・! 」」 」
カカシがそう云うと、空かさずクナイを投げて更に窓を割り、室内の煙を追い出した。
催眠ガスに袖を顔に寄せると煙幕の中、ワシが彼女を抱き掬えばもう目の前に居た。
「ぎゃ!」
「うッ!」
煙の引いた室内では賊二人を痛め付け、目の前のカカシはポケットに手を突っ込んだまま
まともに立ち残る、あと1人と睨みあっておる。どうやら術者はコイツらしい。
「今の”根”がこの程度だとは嘆かわしいな___」
「何故____貴方が此処に・・・!」
___オイオイ、ワシもこの場におる事を忘れるでないぞ!?
そもそもソレだ。急いては事を仕損じるとは習わんかったか;呆れた小童どもだのぅ・・・。
任務に慣れて来た頃の奢りが基本中の基本を怠たらせた、典型的な悪い例だと云える。
「はたけカカシ・・・!」
若い彼らにとって古い伝説の遠いワシよりは数倍、物恐ろしく思える相手であろう。
嘗て暗部で”冷血”と呼ばれた男が目前に現れたのだから無理も無い。
動揺か、僅かな後退りをしておった。思いも寄らぬ事態に彼らは面の下、固唾を飲んでおる。
奇襲でイチかバチかする連中である。どの道大した事はないのだ。
だがそこは腐っても”根”の連中である。ひた隠し、頑張って虚勢を張り始めた。
「知っているのか・・・? この女が鬼子__いや、夜叉だと云う事を・・・!」
「何の事だ______?」
「ふふ、その様子だと知らん様だな・・・ダンゾウ様がこの女を危険視なさった理由を。」
”根”が滅多な事では話す事の無い、その理由___カカシを惑わす気か。
すると刃を向け始めたソイツが、一呼吸置いてから語り出す。
「自の国より離れた宿場町で___男二人の頭を破裂させた化け物だからだ・・・!
鬼子母神と呼ばれる以前の、悪神の血がその女には流れている__おぞましい夜叉だぞ!」
「_______なら、何故その夜叉を殺さず攫う?」
(お前まさか___それを知っておったのか・・・?)
カカシは冷静に切り返すと相手を問い詰め、後ろで具合悪そうにしてる奴らを一瞥する。
「ダンゾウはお前達を使って・・・このまま大蛇丸に彼女を引き渡すツモリなんだろ・・・!?」
「 「 「 ____! 」 」 」
「何ィ・・・・!?」
「待ち合わせに遅れると___伝えるんだな・・・!」
どうやら___図星の様だ。木の葉では扱いに困るが、他里にも渡す訳にもいかぬ___
ならば、何らかの取引に利用しようとダンゾウは考えたのか・・・。
(また大蛇丸____貴様か・・・!!)
”根”と対峙するカカシは嘗て見た事の無い__鬼気迫る形相でジリと間合いを詰める。
「ダンゾウがどう云おうが・・・、これが火影様の命令だ。彼女を守れと、ね。」
「何故だ___この女は里にとっての疫病神・・・!」
「それは三代目の御判断だ。ところで・・・俺を知っている様だな__この場で遣り合うか?」
ズイと前へ出るとそう云いながらバチッ・・・!バチッ・・・!
徐々に充電し始めるかに雷切がその右手に光を放ち始めた。
けして脅しではない殺気。珍しく__カカシは心底、腹を立てておる様だ。
「「 「 ______! 」 」」
カカシの脱退後に暗部に入った者は彼の噂しか知らない、恐らく初めて見る雷切だろう。
おまけに・・・静ながら、この男の怒りは沸点に近く、写輪眼まで用意したとなれば。
女の八香相手だと高をくくって遣した、この三人の小童なぞカカシの相手では無い。
奴らは一瞬凍り付いた後、我に返ると慌てて後退しながら、チラリと面の顔を見合わせる___
「今直ぐ、彼女に掛けた術を解け。さもないと此処で死なない程度に甚振られる事になるぞ?
