あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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短編・黒刀の覚醒

「やっぱり、なんだか怪しいのです...」

 

 割り当てられた自室にて、ソファーに寝っ転がった電は杖をしまい、ポケットから取り出した黒い結晶をまじまじと見つめながら首を傾げる。

 

 ...これはただの結晶ではない。あの遠征の日、深海棲艦...南方棲鬼と出会った私は怨恨晶という石を貰って帰ってきたのだ。

 

 彼女曰く『夕張に刀と一緒に渡せ』との事だったが...帰って来てもそう易々と渡せるものではない気がする。

 

 昔の電ならそのまま渡していたかもしれないが、電は翔と生きてきていろんなことを学んだのだ。

 その中に、“寝返る敵はあまり頼るな”という教訓がある。

 何故そんなことを学んだのかは...まあ、秘密だ。

 

 ...誰も翔と夜に観た映画で、敵陣営から寝返っていい感じだった男の人がゾンビになって襲ってくるという場面(シーン)が忘れられないからとかそんな理由ではない。ちなみにだがその人は『生きて帰ったら結婚する』とか言ってたことまで覚えている。

 

 ────とにかく、この結晶が怪しくてたまらないのだ。

 

「むー...」

 

 そうだ、“思わぬ事故”でこの結晶が壊れてしまったとしたら、諦めるしかないだろう。

 

「...おっとっと〜、なのです」

 

 かんっ、ころころ...

 

 試しに床に落とした...

 ────“落としてしまった”のだが、小気味よい音とともに転がるだけだった。

 

 「......」

 

 かいーん、かんっころころころ...

 

 叩きつけ...

 ────勢いよく落としてしまったが傷一つ入っていない。

 

 「......っ!」

 

 じゃこん、ギイィーーン!!

 

 ...がごん!

 

 石を刀で斬ってみたのだが、切れたのは奥にあったちゃぶ台だけで、やはり足元に結晶は転がってきたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...こんなもんかな?」

 

 遮光溶接面を頭の上まで押し上げて、ふうと一息つく。

 

 ────溶接面が何か、って?

 よくバチバチやってる人がかぶっているあの鉄のお面よ。

 これを着けないと目に屑が入るのはもちろん、目がアーク光...あのバチバチの光でやられるからなの。

 ...まぁ、私は艦娘だから肉眼で見てもちょっと眩しいくらいだけど、人間が見てしまったら目が痛くなって明るい光が見れなってしまうのよ?

 どんぐらい痛いかって言うと、うーん...歯の神経をヤスリで削られる痛みよりも強い、ってむかーし溶接工のおじいさんに聞いたわ。

 そのおじいさんも九州に避難しちゃったんだけど...元気にしてるかなぁ...

 

 

 

「ごめんくださーい、なのです。」

 

 

 

 がらがらと錆び付いたドアの音の後に気弱そうな可愛い声が聞こえてきた。この声はたしか────

 

「────電ちゃん...だっけ?

 どうしたの?試し撃ちでもご所望かな?」

 

 作業道具に安全装置を掛け直して、電源を落としてからカウンターに向かう。

 

 ...実はこの工廠、元は飲食店だったらしいけど、私がここに着任する前に店主が避難してから、厨房やらテーブルやら全部他の所に移して機械を置いてもらったんだって。

 提督って昔からガサツなのよね...

 

「その...これを、お願いしたいのです。」

 

 と言って差し出してきたのは例の刀と見覚えのある黒い石。

 

「これは...」

 

「その...南方棲鬼さんから頂いたものなのです。

 夕張さんに刀と一緒に渡して、とのことなのです。」

 

 あの人が...

 

「...わかった。

 ちょっと時間がかかるかもしれないけど、明日また来てもらえるかな?」

 

「了解なのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 小さな背中を見送った夕張は溶鉱炉の近くの金床に腰掛けて、手袋とモノクル(片眼鏡)を着けて刀を手に取る────

  

 

 

 ────ざわっっっ!!

 

 

 

 「きゃっ!」

 

 指先から全身が泡立つような寒気を感じ、からんからーん...と刀を取り落としてしまう。

 

 夕張たち艦娘が“艦船の魂”が顕現したものであるように、艤装はそのまま“艤装の魂”が顕現したものである。

 他の艦娘が使い込んだ艤装はその艦娘の魂が微量ながらに移り、その艦娘に“馴染んで”いく。

 故に歴戦の艦娘が使い込んだ艤装を他の艦娘が装備すると、魂の反発による“違和感”が生じるのだが...

