電「前回の前書きが好評だったのです!」
翔「あまりにも短いから感想は返していないが、しっかり全部読んでいるぞ。」
電「こんなに投稿は遅いのに、たくさんのご感想やしおり、高評価...本当に嬉しいのです...っ!」
翔「本編のほうは例の駆逐艦との鎮守府での話だな。」
電「大ハズレするサブタイトル予想...コンブさんの頭は大丈夫なのでしょうか...ということで!」
翔・電『────本編へ、どうぞ!!』
────ひとり、黒い波に飲まれ
────に手を伸ばし
────を羨み───を憎しみ
────運命を拒み、神を呪い
────を
∽∽∽
「────!!」
目を覚まし、息を取り込み、周りを見渡す。
...背中に触れると、汗で濡れていた。
────私は駆逐艦である。名前はまだ思い出せない。どこで生まれたか頓と検討が付かない...訳では無い。ここから北の海で見つけられ、保護されたらしい。
覚えてることはないか、といった軽い尋問を受けてから、暫くこの布団で考え事をしていたが、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
...私は見た目は深海棲艦にかなり近いのだが、今の自分に艦娘への敵対心が無いあたり、多分艦娘である。艦娘の、はずである。
そして考えついたのが、記憶を失ったとすれば、記憶を失う前の行動を起こすと身体が勝手に動く...身体が思い出すのではないか、と。
つまりは艦娘と同じような生き方...“人間らしい”生活をしていれば、何かしら思い出せるかもしれないのではないか、と。
運がいいことにここで活動している艦娘たちは、私に対して敵対どころか、今のところかなり友好的である。彼女たちとふれあっていれば、きっと手がかりは見つかるはずだ。
...と、意気込んだはいいものの。
艤装を外され、補給も受けていないこの身体は...飢えていた。
────ぐ〜ぎゅるるる。
陽はとうに沈んだ二十時頃、部屋の明かりも弱めに設定されている。ついさっきまでぐっすりと眠っていた私はなかなか寝付くことはできない。このまま朝を迎えるのはかなり厳しい。
(補給不全、食料無し...つまり、飢餓)
かと言って今食料を与えられたとしても、恐らく自分がこの肉体を持って食料を口にしたことが...記憶には無い。
空いた腹に多くを詰め込めば、逆に今より調子が出なくなるだろう。
綺麗な部屋、ふあふあ毛布と快適なのだが...
(待遇が良くても、一応は捕虜...)
改めて今の身分を自覚しようとした駆逐艦。だが、
────コンコンコン
(...!!)
扉の方からノック音。
『入っていいかしら〜?』
「......」
かららら...とゆっくり開かれる。
「突然ごめんなさいね?
私は給糧艦の間宮。そろそろ夜ご飯の時間かなって思って、雑炊を作ってきたの。」
間宮、と名乗る白い割烹着の女が、土鍋を持って入ってきた。
かなり厚手の手袋を着けているあたり、鍋の熱さが窺える。間宮は一旦灰と黒の紙束をテーブルの上に広げ、それを載せる。
見た感じ鍋に溜めた残飯だろうか。まあ、食べ物にありつけるだけマシである。
...しかし間宮がふたを取ると、ふんわりとしたいい香りが湯気とともに広がる。
「急がなくていいのよ、取り皿に分けるからちょっと待ってね。」
...気付かぬうちに腰が浮いていたようだ。しかしそれほどに美味しそうな香りだった。
間宮はそのまま慣れた手つきで二つの皿に取り分け、スプーンを渡す。見た感じ米をスープで煮込んだような料理のようだ。
食欲の赴くままに、いざ手につけようとした時だった。
「こーら、食べる前に“いただきます”でしょ?
ご飯を食べる前には手を合わせて、食べ物や...食べ物に感謝してから戴くのよ。」
...なるほど、と駆逐艦は思った。
魚や肉、野菜にしろ、何かを食べる時は何かしらの命を奪って自分の糧にしているのだ。自然界としては当然の摂理だが、それに敢えて感謝の意を示すというのはいかにも“人間らしい”行動だ。
「一旦スプーンを置いて、」
置いて。
「手を合わせて」
手を合わせて。
「いただきます。」
「...いただきます」
間宮はうんうんと満足げに微笑み、皿を手に取る。私もスプーンに少しだけ取り、口に入れる。
「...おい、しい」
スープはしっかりとした味付けだが、のどを通すとさっぱりしている。米は煮込まれ、スープが染みているのか、二倍くらい膨張して非常に食べやすい柔らかさだ。
米なんてポリポリと数粒ずつ食べるものと思っていたが、調理しだいでここまで味や食感が変わることに感動である。
「あら、気に入ってもらえてよかった♪
何も食べてないって聞いて、消化にいい雑炊を薄味で作ったのよ?」
...これが薄味?
