あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「待たせたな!」

電「待たせたのです!」

翔「電の刀が何やら強化されたようだな。」

電「ヒントはこの話に書いて────」

翔「────ほほほ本編へどうぞ!」



33話 白と黒

「世話になったな、秀吉。」

 

「......お前らなら、いつでも歓迎しよう。」

 

 まだ八月中旬だが、今回の大規模作戦が上手くいったようで予想以上に帰りが早くなった。

 

 長いようで短かった約二週間。

 帰りの船着き場でみんな別れを惜しんでいる。

 

 他の(sisters)によろしく頼むデース、とか...五航戦、楽しみにしているわ...などと別れの言葉を残して、船に乗り込む。

 

 「まーーたねーーーー!!」

 

 途中まで随伴(みおくり)してもらって、朝早くから夜まで掛けて船で思い出を語り合い、バスで第七鎮守府前まで乗る。

 

「ようやく、だな...」

 

 市バスから降りた私はぞろぞろとみんなを引き連れて、執務室前まで来た。

 

 時刻は二十三時を回っている。

 

 移動続きでみんなもかなり疲れているようだ。

 

 ガチャ、と扉を開けて電気をつけ───ようとした。

 

 

 

 「ただ...い......ま.........」

 

 

 

 「??

 翔さん、どうかしたの......で...............」

 

 電も、私と同じように固まる。

 

「何があっ...た............の......

 

 ────────不幸だわ。」

 

「てめーら、つっかえてんだから.........

 

 ...何で深k────んーー!んーー!」

 

 慌てて摩耶の口を塞ぐ。

 

「んー?

 山城ちゃん摩耶ちゃんどうかしたの??」

 

「────全員一旦下がってくれ。」

 

 みんなを強引に外へ押しのけて、そっと扉を閉じる。

 そっ閉じである。

 

「すまんが、みんな自分の部屋の荷物から片付けてくれないか?

 ...山城、摩耶と電はここに残ってくれ。」

 

「うわっ、ちょ、何なのさー!」

 

 北上が怒りの声をあげるが、半ば押しのけるようにしてみんなの背中を押して送り出す。

 

 「「「「......」」」」

 

 固唾を飲んで、もう一度扉を開ける。

 

 やはり、5〜6人の深海棲艦が寝ている。

 いや、よく見ると...真ん中で寝苦しそうに憲兵さんが横たわっている。

 

 電たちに『待ってろ』と合図(ジェスチャー)を送り、そっと靴を脱いで中に入る。膝を折り流れるように憲兵さんを背負って、またそろりそろりと抜け出す。

 ここまで約10秒。泥棒顔負けの手際の良さだ。

 

 多少荒く廊下に憲兵さんを降ろすと、ぐえっと声を上げて目覚めた。

 

「...はっ、提督?!」

 

「説明していただこうか、憲兵さん。」

 

「場合によっては────」

 

 反逆罪なのです、と電が艤装()を出す。

 

パリパリ...

 

「待て待て、こいつの事だから何かしら理由があるはずだ。みんな集めて食堂で聞こうぜ?」

 

「電ちゃん、憲兵さんにだけは...刃を向けないでほしいわ。」

 

 摩耶と山城が割って入る。

 

「...前々から思っていたんだが、君たちの憲兵さんに対するその絶対的な信頼は...どこから来ているんだ?」

 

 摩耶と山城だけではない。龍田は“さん”付けで呼ぶし、春雨や雷もかなり気に入っているようだ。

 ...あの龍田と春雨が懐くなんて、ただ者では無いはずだ。

 

「────その、なんだ。色々あるんだよ。」

「────色々、あったんですよ。」

 

 二人が遠くを見つめて苦い顔をする。

ㅤ...あまり掘り返さない方がいいだろう。

 

「まあいい。

 山城、摩耶、電はみんなを食堂へ。

 憲兵さんは...来てくれるな?」

 

「...もちろん、俺────私も全てを話します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、とりあえず...相手に戦う意思は無いってことでいいん...ですね?」

 

 珍しく加賀が狼狽(うろた)えている。当然だ。

 

「うむ。こちらから手を出さずに話せば、分かってもらえるはずだよ。」

 

 どうやら憲兵さん曰く、海岸で北方棲姫を拾ったら妙に懐かれ、姉の港湾棲姫が迎えに来たが駄々をこねられてしばらく滞在することになり、二人じゃ寂しいからと色んな深海棲艦がここにやって来て────

 

「────で、もはや深海棲艦の鎮守府みたいになってしまった、と。」

 

「はい。下手(したで)に出ないと、私は一切抵抗できないですから...」

 

「拳銃で深海棲艦と戦うのは豆鉄砲で城に立ち向かうようなものか...

