妄想が止まらなくて調子に乗った結果がこれだよ
話も全然進んでないっていう……
緑が茂る道を歩き都市に着いた。途中で十六夜が遊びに行ったが大丈夫だろうか。確かに知らない場所に行くと探検とかしたくなる気持ちはよくわかるが。集団行動が嫌いなんだろうか。俺もあんまり好きじゃない。
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
黒ウサギが声をかけたのは、ダボっとしたローブにはねた髪の毛が特徴の少年だ。
なんというか、イメージの中にある坊っちゃんと違う。あの少年は坊っちゃん感がまるで足りていない。服も高そうじゃないし、没落的なアレをしたんだろうか?いや、した。きっとしたな。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」
「はいな、こちらの御四人様が────」
振り返る黒ウサギ、そして固まる黒ウサギ。不憫、黒ウサギ。
「・・・・・・え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っている殿方が」
「え?そんなやついたっけ」
「ああ、十六夜くんのこと?彼なら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ! "と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
「なんで彼岸さんは嘘つくんですか!」
「あー、十六夜のことか?あいつはいいやつだぞ、たぶん」
叫ぶ黒ウサギ。いじるの超楽しい。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
すぐに落ち着く黒ウサギ。それでも耳を逆立てている。オコだなこれは。
「"止めてくれるなよ"と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「"黒ウサギに言うなよ"と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょうお二人さん」
「「うん」」
「あ、俺に言ってきたぞ」
「え、そうだったのですか?」
「いや、嘘だ」
前のめりに倒れる黒ウサギ。
「た、大変です! "世界の果て"にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
え、何それ怖い。幻想種野放しとか程度によるけど、頭おかしいだろ。あ、ギフトゲーム用だからいきなり襲ってきたりはしない、のか?
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
幻想種とは違うのか?いや、ギフト持っているから知性はあるはずだ。それだけで脅威になる。慢心してはいけない。
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? ・・・・・・斬新?」
「斬新というかクソゲーだ、それは」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
そうそう、坊っちゃんの中では真面目タイムなんだ。きっと。
「はあ・・・・・・ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
orzしていた黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がり、そう言った。
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
十六夜は馬鹿にしたんじゃないんだろうけど、黒ウサギ不憫。アレだ、十六夜は悪ガキ感が凄い。それに加え主人公属性的なアレがプラスされてるみたいな。うーん、何言ってるんだ俺は。
「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」
いつの間にか髪の毛を緋色に染めて、彫像を駆け上がって柱にスパイダーマンしていた黒ウサギ。もはや黒ウサギじゃない。もちろんウサギでもない。
そして、柱を若干壊して弾丸のように飛び去っていった。おかしい、スカートの中が見えない。
そうじゃなくて、黒ウサギ凄いな。髪の毛の色が変わってるけどあれが素の身体能力なのか。魔術を使えば似たようなことは出来るが、スパイダーマンは、いや、頑張ればあるいは……。
「……。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」
「そう」
黒ウサギって凄い経歴を持ってるな。箱庭の創始者って一体どんな人なんだ。いや、まず人じゃないか。きっと神様とかそんな感じの存在なんだな。多分そんな感じだ。
あと気になったんだけど、黒ウサギが亀裂を入れたあの柱の弁償代とか請求されないのか、ちょっと不安だ。
「黒ウサギも堪能してくださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」
「久藤飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「それで俺が夢月彼岸」
ジン坊っちゃんが自己紹介したことにより、俺達も倣って自己紹介。ジン坊っちゃんが十一歳とはとても思えない。しっかりしているな。箱庭ではこれが当たり前なのか?
