母神様の云うことにゃ。 作:ふま
「お頭様____あまり目立った事はなさらず・・・。」
「もちろん、そのつもりだ。だが、アレは言うなれば災難ぞ?」
反省の色は無し・・・お頭は荷を解き、物色しながらサラリとそういった。
ここは預かりとなったという、先日の男の一室だ。
あまり可愛いとは云えないイヌが膝元に座り、大あくびの後コチラを見てる。
「此処に来る途中、”自の国の巫女様だそうだがエラくお強い”と村人が噂しておりましたぞ。」
「元、___だ。」
私、紫紺は____お頭の身を按じ諜報活動と称しては国を後にして八香様を訪ねて来ていた。
自の者、特に我々は大抵の結界をすり抜けることができる。
今回は同じく、
八香様を心配されている皐月様よりの託と荷を薬売りの行商に化けて届けた。
「___おぉ・・・これはまた・・・・。」
お頭は小さく感嘆の声をあげて着替えを広げ、目を細めておられた。
・・・・さすがは皐月様、
アオザイはノースリーブ、前開きに作ってある;(ヤンチャ向け)
「やはりか___もう長くはないとな・・・」
添えられた手紙に目を通しながら溜息をついている。
お歳を召した御館様がとうとう寝たきりになり、
胸も相当悪くそう長くは持たないと書いてあるのだ。
同時にそれは、
お頭を苦しめた嫡男の目の上のタンコブがなくなるのも近いという事・・・。
最近になってまた___
弟君、左門様討伐の一件を酒の席で出しては”いづれあの夜叉も退治せねばな”と締め括る。
それもちゃんと言葉にしてお伝えした。
そうなればお頭はどうなさるおつもりなのか・・・。
「御館様が皐月様に零しておいででしたぞ。あのバカ娘はワシのことを忘れたかと。」
「バカ殿がなにを言うのやら・・・。そもそも私は小田原の養女だ」
「それでも・・・「目玉が爆発しても良い!」とさえお頭を・・・。」
「ならば何故、あのケダモノを放置したんだ?」
「・・・・・・・・!」
お頭が初めて・・・そのコトに触れた。
鏡の前で服を合わせながら此方も見ずに冷たい声で言い放つ。
いつもの無表情さで云われるのだから余計に狼狽えもする、
私だって触れたくは無かったのだ。
冷や汗をかく私に、知ってか知らずか更に追い討ちを掛けてくる。
「あと___ホテイの種を持っておるな?」
「・・・・・それは・・・!」
「お前に無断で事を急く事は無い___黙って置いて行け」
「・・・申し訳ございませんでしたッッ!!!」
もう帰れ___と手をパッと払われた事にハッとなる。
僅かな殺気に私は、慌てて土下座をしてからその場を飛び出した。
それはそうだ・・・私自身、あの時のお頭様の姿が今だ目に焼きついてる・・・。
殺し足りない位、憎かろう____
「______!」
(しまった・・・!埋もれる・・・・・・!!!)