 あと、三十近く離れている憲兵さんに敬語を使われたら何だかむず痒くなる。普通に話してもらっていいか?」

 

「はい────

 ...了解した。

 

 私────

 俺も最悪の事態は逃れられた...って言うか、一番丸く収められたと思うんだけど、その辺評価してくれたらな〜なんて。」

 

 

ㅤ「「「......」」」

 

 

「...なぁ、ちとこの件は...大本営に黙っててくれないか?な?」

 

 この場にいる全員が思った。

 

 

 

 

 (((この人、素は少しお調子者なおっさんだ)))

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

「...複数の姫級を相手に無被害で済ませたことついては感謝する。

 とりあえず、艦娘と深海棲艦を会わせるのはまずいから私が提督として取り合おう。」

 

 ガタッ、と榛名が立ち上がる。

 

「そんな、提督を矢面(やおもて)に立たせるような────」

 

「心配ありがとう。

 だが...司令官の立場である私が武器を持たずに行く。

 平和に済ませるには...多分、これが一番確実な方法なんだ。

 まあ、護衛として駆逐艦の電なら大丈夫だろう。

 

 眠れない夜になりそうだが、休息は各自自室で休んでくれ。

 明日〇七〇〇、ここ...食堂で対話するつもりだ。

 憲兵さんは執務室に戻って一晩過ごして、深海棲艦へ私たちのことを話してくれ。

 

 解散。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「......」」」」」

 

 「「「「「......」」」」」

 

 

 

 翌朝。

 

 食堂の机を挟んで艦娘と深海棲艦が向かい合っていた。

 

 

 

 一度(ひとたび)触れば即爆発...

 そんな空気が流れていた。

 

 翔も憲兵さんもあまりの緊張感に動けないでいた。

 いや、動いた瞬間“琴線”に触れることになるだろう。

 

 

 

 「「「「「......」」」」」

 

 

 

 翔は電と二人で深海棲艦たちに接触するつもりだったが、そんなことを許すような皆ではなかった。

 ...あまりにも優秀な提督...翔の指揮下だからこそ、艦娘たちは心のどこかで負い目のようなものを感じていたのかもしれない。

 

 

 

 「「「「「......」」」」」

 

 

 

 龍田は薙刀に手を掛け、電は何も持っていないが...まるで“いつでも刀を振れるような構え”をとっている。

 山城は自身の大きな艤装で駆逐艦を守るように立っている。

 

 ...それもそのはずだ。

 

 なにしろ普段人見知りの『ひ』の字も感じさせない鈴谷は冷や汗を垂らして固まり、普段緊張感の『き』の字も感じさせない北上でさえ...いや、大きなあくびをして眠そうに目を擦っている。

 

 

 

 「「「「「......」」」」」

 

 

 

 深海棲艦側も、なんか鋭い爪を出したお姉さん...港湾棲姫や、あれは...ル級だ。盾と砲を一つにしたような艤装をこちらに向け、その盾からガスマスクのようなものを着けた深海棲艦がこちらを伺っている。

 そして黒いレインコートのような外套をまとった深海棲艦...最近確認されたレ級が、ニヤけ顔と太い尻尾?をこちらに向けている。

 

 数ではこちらが上かもしれないが、戦力的に見ると...わからない。

 

 

 

 「「「「「......」」」」」

 

 「「「「「......」」」」」

 

 

 

 ドバン!!

 

 

 

 「「「「「?!」」」」」

 

 凄い音とともに給湯室の扉が開かれる。

 

「金剛さんから貰った紅茶とスコーンよ!」

 

 がっちゃんがっちゃんと音を鳴らしながら暁がお盆を持ってきて、白い幼女...北方棲姫が大きめの皿を持ってくる。

 

 艦娘と深海棲艦、二陣営の間にずかずかと踏み入って、お盆をテーブルに置く。

 

 ...奇跡的に紅茶は一滴も零れていなかった。

 

「どうぞ!」

 

「食ってミロ!」

 

 ...すっごくキラキラした目で、暁と北方棲姫は港湾棲姫を見つめている。

 

