あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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※作品の雰囲気を重視する結果、前書き・後書きを一旦無くすことに決定致しました。

※章終了後、座談会という形でお話の解説・振り返る回を入れたいと思っています。

※それでは、本編へどうぞ。




5章 災禍は光とともに
34話 一通の手紙


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────光が、全てを飲み込む。

 

 ────光が、全てを飲み込む。

 

 

 

 ────海を、空を、私を。

 

 ────関係の無い、私たちを。

 

 

 

 ────脚はもう動かない。動かす力もない。

 

 ────みんなあの光でなす術なく沈んだ。

 

 

 

 ────最強と謳われた私が...笑えるものだ。

 

 ────脆く儚い日常...笑えるものだ。

 

 

 

 ────戦っている仲間がいるのに

 

 ────こんな呆気ない死に方は嫌だ

 

 

 

 ────私はまだ、沈むわけにはいかない

 

 

 

 ────私はまだ、沈むわけにはいかない

 

 

 

 ────わたし“たち”はまだ

 

 

 

 ────ワタsタチwあMaダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五章

 

 〜災禍は光とともに〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深海棲艦たちとの接触から三日、だんだんと暑さも薄れてきた、九月上旬のこと。

 

 

 

 「司令官さん、お手紙が届いたのです!」

 

 

 

 電が下の郵便受けから手紙を取ってきてくれた。

 宅配サービスのチラシとか、報告書を受理した通知とか、いつも通りの内容────

 

「...ん?」

 

 しかし、今日はいつものチラシや封筒とは少し違うものが紛れていた。

 純白の便箋に蝋で封をしてあり、送り元は大本営であった。

 

 懐から取り出した万能ナイフで丁寧に開封すると、一枚の指令書が出てきた。

 

 

 

『第七鎮守府に通達

 

 今夏大規模作戦海域・マーシャル諸島沖にて、深海棲艦が確認された。

 他鎮守府は資材枯渇につき、貴鎮守府に出撃命令を下す。

 敵勢力は未知数のため連合艦隊にて出撃、中枢となる深海棲艦を捕捉し、これを撃滅せよ。』

 

 

 

「そんな...何故だ...?」

 

「司令官さん、どうかしたのです...?」

 

 きゅ、と袖を握ってどこか不安そうな声で問う電。

 

「いや、どうやら私たちの鎮守府に出撃任務が回ってきたみたいで...出撃海域がかなり遠いんだ。」

 

 マーシャル諸島と言えば、日本海側に面している第七鎮守府と真反対...太平洋に浮かぶオーストラリア北東の島々である。

 

 しかし、翔は出撃海域が遠いことに驚いたのではない。

 

 (────ま、夕飯後にでもみんなを呼ぶか...)

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 遠征からみんなが帰って、夜ご飯のあと。

 

 みんな風呂から上がって、執務室でゴロゴロしたり遊んだりする夜の休み時間。

 

「摩耶ちゃん早く次ページぃ」

 

「うるせーな、アタシのジョンプだからアタシの早さで読ませろってんだ!」

 

 鈴谷と摩耶が読んでいるのは週刊マンガ雑誌“ジョンプ”だ。

 ...最近よくコンビニに通ってると思ったら、こんなのを買っていたのか。

 

 ちなみに私は“マガズン”派だ。

 

「電、ペノ1個ちょーだい!」

 

「じゃあ、代わりに暁お姉ちゃんの雪聴(ゆきき)だいふくを一つ貰うのです。

 1個ずつで等価交換なのです!」

 

「そうね!」

 

「おい電」

 

「ぎくっ、なのです」

 

 “ペノ”はチョココーティングされたアイスが六つ入った、女性に人気のひと口アイスだ。

 “雪聴だいふく”は餅皮にアイスを包んだ、ちょっと大きめ二つ入りのアイス。これまた女性ウケがいい。

 『おもち、ふーにふに雪聴だいふく♪』

 のCMでお馴染みだ。

 

「電、せめてペノ三つと交換するべきだ。」

 

「はいなのです...」

 

 と言って暁に渡そうとするが、暁は受け取らない。

 

「え?」

 

「べ、別にいいわよ。

 そんなにアイス食べたいわけでもないし...