私にとっては普通か濃口と言われても頷けるくらいだが、彼女がそういうなら薄味なのだろう。
いや、そもそも食べ物に感じた味など水の塩辛さくらいだ。『食』にはこんなにも素晴らしい世界が広がっていたのか、と気付かされる。
そんなことを考えながらも身体は空腹。あっという間に食べ終えてしまった。
「さて、食べ終わってからも挨拶があるのよ。
...手を合わせて。」
手を合わせて。
「ごちそうさまでした。」
「...ごちそうさまでした。」
不思議な挨拶をしてから、間宮は食器を土鍋にまとめ始める。
それにしても...なんというか、不思議である。
自分でさえ艦娘か深海棲艦かわからない他人に普通に接してくれて、私のためにわざわざ夕飯を振舞ってくれた。それも不安定なことを配慮して消化にいいものを、だ。
「ん?どうしたの?」
片付ける手を止めて、私に向き直る間宮。
...自分でも気付かないうちに、呼び止めていたらしい。
穴だらけの頭で必死に考えて、自分で自分の顔が火照るのを感じながら言葉にする。
────い...
「そ、その...あり、がとう。
美味しかった、です...」
「......」
間宮は私の言葉を聞くとそっと歩いてきて、力強く抱きしめた。
「ありがとう...あなたならきっと“昔のこと”を思い出せる。
ゆっくりでいいから、無理はしないのよ。
あなたみたいな優しい子が、深海棲艦なわけないわ。
お腹がすいたり、何か相談したいことがあったら...いつでも食堂に来ていいからね。」
最後に頭を撫でて、部屋から出ていく間宮。
すごく恥ずかしかったが、それ以上に暖かい感情が胸に広がった。
∽∽
駆逐艦がこの鎮守府にやってきて数日...翔が提督会議のため、遠征も出撃もない、休みの日の朝九時頃。
ちなみに秘書艦は加賀さんである。前回駆逐艦を連れていたのが翔だけだったことと、第八鎮守府の秘書艦が赤城と知ったから、らしい。
というわけで思わぬ暇を貰った電は、こつん、こつんと杖を突きながらある場所へ向かっていた。
「......入る、のです。」
「......」
扉を開けるとほんのりアルコールが香り、清潔感を彷彿させる白を基調にした色が視界に入る。
ついこの前の言葉を謝るべきだと翔から言われ、昼ごはんを持っていくことになったのだ。
流石に武器を持っていくのはどうかと思い刀はしまっているが、それでもこちらを見ている気配がちくちくと伝わってくる。
つまり、めちゃくちゃに警戒されているということだ。
「...そのぅ、」
「!」
一層気配が強くなる。
「この前は...ちょっと、失礼なことを言ってしまったのです...
ごめんなさい、なのです...」
「......」
少しの静寂。
駆逐艦はじっと電の言葉を聞き...ふすー、と溜息をついて、口を開く。
「......別に、気にしてない。」
ごそごそと座り直し、毛布を肩に巻いて向き直る。
声音などから察するに、とりあえず大丈夫...な気がする。
「お、お詫びとは言い難いのですが...パンを持ってきたのです」
「!」
ベッドに腰掛ける駆逐艦の近くに小さなテーブルを動かして、持ってきた紙袋から電の好きなメロンパンを渡す。
駆逐艦の好みは分からないが、メロンパンが好きでない人はそうそういないはずである。
「いただきます、なのです。」
「いただ...きます...」
ほとんど記憶が無いと言ってた割には、食前の『いただきます』を知っていたようだ。
ともかく、ひと袋一食分の使い切りジャム...翔曰く『給食ジャム』を一口分塗り、バゲットを頬張る。
かなり堅い外皮を噛みちぎると、いちごの風味がふわりと香る。小麦の輸入が絶たれたことにより普及した米粉パンは、もっちりした食感が特徴だが...駆逐艦は気にせずむぐむぐと食べている。嫌いではないらしい。
「......ん」
「?」
駆逐艦がこちらにメロンパンを向けているようだ。
「...さっきから、私が食べてるとこ...チラチラ見てたでしょ。」
「えっ...ぁ、見てな」
「嘘。絶対見てた。」
...実際電はメロンパンの甘い香りにつられて顔を向けていただけであり、視界にはそれっぽい色が見えるだけなのだ。謝意を見せるために譲ったものを欲しがるなど言語道だ...