 「......」

 

 二人の視線に耐えられなくなったのか、器用にも長い爪の先っちょにティーカップの取っ手を引っ掛け、ずず...とひと口。

 

 

 

 「......美味しい、ワネ。」

 

 

 

 「やったーい!」

 「ワーイワーイ!」

 

 二人はきゃっきゃと喜んで、給湯室に戻る。

 

 

 

 ...と思ったら暁が扉からぴょこんと顔を出して、

 

「それ全部お客さまのぶんだから、司令官たちは待ってなさいよ!」

 

 ぱたんと扉が閉まる。

 

 

 

 「「「「「......」」」」」

 

 

 

 それを見た北上が前に出て、深海棲艦に背中を向け...艦娘側の方に向き直って言う。

 

「────で?どーすんの?

 あんだけ駆逐(こども)が仲良くしてんのに、どうして大人はピリピリしてんのかな〜。」

 

 と言いながら、後ろ歩きで港湾棲姫の胸にぽよ〜んと寄っかかる。

 

 ジャコン!

 

 周りの深海棲艦たちが北上に砲門を向けるが、当の北上は目を閉じて────

 

「────姉さんイイもん持ってんじゃん。

 今度一緒に昼寝でもどう?」

 

「コイツ────!」

 

「────武器を、降ロシなさイ。」

 

「あ、(アネ)サン?」

 

「降ろシナさい。」

 

 深海棲艦たちは互いに見合わせたのち、ガチャンガチャンと砲は短く、装甲は折りたたまれてしゅんと虚空に消える。

 ...レ級の尻尾は消えないようだが、口から覗いていた砲身は飲み込まれていった。

 

「で、どーすんの?」

 

 片目を開いて艦娘(なかま)たちを見る。

 

「...この人たちは、大丈夫なのです。」

 

 電の言葉を皮切りに、みんな艤装をしまっていく。

 

 武器がひとつもなくなったことを確認して、くるりと大きな深海棲艦に向き直り、手を差し出す。

 

 

 

「よろしくね?」

 

「え、エェ...」

 

 

 

 そっと北上の手を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 ────平和が生まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドバン!!

 

「あーっ!私のスコーン残してるわよね?!」

 

「アカツキ、急ごウ...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅茶を楽しみながら私たちは自己紹介を終えた。

 

 暁と一緒に紅茶を持ってきてくれた、港湾棲姫の妹という幼女が“北方棲姫”。片手に艦載機...本人曰く『ゼロ』を抱えて、スコーンを頬張っている。

 

 綺麗な長い黒髪が特徴の、深海棲艦にしては露出の少ないスーツのような上着と長ズボンに身を包んだ深海棲艦が“戦艦ル級”。榛名たちと談笑しているようだ。

 

 面積の狭い服(と言えるのか?)の上から、黒い外套のようなものを羽織っているのは“戦艦レ級”。力が強いのか、尻尾に雷と村雨を乗せて遊んでいる。

 

 そして個人的に一番気になったのが...先程から『しゅこー、すこー...』とガスマスク(?)越しに息をしている、“潜水ソ級”だ。

 彼女は全く喋らず、紹介も港湾棲姫から聞いた。

 曰く極度の恥ずかしがり屋で、海底から拾ったガスマスク(?)を着けて顔を隠し、仲間にも滅多に声を聞かせないんだとか。

 黒いワンピースを着ているが、後に憲兵さんから聞いた話によると鎮守府に来た当初はほぼ全裸の状態だったらしく、急いで買ってきたらしい。

 

 ...恥ずかしがり屋な癖にほぼ全裸なのか。

 

 どこか加賀に似たものを感じる私であった。

 

「────アナタがココの提督ネ?」

 

「む?

 港湾棲姫、と言ったか。」

 

 長い爪で器用にティーカップをつまんで、こちらに話し掛けてきた大きな深海棲艦は“港湾棲姫”。『深海』棲艦なのに海よりも陸の方で戦うのが得意らしい。

 

「アナタが知ってイる深海棲艦の情報を、教えテ貰えナイ?」

 

 ニヤり、と、『わかっているぞ』と言わんばかりの目でこちらを見ている。

 

「...別に目新しいことは────」

 

 

 

「私タチ以外の深海棲艦ト、知リ合いでショ?」

 

 

 

「......っ!?

