彼女との1年   作:チバ

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12月

 俺にとってのクリスマスとは、12月のシーズンに入ってテレビのCMなどを見て初めて認識する程度のものだ。

 

 クリスマスなんて俺にとってはどうでもいいことだった。

 プレゼントは10歳ぐらいの時までもらっていたが、別段そんなことはどうでもよかった。

 

 だからこそだ。こうして俺がクリスマスに、しかも女子と出かけるという出来事に少しだけ動揺しているのは、必然的なのだ。

 

 待ち合わせは公園。理由は美竹の家から近いから。

 俺は待たすのも待たされるのも嫌いなため、10分ぐらい早く家を出た。しかし、そんな俺を嘲笑するかのように美竹はそこにいた。

 

「早くないか」

「待たすの嫌いだし」

「なるほどね」

 

 どうやら彼女も俺と同じ思考回路で動いているらしい。

 

「行くよ」

「はいよ」

 

 短いやり取りでそこから移動する。

 美竹はロングスカート、上にはグレーカラーのニットの長袖シャツに黒いジャケットを着ていた。

 意外とパンクで大人びたな装いをするんだな、と内心で思った。

 

 電車に乗り、少しだけ都会の方に行く。

 何を買うかは美竹次第ということにした。あの時の俺は勝手に前に出ただけであるため、この借りの返しも美竹の勝手ということになっている。別に嫌がらせでもいい、と 言ったが美竹の性格的にそれは無いだろう。

 

 2店3店、店を行き来したがいいものは見つからなかったらしい。俺は彼女に任せっぱなしなので、その店の興味の惹くような物を眺めてたりした。

 

 それから暫く時間が経ち、腹の虫がなる時間になった。

 俺たちは自然と足を飲食店へと運んでいた。

 立ち寄った店はファストフード店。

 

 注文をし、テーブルに肘をつけて適当に待つ。

 

 コップいっぱいに入った水を一気飲みする。

 

「何かお気に召したものは?」

「何も」

「そうか」

 

 俺のための買い物というが、ほぼほぼ彼女の買い物になってる気がしなくもない。

 

 暫く店の中で談笑している他の客の声がBGMとなる。

 俺は外の景色をぼうっと眺め、美竹はコップに入った氷を眺めている。

 

 暫くして注文していた料理が届いた。

 それがキッカケとなったのか、美竹は藪から棒にそれを言った。

 

「私、バンド組むことになった」

「ーーー……」

 

 突然の報告に、思わず言葉を失った。

 しかし、彼女の顔を見返すと、不思議とすぐに受け入れることができた。

 

「…そうか」

「なに、その間」

「驚いただけ」

 

 そう、と美竹は俺を見る。

 

「ギターとか弾けるのか?前までは弾けないとか言ってたけど」

「弾けない。これから練習」

「簡単に言うよな…」

 

 ギターの難易度とかは俺にはよくわからないが、多分気軽に口にして出来るものではないだろう。

 

「まあ、救いがあるとすればドラムをやる巴って人」

「出た、()()()

 

 以前から会話の内容に登場する()()()という人物。今の所、美竹の親友であるという情報しか得れていない。

 

「巴は太鼓とかやっててね。ドラムは初めてやるらしいけど、ある程度わかるらしいよ」

「経験者…ではないが、いるんだな」

「それが救いかな」

 

 美竹は水を一口飲んだ。そんな彼女を見て、俺は思ったことを口にした。

 

「曲はどうするんだ」

「曲…」

 

 答えずに氷を眺めているあたり、まだ具体的な案が無いのだろう。

 

「…多分、オリジナル」

「オリジナル?」

「そう。他人の歌詞を歌うのはなんだか気が引けるし…」

「そんなものか」

「そういうもの」

 

 それはおそらく、彼女なりのプライドなのだろう。彼女がどういう目的でバンドを組んだのかはわからないが、そういう理由でオリジナル曲を作るというのは、なんだか美竹らしい気がした。

 

「作曲は…わからないけど、作詞なら出来ると思うし」

「どこからその自信が湧いてくるんだ」

「国語の成績」

 

 なるほど、と肩をすくめた。

 確かに美竹の国語の成績は優秀だ。それは俺がよくわかっている。

 

 それからも互いに当たり障りのない世間話をしながら食事を進めた。

 

 十数分ぐらいか。

 食事を終えて、互いに会計して店から出た。

 

「で、次はどちらへ?」

「…少し遠いけど」

 

 何か考え悩んだよう間を挟み、美竹は提案した。

 黙ってその案を受け入れると、彼女は付いてきて、というように俺を見た。俺はその視線通りに美竹の背中を追った。

 

 それからどれぐらい歩いた…というか進んだだろうか。

 途中でバスに乗り、そこからさらに歩いた。

 

 そこで辿り着いたのが、古風な雑貨屋だった。そこは都心から少し離れた所にある。

 

「……」

 

 店に入り、辺りを見回す。

 インテリアから装飾品など、様々な物が置かれていた。

 その中に、朱色に輝くネックレスが飾ってあった。なんだか美竹みたいな色付きだな、と思った。

 

 都心から離れているという先入感が働いてか、映画のワンシーンの中にいる気分になった。

 

「あらあら、蘭ちゃん」

「ご無沙汰しています」

 

 店や奥から出てきたのは初老のご婦人だった。俺の顔を見て頭を下げたので、俺も頭を下げた。

 

「また大きくなって…」

「1年だとそんなに変わりませんよ」

「いやいや、蘭ちゃんはドンドン大人に向かってるよ」

 

