あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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電「おまたせしたのです!」

翔「今回は予告通り“繋ぎ”の回になりそうだ。」

電「軽い気持ちで見てほしいのです!てことで...」

翔・電『────本編へ、どうぞ!』



27話 備えあれば憂いなし

 諜報部第七鎮守府調査から一週間、六月に入って。

 

 

 

「っくぁーーー、いい朝だぜ!」

 

 俺は部屋で艤装の朝メンテナンスを終えて、今から朝飯を食べに行くところだ。

 

「...ん?」

 

 廊下を歩いていると何やらざわついている。

 

 ...どうやら青葉が諜報部で『艦娘新聞』なるものを発行し、興味を持ったいろんな艦娘たちが集っているらしい。

 

 青葉と言えば、突然現れては写真を撮ってきたり、他鎮守府に忍び込んだり、いわゆる“変人”としてみんなは見なしていた。

 

 だが俺は、青葉の目に“アイツ”とどこか似た、強い意志のようなものを感じていた。

 

 そして数ヶ月前。

 

 

 『青葉は...青葉はやりましたよーーー!!』

 

 

 青葉は見事第七鎮守府の悪事を暴き、その功績を讃えて元帥のジイさんは諜報部を設立したって訳だ。

 

 それまで変人だとか言ってた奴らも、次第に青葉を認めていくようになった。

 

 ノリは軽いクセに努力を怠らない...去年まで通ってた軍学校のルームメイトを思い出す。

 確か第六鎮守府に行ったって聞いたが、上手くやってるといいんだけどなぁ...

 

 ...うん、気が変わった。

 青葉の努力の結晶とやら、見せてもらおうじゃねぇか!

 

 ────ぽすっ。

 

 おっ!

 ちょうど人だかりの中から一部飛んできやがった!

 

 ラッキー、と思いつつ手に取ろうとすると、

 

 

 「「あっ」」

 

 

 誰かと手が重なった。

 

「あら、あらあら。お姉さんにも見せてくれる?」

 

「っ、陸奥の姉貴!」

 

 陸奥はここの第一艦隊を勤めている、超強え奴。

 たぶん火力だけで言ったら全鎮守府で三本の指に入るほどの実力者だ。

 この世界基準軽く超えちまってる俺も、敬意を込めて『姉貴』って呼ばせてもらってるほどなんだぜ?

 

「あんたも、この新聞を聞きつけたのか?」

 

「えぇ、そうね。今日は出撃も休みだし、ゆっくり過ごそうと思ったらこの騒ぎよ。」

 

「うし、じゃあ朝飯でもつまみながら見てみようぜ?」

 

「そうね。」

 

 

 

 ────あの第七鎮守府に新提督着任!

 

 ────二十歳(はたち)にも満たない期待の新人?!

 

 ────類を見ない艦娘に対する優しさ!

 (弱視の秘書艦の手を引いてエスコートする写真)

 

 

 

 「「これって...」」

 

 

 

 ────第七鎮守府、鞍馬提督の今後に期待です!

 

 

 

 「「鞍馬くん(の野郎)と電ちゃん(じゃねーか)!!」」

 

 

 

 

 

 

 「「────え?知ってる?」」

 

 二人は顔を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────大本営諜報部より、『艦娘新聞』が発行された。

 

 ────この艦娘新聞・第一部は大本営に勤めている艦娘と元帥にだけ配られ、世には出回らなかった。

 

 ────しかし大本営内で大きな反響を得たこの新聞は、後に人間と艦娘の関係を大きく変えることになる...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...さて、全員集まったな?

 これを一枚ずつ受け取ってくれ。」

 

 一枚一枚名前の書かれた、茶封筒。

 

「こ、これは...?」

 

「みんなへの給料だ。

 

 ...そもそも提督に入る給料の9割以上が君たちの働きなんだ。

 それを私が独り占めだなんて、私にはできない。

 駆逐艦の分はまだ...うん、少なめに入っているが、それ以外のみんなには少し多めに入れたから、服とか高いものを買いたいならゴマすって頼むんだぞ?」

 

 「「「「「......」」」」」

 

 みんな封筒を見てしばらくポカーンとして、

 

 「「「「「て...て......」」」」」

 

「手?」

 

 「「「「「ていとくうううう!!」」」」」

 

「おわっ?!」

 

 みんなが一斉になだれ込んできた。

 

「提督!!

