彼女との1年   作:チバ

13 / 32
まだ続いていた。そして深夜投稿ごめんなさい。


大学生編
4月 –––再会––– 1


 多くの人の話し声が、空気を交う。

 時刻は12:40分。

 遮れるものが何もない太陽は、ここぞとばかりに明るく照り輝いている。

 

 人混みであふれている駅を出て、バス停に向かう。その間、携帯電話が鳴る。

 

「もしもし?」

『京介か。大丈夫か?』

「心配せずとも大丈夫」

 

 明日から大学一年生となる俺に、未だに心配の声をかける父。

 

『…本当に、すまなかったな』

「気にしてない。もうバスが来るし、切る」

『ああ…何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ。今の私にはお前に援助を送る義務があるからな』

「わかったわかった。何か困ったことがあったら、な」

 

 そう言って通話を切った。

 幼少期に俺を、家族を振り回したという罪悪感からか、俺が一人暮らしをすると言った時は呆気なく認め、さらには援助を勧めてくる始末だ。

 やや鬱陶しいとも思うが、あれが父なりの贖罪なのだろう。

 

 停車したバスに乗り、ガタガタと揺れること数十分。

 俺の新しい家は、六畳のアパートだ。父はもっといい物件を紹介してくれたが、いち大学生の身には手に余るので丁重に遠慮しておいた。

 大学からはそこまで離れておらず、電車一本乗り継ぎなしで辿り着ける距離だ。

 

 そしてもう1つ。

 あれ以来、俺は美竹とは会っていない。お互いにメルアドを交換していないというのもあるのだが。

 俺と美竹を繋ぎ止めるものは、あの未完成だった曲のCDだけだ。

 高校で出来た友人に、曲をウォークマンに入れてもらって以来、毎日というわけではないが、よく聞いている。

 

 彼女は、今ここにいるのだろうか。

 それはわからない。もしかしたら、あの時の俺のように家の都合で引っ越しているかもしれない。

 しかし、彼女がここにいてもいなくても、俺はこの街から離れる気はさらさら無いのだ。

 俺はこの街が好きになった。無論、美竹のこともだが。

 

 バスを降りる。ここからは歩きだ。

 

 5年ぶりとなるこの街。しかし不思議なことに、街並みや道は覚えていた。

 

 途中、小腹が空いたため、北沢精肉店に立ち寄ってコロッケ1つを購入。公園のベンチに座り、1人黙々と食べる。

 

「……」

 

 中学2年生の時以来、この街には一度も足を運んでいない。それどころか、あの後も転校を繰り返し、遠くなっていったほどだ。

 

 何度か諦めかけたものの、その度に彼女との約束、そしてCDを聞いて、虎視眈眈と時を待った。

 

 そして大学生になり、それと同時に一人暮らしを始めることにした。

 

「…行ってみるか」

 

 ただ一言、ポツリと呟いて腰を上げた。

 

 その足取りはゆっくりと、懐かしい街を眺めるように歩いた。

 覚えのある道、ここで曲がって、そういえばここから行けば近道になるのか。今使ったら不法進入で逮捕ものだが。

 

 思い出しながら、新しい発見に驚きながらも神社に辿り着いた。

 辺りは依然として、というより相変わらずというべきか、人気は無かった。

 

「変わらないんだな、ここは」

 

 5年前と変わらずに長い階段を見上げて、俺は一段、足をかけた。一段、一段、また一段。

 前までは面倒臭い長い階段と思っていたが、久しぶりに登ると気分が変わったらしく、無意識に走り出していた。

 

 そうして頂上に着いた。

 

「相変わらず、良い運動になるな」

 

 大学生になったら毎朝ここを走ってみよう。良い運動になるかもしれない。

 

 景色を見ようと伸びをして、柵の方へと目を向けると。

 

 そこに、彼女はいた。

 

「……」

 

 美竹蘭。

 綺麗だった黒いショートヘアに、彼女の瞳の色と同じ緋色のメッシュを入れていた。

 顔立ちも大人びており、簡潔に言うと艶が出た。しかし、そんな顔立ちと対照的にも、服装は革ジャンにジーパンというパンクな姿だ、

 身長の方も少し伸びたのか、5年前には似合っていなかったギターケースも様になっている。

 

「……大槻…」

 

 驚いたように、しかし静かに俺の名を呼ぶ。

 

 予想もしていなかった出会いに、俺は頭が真っ白な状態で、なんて言えばいいのかわからない。

 連絡をし忘れた?久しぶりだな?

 だめだ、こういう時に限って良い言葉が思い浮かばない。

 

 しかし、そんな懐かしの再会に戸惑ってる俺を一刀両断するように、彼女は優しく俺に言った。

 

「おかえり」

「ーーー」

 

 昔のぶっきらぼうでクールな彼女からは考えられない、優しさに満ちた笑顔だった。

 

 そんな優しく暖かい抱擁に応えるように、俺は答えた。

 

「ただいま」

 

 俺はこの街に再び来たのではない。帰って来たのだ。ここは俺の、故郷と呼べる場所なのだ。

 それは、いま目の前にいる彼女が、美竹蘭が証明してくれている。

 

 俺は美竹が好きだ。

 彼女の方はどう思っているのか、それはもうわかりきっている事だった。

 彼女は、懐かしむように、そして歓迎するような優しくて暖かい笑顔を浮かべて、俺を見ていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。