 

 「なに...これ...」

 

 この刀は持ち主以外の手を拒絶する...まるで電の魂を直接握ったかと思ってしまうほどに馴染んでいる。

 いや、もはや彼女の身体の一部と言っても過言ではない。

 

 柄を見ると無数の細かい傷や爪痕が刻まれていて、やはり相当使い込まれていることが分かる。

 素材は黒い鉄のように見えるのだが、見た感じ海水にさらされているはずなのに全く錆びていない。普通の刀は手入れすればどうということは無いが...潮風に、海水にさらされては手入れでは済まないだろう。

 この黒い金属の特性と思われるが、正体を見極めるにはそれこそ改修や修復を専門としている工作艦が、整った設備を用いなければ難しいだろう。

 

 ────続いて刀身を眺めてみる。

 錆ひとつなく、鏡のように輝くそれは思わず息を呑んでしまうほどに美しい。

 刃の角度はきっちり三十三度...日本刀にも使われている角度である。

 

 (やはりそこらの刀とはワケが違う、ってことね...)

 

 続いて黒い結晶を手に取る。

 一度親愛のしるしに、とひとつ貰ったことがあるのだが...艤装を改修するための道具ということも、使い方も分かっている。しかし、“使えなかった”のだ。

 

 「...よし。」

 

 ただならぬ刀をどうにかするのも気が引けるが...思い立った夕張は妖精さんに頼んで、両手持ちの大きなハンマーを構える。

 

 「ふんっ!」

 

 結晶に思いきり叩きつける。

 

 

 

 カーン、カーン、カーン...

 

 

 

 聞き慣れた間の抜けた音。

 このハンマーで艤装をぶん殴───叩くと、あらゆる物...砲や艦載機、魚雷でさえ、何故か素材に変化するのだ。

 彼女自身は“分解ハンマー”と呼んでいるが、これを使って劣化・故障した艤装を素材に変換し、新たに艤装を作り出せるということである。

 普通は妖精さんが扱うのだが、工作艦や彼女のような開発に携わる者はこの分解ハンマーを使えるらしい。

 

 カーン、カーン、カーン...

 

 結晶が白く光る。

 艤装を叩く時もこの光が輝き、消えた時には素材があるのだが...

 

 「よし...」

 

 光が収まると、そこには黒い粉が薬包紙の上に乗っていた。

 

 一見火薬のように見えるが、結晶の時と同じくやはり光を吸い込むような黒さである。

 

 ここからだ。

 

 この粉末を金属に付け焼きするらしいのだが、今までどうしても合成に失敗し続けていたのだ。

 

 炉に刀を突っ込み、いい感じに焼けたところで金床に置き、黒い粉を掛け────

 

 「?!」

 

 黒い粉をかけた瞬間。

赤白く焼けた刀が、ごうと音を立てて青白く輝いた。

 驚いて棒立ちになっている夕張に、妖精さんたちが鍛冶ハンマー渡す。我に返った夕張は気を引き締めて叩き上げ、冷却水に浸ける。

 

 じゅわっと蒸気を残して刀は沈み、引き上げると...見た目こそ変わらないものの、見る者を圧倒する“なにか”に溢れていた。

 

 (確かこの辺りに...!)

 

 工廠の道具置き場の奥から、────何故提督が取り寄せたか分からないが────一度も使われていない砥石を出し、包装を破り捨てて水濡れの刀身を丁寧に研いでいく。

 ちなみに素手ではとても触れないが、軍手をはめると大丈夫だった。

 手元から時間を掛けて進めていたのだが、半分近く研いだところで夕張はある異変に気付く。

 

 (あれ...?これって────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 

「電ちゃーん、できたよー!」

 

「ありがとうなのです!」

 

 いつもより早起きした私は、朝一番に工廠へ向かった。

 

 昨日一日刀を持たずに過ごしたのですが、やっぱりなんていうか...身体がそわそわして落ち着かなかったのです。

 でも、刀が無いことを盾にして翔さんに抱きついて寝れたのです!

 これが昔翔さんから聞いた、

シチューにカツ(死中に活)”ってやつなのです!

 

 わが子を抱きしめるようにぐっと柄を握ると...

 

「はわわわわ?!」

 

 

 突如刀が────?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別短編

 

 

 

 

 

「お──ろ─ぜ!」

 

 朝。いつものように電の声で、私は目を────

 

「おはようだぜ!」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 特別短編・『“艦息”たちの一日』

 

 

 

 

 

 

 

 

「...まて、お前は誰だ?」

 

「か、翔さん?冗談はほどほどにするんだぜ!