油断した。屋根から着地した途端に足元が崩れ、もがき暴れたが遅かった。
”フー・・・”と、マスクの下で溜息が聞こえる。如何わしげな本を手に
首まで埋もれた私の元にしゃがみ込むのはまたしてもあのハタケ・カカシであった。
「困るんだよねぇ・・・そうアッサリ結界すり抜けて来られるとさー。」
「いや・・・その・・・なんかスミマセン・・・。」
「___で?今日は何しにきたの。」
「妹君からの届け物を持って参った次第でして・・・。」
紫紺も素直だ___俺はコノ子、嫌いじゃないんだよね。
ちゃんと多少の罪悪感を持って詫びているし、八香の事を本当に心配している様だし。
「ま、俺も丁度良かったかな。君に相談があるんだよね。」
「____相談?」
「悪いが、八香は返さない。」
ピリッとした衝撃を感じたか、顔が真っ白になっている。
何故・・・と彼が口を開けかけた瞬間、俺は言葉を続けた。
「理由は二つある。ひとつは君んとこの暴君の事、
自の国に帰したところで彼女は不幸になるばかりか命の保障もない。
二つ目は確実に俺たちの敵に命を狙われているって事。
彼女を狙う敵は忍大国でも手こずる相手だ。
そっちに戻った所を必ず狙ってくる・・・そうなれば自の国は滅亡するぞ。」
「・・・・・・・・!」
「御館様も___コレで納得するだろうさ。」
火影様より預かった書状をピラリと目の前に見せた。
国が危険に晒されると云うのであればどんなマヌケでも納得する。
災難を提げてまで戻ってきて欲しくはないだろうからな。
「それはそうと、火影様は__正式に彼女を迎え入れるとお決めになった。」
「なんと・・・・・!」
「ま、俺もさっき聞いてきたトコなんだけどね。」
そういい終わった所で今度は俺が逆に、紫紺に握手を求めた。
信じろ、大丈夫だからと想う眼差しと共に。
「・・・・・・ハタケ殿・・・。」
「ん______?」
「手が出せません。」
「・・・・・・・・・・・・・やー、悪い悪い。」
ついウッカリ土遁・心中斬首の術を掛けっぱなしだった。
彼を出してやるついでに、手を貸した俺を___何故か泣きそうな顔で見てる。
「私が御館様から密命を受けているとお察しでしたか___」
「説得どころか___切り出す事も出来なかったんだろ?」
「_______オイ、ところで小僧。さっき言ってたホテイの種ってなんだ?」
「え________は!?」
途中、口を挟んできたパックンに驚きつつも事情を飲み込めた様だ。
そして、何を思い出したか慌てて俺に接近し、あわあわと口を動かし始めた。
「落ち着きなさいよ・・・どーしたの。」
「先ほど置いて行けと云われて・・・! お頭様は・・・戻る気です!」
「______!?」
「あれは他国にある貴悠湖でしか取れぬホテイアオイ・・・
その種を飲めば体温が急激に下がり、やがては心臓発作を起こす代物・・・!」
「とゆーか・・・なんで渡しちゃったのよ、そんな危ないモノ;」
暗殺する気マンマンだねぇどうも・・・・。
彼はチラ、とパックンの方を見てる・・・。話し難いか。
俺は礼を言って彼を帰らせる。紫紺は言葉を詰まらせながら語りだした。
「もう、ご存知な筈・・・。」
「・・・・・・あぁ。」
「私のせいで八香様を___あんな目に合わせてしまった・・・。」
___『左門が何者かに襲われた、急いで支度せよ!』
弟・左門の留守中に奴がやってきて裏方に召集をかけた。
紫紺はその時、風邪で寝込んでおり・・・下女の知らせで後から聞いたのだと云う。
裏方の衆の殆どが左門の護衛に出ており比較的、手薄の時を狙ったのだ。
「お頭様と6名の配下は右京と共に森を駆け抜けようとした___その矢先」
一斉に矢が放たれた____右京の手の者である。
八香は息の或る者を助けようとして首根に吹き矢を受けてしまったのだ。
そして、そのまま彼女だけが現場から連れ去られた。
「後を追って来た私が到着した時、それを私に伝えてから彼も逝ってしまった。
八香様はその6人の恨みも、そして左門様の無念も晴らす気でおられる・・・。」
その負い目が、彼女に逆らえなかった理由か。
「君のせいじゃない__彼女もそう云わなかったか?」
「お頭様の心は一度、壊れてしまっている______
この話に触れる事は今までなく・・・・。」
感絞めによって失われた心を折角、弟が取り戻したと言うのに
兄によってまた握り潰されたか・・・。
「心配するな___ナントカするよ・・・!」
俺はそう云って今にも泣き出しそうな彼の肩を揺らした。
彼にはその書状を持って此方の意向を伝えて貰わねばならない。
「今は彼女の為、お互いできる事をやろうじゃない____」
「はい・・・!」
俺の頭の中ではもう、いろんな事を想定したリストが出来上がりつつあった。