 榛名は...はるなはぁ...!」

 

 涙しながら飛びついて来る娘もいれば、

 

「......」

 

 相変わらずの無表情で飛びついて来る娘もいれば、

  

「提督てめぇ粋なことしやがって!このっ!このこのっ!」

 

 バンバンと背中を叩いてくる娘もいる。...痛い痛い!

 

「そっ、それと、大事な知らせがある!」

 

 

 

 「「「「「......?」」」」」

 

 

 

 ピタァ...と動きを止める一同。

 

「ゲフン、君たちには数多くの出撃・遠征を頑張ってもらったが、夏にある大規模作戦には参加出来ないみたいなんだ。

 そして、今回の大規模作戦は懲戒艦隊として一時的に第八鎮守府の世話になることが決まった。」

 

「つまり...どういうことなんだ?」

 

「第八鎮守府は市民のほとんどが撤退した沖縄に位置する。

 ...まあ、なんだ。大規模作戦に参加せず、たまに近海警備をするだけで、

 

  

 

 ────あとは南の島でバカンスだ!」

 

 

 

 「「な、なんだってー!」」

 

 やはり鈴谷と北上が漫画のように驚く。

 

「今月下旬辺りから約一ヶ月世話になるから、今のうちに私服など各自備えるように。

 あと、買い出しは私か憲兵さんのどちらかを連れていけよ?」

 

 「「「「「了解!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side・翔

 

 私は第六駆逐隊の三人と北上、摩耶、榛名を電気ジープに乗っけて走っていた。

 見た目は厳ついがあくまで電気自動車...あのジープ“らしい”エンジン音は鳴らない。

 静かで良いのかも知れないが、やはり翔も男。車体を小刻みに揺らすあの『ブロロロロロ...』という音を楽しみたかったのだが、燃料資源がかなり限られているこのご時世なので黙っておく。

 

「てーとくって、バイクも車も運転できるんだね〜。」

 

「ああ。軍学校時代にパパっと取って、今日が初めての運転だ。」

 

 「「「「「え...?」」」」」

 

「大丈夫大丈夫、運転方法は今も覚えている。なんならマニュアルでも行けるぞ?」

 

 つくづく器用な奴である。

 

「じ、事故ったらどうすんだよ!」

 

「事故った時に考える。」

 

「えぇ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなビクビクしていたが、本当は裏で乗り回してるんじゃないかと聞きたくなるくらいにスマートな運転でショッピングモールに着いた。

 

「まずは何を買うのです?」

 

「そうだな...服とかどうだ?

 一応、私が居ると買いづらいものもあるかもしれないから、ここの椅子で待ってるぞ?」

 

 「「「「「はーい」」」」」

 

 ...ちなみに、弱視の電は榛名におんぶしてもらって店内に入っていった。

 

 

 

 

 

 『これとかどう?』

 

 『アタシは服とか興味無いからな...』

 

 『うっわぁ...そんなスタイル良いのによく言えるね〜...』

 

 『手伝うわ!』

 

 わいわいきゃっきゃ────

 

 

 

 

 

 「......遅い。」

 

 みんなを見送って二時間半も私は店の前で待たされている。

 ちらと隣を見ると、一般客のおっさんと目が合った。

 おっさんは『やれやれ...』というような翔に対する憐憫と、同じような境遇...であろう自嘲を含んだ苦笑いを浮かべ、手元の携帯に目を移す。

 

 ...きっとあのおっさんも被害者なのだろう。

 

 ────と、女性とその子どものような人が出てくる。

 

 

 「おとーさーん!」

 

 

 おっさんは手を振り返して、私をちらと見て、

 

 

 

 

 「────お先に。」

 

 

 

 

 ...娘と思われる女の子の手をひいて行ってしまった。

 

 思えば私の両親は、あの事故で亡くなったのだ。

 

 それから軍学校に入学、寮に入り独りで生きてきた。

 

 そこで狂ったように勉学に励んで、電と出会い、今に至る。

 

 

 「......」

 

 

 

 

 

 ......。

 

 

 

 

 

 

 「翔さーん!買ってきたのです!」

 

 「レディーのお洋服選びは時間が掛かるのよ!」

 

 「お、お待たせしました...」

 

 

 

 

 

 ......

 

 「?