 何故わかった?」

 

 私が聞くと、港湾棲姫は可笑しそうにフフ、と笑って

 

「簡単ヨ。

 深海棲艦(ワタシたち)と手を取り合オウとスるなんて、余程肝ノ据わっタ人間か、既ニ私タチ以外の知リ合いガ居るかシカ...考えラれないワ。」

 

「オともダチ...!」

 

 港湾棲姫の膝の上、北方棲姫も足をぱたぱた動かす。

 改めて響を思い出すと、容姿は似ているが...肌の白さや服装、目の色も違う。

 

「アラアラ、ゴメンナサイね...

 ..ホッポ、あっちで遊ばナクてイイの?」

 

 爪(?)さす先にはレ級の尻尾に雷と村雨が登って遊んでいる。

 当のレ級はギヒヒと笑いながら器用に尻尾をぽよんぽよんと動かしている。

 

「オネーチャンの腕がイイ!」

 

「ソウ...」

 

 すっごく嬉しそうだ。

 

 「「(ニヤニヤ)」」

 

「ナ、何よソノ目!」

 

「別に何もないのです(ニヤニヤ)」

 

「電、その辺にしなさい(ニヤニヤ)」

 

「アナタたち...ねェ...っ///」

 

 白い顔を真っ赤にしている。

 ...すごくいじりがいのある反応だ。

 

 

 

「まあとにかく、昨日まで私たちは南の島へ旅行に行ってたんだ。────」

 

 翔たちは簡単に、沖縄の第八鎮守府であったことを話した。

 

「ヘェ...離島ノ鎮守府ガあの南方棲鬼をアト一歩マデ...

 ...多分、手加減してるワネ。」

 

「「えっ」」

 

 翔と電は目を丸くする。

 

「知らナイ?

 アノ人、一度轟沈させたと思ったラ乗り物みたいなの出シテ、更に轟沈させル寸前マデいかないと本気を出さナイのヨ。

 

 南方棲鬼、真ノ名を南方棲戦姫...

 

 私ノ知人の中でも3本ノ指ニ入る強者ヨ。」

 

 

 ∽

 

 

「君たちはどの辺に棲んでいるんだ?」

 

「...海図を出しテ貰えるカシラ?」

 

 少し悩んで、私は懐から封筒大の紙を取り出す。

 ぱたんぱたんと開くとテーブル一面の大きさの日本地図になる。

 

「懐に...えぇ...」

 

 電が少し引く。

 

「エート、ココのドレかの島ニ基地がアルわ。」

 

 指さしたのは日本の北端付近...歯舞群島辺りだった。

 

「ここは...

 確か、私たちが毎日通っている遠征先なのです!」

 

「アラ、私は資材受ケ渡シはアノ娘に代わったカラ、アナタたちが来てルのかは知らナイわ。」

 

 ここで翔、一つの質問をぶつける。

 

 

 

「電、そもそも遠征で何故資材が貰えるんだ?」

 

 

 

 日頃当然だと思っているが、よく考えたら不思議なこと。

 

 海図的には明らかに人が居なさそうな島に行く遠征もあるのに、みんなきっちり資材をもって帰って来るのだ。

 

「私たちも、妖精さんに任せているので...詳しいことは分からないのです。」

 

「アァ、ソレはね...穏便派のワタシたちの基地に来タ艦娘に、私たちが資材を分ケテるのよ。」

 

「何故、敵に塩を送るような────」

 

南方棲鬼(あの人)カラ聞かなカッタカシラ?

 過激派ノ中には、怨念にノマレて同士討チする人モいるノヨ。

 遠回リながらも助ケテもらってルから、少シだけ資材を分けてるノ。」

 

「じ、じゃあ...妖精さんの言っていた、爪の大きなお姉さんは────」

 

 「タブン、私ね。」

 

「ヘッドホン着けてる眼鏡のお姉さんは────」

 

 「タブン、私と担当を代わっタ(ニート)ネ。」

 

 「「??」」

 

 

 ∽

 

 

「ねーねール級の姉さん」

 

「鈴谷...だったカ?ドウした?」

 

「ル級さんって、ほかの人よりちゃんとしたお洋服着てるんだねー。」 

 

「マア...露出は苦手ダカラナ。」

 

「えー勿体ない!そんなナイスバディなのにー!

 女の子なら、お洒落楽しまないと!」

 

 キラッキラの目でガシッとル級の肩を掴む鈴谷。

 

「?!