俺達に捕縛されても同じ事、三代目は拷問担当にお前達を託すだろうさ___どうする?」
「・・・・!」
「おお__あのドSか・・・! 気の毒にのぅ~・・・!」
ワシが後ろで逃げ道を塞ぐ。更に弾ける雷が広がれば慌てて術者であろう者が印を結び出す。
仲間が動いただけで他の二人はビクリとなり、引くよな息が面の下で聞こえておった。
「この一件は、ワシが三代目に報告しておこう。ダンゾウが何と言い訳するか楽しみじゃわぃ。」
「______」
クイ!と首で”引く”合図を見せた1人___瞬時に破れた窓から同時に跳び出して行きおった。
暫く収まらない、カカシの怒り・・・右手から雷が消えるのに少し間が開いた。
だが、ずっと耳を立てていたか___彼女の呼吸が少し聞こえたのに気付き、振り向いて近づく。
あんな小童が・・・特殊な技で彼女の呼吸を止めるなどとは___やはり”根”は人材の宝庫だ。
(やはり捨て置けんな。いつか解体せねばならん・・・。)
「まさか___其処までとは・・・。」
自来也様は腕の中の八香を見下ろすと溜息をつかれた。
俺とて___動揺していないワケではなかったが、八香が過去に何をしてようとも揺るがない覚悟だけはしていたツモリで・・・あの場を凌いだと云って良い。
思い出したくない話ではあるが、嘗て八香を苦しめた男が彼女を”夜叉”と呼んだと聞く。
『いづれあの夜叉も退治せねばな』と__もしやあの男は知っていたのではないか・・・?
いや、そんな事はもうどうでも良い。それを思い出した事もあり、そう、罵ったヤツを__
本気で、2度と喋れぬ様にしてやろうとさえ思っていた。
黙って聞いてりゃ、何も知らない奴らが”化け物”だ、”おぞましい夜叉”だのと。
「恐らく彼女は___里抜け後の、消えたその記憶を取り戻したんでしょう。」
俺が心配していた、彼女の空白。どう云う意図かイタチによって封印されたであろう、辛い記憶。
何があって___八香は暴走したのか。云える事はただヒトツ・・・。
(だから君は、自分を脅威に思い___里から慌てて出て行ったんだろ・・・?)
もう手に取る様に解るまでになってしまった___君と云う人が。
八香は愛を忘れてはいない・・・彼女は木の葉が愛おしいが故に、この強硬に出たのだろう。
俺は思い出す__あの晴れた日。樹の下で遊び、戯れる子供達に目を細める彼女の優しい眼を。
「自来也様・・・可能かどうかは解りませんが・・・。」
「____いのいちの力を借りるか・・・?」
「ええ____色んな意味で彼女を守るにはそれしか無いかと・・・。」
そう・・・・一旦開いた、彼女の記憶をまた_封印、もしくは消してしまう事だ____
後、ダンゾウにも手を出せない様に何か対策を練らないと・・・。
「良いだろう・・・ならば移動時間もある。もう少し長く眠って貰うとしようかのぅ・・・。」
ガサゴソと懐に手をやると、小さな細い瓶を取り出し中身の液体を八香の口へと垂らし込んだ。
何でそんなモノ持ち歩いているんだ・・・とは気になったが敢えて聞かずに置いた。
「・・・・・火影様・・・・?」
「やっと目が覚めたか? 余程疲れておった様じゃのう・・・。」
「______霧の中を歩いて来た様な気分です___朝なのですね・・・。」
「・・・うむ。」
ベッドの上、八香はぼんやり窓に目を遣る。朝方の光が差し込むのを眺めておった。
ワシは病室のカーテンを開けてやると彼女の元へとイスを引き寄せる。
「心配したぞ___いや・・・ソレは、ワシだけではないかな___?」
人差し指を自分の口元に立て、つい先に笑ってしまう。
仕切りのカーテンをそっと開けば___カカシがイスにもたれて腕を組んだまま目を閉じていた。
そして隣のベッドの仕切りを開けば、ゲンマが腰を掛けたまま同じ様に居眠っていて。
ワシは八香の顔を見つつ、印を静に組み、屋根裏の板を何枚か消し去れば___
「アーーーーーーーーッッッ!!」
ドサッ!!鈍い音を立てたテンゾウがベッド脇の床に叩き付けられておった。
「そんな大勢で見張らなくとも・・・・・。」
「ニブイのぅ___八香殿、御主が起きて来るのを皆こうして待っておったのだよ・・・。」
「___? そんなに私は弱っていたのですか・・・?」
そんなタイミングでドアが開く。その音でゲンマもカカシも合わせたかに体を起しておる。
入って来たのは新しい点滴を持ってきたシズネであった。
目を擦る手をピタ!と止め、寝ている八香と目があった途端__ググィ!と近寄って来る。
「よかったぁ・・・! 心配しましたよ! 全然、目を覚まさないから・・・!! 」
ホッとした顔をしたかと思えば早口にそう云いながらテキパキとバイタルを取り始め、
何処も異常が無い事に安心してか、「ハァ~」と体から息を抜いてはまたフニャリとなっていた。
「やぁ____おはよう・・・!」
「よぅ______気分はどうだ?」