 翔さん、何かあったのです?」

 

 「あーっ!わたしもー!」

 

 確かに感じる、ちっさくてやわらかくて、あたたかい感触。

 

 

 

 ...私はもう、独りじゃない。

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 Side・憲兵さん

 

 ...俺は提督に頼まれて買い出しにジープを運転していた。

 

 運転している俺の隣...補助席に加賀、という空母。

 加賀はちょいと前の演習の時にやってきた、寡黙で無表情なやつだ。

 女性的な魅力に溢れていて、シートベルトがそれを強調させている。わざとやってるのだろうか。

 座席に姿勢よく座り、あまりにも話さないため本当に楽しみにしてくれているのかと心配になっていたが、膝の手提げバックから覗く付箋付きのファッション誌が、彼女の胸の高鳴りをこれでもかと表していた。可愛い乙女である。

 

 ...ま、うちの嫁の方が可愛いが。

 

 後部座席には駆逐艦春雨、村雨。

 二人は姉妹で、村雨って子の方が姉らしい。

 彼女はかなり元気な子で、なんにでも一番を目指したがる先走りやすい女の子だ。しかし一番に『今日はよろしくお願いします!』とお礼を言ってくれるあたり、しっかり礼儀を弁えているいい姉だ。

 

 ...惜しくも、うちの娘の方が利口だが。

 

 光に当たると時折桃色に輝く不思議な白髪の子が、村雨の妹の春雨だ。

 この子は昔から気が弱く、話す時は常に敬語、いつも誰かの後ろに居る臆病な艦娘だ。

 しかし誰かと話すことは嫌いではないようで、慣れた相手には彼女自身から話しかけてくるかわいい一面を見せてくれる。

 

 ...もちろん、うちの娘の方がかわいいが。

 

 彼女と気軽に話せるようになれたら、この鎮守府のみんなに受け入れられたと言ってもいいだろう。

 

 んでもって頭に天使みたいな輪っかを浮かべてるのが龍田(今はしまっているようだ)。

 この子は人間と話す時いつも黒い薙刀を手に持つのだが、俺とあの提督────鞍馬くんには気を許しているようだ。

 彼女のふんわりした声は、今はまだ立証されていないが、きっとセラピー効果のようなものがあるだろうと踏んでいる。

 

 ...当然、一番の癒しは妻と娘だが。

 

 その隣、窓際で少し暗い雰囲気を漂わせているのが山城。

 山城は『不幸だわ...』ってのが口癖の確か戦艦だ...が、最近はあまり聞かなくなった気がする。

 彼女はその雰囲気から意志の弱い艦娘だと勘違いされやすいが、どんな事でも揺るがない“芯”の強さを持っている。

 

 ...とはいえ、俺の家族愛の方が強いが。

 

 反対側で窓に張り付き、景色を眺めているのが鈴谷だ。

 この子は加賀と同じく演習の時にやってきた艦娘だが、そこらの女子高生を艦娘にしたんじゃないかと思えるほどに明るい子だ。

 

「ねーねー、憲兵さんっていつから憲兵さんなのー? 」

 

 その鈴谷が後ろから話しかけてくる。丁度暇していたところだ。

 

「二十と五〜六年ぐらいだ。」

 

「へー、ベテランさんなんだ...

 んじゃあ、家族とか居るの?」

 

「ああ。妻とかわいい娘が内地に居るな。」

 

「ほっほーぉ...

 鈴谷たちとどっちがかわいい?」

 

「そりゃあうちの子に決まってらぁ」

 

 「「HAHAHAHAHA☆」」

 

 ...こんな感じでノリもいいやつだ。

 

 

「それにしても...わざわざ私たちの買い出しのために車を出してもらえるなんて、本当にごめんなさいね?」

 

「気にするな龍田。お前らの為なら、俺はみんなにしてあげられることなら何でもしてやるさ。」

 

「.その...お身体は、大丈夫?」

 

「大丈夫だ山城。見ての通りピンピンしてるぜ?」

 

 おっと信号が青になった。

 

 

 

 

 

 

 

 「────本当に、生きててよかった。」

 

 龍田のつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着...か。」

 

「...本当に、ありがとうございます。」

 

 山城が礼を言ってくれる。

 

「いやいや、俺も留守番とはいえ色々と買い込まないと暇だからな。

 ちゃんと楽しむんだぞ?」

 

 ポンポンと背中を押して、エレベーターに乗る...

