・ボルマーレ帝国
『永遠のエネルギー』を保持している3国の1つ。人口が3国の中で最も多く、敷地面積も1番広い。『永遠のエネルギー』を上手く使い、とてもユニークな進化を遂げた国である。それがどのようなものかは有名なのでこの本ではあえて明言せず、自分の目で直接見て欲しいとだけ書き記す。
エレナ・リノーア著 「この世の進化」より一部抜粋
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俺が対抗戦の開催場所を聞いた翌日、政府から正式にボルマーレ帝国が開催場所だと発表された。
そこからはとても忙しくなった。すぐに今回の代表選手が発表され、その代表選手は貴重な放課後を返上し、他国に行くのにあたっての手続きや対抗戦のスケジュール説明やなんやらで拘束されていた。もちろん俺達4人も代表選手に選ばれており、ここ最近ゆっくりした覚えがない。まぁそれでも眠たい目をこすりながら空いた時間で準備を進めて、俺たちはなんとか今、帝国行きの電車の中にいる。
「いやぁ!楽しみだね、帝国」
「うるせえ、俺は今寝ようとしてんだ。静かにしろ」
と、言うわけで短い回想は終わりにして、今この状況を詳しく説明しようと思う。さっきも言った通り、今は聖都の代表選手を乗せて帝国に移動している最中の電車の中。俺達4人は1つの机を囲んでいる座り心地の良い席に、2手に分かれて机を隔て向かいあう感じで座っている。
そして俺の前では、興奮を隠しきれないリアが寝ようとしているコウタに注意されている。ここまでは普通のよく見ているやり取りだ。ただし2人の目の下に普段は見られない大きな隈がなければの話だが。最近忙しかったと冒頭説明したと思うが、少なくとも俺が今までの人生の中で経験したことなかったほどだった。
必要な書類は机の上に山のように積まれ、ボールペンできれいな字を意識しながらその書類に必要事項を書かなければいけない。間違ったらもう1度やり直し。今のこの時代に何故、紙にこのようなことを書かなくてはいけないのか。パソコンではだめなのか。何度そう思っただろうか。
そしてやっと書き終わったら、帝国に行くときの注意事項と帝国の歴史について何日かに分けて説明された。前者は分かるが後者は完全に蛇足だ。修学旅行か。
結局全部終わったのが一昨日で、昨日寝ないで荷物の準備をしていた。そして今日この有様である。俺達以外の生徒も一緒だったのか、電車の中の雰囲気が完全にどん底である。唯一、リアはいつも通りに見えるが、隈を見る限り完全な深夜テンションだ。
「リア、本当に静かにしてもらえませんか」
俺の隣のシズが少し鋭い声で言い放つ。穏やかな性格で、あまり感情を表に出さないシズがこうなのだから相当ストレスが溜まっているのが分かる。女子は男子より用意する物が多そうだし、きっと大変だったのだろう。
「しょうがない、最後の手段にでるか」
俺はまだ口を付けてないペットボトルのお茶を取りだしてキャップを開けると、ほんのちょっとだけ細工をほどこした。
「リア、1回これでも飲んで落ち着け」
「おお~ありがとう!ちょうどのどが渇いてたんだ!」
リアはペットボトルを俺から受け取ると勢いよく飲み始める。お茶を半分くらいまで飲みほしてペットボトルを俺に返すと、そのまま倒れるように眠ってしまった。床に倒れそうになるリアを支え、席に戻す。
「こういう時の為にエレナからもらっといた睡眠薬だ。持って来て良かった」
「いつもならあまり褒めるべき方法ではないのですが、今回は心の底から感謝します」
「ああ、助かったぜ」
リアが眠りについた後、シズとコウタから10秒もたたないうちに寝息が聞こえてきた。周りからも聞こえ始めたのでリアがどんなに迷惑をかけていたのかが分かる。俺は1人で苦笑いをするとそのまま目をつぶり、みんなに続いて夢の世界へ旅だった。
「落ち着け、お前はまだ寝るのに早い」
女性の声とそれと同時に襲い掛かって来た衝撃で目を覚ます。夢の世界へ行くどころかまだそこへ歩こうとしていない段階で現実に引き戻された。俺をこっちへ引き戻した本人を思いっきりにらむ。
「不機嫌って顔にでかく書いてありそうな不機嫌な顔だな」
