ご理解のほどをお願いします。
「よく来てくれた、鞍馬くん、電くん。」
白髪混じりの髪の毛、シワのある手のひら、だが歳を感じさせない体格......黒条元帥だ。直接会うのは二度目だが、彼の風格は衰える気配すらない。
のだが。
「まあ、座りたまえ。」
「はっ、失礼致します。」
司令室は意外と質素なものだった。
木製のテーブルにそれなりのソファー。胸ポケットの万年筆こそ、金装飾の高そうなものだったが...それ以外にこれといったものは見受けられない。
強いて言うなら、箪笥の上のボトルシップぐらいか。
と、女性がテーブルに三人分の茶を置く。
「────ッ?!」
「どうした?電。」
秘書の女性が電に近づいたその時、身を
「な、何でもないのです。」
取り繕う電の息は少し荒く、翔の裾を掴む手は小刻みに震えていて、翔はどこか引っかかるように感じた。
「......!」
不意にその女性と、目が合った。
「......フフっ」
にっこりと微笑んでくる。
いっそ病的に見える白い肌を包む軍服は綺麗に整えられ、墨を落としたような長い黒髪はさらさらに梳かされていた。
目深に被ったベレー帽がまた洒落ている。
電の可愛らしさとは違った、たいそう魅力的な秘書さんだ。きっと電も緊張したに違いない。
...ん?いや待て、それは
「......今日ここに呼んだのは他でもない、君に提督を務めてもらいたいからだ。」
元帥の言葉で思考の海から急速浮上。
「はっ。ですが......その、一つ、よろしいでしょうか?」
「どうかしたのかね?」
「その、決して失礼や愚弄をはたらくつもりは毛頭ないのですが......」
「先程から元帥の周りに見える、小人は一体───」
部屋に入った時から気になっていた。今も元帥の肩や膝の上、更には帽子の上でえっへん!と偉そうに胸を張っているのもいる。なんとも無礼千万なヤツである。
「ふむ、君にも妖精が見えるのか!」
突然元帥が机に身を乗り出す。
帽子の上で立っていた妖精?とやらがポテンと机に転がり落ちる。
いたいーっ
「はわあ?!翔さんにも見えていたのですか!」
「電、お前も......?」
「はい、私は艦娘だから見...感じることができるのです。」
初耳である。
軍学校では艦娘とよく関わっていた私だが、艦娘や工廠の近くでたまに小人を見ることがあったのだ。
何を言いたいのか?それは私自身にもわからない。
だが、言葉で表すならばそうとしか言いようがない。
しかし、人間に友達がいなかった翔はせめて艦娘からは変な目で見られぬように、と見て見ぬふり。小人については電にさえ話さないでいたのだ。
......艦娘、それも見た目が小中学生の駆逐艦と同居しているような奴が『小人が見える!』なんて言ってみろ。黄色い救急車を呼ぶ羽目になるだろう。
「まあ、私から説明しようじゃないか。
妖精とは、艦艇の艤装に宿る魂に受肉、具現化したものだと言われている。
つまりは、語呂は悪いかもしれないが...艤装娘、と言ったところか。
彼女らは地縛霊のように艦娘の艤装に居座る者もいれば、工廠で艤装製造に携わる者もいるのだよ。」
指先でぐしぐしと妖精の頭を撫でながら語る元帥。
艦娘は艦艇自体の魂から〜、とは軍学校で習ったことだが、妖精については全く教えられていない。
「だが、艦艇に搭載されている艤装に残った魂は、薄かったのだよ。」
「────同じように魂から生まれた艦娘には当然のごとく見えますが、人間には見える、見えないの差が生まれる...ということでしょうか。」
「そういうことだ。頭が回るじゃないか。」
あたまいいー
すごーい
きたいのしんせー
妖精たちから囃されて、少しくすぐったい気持ちになる。
「いえ、もったいなきお言葉。」
「まあ、妖精を目視できる人間は十万人に一人あるかないかと言われておる。
また妖精と意思疎通...話せる者も居るのだが、それは更に目視できる人間百人の中に一人程度。
日本に居ても十人余り、という計算か。」
じゅーにんー
はなせるー
えらばれしゆうしゃー
「話せる人間は選ばれし勇者ですって。」
電があははと笑う。
かんむすー
いなづまー
なのですー
「ふふ、今この子らはお前の電について話しているぞ。」
元帥も微笑みながら教えてくれる。
このひと、てーとくー?