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

「おおおー!」

 

 エレベーターを出ると洋服店の店内に出た。

 

「ここならお前たちの欲しい服も見つかるだろう。二時間後、またここに集合な?」

 

 「「「「「はーい!」」」」」

 

 と、憲兵さんに返事をしてみんなで店内を回る。

 夏だからやっぱ半袖...いや、ワンピース...長袖にミニスカート...ホットパンツ...半袖シャツにジーパンってのもアリだよね〜♪

 

 でも、あの憲兵さんもう七月でだいぶ暑いってのに、常に長袖長ズボンに手袋嵌めているんだよねー。

 今日もジーパンにシャツと長袖の上着羽織って、手袋もバッチリ決め込んでる。見ているだけで暑くなっちゃうよ...

 

 ────とか考えていると、

 

「あの...鈴谷さん!」

 

「私たちのお洋服、ちょっと選んでほしいな!」

 

 春雨村雨姉妹があらわれた。

 

「おっ?!

 このファッションマスター鈴谷ちゃんに頼むとは、いいセンスじゃん!大舟に乗ったつもりでついてきなさい!」

 

 春雨ちゃんは絶対に白のワンピースに麦わら帽子とか似合うよね!...よね?

 村雨ちゃんには敢えてホットパンツとかちょいと露出多めに...

 

 ────うん、加賀さんじゃなくても鼻血でそう。

 

「はい。この服と、あとは二人で考えて買ってみたらいいよ。」

 

 「「ありがとーございます!」」

 

 

 

 

 

 村雨春雨姉妹と一旦別れた鈴谷ちゃんは自分のお洋服選びに没頭するのであった〜...

 

 これとこれとこれと〜...♪

 

 適当に洋服を取って試着室に行く。

 やっぱり着てみないと分からないよねっ。

 

 軽い気持ちでしゃー、とカーテンを開くと、男の人がいた。

 ...げっ、見れば靴が置いてあんじゃん!鈴谷ちゃんピンチ!

 いや、慌てる前にまずは謝らなきゃ。

 

 「すいません、ごめんな...さ......」

 

 

 

 

 

 

 「────みんなには言わないでくれ。」

 

 

 

 

 

 

 そこに居たのは、上半身裸の憲兵さん。

 

 前々から思っていた通り、相当鍛えていて腹筋とか腕とかバキバキだった。

 

 でも、問題はそこじゃない。

 

 「なん.........で.........?」

 

 しゃー、と憲兵さんがカーテンを閉じる。

 

 私はしばらく呆然として、他の試着室へ向かう。そんてもって憲兵さんに言われた通り、みんなには言わないことにした。

 

 

 

 

 

 

 ────憲兵さんの身体中に刻まれた、無数の傷跡のことを。

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 俺たちは昼ご飯をフードコートで済ませ、本やら食糧やら色々と買い込んで鎮守府へ帰ることになった。

 

 みんな水着やら洋服やらを買う時に時間がかかったり、甘いものを食べるとものすごく幸せそうな顔をする辺り、俺の妻や娘...人間の女の子となんら変わりないと改めて思った。

 

 

 

 ...俺は何を買ったかって?

 適当にカップ麺やらビールやらと、鎮守府に戻ってから中古のマンガを大量に買いこむつもりだ。

 




後書き・憲兵さん
「ここまで読んでくれた読者さんに感謝する。
次回から、新章とやらに入るようだ。

ここから先は、本編と関係の無いおまけらしい。
暇なら読んで貰えると嬉しい。

例にもよって更新速度は遅いが、楽しみに待っててくれ。」



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おまけ・青葉の新聞見出し一覧

『あの第七鎮守府に新提督着任!』

『二十歳にも満たない期待の新人?!』

『類を見ない艦娘に対する優しさ!』

『秘書艦の電さんに独占インタビュー!』

『ラジオ番組表』

『新番組・“ぶらり廃港下船の旅”』

『大本営購買部・ボーキャラメル』

『〇〇海域にて目撃情報』

『第一艦隊惜しくも敵旗艦逃す』

『探求!妖精さん七不思議』

『戦艦は何故駆逐艦を狙うのか』

『夏の大規模作戦・編成大予想』

『四コマ漫画“まわれ!ゴーヤちゃん”』

『復興支援募金活動中』

『第一回艦娘川柳夏の陣・募集中』

『逃げる深海棲艦の謎』
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