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面白いだろ?
そいつが鉄棒を合わせるたびに、片脚の折れたバッタみたいに身体が跳ね上がる。
────バチィン、バチチ、バババ...
意外とこれ、快感だぜ?
アンタもやってみなよ、畳針と五寸釘。
────ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ...
タイミング見極めて力を入れるんだ。
そうそう、音ゲーって奴だよ。
ん?あぁ、Miss出したらひどい時は二、 三本持ってかれるから、気をつけろよ。
────ドスっ、ゴッ、ガスッ...
薬指と小指だけでも、ギリギリ鉛筆は持てるんだぜ?
────ギリギリギリ、みしみし、ばきん。
あーあ、綺麗さっぱり無くなっちまったじゃねぇか。
意外と革靴って高いんだぜ?
────キュィィィ...グジュジュジュジュ...
「大本営の犬如きがふざけた真似をするからだ。」
くーっ、やっぱこれだな。
全身に染み渡るぜ!!!
────海水を俺にぶっかけて、“そいつ”は去る。
...飯?
人間ってのは案外塩水で生き延びれるんだぜ?
ちと塩水にしちゃあ鉄臭さがうざいけど、これがまた癖になるんだよなぁ。
───、───、内地で上手くやってるか?
ここ最近帰れなくて悪ぃが、春休みも無理そうだわ。
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「────私たちの艦娘の為に動いてこんな目に遭うなんて、ね〜。」
「不幸どころか...もはやおめでたい人ね...」
────手錠に繋がれた男は、既に気を失っていた。
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そしてあの日、第七鎮守府にとうとう一斉捜索令が出た。
どうやら大本営で“諜報部”を自称し、自作新聞を配ったりしている変わり者の艦娘が暴いたらしい。
────おい、ここに隠し階段があるぞ!
────あの輪っか艦娘の言ってた通り、慎重に踏み込むぞ!
────うっ、ぐぎ...ぉええああっ!!
────おぇぇええええええげえぇええぇぇ!!
────何だこの悪臭...ッ!ガスマスクを着けろ!
────チッ、階段を降りる度に強くなってやがる...!
────おい、何かが壁に繋がれてるぞ!
Bチーム、出番だ!
────これは...人、か?
────動いてる...まだ生きてるぞ!!
────運びだせ!救急隊を呼べ!!
何故生きているのか分からないような状態で発見された男は、工廠での爆発事故で殉職したとされていた──であった。
彼の治療は困難を極め...膿の摘出、傷の縫合など数十回に及ぶ手術を施行。
しかし同僚や部下、さらには艦娘にまで慕われていた彼は周りからの援助も受け、なんと再び憲兵として返り咲くことができたのだ。
しかし、その事件を境に彼は肌を見せなくなった。
絶望と苦痛が刻まれた身体を隠すために────
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話が終わるとほぼ同時に、ガラララと大浴場の扉が開かれた。
「か、翔さん...?
貧血で倒れてたら、返事を欲しいのです...?」
バスタオルを身体に巻き付けた電が入ってきた。
...倒れてたら返事はできないだろう。
「丁度いい...なあ、お二人さんよぉ。」
「はわわわ?!
け、憲兵さん...なのです?」
つつましい身体を手で隠す電。
「翔さん居ますよね?
しかもものすごく失礼なことを考えているのです?」
「...知らないなぁ。」
あっ、と二重の意味で言いかけたが...電は艤装を出ていない、目が見えていない状態であった。
...気の弱い電が身体中に古傷や手術跡、さらには足の指が無い憲兵の姿を見たら...ただで済むとは思えない。
「あーいや何も考えてないぞー、誰も榛名ちゃんや加賀さん、山城や鈴谷ちゃんが良かったなんて誰も考えてないぞー」
「「......」」
閑話休題。
「...二人に聞きたいことがあるんだ。」
「だ、大丈夫...なのです。」
「......」
「どうやって...深海棲艦ってのは生まれると思う?」
......
「...明確な根拠は明らかにされていない。」
「固いなぁ...ま、俗論じゃあ怨念とか怨みとかに手足が生えたもので、イ級からだんだん育っていくとか言われてるだろ?」
「あくまで一般論ですが...軍学校でも、そう教わったのです。」
艦娘は艦船の魂が具現化して生まれたと言われているが、電の言う通り深海棲艦は怨念が具現化したと言われている。
そして最初は人型でない...いわゆる駆逐イ級のような“サメ型”と呼ばれる状態から、深海棲艦として生きていく上でだんだんと成長し、最終的に姫・鬼級に育つと言われている...明確な根拠はないが。
「まぁ、そうだよなぁ。
...でも俺は、こう思うんだ。
そいつの怨みの強さによって、そもそも生まれてくる時の姿が変わるんじゃねぇかってな。」
「一理ある...が、それなら北方棲姫はどうなるんだ?」
「ったく、揚げ足取りが上手いなぁ...」
...一応確認するが、階級的には即クビにできるレベル言葉遣いである。
まあそんな言葉を────
「そんな言葉を軽く投げれるほどに信頼している、ってことだぜ?」
「んなことわかってる、なのです。」
「二人して私の心を代弁しないでくれ...」
「────んでまぁ、話を戻すぜ?」
「憲兵さんが脱線させたんだろ、なのです。」
「......」
「...北方棲姫を上げちまったら、アイツら全員説明がつかないだろ?
多分何かしらあって怨みを捨てちまったんじゃないのか?」
「そういうことにしておこうか...」
なにせ深海棲艦については艦種による識別程度しかなく、生態などについてはほとんど分かっていないのだ。
「深海棲艦ってのは、艦娘に変わったりしないのか?」
「...今までにそういう確認はされていない。」
「でも、海上で見つかる艦娘さん...私もですが、何故そこに居たのか、の説明がつかないのです...」
俗に言う“ドロップ艦”が最初から居たとすれば、偵察機を飛ばしている時点で幾らでも見つかっているはずだ。
でも、全てのドロップ艦が“敵艦隊を倒した後”に、発見されている。
...まったくおかしな話である。
「...何故そういう話を私たちに持ちかけたんだ?」
こういう質問の理由を聞く質問は翔自身も嫌いだが、どうしても聞きたくなってしまったのだ。
「もし、人間が深海棲艦になったら...
俺が深海棲艦になったら、どうなるんだろうな〜ってことを...たまに考えるんだよ。」
「憲兵さんが...深海棲艦さんに、なのです?」
「そうだよ。」
「......」
「あぁ提督、俺はもう“アレ”は気にしてないぜ?
過ぎたことをネチネチ掘り返すのは嫌いなんだ。
ただ、俺が深海棲艦になったとしても、みんなと会えるだろうな...って。
────人類最大の敵として、な。」