 そもそも電が欲しいって言うなら雪聴だいふくのひとつくらいあげるわ。」

 

 と言いながらもペノを一つ頬張る。

  

 ...立派な姉であった。

 

「(暁、お前も一人のレディだな────)」

 

「えっ?ほんとに?!!」

 

 ────こういう所がまだ子どもだが。

 

 ...寝る前のこの緩い空気を壊すのも気が引けるが、話さねばならない。

 

 

 

 「────みんな、聞いてくれ」

 

 

 

 しっかり見据えていつもと違うトーンで翔が言うと、その場にいた全員が本を閉じ、目を覚まし、手を止めて翔の方を向く。

 

「どったのてーとくぅ?

 ...なんだかお顔が怖いよ?」

 

 鈴谷が茶化すように聞いてくるが、彼女は人の機微に敏感である。事の重大さを悟ったのだろう。

 

「実は、今朝元帥から手紙があって────」

 

 

 

 (提督説明中)

 

 

 

「────とりあえず〜、私たちはいつも通り出撃任務をこなせばいいってこと?」

 

 龍田が少し不安そうに言う。確かにそうだが...

 

「ただ、少し海域が遠くなりますね...あ、もちろん榛名は大丈夫です!」

 

「私にまっかせなさーい!」

 

 みんな理解してくれたようだ...が────

 

「────待ってください。」

 

 加賀が手を挙げて一歩進み出る。

 

「提督、私はその作戦に納得が行きません。」

 

「ほう」

 

 ざわめく艦娘たち。進み出た摩耶が口を開く。

 

「あ?ただの作戦に難癖付けようってのか?」

 

「大丈夫だ...加賀、続けてくれ。」

 

 翔が制すると、むう...と唸って一歩下がる。

 

「...よろしいですね?

 確かに、摩耶さんの言う通り一見連合艦隊で行う通常どおりの作戦。

 ────ですが、不可解な点があります。

 一つ目は、なぜ大規模作戦で制圧した海域に出撃命令が下ったか、ということです。」

 

 ...みんながざわめき始める。

 

「確かに、一度制圧してしまった海域に出撃だなんて変な話よね。」

 

「そ、その...残ったはぐれ深海棲艦をやっつけるため...じゃないですか?」

 

 春雨村雨姉妹が尋ねる。

 

「確かに、残党処理と言ってしまえば納得出来るかも知れませんが...そこで二つ目の不可解な点と重なります。」

 

 

 

「────何故連合艦隊で出撃するのか、ってことよね?」

 

 

 

「...その通りです。」

 

 山城たちは翔が提督になってから数多くの出撃を重ねているし、加賀たちは元第六鎮守府のエース級揃いである。

 山城の言う通り、残党処理に連合艦隊を出撃させるほどこの鎮守府の艦娘たちはヤワではない。

 

「以上の二点、私が引っかかったことです。

 別に出撃拒否(ボイコット)しようという訳ではありません。...軍の世界では叛逆として扱われてもおかしくないですから、ね。

 言うならばもう少し、敵艦情報などをいただけると嬉しいですが。」

 

 パチ、パチ、パチ...