片手を挙げながら笑って歩いて来るカカシを視界から遮ったであろう、横からニュ!と
出てきたゲンマの顔。怒った顔からスグに心配顔になって___熱の確認か、大きな手が彼女の顔に影をこさえてた。
「や、八香さん・・・やっとお目覚めですね・・・! イタタ」
腰をトントンしながらヘッドギアのズレを直しつつ、床からベッド柵に捕まってるテンゾウ。
八香は起き上がろうとして「あッ」と口を動かしては両目を塞ぎ、また枕に頭を落としておる。
ワシは慌てて肩を軽く押さえて制した__禁術の・・・軽い、後遺症だと解っておったからだ。
「無理をしてはならん・・・。長旅の疲れも出ておるのじゃから。」
フーっと長い溜息を吐き、彼女は諦めた様にワシを見て頷いている。
「さて、八香殿は無事目覚めた__皆も帰って休むが良いぞ・・・ご苦労じゃった。」
シズネも点滴を繋ぎ終えるとテンゾウとゲンマと共に病室を後にした。
ワシはカカシに目配せをしてから「では、また」と一言を残し、ドアに向う。
「食欲ない、か____」
「・・・まだ何も入りそうに無くて___」
常人食が届いたと云うのに、ミルクを少し啜っただけで固形物は喉を通らない様だ。
お腹が減っているだろうに欲しくはないと云う。
2度目の禁術を受けた後、実は丸二日、八香は眠っていたんだ。
これは御館様が云っていた彼女に起こるであろう、”燃え尽き症候群”か、はたまた術の後遺症か。
「カカシ殿・・・私・・・死ぬなと云われても、この先__どう生きて行けばいいのか解りませぬ」
「・・・・・・・・・八香。」
目覚めてから暫くその事ばかり考えていたのか、重い口から本音を漏らした。
仇討ちが、そして彼の元に逝く事が全てだった。それを思い知らされる、残酷で悲しい言葉。
食事のトレイを下げると俺は彼女の近くへ、ベッドに腰を下ろした。
小さく「おいで」と云えば引寄せられた両腕にスッポリ収まり、俺の胸に掌をそっと添えている。
「誰もが悩む事さ・・・だけど、それを見つけるのに期限はないんだよ・・・?」
俺は小さな子に諭す様にそう云い、薄い背中を手の平でゆっくりとトントン叩いてやってる。
俺自身が苦しいから___今こうやって俺は、彼女の体を使って心の穴を塞いでるんだと思えた。
救いであるのは、三代目がアア云って諭した事が彼女にちゃんと響いてたって事だ。
八香の記憶は、右京暗殺から里に戻った以降、この、今に繋げてある____
(此処からならきっと・・・君は立ち直れる____)
_______『いっそ全て・・・忘れさせてやりたい位じゃな___』
自来也様と里に戻って直ぐ___三代目の権限をもって禁術が行われた。
術の最中、三代目の呟きに俺は頷く。だが悪戯に多く記憶を操作すれば必ず皺寄せが来る。
何所かで感情とのズレを起こし、それこそ精神を病みかねないと・・・お互い解ってはいる。
最低限、「この里に居れなくなった理由」となった事だけと、その場に居た全員一致で決まった。
設定は俺が彼女を連れ戻した所___違和感の軽減の為に、同じ病室でなければならなかった。
『殺しの場面が・・・酷く癒着していたよ・・・。』
術者・いのいちがそれを引き剝がす苦労を語った。その悪い記憶は紫紺でさえ知らぬ空白の時。
焼き付くと云うのとは違う。彼曰く、皮肉にも”感絞め”のお陰でそれは免れれていたそうだ___
「俺はあの時、本気だったんだ・・・”俺も連れて行け”と、ね。同じさ、君が左門に思った様に。
君を独りで行かせる訳にはいかない・・・自殺じゃきっと、彼とは違う場所に行くだろうからさ。」
「・・・・・・。」
「向こうに逝って・・・知り合いが誰もイナイなんて___寂しいだろ・・・?」
「・・・・・・馬鹿で御座いますよ・・・! カカシ殿は・・・・・!」
やっと・・・皺枯れた、絞り出される声___そして喉元に感じる、暖かく湿った熱。
俺の着てるベストが嫌な音を立てた・・・彼女が___力いっぱい、握り締めてるせいで・・・。
何と云われようと構わない。俺はあの時云った、「独りにはしない、逝かせない」と。
本当に、嘘偽りない言葉だったんだ____
「君が居ないと俺はまた独りになる___そんな事になるよりはずっとマシさ・・・。」
震える背中を優しく摩りながら俺はそう云っている。
必死で声を堪えて泣いてるのは知っているよ___八香、君は解っていない。
君の心はとっくに戻っているって事を。でなきゃ俺の言葉を理解して、泣くとか・・・。
「あー!!ジレったいのぅ、カカシ!! 早く”好きだの、愛してるだの”言ってやらんか!!」
「ジ、自来也様!???」
突如、窓から現れてニヤニヤして顎をしゃくらせ見ている男。
俺は慌てたけれど、八香から離れる事はせずただ__慌てたまま、慌てて・・・彼女を抱いたまま。
ダラダラ冷や汗と、真っ黒に焦げそうなぐらいの熱を顔に感じてる。
「お初にお目に掛かる、八香殿___カカシは、この自来也の孫弟子でのぅ・・・!