 オ、オイ!ドコへ連れてイク!

 マテ、ソコの重巡マヤ、助け...

 なんだソノ『諦めろ』と言ワンばかりの目ハ!

ㅤ...ン?考えタラ何故重巡のオマエが戦艦ノ私をうわなにをするヤメ」

 

 ────ばたん。

 

 

 ∽

 

 

「わーいわーい」

「きゃっきゃ」

 

 レ級が尻尾に雷と村雨を乗せ、にょろにょろさせている。

 

「あなたとその尻尾は、二人で一つなの?それとも別々の生き物なの?」

 

 先程から駆逐艦を見守っている龍田が、レ級に聞いた。

 

「ンア?

 コイツは私ノ身体の一部だぜ?」

 

 とか言いながらスコーンをひと欠片、後ろに投げる。

 尻尾はくるりと振り向いて、口(?)でキャッチ...サクサクと食べてしまう。

 

「あらあら、器用なのね。」

 

「マダマダ、私ノ尻尾はコンナモンじゃあナイ。

 ガキども、チョイと降りてクレ。」

 

 えー、とか言いながらも尻尾から降りる。いい子だ。

 

「よット。」

 

 レ級は横向きに座り直して、しゅるりと尻尾をのばす。

 テーブルの上の砂糖入れの蓋のツマミを砕かないようにそっと歯で挟み...

 

「コンナ感じカ?」

 

 蓋を開けて、そばに置く。

 

 「「おおー!」」

 

 ぱちぱちと駆逐艦が手を叩く。

 

「マダマダ。」

 

 開いた砂糖入れからスプーンをこれまた上手いこと挟み、砂糖をひと匙ぶんティーカップに入れて、またスプーンを戻し蓋も閉じる。

 この器用さには流石の龍田も目を見張る。

 

「レ級さんって器用なんだね!」

「凄いじゃない!」

 

「へへッ、褒メタって何モ出なイぜ。」

 

 ────とか言いながら、尻尾は恥ずかしそうにうねうねしている。

 

ㅤ...“身体は正直”とはまさにこの事だと思う龍田であった。

 

 

 ∽

 

 

 一筋、冷や汗が垂れる。

 

 「「......(しゅこー、すこー)」」

 

 人見知りの強い春雨は、少し離れた調理場裏行ったのだが...

 

 「......(しゅこー、すこー)」

 

 ────先客がいたのだ。

 

「あ、あの...」

 

「......!(びくっ)」

 

「ひっ...!

 そ、その...これ、使ってください...」

 

 黒いワンピース姿の潜水艦...ソ級は、床に座り込んでいたのだ。流石に気まずいので、春雨は小さな椅子を持ってきた。

 

「......(ぺこり)」

 

 お礼を言いたいのか、軽く頭を下げて受け取り、椅子に座るソ級。

 

「「......(しゅこー、すこー)」」

 

 気まずい空気が流れる。しかし春雨、はっと思い出してすぐそばにあった余ったぶんの紅茶をソ級に差し出す。

 

「あ、あの...」

 

「......!(びくっ)」

 

「ひっ...!

 そ、その...紅茶、どうですか...?」

 

「......(ぺこり)」

 

 また一つ頭を下げて、紅茶を受け取るソ級。

 

「......(かつ、かつ)」

 

 ガスマスクを着けていることを忘れていたのか、カップを何度か当ててからガスマスクを少しだけ上げる。

 

「......(ふう)」

 

 小さな口ですすって、またガスマスクをはめる。

 

 「「......(しゅこー、すこー)」」

 

 またも気まずい空気。

 と、今度はソ級の方から、

 

「......(すっ、すっ、もじもじ)」

 

 なんというか、『握手したいけど初対面の人の手を握るのは恥ずかしいような...』という感じの手の動きだ。

 

「......(すっ)」

 

 結局、握手のような...人差し指を出してるような...微妙な感じで手を差し出してきた。

 

「......(すっ)」

 

 春雨も、同じ微妙な形の手を出す。

 

「「......(すーーーっ)」」

 

 二人の手はだんだんと近づいて────

 

 

 

 「「......(ぴとっ)」」

 

 

 

 二人の人差し指同士が、触れあう。

 

 ...(はた)から見ればシュールな光景だ。

 

 だが、そこには確かな友情が芽生えていた。

 

 ...しかし何故だろうか、触れている指と指の間から、仄かな光が灯っているように見えてしまう。

 

「その...友だちに、なってくれますか...?」

 

「......??」

 

「あっ、その...友だちっていうのは、一緒にお話ししたり、仲の良い間柄になるって言うか...その...」

 

「────友ダチ...」

 

 初めて、ソ級が声を出した。

 鳥の羽根で撫でるような、優しく美しくか細い声だった。

 

「.........アナタ...モウイル......?」

 

「あ、私の鎮守府の人たちは...友だちって言うより“仲間”だったり、“姉妹”だったりするので...