 穏やかな声で美竹に語るご婦人。

 

「あちらの方は?」

「友達」

「まあ。蘭ちゃんがお世話になっております」

「あ、いえいえ、そんな…」

 

 なんて言って深々と頭を下げるものだから、動揺して上手く対処できなかった。

 

「もういいから…とりあえず今日はお客さんとして来たので」

「そうなの。なら、ゆっくりと選んでいってね」

 

 落ち着いた、温厚な声でそう促した。

 

 俺は美竹が品定めをしているところを見ながら、ご婦人から頂いたお茶を飲んでいた。

 

「えーっと…蘭ちゃんのお友達さん…?」

「大槻です。大槻京介」

「ごめんなさい、大槻さん。蘭ちゃんは普段、どんな感じなのかしら?」

 

 その落ち着いた声に、俺は普段の美竹の姿を思い出しながら答えた。

 

「…まあ、静か、ですね」

「静か」

「はい。それでもどこか熱いところがあって…見た目はクールだけど、中身は激情家、みたいな感じです」

「そう…ふふっ」

 

 と、俺の言葉を聞き届けたご婦人は笑いをこぼす。

 

「あなたは、よく蘭ちゃんを見ているのね」

「ええ、まあ…学校で1番とは言いませんが、よく話はします」

「そう。それでもいいことだわ」

 

 ご婦人はどこか、美竹のことを他者とは違う目線で語っていた。

 

「蘭ちゃんはね、硝子なの」

「硝子?」

「ええ。とても美しくて透き通っているけれど、一度衝撃を与えてしまえば割れてしまう…それが蘭ちゃんなの」

 

 その硝子の形を頭に思い描き、美竹の姿と重ねてみる。確かに、美竹は硝子だった。

 

「昔からお家のこととか、友達のこととかでね。何度も傷ついては泣いていたのよ」

 

 その言葉で、最初の屋上での彼女の姿を思い出した。

 

「ほら見て」

 

 美竹の姿を見る。

 

「今、蘭ちゃんはあなたへの贈り物を選んでいるのでしょう?」

「…そのようです」

「だったら、きっとあなたは蘭ちゃんからとても信頼、もしくは好意を持たれているのでしょうね」

「何で、そう言い切れるのですか?」

 

 その問いに、婦人は即答で返した。

 

「よく見てみて。あんなに楽しそうに物を選んでいる」

「……」

 

 その姿はいつもと変わらないように見えた。しかし、よく見てみると、目が笑っていた。

 表情は冷静で、いつもの美竹という感じだが、目は違った。輝かせていたのだ。

 

 そんな美竹の姿を見て、俺はふと思った。

 

「…すいません……」

 

 微笑んでいる婦人に、俺は静かに声をかけた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 店から出て、徒歩、バスを使って街に帰ってくる頃には、辺りは闇の世界となっていた。

 空は黒色に染まり、その中で小さく星々が煌めいていた。

 

 はぁ、白色の吐息が宙を漂った。

 

「寒いな」

「そうだね」

 

 言葉を紡ぐ度に白い息が宙を舞う。

 

「雪とか降らなかったな」

「ホワイトクリスマス狙ってたの?大槻って意外とロマンチスト」

「思っただけだ」

 

 と、今朝の待ち合わせの公園の前に着いた。

 ここが俺たちの別れ道だ。

 そこで俺は肩に掛けていたショルダーバッグから小包を取り出し、美竹に差し出した。

 

「…これは?」

「さっきのあの店で買った」

「なんで、また」

 

 その美竹の疑問は当然だろう。

 俺もその場の思いつきで買ったのだ。理由などない。

 

「思いつきだ。別に気にするな、これは俺が勝手に買っただけだ。なんだったら、クリスマスプレゼントとして受け取ってくれよ」

「へぇ…」

 

 美竹は不思議なものを見るように俺を見た。

 

「大槻にも、そういうところがあるんだ」

「……まあな」

 

 言い返してやりたかったが、これといって文句も思い浮かばない上に、よく考えてみるとその通りだった。

 

 すると、美竹は夜空を見上げた。

 一つ大きく息を吸い、そして吐いた。

 そして何事もないように、それを言った。

 

「…大槻」

「ん?」

「私、あんたのこと好き」

 

 突然のことだった。予期せぬ場所で予期せぬ台詞。

 

「ーーー」

 

 言葉を失う。

 なんでそんなことを。俺は美竹を目だけで見ると、表情はいつも通りだったが、耳が赤かった。

 それを見て、俺は不思議とその言葉を受け入れていた。

 

「ーーーああ」

 

次に出てきた言葉は、そんなあやふやで掴み所のない言葉。

 

 しかし、俺はなんとなく、自分の中にあった変な思いを、形成することができていた。

 この不確かで初めて体験したあの思い、名前をつけるのながら、多分それは恋だ。

 

「俺も、同じだ」

 

 短く紡ぎ出されたその言葉。

 その言葉を聞き届けた美竹は、俺を横目に見て、微笑んだ。 

 

「そうか」

「ああ、そうだ」

 

 ひどく短いやり取り。

 しかし、俺と美竹の間にはそれだけで充分だった。

 

 美竹は歩きだし、振り向いて言う。

 

「おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 俺はそう返し、美竹の後ろ姿を見届けた。

 先ほどの彼女と同じく、夜空を見上げる。

 この顔の熱さを冷ます雪は、やはり降らなかった。




2人の関係は目に見える形で進展した。
しかし、タイトルからわかるように、時間は刻一刻と進んでいく…。
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