 

「加賀、見事だ。完璧な回答をありがとう。

 実は私も気づいていて、明日元帥に確認を取るつもりだ。

 ...大切なみんなを未知の海域に出撃させるわけにはいかない。」

 

「......!」

 

 ぽふぽふと加賀の頭を撫でながら言う。

 

「何はともあれ出撃は五日後だ。柔軟に対応できるよう装備構成例を作っておいたが、あくまで例だ。

 みんなの得意な戦略に合わせて話し合いながら、勝手に決めてもらって構わない。

 ...あぁ、もちろん報告は頼むよ。」

 

 と言って、ホワイトボードにコピー用紙を張り付ける。

 

「じゃあ、元帥に電話をかけてから私も風呂に入るよ。

 そろそろ布団を敷いといてくれ。」

 

 「「「はーい」」」

 

 ぱたん、と扉が閉まる。

 

 ホワイトボードに集まる艦娘一同。

 

「...流石は提督さんね〜」

 

「...鈴谷、こんな完璧なサンプル見たことないよ」

 

 その構成例は、艦娘全員の得意不得意・経験した戦術・チームワークなどを考慮した翔の自信作であった

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 (いつもより遅くなったな...)

 

 元帥と話し込んだせいで時刻は二十二時を回ろうとしている。

 ...深まる次回作戦内容の謎、出撃艦隊の調整、そして聞いた話をどう艦娘たちに伝えるか...そんなことを考えている間に更衣室に着いた。

 

「...ん?」

 

 靴箱の端の方にローファーが置かれている。

 

 サイズは25.5cm。女性サイズ...にしては形が男物だった。

 

 まだ少し新しさが見て取れる長椅子にカゴが置かれていて、中には服が入っていた。

 

 ...例年より残暑が厳しいこの九月に長袖・長ズボン・手袋を身につける者は一人しかいない。

 

 (憲兵、か...?)

 

 翔は少し興奮していた。

 ...別に性的な意味ではない。

 純粋に、イスラム教徒のように素肌を隠している憲兵さんの身体を見てみたかったのだ。

 

 一応タオルを腰に巻いて、体を洗うためのスポンジと桶を手に横開きの扉を開ける。

 

 手ぬぐいを頭に載せたシルエットが一つ、大浴場の湯に浸かっていた。

 

「...よぉ提督。

 お前さんも体洗ってさっさと浸かりな。」

 

 翔の方を向かず、背中越しに話しかける憲兵さんの声。

 単純に奥の方に居たのと湯気で、その姿はよく見えない。

 

「...あぁ。」

 

 取り敢えず言われた通りに頭と体を洗い、椅子を手に大浴場へ向かう。

 近づくにつれて視界のモヤが晴れ、湯越しに────

 

 

 

「おいどうした?

 男の俺とじゃあ一緒に入れないってか?」

 

「......」

 

「それともアレか?

 年上の人間と風呂に入るけど、どこに腰を下ろそうか迷ってんだろ。」

 

「......その傷はどこで負ったんだ」

 

「悪ぃ悪ぃ、この浴場に艦娘たちも浸かってるって思って...“勃った”んだろ?」

 

「......いつ、誰にやられたんだ」

 

「ははは、冗談だよじょーだん。

 お前さんが極度の貧血持ちってのは────」

 

 

 

「────“提督”として聞く。」

 

 

 

「......」

 

「......何故、こんな傷を負っているんだ。」

 

 

 

「.........」

 

 

 

 はぁぁぁぁ...と大袈裟にため息をついてみせる憲兵さん。

 

 

 

 「......おじさんの秘密、聞いちゃう?」

 

 

 

 そう言って振り向き、翔に向けた憲兵さんの目は...哀しみでもなく、怒りでもない。

 

 

 

「今から一つ前の提督の時に────」

 

 

 

 ただひどく濁り、全く生気が感じられない...何もかも全てを諦めたかのような目。

 

 

 

「────“色々”あったんだよ。」

 

 

 

 翔は知っていた。

 

 

 

「だから、まぁ、その...なんだ。」

 

 

 

 提督会議で何人かの秘書艦も“この”目だった。

 

 

 

「どうしても聞きたいってなら────」

 

 

 

 憲兵さんの目から読み取れる感情...いや、感情という括りではないかしれない...を一言で表すならば────

 

 

 

 

 

 「────それなりに覚悟しろよ。」

 

 

 

 

 

 ────絶望、であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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