「いや、まだ軍学校卒業したばかりの若造だよ。」
妖精が話しかけてきたので、当然のように返す。
「鞍馬くん、もしや君は...」
「はい、なかなか言い出すことができず...」
「妖精を視認出来るどころか、意思疎通もできるとは。いやはや実に僥倖...」
元帥は驚き打ちひしがれ、電は驚きはわはわしていた。
閑話休題。
「何故、私を
私がずっと謎に思っていた事だった。
ただ周りより頭がキレるだけで軍学校卒業から即指揮官クラスの役職に就けるなど、たとえ元帥の息子でも有り得ないことだ。
「指揮官として優秀な人材は確かにいた。だが、君は『提督』として、最も相応しいと私は見た。」
「と、言いますと?」
つい聞き返してしまう。
「妖精が視認でき、意思疎通ができることもあるのだが...
────君は艦娘に最も近寄った人間だからだ。」
優しい目で翔を見る黒条元帥。
「艦娘が現れて五年、これまでにいくつもの鎮守府を見てきた。
が、やはり未知の生命体という印象を拭い去ることが出来ないのだろう。
どの提督も、艦娘との間にやはり線引きのようなものがあった。毛嫌いする者、人ではなく『物』としてこき使う者、更には女子の姿が故に、...手を出す者もいた。」
「......」
私も薄々気づいていた。艦娘と出会った学生たちは女の子に声を掛けようかという好奇、そして兵器に対する恐怖といった目で見ていた。
だが、艤装展開していない艦娘は人間の女子と同程度の力しかなく、また展開許可が出ない限りその力を振るえないことを教わると、学生たちはいつ反乱するかわからない、と艦娘を毛嫌いし、またその規則を逆手に取って虐げる者もいた。
「────だが」
電の頭を大きな手で撫でながら元帥は語る。
「そんな艦娘たちの中でも避けられてきたこの子に、君は手を差し伸べた。
たしかに艦娘と仲のいい者は、ほんの数人だがいた。
しかし、そんな者たちも見捨ててきたこの子に、君は光を当てた。」
翔の脳裏に浮かぶあの記憶。
昔住んでいた港町に、深海棲艦の襲撃があった。両親と......“あいつ”は、爆風に巻き込まれた。
一人残された翔は寮制の軍学校に入学し、何も起こさずに平穏な日々を満喫していたが、あの日。
......電と出会った、四年制軍学校生活三年生の春。
────翔は『変わった』のだ。
「君に着任してもらおうと思っている第七鎮守府は、ここからかなり遠い場所にあるのだが......それをいいことに前任がまあ手酷くやってくれてなぁ。
所属していた艦娘たちは一度ここに来てもらってから、他の鎮守府へ異動してもらったのだが......まだ数人、第七鎮守府に残っている艦娘が居るのだよ。
君なら、あの鎮守府の艦娘たちを救えると信じている。資金もある程度なら工面しよう。
どうかこの老いぼれの願い、引き受けてはくれまいか?」
......ここでノーと言える軍人を、私は見てみたい。
ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。コンブ伯爵です。
前書きにもあった通り、不定期更新とさせていただきます。
遅くとも、1週間以内には投稿できるように努力していく所存です。
ご理解のほど、お願いします。
物語の方は...前回と同じく設定説明まみれ...
七面倒臭い設定を生意気にも長々と載せていますが、読んでいただけると幸いです。
次回、ようやく一話冒頭の続きへと戻ります。
翔くんと電たんは鎮守府敷地内に足を踏み入れます。
...きっとまた設定まみれの駄文を綴ることになるかもしれませんが、どうかお付き合いください。
それではまた次回、お会いできることを心よりお待ちしております。