 暁型駆逐艦四番艦、電なんだぜっ!」

 

 いつもより少し低い、少年の声。目を凝らして見ると、かっこいい...と言うより小動物的なかわいさにあふれた茶髪の男の子が跨っていた。

 

「......」

 

 がしっ、と“電”を掴む。

 

「はにゃあ?!!」

 

 そこには小さいながらも確かにちんk────

 ────“電のいなづま”が鎮座していた。

 

「かっ、翔さん何をするんだぜ!

 女の子がそそそ、そんなことしたら...」

 

 ────女の子?

 

 まさか、と思った私は“私”を掴む。

 

 ...しかし、“私の息子”は不在で、代わりに意外と大きめの...“E”くらいの大きさの肉塊が二つ、胸にぶら下がっていた。

 

「とっ、とにかく!

 もうみんな起きているから翔さんも行くんだぜ!」

 

 と言い残して、顔を真っ赤にした電...“くん”は(艤装)を展開し走り去ってしまった。

 

「...これは悪い夢だ。」

 

 いつもより高めの声で独りつぶやく。

 そのままもう一度布団に潜りたかったが、何故かそれはダメな気がするので執務室から出ることにする。

 

「Zzz...」

 

 ソファーでボサボサ頭の高校生くらいの男の子が寝ている。

 ...ここで寝てる奴と言えば、大抵────

 

「北上、いい加減起きたらどうだ?」

 

「...んぁ?

 あー、提督じゃん。おはー」

 

 手をひらひら振って一応返してくれる。

 夢の世界でも怠けたやつだ。

 

 ...まぁいい。何はともあれまずは朝飯だ。

 重い足取りで食堂に向かっていると、これまた帽子をかぶった黒髪の少年と電に瓜二つな少年に出会った。

 

「おはよー、しれーかん!」

 

「しれーかん、こんなに寝坊してたら立派な紳士になれないわよ!」

 

「君たちは...雷と暁か。」

 

 レディではなく紳士を目指してるのか、と夢の世界の出来の良さに少し感心する。

 

「しれーかんまだ寝ぼけてるの?」

 

「もうっ、しっかりしてよね!」

 

「あぁ、悪い悪い。少し昨日書類が────」

 

 あっ、と思ったが遅い。

 

「そういうことなら僕にまっかせてー!」

 

「あっ、待ってよいかづちぃー!」

 

 執務室へ走っていった。

 次に扉を開ければ、ばらばらに落としてしまった書類の山を前に涙目になっている姿が目に見える。

 

「あぁ、不幸な提督さん。」

 

「ははっ、元気が一番だ。」

 

「不幸...?ってことは────」

 

 着物...ではなく袴姿の男と、頭に輪っかを浮かべた男がいつの間にやら立っていた。

 

「俺と会ったのが嫌って?朝っぱらから不幸だ...」

 

「おそよう、提督さん。あの子たちは私たちがどうにかするから、早く食堂に行くべきじゃない?」

 

 山城はどこぞの学園都市の不幸な少年に見えたが、気のせいだろう。そして龍田の気をつかってくれる優しさは現実と似通ったものがある。

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に着くと、スポーツ刈りの男の子が味噌汁とご飯をかき込んでいた。

 

「よぉ提督!お前がこんな時間に起きるなんて珍しいじゃねぇか!」

 

「おはよう摩耶。昨日は書類の整理があってな。」

 

「なるほどなー...お前もたまには休めよ?」

 

「あぁ、働きすぎには気をつけるさ。」

 

 こちらの世界の摩耶はもう男らしさの塊だった。

 現実の私も見習いたいものだ────

 

「おーい摩耶っちー!まだー?

 憲兵のおばちゃんも待ってるよー!」

 

「あと少しだから待ってろー!」

 

 食堂入り口からワックスで髪を固めて、妙に洒落た服を着こんだ男の子が入ってくる。

 

「おっ提督じゃーん!ちぃーっす」

 

「鈴谷か、そういえば昨日街に服を見に行くとか言ってたな。」

 

「めんどくせーことに巻き込みやがってよぉ...」

 

 と摩耶がつぶやいているが、鈴谷に言われる通りに急いでいるあたり満更でもないのだろう。

 

 ポットからお茶を注ごうとしたが、運悪く空っぽだった。

 

 (仕方ない、ヤカンから入れるか)

 

 給湯室の扉を開けると、ベレー帽をかぶった男の子が二人冷蔵庫の前で屈んでいた。

 こちらには気づいてなく、二人でなにやら言葉を交わしている。

 