「────もむっ」
一口大にちぎられたメロンパンを突っ込まれた。
「...あなたのも、もらう。」
メロンパンのさくさくとあまあまに夢中な隙に、電の手のバゲットに齧り付く駆逐艦。
回し食いとか回し飲みとか、そういうのはあまり気にしない派なのだろうか、なんとも積極的である。
「...!」
「あっ...ジャムを塗ってなかったのです」
菓子パンではないバゲットは砂糖などがほとんど入っていない故、かなり味が薄い。
「......!!」
「ひぁ!」
駆逐艦は電の手からバゲットを奪い取り、もう一口ブチブチと荒々しく噛みちぎり、咀嚼する。
不審に思った電は駆逐艦に見えないよう、後ろ手で刀を展開するが...
「......」
「え...?」
視界に映ったのは、ぽろぽろと涙をこぼしながらバゲットを齧る駆逐艦の姿だった。
「......」
駆逐艦は目を見開き、無言で、ただひたすらに硬いバゲットを食らう。
しかし我に返ったのか、はっとしてバゲットと電を交互に見たあと、
「...ごめん、なさい。私が、私じゃなくなったみたいに...お腹すいて、耐えられなかった...」
さっきまでと別人のように、本当に申し訳なさそうに謝る駆逐艦。
「びっくりしたのです...でも、何か、うーん...」
思い出せたのです?と聞きたかったが、先日の件もあって電はなるべく過去には触れないでおこうと決めたのだ。記憶を失ったなら、今からたくさん思い出を作ればいいのだ。
電は縮こまってしまった駆逐艦の隣に腰掛けて、刀をしまい、背中をさすってやる。
「パンは多めに持ってきたのです。気にしなくても大丈夫、なのです。」
「ごめんなさい...」
しょんぼりと肩を落としながらも、バゲットを噛みちぎる駆逐艦。よほどの何か思い入れでもあるのだろうか。
兎にも角にも、電は今の彼女を責める気にはなれなかった。
「うぅ...おいちい...」
...案外、ただ気に入ってるだけかもしれない。
────からららら。
「いなづ」
「来ないで...」
翔が医務室に入ろうとするのを駆逐艦が嫌がる。目覚めた時もそうだったが、かなりの男嫌いなのだろう。
「だ、大丈夫なのです。翔さんはこの鎮守府の 司令官 さんなので────」
「ひっ」
フォローを入れたが、聞く余裕もないのか背中に隠れてしまう駆逐艦。
「...そのままでいいから聞いてくれ。
ある程度身体も休まったと思うから、鎮守府内での行動をある程度自由にさせようと思っている。
地図を置いておく。私は大体執務室に居るから、会いたくなければ近付かないでくれ...と言いたいが、私も君のことが知りたい。
今日は会議があるから私は居ないが...他の子と一緒でもいいから、気か向いたら来てくれると嬉しい。」
電に手渡して、翔は去る。
「...もう、行っちゃったのです。」
「ん...」
地図を渡しながらぽんぽんと叩くと、毛布から顔を出してきょろきょろ見渡したあと、ゆっくり出てきた。
「......」
「...どこか行きたい場所があるなら、電もついて行くのです。」
じっと地図を見つめる駆逐艦に見かねた電が声をかけると、駆逐艦は(見えないが)指さしながら言った
「...食堂。」
後書き
(せーのっ)
暁・雷『ここまで読んでいただき、ありがとうございます!』
暁「今回のお話はどうだったかしら?」
雷「実はコンブさん、ほんとはもっと多く書いてたんだけど、キリが悪いから無理やりここで分けたって言っていたわ!」
暁「つまり、次回は早く投稿できる...といいわね。」
雷「次回・サブタイトル予想『欠片集め』。欠片って、あの子の記憶の事かしら...?」
暁「読者の皆さんは一人前の紳士とレディなんだから、次回も読んでくれるわよねっ!」