「さ、それじゃあ箱庭にはいりましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
久藤ちゃんがジン坊っちゃんの手を取り、華のような笑顔で箱庭の外門をくぐっていく。やっぱり箱入り娘感出てたし好奇心は人一倍なんだろうか。まあ、未知はいいよな。
-------------
目の前に変態がいた。あぁいや、一応まともな格好だしそれだけで変態と決めつけるのは良くないが、とりあえず俺の目には変態がいた。
ピッチピチのスーツを着た、獣人だった。魔力の反応は感じられないし箱庭原産の固有種かも知れないけど、俺の直感が大丈夫だと言っている。まあ気をつけていきたいが。もちろん、箱庭原産が弱いと思っているわけじゃない。
まあ、そんなピチピチが目の前の椅子に座っているわけであって。正直言うと暑苦しいし獣くさい。
優雅なティータイムは泡沫の夢と消えたらしい。
ほら、お嬢様も苛立ってる。
それに気がつかずにペラペラ饒舌なピチピチスーツ。マジでお前空気読めよ。友達いなくなるぞ。てかいないだろ。
遂にピチピチは勧誘を始めた。内容としては『そんな弱いとこより俺のところに来いよ』みたいな感じだ。ジン坊っちゃんが何やら合いの手入れて、ピチピチが怒ったのは面白かった。ジン坊っちゃん、案外肝が座ってるなぁ。
箱庭の幕下に出たあと、近くにあったカフェテラスに座った後春日部ちゃんが動物の言葉が理解できる、というような各々が持っているであろう箱庭風にいうギフトの話になろうとした時だ。
ピッチピチが現れて、お前わざとやってるだろと勘違いできそうな程の三下を演じ、ジン坊ちゃんに矛先が向いた。
どんな矛先かといえば、俺達が入ろうとしているコミュニティの置かれている状況の話だろう。
俺は、コミュニティはどこでもいいがピチピチとジン坊ちゃんを比べると、やはりジン坊ちゃんのコミュニティしかありえないと思う。なんというか、ピチピチは無理。
さて俺がぼさっとしている内に、ピチピチが何故か説明を始めていた。要約すると、ジン坊ちゃん率いる"ノーネーム"のコミュニティは"魔王"という存在に名前を奪われ、色々不利だよー、というものだ。
そして、今勧誘を受けている。
「…………で、どうですか? 返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日間の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達"フォレス・ガロ"のコミュニティを視察し、十分に検討してから――」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
ヒュー、と口笛を吹く。紅茶を飲み干した久遠ちゃんを見てきっとそう近くない未来に、とんでもない女傑になるんだろうなと思った。少し、俺の方が精神が上だが憧れる。俺は面と向かって言うことが少ないから。
コミュ障って言ったやつ、先生怒らないから手を挙げなさい。そしてそのまま動くんじゃねぇぞ。
「2人はどう思う?」
「別に、どっちでも。 私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」
健気かよ、おにーさん感動だわ。それに比べて俺は……はぁ。
「あら意外。じゃあ私が友達1号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
久遠ちゃんのコミュ力にも脱帽だ。いきなり話に入ってくるピチピチと大違いだ。
「……うん。 飛鳥ら私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
小さく笑って頷く春日部ちゃん。
「じゃあ俺は友達2号に立候補していいか?」
ちょっと言葉にするには気恥しいが、俺にだってやりたい事や守りたい理念はあるのだ。
「……おにーちゃん、って呼ばれたかったんじゃないの?」
「ははっ、それもそうだったな」
なんだ、覚えててくれたのか。なんて可愛げのあるやつだ全く。というか恥ずかしくてまともな返答が浮かんでこねーよ。
「じゃあ私が呼んであげるわ、おにーちゃん」
なんというか、ネタで言ったつもりなんだが自分を攻撃している気がする。久遠ちゃんに追撃されてる気がする。でも悪くない気がする。というか気分は最高だ。
「っと、俺の意見だったな。 俺もジン坊ちゃんのコミュニティで問題ない。 むしろお前のコミュニティの方が問題だ」
ピチピチを指さす。指をさすのはあまり良くないが、まあそういう意味も含めているのだ。上に立つものがピチピチってどうよ。俺はやだね。
「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
だってほら、お前のポジションすぐ死にそうだし。言えるはずもないけどさ、きっと主人公の強さを知らしめるための生贄ポジだろ?
