あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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35話 ある男の過去

 

 

 

 

 ∽∽∽

 

 

 

 

 

 

 面白いだろ?

 そいつが鉄棒を合わせるたびに、片脚の折れたバッタみたいに身体が跳ね上がる。

 

 

 

 

 

 

 ────バチィン、バチチ、バババ...

 

 

 

 

 

 

 意外とこれ、快感だぜ?

 アンタもやってみなよ、畳針と五寸釘。

 

 

 

 

 

 

 ────ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ...

 

 

 

 

 

 

 タイミング見極めて力を入れるんだ。

 そうそう、音ゲーって奴だよ。

 ん?あぁ、Miss出したらひどい時は二、 三本持ってかれるから、気をつけろよ。

 

 

 

 

 

 

 ────ドスっ、ゴッ、ガスッ...

 

 

 

 

 

 

 薬指と小指だけでも、ギリギリ鉛筆は持てるんだぜ?

 

 

 

 

 

 

 ────ギリギリギリ、みしみし、ばきん。

 

 

 

 

 

 

 あーあ、綺麗さっぱり無くなっちまったじゃねぇか。

 意外と革靴って高いんだぜ?

 

 

 

 

 

 

 ────キュィィィ...グジュジュジュジュ...

 

 

 

 

 

 

 「大本営の犬如きがふざけた真似をするからだ。」

 

 

 

 

 

 

 くーっ、やっぱこれだな。

 全身に染み渡るぜ!!!

 

 

 

 

 

 

 ────海水を俺にぶっかけて、“そいつ”は去る。

 

 

 

 

 

 

 ...飯?

 人間ってのは案外塩水で生き延びれるんだぜ?

 ちと塩水にしちゃあ鉄臭さがうざいけど、これがまた癖になるんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───、───、内地で上手くやってるか?

 

 

 

 ここ最近帰れなくて悪ぃが、春休みも無理そうだわ。

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 「────私たちの艦娘の為に動いてこんな目に遭うなんて、ね〜。」

 

 

 

 「不幸どころか...もはやおめでたい人ね...」

 

 

 

 ────手錠に繋がれた男は、既に気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 ∽∽∽

 

 

 

 

 

 

 そしてあの日、第七鎮守府にとうとう一斉捜索令が出た。

 

 どうやら大本営で“諜報部”を自称し、自作新聞を配ったりしている変わり者の艦娘が暴いたらしい。

 

 ────おい、ここに隠し階段があるぞ!

 

 ────あの輪っか艦娘の言ってた通り、慎重に踏み込むぞ!

 

 ────うっ、ぐぎ...ぉええああっ!!

 

 ────おぇぇええええええげえぇええぇぇ!!

 

 ────何だこの悪臭...ッ!ガスマスクを着けろ!

 

 ────チッ、階段を降りる度に強くなってやがる...!

 

 ────おい、何かが壁に繋がれてるぞ!

 Bチーム、出番だ!

 

 ────これは...人、か?

 

 ────動いてる...まだ生きてるぞ!!

 

 ────運びだせ!救急隊を呼べ!!

 

 

 

 

 

 

 何故生きているのか分からないような状態で発見された男は、工廠での爆発事故で殉職したとされていた──であった。

 

 彼の治療は困難を極め...膿の摘出、傷の縫合など数十回に及ぶ手術を施行。

 

 しかし同僚や部下、さらには艦娘にまで慕われていた彼は周りからの援助も受け、なんと再び憲兵として返り咲くことができたのだ。

 

 しかし、その事件を境に彼は肌を見せなくなった。

 

  絶望と苦痛が刻まれた身体を隠すために────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽∽∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 話が終わるとほぼ同時に、ガラララと大浴場の扉が開かれた。

 

「か、翔さん...?

 貧血で倒れてたら、返事を欲しいのです...?」

 

 バスタオルを身体に巻き付けた電が入ってきた。

 ...倒れてたら返事はできないだろう。

 

「丁度いい...なあ、お二人さんよぉ。」

 

「はわわわ?!

