電「久しぶりに予想が外れたのです。」
翔「まあ、書き貯め無しだから“次回予告”が出来ないんだ。」
電「ご理解のほど、お願いするのです」
翔「────というわけで、」
翔・電『本編へ、どうぞ!』
ㅤ医務室を後にした私は、執務室でずっと考えていた。
話によるとあの艦娘は響といい、外国から(流れて)来たとのことだ。
しかし、このままこの鎮守府に着任させるのは色々と問題になるはずだ。
「ていとく〜、なにをそんなに悩んでんの〜?」
ソファーから気の抜けた北上の声がする。
...まあ、ここのソファーは確かに寝心地が良いのだが。
「もうこの鎮守府に慣れたのか?」
ㅤ着任当日からソファーに寝っ転がるとは、なかなか肝の座った艦娘である。
「んー?まあ、ね。
前の鎮守府はピリピリしてるし、提督も働かないし、ね...
それに対してここの鎮守府のみんなは優しいし、笑顔が溢れてると思うよ?
そんないい鎮守府の提督が、自由時間中ソファーに寝っ転がる程度で文句つけるような無能なわけが無いよね〜って。
やっぱ指導者が違うと世界が180°違って見えるな〜。」
持ち上げて許しを得ようという算段か?
ㅤ...まぁ、元から咎めるつもりは全くなかったが。
「そんなことない。
私はただ、やるべき事をやっているだけだ。」
「ふーん...?」
納得いったのかいってないのかわからない声で返事をしたあと、声は聞こえなくなった。
...寝てしまったのだろうか。
一旦作業を止め、ここ最近は冷えるので予備の毛布を掛けてやる。思い切り無防備で、かわいい寝顔をしている。
「...さて。」
机に座り、響から受け取ったドッグタグから妖精さんの力を借りて艤装展開、調べてみる。
砲はかなり使い込まれているが、メンテナンスは欠かしていないようだ。
...元の鎮守府では重宝されていたのだろう。
そんな子を勝手に第七鎮守府が所有するのはやはり国際問題にも繋がりそうな気がする。
もう一度手袋をして、妖精さんの手も借りさらに艤装を弄ってみると、航海記録を残すための機械...ブラックボックスが取り付けられていた。
艦娘は戦いにおいて負けると沈んでしまうため、日本では基本ブラックボックスは搭載していない。
響の鎮守府の提督はよほど艦娘を大事に思っているのだろうか。
...ブラックボックス?
「これだ!!」
「?!!」
ドサッ、と音を立てて北上が転げ落ちる。
「なんなのさ大声だしてー!」
「すまんすまん」
怒る北上を適当に受け流してブラックボックスを開封、ノートパソコンにUSB接続。
「さっきからさぁ、提督何してん...の......?」
北上がモニターをのぞき込んでくる。
そこには嵐の中深海棲艦の襲撃に遭い、仲間とはぐれて漂流する映像が映し出されていた。
さらに解析しファイルを開くと、漂流してきたルートも記録されていた。
響は漂流中は無傷でこの鎮守府の海岸までたどり着いた...
────ということは、このルートを辿っていくと深海棲艦に襲われることなく、彼女の鎮守府があると思われるウラジオストクまで行けるのでは?!
「こいつは...」
このルートの安全が確認出来れば、孤立無援だった日本とユーラシア大陸を繋ぐ『道』を発見したことになる。
「何?この映像...
そういえば鎮守府着いたと思ったら警戒態勢なんて言ってさ?
提督...何か隠してるでしょ?」
「そういえば、皆に言ってなかったな。」
マイクを手に取って、
「『館内放送。
今回の件について全員に話したい。医務室に集まってくれ。』
...よし、行くぞ?」
∽
艦娘全員が集まるにはこの医務室は少し狭かったようだが、私たちが着くと、ほとんどみんな集まっていた。
「全員揃ったか...?」
「────大丈夫です。」
ぬっ、と翔の後ろから出てきた加賀が翔のつぶやきに答えてくれる。
......
ありがとう、と一礼。
「よし、聞いてくれ。
この子は駆逐艦・響。深海棲艦からの奇襲を受けて、ウラジオストク沖から漂着したらしい。
来週あたりに航路を組んで、護送するつもりだ。編成は龍田と第六駆逐隊で頼む。」
「提督。」
ぱっと手が上がる。
「......どうした?加賀。」
「深海棲艦との交戦も考えられるかと思います。重巡洋艦、戦艦を加えた戦闘にも対応できる編成が良いかと思いますが...」
うんうんと何人かの艦娘も頷く。
「わかっているが、今回は...運が良ければ深海棲艦と一切交戦しない。」
ざわっ...!