俺のにらみをまったく気にせず、俺をバカにしたような言葉を発したのは毎日嫌でも顔を合わしている女性、エレナ・リノーアだった。
「お前に手伝って欲しいことがある」
「嫌だ」
「おねが~い」
「可愛く言っても嫌だ」
「お・ね・が・い」
「色気を前面に押し出しても嫌だ」
「報酬は何がいい」
「俺の平和な睡眠時間」
「ふむ。まぁ隣の車両で待ってるからな~」
スキップしながら隣の車両に移動して行ったエレナを見つめながら、大きなため息をつく。どうやら拒否権はないようだ。もう1度ため息をつくと、俺は重たい腰を上げてエレナの後を追いかけるようにして歩き出した。
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「いやはや、助かったよ。私一人だったら帝国に着く前に終わらせられなかった」
「嘘つけ、余裕で終わる仕事量だっただろ」
2時間後、すべての書類をかたずけ終わった俺達はコーヒーをすすりながらゆっくりしていた。眠気も、手を動かしたり、途中エレナが俺に渡して来た謎の飲み物を飲んだせいでほとんど吹き飛んでしまった。ちなみにその飲み物は何なのかはいつも通りはぐらかされた。
「それで、わざわざこんなことの為に俺を呼んだんじゃないだろ」
「なんだよ、こんなこととは。本当に結構1人じゃ大変だったんだぞ。でも、今までのがちょっとした準備運動だったのは否定しないが」
エレナはそう言うとピンク色のブランドものバックの中から電子式のファイルを取り出して俺の前に置いた。目線をエレナに向けると首を少し前に動かしてくる。読めってことらしい。
さっそくスイッチを押し、出てきた画面を上から順に読んでいく。最初の方は本当にどうでも良い内容だったが、中盤に差し掛かるとさっきとは違う意味で残っていた眠気が吹き飛んだ。
「おいおい、これは……」
「まだ先の話になると思うがな。ま、何が言いたいか簡単に言うと本当に大変なのは交流戦が終わった後ってことだ」
俺は最後までそれを読むとすぐにエレナに返した。想像してたよりもヤバい内容だった。
「それで、読んだ限りだとこの出来事の中心となるであろう人物がいるらしいが」
「ああ、もちろん見つけておいた。苦労したよ」
エレナはファイルをしまうと、それと交換するように1枚の写真を出して俺に渡した。俺は写真の人物を見た瞬間、驚きで目を大きく見開く。
「なんだ、知っていたのか」
「まぁな、そうは言ってもほぼ他人だけど」
その写真の人物は、始業式の日に道案内をしてあげたピンク色の髪をした女子生徒だった。
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俺がエレナと会話を終えて戻った頃にはもうそろそろ帝国に到着する時間で、生徒たちは全員起きており、電車から降りるために荷物をまとめているところだった。
「あら、どこに行っていたんですか」
良い睡眠がとれたのか、スッキリした顔をしているシズが、あらかじめ持って来ていた紅茶を水筒からプラスチックのコップに注いでいた。ちょうど良いタイミングで戻って来たらしい。
「エレナに仕事を手伝わされてな」
「それは……災難でしたね」
シズは苦笑いしながら俺にコップを差し出して来る。
「さあどうぞ。お仕事の終わりには温かい紅茶でゆっくりするのが1番ですよ」
先ほどのエレナの話はまだしなくて良いだろう。何せまだ正確な情報は入ってきてないのだし、当分先の出来事になりそうだからな。俺はそう結論づけるとシズから紅茶を受け取り、帝国に着くまでのあと少ない電車の旅を楽しむことにした。
車窓を見ながら、座り心地が良い席でおいしい紅茶を飲むという贅沢はそう簡単には味わえないだろうから。
本当に余談だが、俺はコーヒーよりも紅茶の方が好きだ。
こんにちは、だゆつーと申します。
第12話を最後までお読みいただきありがとうございます。
そして新たにお気に入り登録をして下さった4名様、本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。
最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。
セイレム、個人的にはとても楽しめました。