 け、憲兵さん...なのです?」

 

 つつましい身体を手で隠す電。

 

 

 

「翔さん居ますよね?

 しかもものすごく失礼なことを考えているのです?」

 

 

 

「...知らないなぁ。」

 

 あっ、と二重の意味で言いかけたが...電は艤装を出ていない、目が見えていない状態であった。

 

 ...気の弱い電が身体中に古傷や手術跡、さらには足の指が無い憲兵の姿を見たら...ただで済むとは思えない。

 

 

 

「あーいや何も考えてないぞー、誰も榛名ちゃんや加賀さん、山城や鈴谷ちゃんが良かったなんて誰も考えてないぞー」

 

 

 

 「「......」」

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 

「...二人に聞きたいことがあるんだ。」

 

「だ、大丈夫...なのです。」

 

「......」

 

「どうやって...深海棲艦ってのは生まれると思う?」

 

 ......

 

「...明確な根拠は明らかにされていない。」

 

「固いなぁ...ま、俗論じゃあ怨念とか怨みとかに手足が生えたもので、イ級からだんだん育っていくとか言われてるだろ?」

 

「あくまで一般論ですが...軍学校でも、そう教わったのです。」

 

 艦娘は艦船の魂が具現化して生まれたと言われているが、電の言う通り深海棲艦は怨念が具現化したと言われている。

 そして最初は人型でない...いわゆる駆逐イ級のような“サメ型”と呼ばれる状態から、深海棲艦として生きていく上でだんだんと成長し、最終的に姫・鬼級に育つと言われている...明確な根拠はないが。

 

「まぁ、そうだよなぁ。

 

 ...でも俺は、こう思うんだ。

 そいつの怨みの強さによって、そもそも生まれてくる時の姿が変わるんじゃねぇかってな。」

 

「一理ある...が、それなら北方棲姫はどうなるんだ?」

 

「ったく、揚げ足取りが上手いなぁ...」

 

 ...一応確認するが、階級的には即クビにできるレベル言葉遣いである。

 まあそんな言葉を────

 

「そんな言葉を軽く投げれるほどに信頼している、ってことだぜ?」

 

「んなことわかってる、なのです。」

 

「二人して私の心を代弁しないでくれ...」

 

 

 

「────んでまぁ、話を戻すぜ?」

 

「憲兵さんが脱線させたんだろ、なのです。」

 

「......」

 

「...北方棲姫を上げちまったら、アイツら全員説明がつかないだろ?

 多分何かしらあって怨みを捨てちまったんじゃないのか?」

 

「そういうことにしておこうか...」

 

 なにせ深海棲艦については艦種による識別程度しかなく、生態などについてはほとんど分かっていないのだ。

 

「深海棲艦ってのは、艦娘に変わったりしないのか?」

 

「...今までにそういう確認はされていない。」

 

「でも、海上で見つかる艦娘さん...私もですが、何故そこに居たのか、の説明がつかないのです...」

 

 俗に言う“ドロップ艦”が最初から居たとすれば、偵察機を飛ばしている時点で幾らでも見つかっているはずだ。

 でも、全てのドロップ艦が“敵艦隊を倒した後”に、発見されている。

 

 ...まったくおかしな話である。

 

「...何故そういう話を私たちに持ちかけたんだ?」

 

 こういう質問の理由を聞く質問は翔自身も嫌いだが、どうしても聞きたくなってしまったのだ。

 

「もし、人間が深海棲艦になったら...

 俺が深海棲艦になったら、どうなるんだろうな〜ってことを...たまに考えるんだよ。」

 

「憲兵さんが...深海棲艦さんに、なのです?」

 

「そうだよ。」

 

「......」

 

「あぁ提督、俺はもう“アレ”は気にしてないぜ?

 過ぎたことをネチネチ掘り返すのは嫌いなんだ。

 

 ただ、俺が深海棲艦になったとしても、みんなと会えるだろうな...って。

 

 

 

 

 

 ────人類最大の敵として、な。」

 

 

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