「提督さん、深海棲艦と交戦せずにウラジオストクまで行けたら...ここまで日本は衰退してませんよ?」
幾分かの皮肉を込めて、龍田が聞いてくる。まさにその通りだ。
「ああ。今回の護送が上手く行けば、初めて私たちが航路を発見することになる。」
ざわっ... ざわっ...
「敵艦を発見したら、全速力で逃げ切ってほしいんだ。もちろん、はぐれ艦隊程度の相手なら迎撃して追い払ってくれ。幸いにもここからウラジオストクは日本の中でもかなり近い場所だから、途中で救援信号を発信...迎えを出してもらうつもりだ。」
はぁ。と加賀はため息をついて、
「...ほんとに先月着任なのかしら。」
「流石は司令官ね!」
パチパチパチパチ...
拍手が起こる。ひとまず納得してもらえたようだ。
「ありがとう、ありがとう。
正式な発令はまた後日、なるべく早く行うつもりだ。私の作戦に何かしら意見・質問があるなら、遠慮なく執務室に居る私を訪ねてくれ。」
『了解!』
みんなの返事を聞いてから医務室を後にする。
∽
時は少し戻る。
「こんにちは、加賀さん!」
「流石は加賀さんね!一番乗りだわ!」
「前の鎮守府でも一番のレディーだったわ!私の次にね!」
「...よろしく頼むよ。」
私が医務室へ着くと、第六駆逐隊がベッドで白い艦娘と仲良く話していた。
白髪に色素の薄い肌。普通なら一瞬深海棲艦を疑うような容姿だが、艦娘の私たちはどんなに深海棲艦に似ていようが、艦娘だけは見分けられるという、形容しがたいが...本能、習性?のようなものを持っている。
......
「あなたは...元からここにいた艦娘?」
「あぁ、私は響。
ここに着任したんじゃなくて、深海棲艦との交戦中に嵐に巻き込まれて、はぐれてしまってね...漂着してきた所を憲兵さんに見つけてもらったんだ。」
聞くところによるとウラジオストクから漂着したらしい。よくここまで「わっ」流れてきたことだ。途中で別の深海棲艦には見つからなかったのだろうか。こんな可愛い子が何日も漂流だなんて考えられない。可哀想に、かわいそうに...
「な、流れるように響お姉ちゃんを膝に乗っけたのです...」
「...お前は正規空母の加賀、だっけか?」
横スライド式の扉を開けて入ってきた摩耶。
「...あなたが演習で私の艦載機をことごとく落としてくれた子ね?
正直、あそこまでやられるとは思っていなかったわ。完敗よ。」
私の手塩にかけて育ててきた艦載機を、たった重巡1人であれほど落とされたのは驚いた。
「か、加賀さんが人を褒めているわ!!
前の鎮守府で、たとえMVPを取ってもダメ出しをして、調子に乗りそうな艦娘を次々と黙らせてきたあの加賀さんが!」
「な、なんですってー!!」
暁と雷が妙に説明的な口調で何か言っている。
ちなみに電は、続々とやってくる艦娘に響の紹介をしていた。実にかわいらしい。
「んなことガキを膝に乗せて撫でくりまわしながら言われてもな...
でもまあらそう言うアンタの偵察機の編隊飛行、相当訓練してただろ?見事なもんだったぜ。」
...ガシッ。
二人どちらとも無く握手して、にやっと笑う。
元々人見知り気質であることを自覚しているが、この鎮守府の艦娘となら上手くやっていけそうだ。
「ところで、摩耶さんと加賀さん...って言ったかな?
話し方からして二人は戦ったのかい?」
「そうよ。さっきまで私や暁さんは第六鎮守府の艦娘だったけど、演習の後第七鎮守府に着任したわ。」
「艦娘を賭けて演習をしたのかい?!」
「ええ。...でも、ここに来て良かったと思っているわ。」
響の頭をゆっくりと撫でてやる。
んー、と目を細める。とてもかわいらしい。
「それにしても...艦娘を物のように賭け皿に乗せるとは思わなかったな。」
「そうね...まだ日本人は私たち艦娘を怖がっているようにも見えるわ。」
「日本人特有の“変化を怖がる”性格が裏目に出てしまったのかな。」
「...そういうことね。」
ぎゅっ、と抱きしめてやると脱力してされるがままになる。一瞬襲いたい衝動に駆られるが────
「全員揃ったか...?」
提督と北上が入ってきたのが見えた。
夜。
執務室前。一瞬ノックしようか迷って結局、失礼しますと言いながら扉を開く。
ソファー二つに長テーブル、奥には木製の箪笥が置いてあり、畳があの独特の“良い香り”を放っている。
正面の執務机の奥には海を眺められるくらいに大きな窓があり、月明かりはやさしく海を照らしていて、その幻想的な景色にはつい見とれそうになってしまう。
飾り気のない地味な部屋とも言えるが、私はこの質素な執務室を気に入っていた。
そうだ、そういえばここの執務室は畳だから靴を脱がなければならないのだ。
仕事をする環境にしては締まらない気もするが、ある意味この方が落ち着いてこなせるのかもしれない。
「...ん?加賀か。
すまんが今は手が離せなくてな...」
やっと私に気づいたのか、翔が声をかける。
...見れば膝に電を乗せて何か書類を作っているようだ。
うらやま────あんなことして作業は出来るのか、と思ったら電もペンを持って手を動かしている。
...
