半妖先生ぬらりひょん 作:半分
子供たちが、自宅への帰路についたり部活の練習へと向かう姿を見送った後、僕は急いで病院へと駆け付けた。
童守病院に辿り着いた僕は受付の人に風間君の病室を教えてもらい、風間君の元へと急いだったのだが…。
「きっとアイツが…屋根で踊っていたアイツのせいで……」
「なるほど……その不思議な怪物を見た君は体調が急激におかしくなったと……」
「ぬ~べ~。これって妖怪の仕業なのかな?」
鵺野先生とサッカー部のエースである
高橋先生が鵺野先生に相談する事はまずないだろうから、広君が鵺野先生に相談し、二人で風間君の様子を見に来たんだろう。
「おや?坂本先生?もしや坂本先生も風間のお見舞いですか?」
「え、ええ。高橋先生の様子を見ていたら心配になってしまいまして……」
病室の前で立っていた僕の存在に気付いた鵺野先生が風間君の見舞いの品であるバナナをもぐもぐと食べながら声を掛けて来たので、それらしい理由で答える僕。
この人は本当に遠慮がないんだな……。
見舞いの品をもぐもぐ食べている目の前の男が除霊の時は命懸けで子供を救っている人物と同じ人間とはとても思えない。
まあ、このフレンドリーな感じが生徒たちを惹きつける魅力の一つなのだろう。
「へぇ…他のクラスの生徒のお見舞いだなんて……本当に先生は生徒想いなんですね」
「いやいや、鵺野先生もそうでしょう?」
「いやー…そう思います?アハハ」
照れる鵺野先生から視線を風間君に移して病状を聞いてみる。
「風間君。体調はどうだい?」
「はは、正直…結構つらいです」
本当につらいのだろう。
苦しそうな表情で無理矢理作った笑顔で答える風間君を見ていると心が痛くなる。
はやく、しょうけらを滅して風間君に掛けられた呪いを解かないと……。
僕は決意をあらたに風間君の周辺を警護する事を決めた。
「…鵺野先生。風間君をお願いします」
「あ、はい。任せてください」
「大丈夫だよ坂本先生!ぬ~べ~なら何とかしてくれるからさ!」
「うん。そうだね」
真剣な鵺野先生とその鵺野先生に絶対の信頼を寄せる広君の言葉を信じた僕は鵺野先生に風間君を任せ、病院の周囲を散策する為に病院の外に出た。
少しでも早く風間君を助けないと……。
―――――――――――
人目のない場所で妖怪の姿に変化し、病院の周囲の屋根の上から裏路地を日が沈むまで散策したが収穫はなかった。
ったく!一体どこにいるんだ!!
「総大将ーーー!!」
焦って捜索の範囲を伸ばしているとすっかり暗くなった頭上からバサバサという羽の音と共に烏天狗が舞い降りて来た。
「烏天狗!?もしかして見つけたか!?」
「はい!奴は童守病院の屋上に現れました!!」
っち、真っ先に現れるなら病院の屋上に待機しておけばよかったぜ!!
「急ぐぞ、烏天狗!!」
「はっ!!」
人の家の屋根から屋根へと飛び移り、道をショートカットして病院へと闇夜に紛れて烏天狗と共に向う。
風間君、待ってろよ!!
十件十五件とぴょんぴょん駆け抜けていくとようやく屋上が見え始め、俺は目を疑った。
なんと、しょうけらが高橋先生を襲っている最中なのだ。
「ヤロウ……ぜってぇに許さねぇ!!」
怒りの赴くままに、俺は走る速度をさらに上げた。
妖力によって強化された足で、瞬く間に病院にたどり着いた俺は、病院の壁を垂直に駆け上る。
「その女に……触るな!!」
『ギャァアアアアア!!!?』
屋上に辿り着くと同時に高橋先生の前に躍り出た俺は、勢いをそのままにしょうけらを妖怪殺しの妖刀『
右手首から先を切断されたしょうけらはあまりの痛みに絶叫を上げ、腕を抱えるように悶絶する。
「高橋先生、無事か!?」
悶絶するしょうけらをそのままに、後ろに居る高橋先生に駆け寄り彼女の状態を確認する。
「どうして…私の……なま…え……?」
「おい!しっかりしろ!!」
か細い声で何か言った後、高橋先生の意識は途絶えてしまった。
先ほどよりも大きい声を出して彼女の肩をゆすってみるが、反応が返ってこない。
もしかして、間に合わなかったのか?
「総大将、落ち着いてご覧ください!!その娘は気絶しているだけでございます!!」
烏天狗に頭を叩かれ、言う通りに冷静にゆっくりと高橋先生を観察すると規則正しい呼吸をしている。
よかった……彼女は無事の大丈夫のようだ
「…助かった烏天狗」
「総大将の補佐をするのが、この烏天狗の仕事でありますので……」
屋上の床にそっと、高橋先生を寝かせた俺はゆっくりと立ち上がって、しょうけらの方へと振り返る。
「しょうけら……てめぇは俺の超えてはならない一線を二つも越えやがった。
今から俺が冥府魔道に送ってやるから覚悟しな!!」
「ゲェゲェ……許さねぇのは俺の方だ!!この半端者がぁあああ!!」
傷口から妖気が抜けきり、弱り切ったしょうけらが俺を引き裂こうと繰り出される左手の爪。
俺は遅すぎるその動作を観測しながら左手も右手首同様に払うように斬り飛ばす。
「終わりだ」
そして、そのまま祢々切丸を上段に構え、しょうけらを頭上から一気に振り下ろして一刀両断にした。
左右に両断されたしょうけらは断末魔の叫びをあげる事無く、煙のように現世から消滅する。
これで風間の肺炎も治るはずだ。
「総大将、そろそろ鬼の気配がする例の霊能教師がやってきます。
この娘は彼に任せましょう」
「…ああ、そうだな」
烏天狗に言われ、鵺野の特殊な霊力を感知した俺は高橋先生を一瞥した後、彼女の傍に居たいという思いに後ろ髪を引かれながらも烏天狗と共に夜の町へと消える。
彼女を助ける為とはいえ、この姿を見られた。
目が覚めたら彼女はどう思うだろうか?
十中八九、怖がりの彼女は妖怪の姿をした俺に恐怖するだろう。
もしかしたら、彼女を助けたのは半妖怪の俺ではなく鵺野だと思うかもしれない。
そんな考えがよぎると胸にチクリと何かが刺さったような感覚を覚える。
……いや、これでいい。
風間君も彼女も無事だった。
半妖怪の俺は彼女と関わらず、人間の坂本恭也として彼女の邪魔にならないように想い続ければいい。
大好きな生徒たちとの時間と、彼女の笑顔が守れるのならこの想いが報われなくても構わない。
愛する女性と生徒を救った誇りを胸に抱き、自宅へと戻って変化を解いた僕は、風間君の様子を見る為に素知らぬ顔で病院へと向かう。
「……総大将」
家を出る際に玄関で漢泣きしている鴉天狗は見なかった事にした。