 ソ級さんが、初めての“友だち”です、はい。」

 

「.........友ダチ......友ダチ...」

 

 言葉の響きが気に入ったのか、何度か呟く。

 

「...!

 あの...これ、友だちの証として...受け取ってもらえますか?」

 

 春雨が懐から取り出したのは、ラムネのビー玉(翔曰く正式名称はエー玉)だった。

 

「.........キレイ......」

 

 ソ級は両手で受け取り、そっと手に持って光に(かざ)したり手の上で転がしたり、興味深く見つめている。

 ...ガスマスクの下の瞳はビー玉よりも、さぞかし綺麗に輝いているだろう。

 

「......(ごそごそ、ぱっ)」

 

 ソ級はポケットにビー玉を入れて、何かを取り出し...春雨に差し出す。

 

 それは小さな黒い結晶なのだが、その結晶の中に...これまた小さな赤い光が閉じ込められている。

 

 手に持っていると、身体の奥で何かが渦巻くような────不思議な気分になる。

 

「これは...?」

 

「.........友ダチノ、証......死ヌ気デ、願エバ...願イ、叶ウッテ......言ワレテル......」

 

「願いが...えぇ?!」

 

「......(こくこく)」

 

 恐らくミサンガみたいな、願掛けのようなものだろう。

 

 渡したビー玉よりもとても綺麗で、特に中の赤い光はずっと眺めていられる気がする。

 

 見れば見るほど、引き込まれそうになる。

 

『春雨ー、どこ行ったー?』

 

 食堂から聞こえる翔の声で我に帰る。

 ...少しトリップしていたようだ。

 

「ちょっと、司令官に呼ばれたので...また来ますね、はい。」

 

「......(こくこく)」

 

 ソ級に背を向けて、春雨は翔の元へ向かう。

 

 

 

 

 

 「......」

 

 春雨の背中を見送るソ級。

 

 

 手の中のビー玉を見る。 

 

 

 ニヤリ、とガスマスクの下の口角が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

「世話にナッタわね。」

 

「マタ宜シクな...ヒヒッ」

 

「モウ...オヨメに行けナイ...」

 

「......(しゅこー、すこー)」

 

 昼に出ては流石にまずいので、夜に帰って頂くことにした。

 レ級は笑顔で手を振り、ル級は...何故か顔を真っ赤にして洋服の入ったビニール袋を提げている。

 ソ級はガスマスク...のような艤装を着けたままだが、一応お辞儀してくれる。...何やら春雨と仲良くなったようだ。

 

「マタな、ケンペー!」

 

「うん、気をつけて帰るんだぞ。」

 

 わしわしと北方棲姫の頭を撫でて、憲兵さんは手を振る。

 

 ざばんざばんと着水し、沖へと進んでいく深海棲艦たち。

 

 その姿が海に沈むまで、第七鎮守府の艦娘は見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 in執務室

 

 「「「ふへぇ〜...」」」

 

 みんなが気の抜けた声とともに、布団の上でドロドロに溶けていた。

 

 まあ無理もない。

 昨日ずっと船に揺られて、重い荷物を抱えて鎮守府に帰ってきたと思ったら深海棲艦が居て、私含むみんなほとんど眠れていないのだ。

 

「提督......私たちの敵って、何ですか...?」

 

「奇遇だな山城...私もそれを考えていた所だ。」

 

「提督でも答えが出ないなんて...不幸だわ...」

 

 はーー、と大きなため息をつく。

 

「...しばらく出撃・遠征は休みにしよう。

 全員荷物整理と休養に専念してくれ。」

 

 「「「りょーかーい...」」」

 

 返事に覇気が感じられない。

 

 あと二週間の夏休み。

 それなりに頑張るか...

 




「投稿ペース低下します!

次話より新章突入ッ!!

待望の戦闘マシマシかも?!!

第五章・題名未定!お楽しみにッ!!」
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