昔っから、女子に免疫が無く・・・。つい、見ちゃおれんかったので・・・、!?」
「______申し訳在りませんね」
俺は思わず額あてをクイ!と上げ、自来也をその場にヘナヘナと崩して置いた。
こうでもしなきゃ、色々ペースが乱されてしまう;
幸い彼女も今ソレ所ではないらしく、スルーしてくれた様だ。
「俺はね。君が知らない事をもっと知って欲しいんだ。そうすれば自ずと何か見えてくる。」
「____」
「生きて、此処に居てくれないか。俺や、火影様、ゲンマにテンゾウだって・・・力を貸すよ。
君は独りじゃない__皆に愛されてる・・・だからお願いだ、死に取り憑かれないでくれ。」
そう云い切ると・・・八香は更に俺の胸元を握り締めていた___
最後には____少し、少女らしく・・・肩を揺らし、泣き声を漏らして・・・。
「君が居なくなるなんて___俺はゾっとするんだ・・・だから、頼むよ・・・。」
本心のダダ漏らし・・・、けど、今それを云うチャンスでもあった。
君に関わった者は、皆そう思う筈だ。俺は尚一層、彼女を抱き締めて全て云い伝えた・・・。
もうけして、後悔しない様に・・・・。
「_________・・・お?」
それからの、ある朝___目覚めれば鼻を掠める、かつおダシの良い匂い・・・。
俺は身を起こさないままそっと振り返り、彼女の姿をキッチンで見つけた。
トルコブルーのノースリーブのアオザイに・・・割烹着。
ガチャ!とコンロのお鍋の蓋を取ろうとして取り損ない、熱かったのか、左手をプルルと振っている後ろ姿。何だか、微笑ましいというか・・・ね。
其処にある、穏やかな時間が体に染入って、何時までも見て居たくなる。
「___いい匂いだなぁ・・・懐かしい。」
「カカシ殿、お目覚めか」
「あぁ・・・今しがたね。」
「暖かいうちに召しあがって頂けると嬉しい」
目をパチクリした。何だ___今の?
首を傾けて何だか可愛く、そう云われちゃぁ。。。起きなきゃしょうがないじゃないのー。
気のせいか、彼女には天然のタラシ気質があるのではないかという疑惑が生まれ始める。
「ん_____?」
顔を洗って食卓に着いた俺は手を合わせて味噌汁にクチをつけていた。
ナスと、タマネギ、アブラ揚げの入った優しい味の味噌汁・・・こんなのは初めてかも。
なんてホッとする様な味なんだろう・・・。
「お隣の方が、白ミソを分けて下さり___お口に合いませんか?」
「いや____いいね、美味しいな・・・。」
「お隣の奥さまが、
”ヤーダーwカカシさんたら、イツの間にこんな!?モーヤダーw”と、コレを分けて下すった。」
「ブフッッ・・・!!!!」
八香の感情のこもらない機械的なその再現に俺は噴出しそうになるも堪えた。
どうやら否定した描写の再現はないらしい。
解ってないなコリャ・・・・・; 八香、君ね。お隣じゃスッカリ俺の幼妻扱いだわ・・・・。
「行ってらっしゃいませ」
玄関でそう云い、俺を送り出してくれる。思わず俺は____片腕で彼女を抱いた。
君がまた此処で、俺を気遣ってくれる事がとても嬉しくて堪らない____
「晩ゴハンは__サンマがいいな。」
俺を見上げると目を細め____斜めがちに君は頷いてくれたんだ・・・。
俺は心の中思う。 何時かは言える筈。
・・・君を、好きだの、愛してるだのと・・・。
【end】
一応の、ハッピーエンドにて。
今まで、ご愛読__有難う御座いました。
ふま