「だから、間に合っているのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけだから、ジン君でもガルドさんでもどちらでも構わない。彼岸くんも理由は何故かは分からないけど、ジン君のコミュニティで問題ない。そうよね?」
「うん」
「そうだな」
「そして私、久遠飛鳥は――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配されているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、このエセ虎紳士」
やけに喋るな、久遠ちゃん。そして態度もなかなか大きいときている。思っていた通りお嬢様だった久遠ちゃんだけど、たまに見る悪辣なお嬢様、と言った感じはしないしこれはまだ何かあるのかな。
エセ虎紳士か、なかなかしっくりと……。あ、凄い怒ってる。
「お……お言葉ですがレデ
「黙りなさい」
なんだ今の。久遠ちゃんが命令した途端、ガルドは不自然に口を閉じた? 言霊のようなものだろうか。久遠ちゃんは神にでも愛されてるの?
その後も久遠ちゃんの強制尋問は続いた。やはり彼女の言葉には従える力があるらしい。
そして何ともまあ、よくある事が発覚した。ピチピチは会話の中でコミュニティを大きくしたいなら、両コミュニティの合意の上ギフトゲームを行うと。この場合ピチピチはコミュニティをチップとしてゲームをした。だがこれはジン坊ちゃん曰く、かなりのレアケースらしい。
久遠ちゃんは相手側コミュニティが、自身のコミュニティの存続をかけるためにギフトゲームを了承するということに、違和感を持ったらしい。そう言われてみれば、確かにピチピチはどうしてコミュニティを賭けたギフトゲームが続けられたのかということになる。
ピチピチはどうやら相手コミュニティの女子供を攫い、脅迫してギフトゲームを仕掛けていたらしい。さらに、従わせるために各コミュニティから、子供を数人ずつ人質にしてるらしい。
さらに人質の子供は腹心の部下が食べたらしい。
久遠ちゃんはどうやら、これ以上の話は聞きたくないらしい。叩けばもっと出てくるかもしれないが、「黙れ」と凄みのある声でピチピチを言葉で押さえつける。
ジン坊ちゃんの違法ですが裁くことは厳しい、に指パッチンでピチピチを解放する。
「こ……この小娘がァァァァァァァァ!!」
悲報、さっきまでピチピチスーツだったけど服がはじけ飛んで変態になった。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかってんだろうなァ!! 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ! その意味が
「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」
あぁ、うるさかったんだな。分かるよその気持ち。というかピチピチ、もうピチピチじゃないけどやけに小物感が上がったな。僕のパパは弁護士、と同じこと言い始めてさ。 弁護士じゃなくて魔王だけど。
ついで言うと、きっと俺らが入ることになるコミュニティは魔王に喧嘩売るんだろうな。じゃないとジン坊ちゃんが俺らを呼んだ意味がわからない。大方魔王に奪われたコミュニティの名前や旗や人や何やらを奪い返す、と言った感じだろう。そうじゃなかったらコミュニティを解散せずにノーネームをやっているメリットが見つからない。
元ピチピチは黙るには黙ったけど、ムキムキの腕を振り上げて久遠ちゃんに襲いかかる。
助ける気はない。春日部ちゃん既に動いているし。別に春日部ちゃんが動いてなくても、元ピチピチを止める気はなかったけど。
「喧嘩はダメ」
その華奢な腕からどうやって力を出しているのか、元ピチピチの腕を掴んででかい体を回転させて押さえつける。そんなん魔術で強化しないと出来ねえよ! と叫びたい。
そこからは流れるように進んだ。ジン坊ちゃんの目的が魔王倒して誇りと仲間達を取り戻すこと、と想像通りだったが久遠ちゃんは元ピチピチ、元ピチピチのコミュニティが潰れるだけでは許せなかったらしい。Sなのかな。
久遠ちゃんは元ピチピチのガルドに、元ピチピチのコミュニティ"フォレス・ガロ"存続と"ノーネーム"の誇りと魂を賭けてギフトゲームを仕掛けてしまったのである。
もしかしたら続きは書かれるかも知れません
誤字脱字意味不明な日本語には、目を瞑ってもらうか指摘してくだされば嬉しいです
キャラがブレブレなんじゃあ〜