普通秘書艦は戦艦や空母がよく務める傾向があるのだが、ここの鎮守府は駆逐艦の電が務めているらしい。
しかし駆逐艦であるものの、流石は秘書艦に選ばれるだけある。ほぼ言葉を交わさずに阿吽の呼吸でてきぱきと書類整理を進めているようだ。
「少々拝見...」
...覗き込むと海図やら資料やらモニターやら乱雑に広げられているが、ペンを持っていない右手の指先で電は翔に資料をはじき飛ばしている。
「...今、何を作っているのかしら。」
「響お姉ちゃんの漂流したルートを割り出して、資料にまとめているのです。」
「そんでもって、大本営に提出するつもりだ。」
なるほど、漂着したルートを辿れば深海棲艦と遭遇することなく響の元いた鎮守府との海路を繋ぐことが出来るのか。
「先ほどから指で資料を弾いていますが...」
「ああ、それは司令官さんのほしい資料を弾いて渡しているのです。」
「電は私の仕事を、私は電の仕事の進行を見て、欲しいと思う資料を渡しているんだ。」
...は?
「...つまり、二人はお互いの仕事を見ながら自分の仕事をこなしていると?」
しかもかなりの速さで。
少なくとも着任して1ヶ月も経っていない新任提督とは思えない。
...演習では格上の私たちを相手に勝利へと導き、鎮守府を改装し、更には効率よくデスクワークをこなせる。
────あの人とは大違いだ。
「その、私に出来ることがあれば...
────手伝いましょうか?」
「「助かる(のです)!!」」
二人は同時にこっちを向いて目をキラキラさせる。
「まずはこの私たちが作った資料を文章に上手いことまとめてくれ一応論文形式だから原稿用紙何十枚かここに置いておくぞ。」
「この冊子とこの冊子とあれとあれとこのグラフと...これもなのです!」
瞬く間にドサドサと書類やら資料が積まれていく。
しかし、二人がまだ処理し終えていない量の半分以下だ。
...私のペースならちょうど三人同時に終えることが出来そうな量。たぶん、無理ではない量を考えて任せてくれたのだろう。いや、この提督ならきっとそうに違いない。
「...加賀、少し多すぎたか?」
「...いえ、完璧に仕上げてみせます。
────一航戦の誇りにかけて。」
この提督なら、信頼できる。
∽∽∽
────これもだ。
どさり、と書類が積まれる。
────私ばかりに押し付けずに自分も手を動かしてはどうです?
────うるせぇなあ!お前は秘書艦なんだから言われたことをやればいいんだよ!!
今まで溜まっていた私の中で、なにかがブツリと切れた。
────またその言葉ですか。毎回毎回同じことばかり。少しは語彙力を身につけてはどうです?
そういえばこの前の演習、また負けていましたよね?
指揮能力も酷いしデスクワークも出来ない、おまけにこの偉そうな態度。
私を秘書艦に選んだのも見た目からでしょう?チラチラ見ていたりぶつかると同時に触っているのは気づいてますよ?
────貴様...!
もういい。お前を秘書艦から外す。
────ありがとうございます。もう二度とあなたのデスクワークの手伝いとセクハラ係を受けなくて済むのなら。
────うるさい!さっさと出ていけ!!
────言われずとも。
ドアはいつものようにパタンと閉めて、暗い廊下を歩いていく。
ㅤ申し訳程度の布団一枚が置かれた質素な部屋だ。
ㅤ空母は私しかいないのでこの小さな部屋を一人で使わせてもらっている。
ㅤ誰ひとりとして居ない、私の部屋。
────あれだけ嫌だったのに、いざ辞めさせられるとつまらないものですね...
────もっと優秀な提督の元なら、私も...
────なぜでしょうか、涙が出てきました。
────うぅっ、ひっく、ぐすん...
ㅤ清々しい気分なのに、そのはずなのに、涙が溢れて止まらない。
その涙を見た人は、誰ひとり居ない。
その涙を慰める人も、誰ひとり居ない。
∽∽∽
後書き・榛名
「こっ、ここまで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございます。
ㅤ今回は第六駆逐隊のみなさんじゃなくて、加賀さんのお話になりましたね...
ㅤタイトルを見て戸惑った読者の皆様には本当に申し訳ないです。
ㅤ次回、サブタイトル予想・『夜の鎮守府』。
ㅤどうぞお楽しみに!」