「(ね?コンビニプリンも美味しいでしょ?)」

 

「(おお、いい感じいい感じ)」

 

 

 

「そこで何をしている!」

 

 

 

「「ひゃあ!」」

 

 驚き同時に振り返る二人。この子たちは────

 

「春雨村雨、甘味を楽しむのはいいが...あんまり食べすぎると太るぞ?」

 

「「はーい...」」

 

 全く...最近二人が食堂に頻繁に立ち寄ると思ったら、ちびちびアイスとかデザートを楽しんでいたのか。

 

 朝飯を終えた私が執務室に戻ると、改造着物をまとった美形の男が書類を処理していた。

 

「あっ、おはようございます、提督!

 今日もいい朝だね。」

 

「その感じの良さ...榛名か。私の代わりに書類を悪いな。」

 

「大丈夫ですよ。たまには提督も休むべきですよ?」

 

 こちらのことを心から気にかけてくれる妻...いや夫のような庇護感。やはり榛名だ。

 

 

 

「提督」

 

 

 

「ひゃん!」

 

 我ながらめちゃくちゃ可愛い声が出てしまった。

 振り向くとこれまた改造弓道着を着こんだ半目の男...

 

「お、驚かすなよ加賀。」

 

「ヤりました。」

 

 ...なんかイントネーションが怪しい。

 

「というよりさっきからなんですかその格好。

 ブラも着けずにワイシャツで鎮守府を歩き回るなんて誘っているんですか?ヤりますか?」

 

 ずずいと詰め寄って来る加賀。明らかに様子がおかしい。

 

「きゃっ」

 

「おわっ」

 

 後ろにあったソファーにつまずいて加賀に押し倒される形になってしまった。

 

「...提督────」

 

「...加賀────

 

 ────じゃなくて助けて榛名!」

 

 横目で榛名を見ると、

 

「あわわわわ...」

 

 顔を真っ赤にして手で抑えていたが、目元はバッチリ開いて倒れた衝撃ではだけた胸をじっと見ている。

 

「ごめんなさい、提督。俺────もう無理です」

 

 そう言って艦娘...いや、艦息(かんむす)特有の力でワイシャツを引き裂き、顔を近づけてくる。

 

 ...あくまで私の心は男だ。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────」

 

 

 

 

 

 

 

 ∽∽

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああ!!!!」

 

「?!

 どどどどうしたのです翔さん?!」

 

 そこは布団、腕の中から電が上目遣いで私を覗きこむ。

 

「......」

 

 なにかものすごく恐ろしい夢を見ていた気がするが、全く思い出せない。

 

 ぎゅ、と電を抱きしめる。

 ...感触的に電に息子は居ないこと、髪も寝る前にはいつも流していて長いことを────

 

 ────当たり前のことを何故か確認する。

 

「...すまんな電。少し悪い夢を見ていた。」

 

 “???”な顔の電を撫でて、時計を見る。

 ...午前三時。よく思い出せないものの、ただの悪夢だと分かって安心したらまた眠くなってきた。

 

 そうだ、私は昨日書類の山を整理して疲れ果てていたのだ。

 きっと明日はいつもより遅く目覚めて、ソファーで北上に挨拶して、廊下で第六駆逐隊や山城龍田と会い、遅めの朝食を摂るような気がする。

 思えば明日は鈴谷と摩耶に外出許可を出していたはずだ。

 憲兵さんが車を出してくれることになっている。

 あと最近、コンビニスイーツが冷蔵庫を圧迫している原因も突き止めなければ。

 

 そんなことを考えていると、だんだん眠くなってきた。

 

 

 

 「おやすみ、電。」

 

 「?

 おやすみなのです、翔さん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Happy Aprilfool day!

 

 

 

 特別短編・了




後書き・電

「ここまで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうなのです。電なのです!

今回はかなり投稿が遅れてしまったのですが...コンブさんが高校卒業して、大学入学式までにバイトを掛け持ちしてほぼ毎日働いてた結果、大好きな執筆もゲームも出来ないくらいに疲れていたらしいのです...
コンブさんの私情ですがお詫び申し上げるのです。

次話からは通学途中や、休み時間にちょくちょく書くらしいので、月2回を目標に頑張ると意気込んでいるのです!
...フラグとしか思えないのです。

次回・サブタイトルも決まらないほどに書いていないのです!許して欲しいのです!何でもし────」

翔「おい電!」

電「────しないですが、どうかお待ちいただけると嬉しいのです。」
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