彼女との1年   作:チバ

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蘭side


4月 –––再会––– 2

 上がり框に腰を下ろし、スニーカーの靴紐を結ぶ。

 結び終えたところで、壁にかけていたギターケースを背負い、その上にリュックサックを重ねて背負う。

 

「行ってきます」

 

 とは言っても、今家には私以外誰もいない。

 誰もいない家を嘲笑し、私は扉をあけて外に出た。

 

 Afterglowの練習は午後からだ。

 というのも、午前中は巴が妹のあこの買い物に付き合っているらしい。つぐとモカはバイト。

 残った私とひまりの2人では練習にはならない、ということで午前中は自主練となった。

 

 部屋では新曲のコード進行とアレンジを部屋で黙々とこなしていた。

 

 明日から大学生だというのに、全く高校生の時の変わらない生活スタイルだ。学年が一つ上がるという実感がイマイチ…というか、かなり湧かない。

 

 それにさらに拍車をかけているのが、Afterglowのメンバーとは全員同じ大学。それに付け加えて、高校生の時に知り合ったPoppin' Partyというバンドのメンバーとも同じ大学になるし。

 

 この変化のない日常というのも、案外悪くはないのだろうけど…にしても変わらなすぎるという文句は言いたい。

 

 すると、ポケットにしまっていた携帯電話のバイブが震える。

 取り出し、確認をする。

 

【モカちゃん、只今スタジオに向かっているであります】

 

 モカらしい掴み所ないメッセージだ。それに「わかった」とだけ送信をし、再びポケットにしまった。

 

 暫く歩いていると、廃棄物として道端に置かれていた鏡に映った。

 黒髪には緋色のメッシュを入れた姿。

 

 ふと、5年前に比べて随分と私は変わったな、と思った。

 5年前…私は、彼…大槻京介と会った。

 何かと私をからかう彼のこと。最初こそは、変な奴と思っていたが、いつの間にやら好きになっていた。

 可笑しな男に好意を持ってしまったものだ。ひまりほどではないが、悪い男に引っかかってしまいそうだ。

 

 しかも、クリスマスに告白をするという。

 今思えば、相当恥ずかしいことをしでかしていた。

 所謂若気の至というやつか。

 

 しかし、あの時の神社での邂逅以来、彼とは会っていないし、話してもいない。

 私と彼を繋ぎ止めるものは、何もなかった。ただ思い出が、私の記憶の中に残っているだけだった。

 けどきっと、それはそれで良かったのだと思う。

 

 彼はあの時言った。「またな」と。

 それはきっと、ここに戻ってくるということなのだろう。彼はこの街を気に入っていた。それは間違いない。

 しかし、彼が帰って来た時、私は暖かく受け入れることができるだろうか。もしかしたら新しく好きな人がいるのかもしれない。そんな時、私は彼に何か言えるのだろうか。

 そう考えると、少し自信が無くなってきた。

 

「……バカらしい」

 

 考えて、鼻で笑って一蹴する。

 そんなこと考えたって仕方がない。

 そもそも本当に帰ってくる確証も無いのだ。遠い未来のことになるのかもしれないし。

 

「…けど」

 

 けどまあ、偶には思い出というのを鮮明に思い出すのも悪くはないかもしれない、と思った。

 

 腕時計を見て時間を確認する。

 まだある程度時間はあるようだ。

 私は来た道を振り返り、小走りで駆け出した。

 目的地は、あの神社だ。

 

 

 相変わらず長い階段を登りきった私は、久しぶりに見る景色に魅入っていた。

 

「私は変わったけど、この街は変わらない、かぁ」

 

 その光景は5年前と変わっていなかった。家の並びも、空も、そこに住む人々も、何も変わっていないのだろう。

 

 そろそろ時間だと思い、一つ深呼吸をして振り向く。 

 

 そこに、彼はいた。

 

「……」

 

 大槻京介。

 顔立ちは5年前に比べて大人っぽくなった。

 身長も少し伸びたのか、私より頭一つ分大きい気がする。

 

 見た目は変わったが、しかし雰囲気は変わっていなかった。

 

 彼は驚いた様子で私を見ている。

 

 それは、私も同じだった。

 今さっきまで考えていたことが、現実となったのだから。

 

 暖かく受け入れることができるか。

 自分の心に問うてみる。

 答えは返ってこない、否、自分で決めろと言っている。

 

 だから私は、その時に思った事を、素直に受け止めて、そして彼にこう言った。

 

「おかえり」

「ーーー」

 

 心底驚いているようだ。

 無理もない。私でも何でそんな言葉が出たのかは覚えていない。

 

 ただ多分、これがきっと、私が思っている暖かい受け入れ方なのだろう。

 

 そしてそんな私に抱きつくように、彼は優しく返した。

 

「ただいま」

 

 私は彼が好きだ。

 彼の方は私のことをどう思っているのか、それはもう明白なのかもしれない。

 彼は優しく、そして5年前と同じ目をして私を見ていた。




これにて物語は終わりです。
色々と書きたいですが、とりあえず今まで読んでくださった方々ありがとうございました。
書きたいことは山ほどありますが、とりあえず活動報告でしようかと思います。これからの私の作品の展開と、「彼女との1年」の続編の有無…。
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