電「本タイトルがサブタイトルについてるのです!
手抜きなのです!!」
翔「違うぞ電。今回は私たちの出会った頃のエピソードのようだ。かなりコンブも気合い!入れて!書いたそうだぞ?」
電「UAが5000越えたからって調子に乗ってるのです。」
翔「まあまあ、コンブも忙しいらしいから目をつぶってやってくれ...」
電「むぅ〜...
とっとと本編に行くのです!」
次に止まったのはスーパー、という所だった。
野菜やお肉からお菓子までおおよその食べ物と、日用品が揃っているらしい。
そこでも提督はポンポンと手当り次第に食材を入れ、レジに持っていった。
...料理するにも大変な量の肉や野菜を買っていく姿を見て、『備えあれば憂いなし』という言葉を思い出した春雨であった。
店を出ると、『今日一日ついてきてくれたから』という理由で謎の冷たい食べ物をくれた。
食べ物をあまり必要としない艦娘の春雨に、だ。
確か『あいす』と言ったか。二重のふたをペリペリ剥がすと、クリーム色のそれがぎっしり詰まっていた。
カップを持っている手が冷たい。司令官を見習って木ベラで掘り、初めてのアイスを一口。
ぱくっ......
────?!!
∽
さて、これで最低限の生活は出来るだろう。買い物を終えた私は春雨と外で『ハイパーカップ』なるアイスを開けていた。
総選挙でも一位を取り続けている、言わずと知れた安い・美味い・多いを備えたコスパ最強庶民の味方アイスである。
春雨も慣れない手つきで木ベラをつまみ、そっとアイスを一口。
「────?!!」
カッと目を見開き、ぷるぷると手を震わせて、こくんと喉に通し...
「し、司令官さん!とっても...とっても美味しいです!」
頬を赤らめ、キラッキラの目でこちらを見上げながらぴょこぴょこ飛び跳ねる。
「この甘味を原動力にすれば、私、何でもできそうです!はい!」
もしやこれが、士気上昇効果というものだろうか。
確か艦娘たちは出撃して活躍したり、甘味を食べるなど...いわゆる上機嫌になると士気が一時的に急上昇し、更なる力を発揮すると聞いたことがある。
しかしスーパーで売っているようなカップアイスで、ここまで喜ぶものなのか?
...もしかして────
「そうか。じゃあ何かしら手伝ってくれたり手柄を上げたら買ってやろうじゃないか。
ところで、君は────」
「春雨です!」
「────春雨は、今までに物を食べたことはあるか?」
「し、司令官さん...いくら艦娘とはいえ、死んじゃったりはしませんが、艤装をしまっている時はお腹が空きますし...」
HAHAHAと笑って、
「水道水とパンは支給されていましたよ?はい。」
当然のように言い放つ。
「おぉ...」
やっぱりだ。鎮守府の離れにあった食堂と思われる施設があったが、まるで前任がいた頃にも使われていなかったかのように綺麗だった。
つまるところ、第七鎮守府の艦娘たちは今まで『食』に対して幸せを感じたことが無かったのだ。
「てことは、龍田たちも...なのか?」
「私たちにとって、それが普通でした...よ?」
「...」
何かおかしいことでも?と言わんばかりに首を傾げる春雨。
やはりこの鎮守府は問題だらけだ。
「そういえば、司令官さん、」
「どうした?春雨。」
「司令官さんと電さんは、どうしてあんなに仲がいいんですか?」
少し距離が縮まったからか、春雨の方からこちらに踏み込んでくれた。
...この機会を逃すのはもったいない。今こそ話すべきタイミングだろう。
「あぁ...
長話になるが、いいか?」
「覚悟は出来ています。はい。」
目を閉じて空を見上げ、語る...
「そうだな...あれは軍学校時代、まだ私が人間にも艦娘にも心を閉ざしていた頃があってだな。」
「し、司令官さんが?!」
今の私からしても私自身を信じることが出来ない。だが、確かにあった事実なのだ。
「そうだ。それでな────」
∽
一方、鎮守府では...
「あぁ、また私たちは見捨てられるのよ。不幸だわ...」
「春雨ちゃんが泣いて帰ってきたらぁ、あの首、落とさないとね~。」
「司令官、私を頼ってもいいのに...」
「やっぱりあんな奴...クソが!」
...地獄絵図だった。
しかし、一人電だけにこにこしながらたたずんでいた。
「電、なんであなたはそんなに落ち着いていられるの?」
ふと雷が問う。
「だって、司令官さん...
翔さんとは、『約束』しましたから。」
「約束?」
雷電姉妹のやり取りを聞いていた山城が声をかける。
「そういえば電さんと提督は、どうしてあれほどの信頼関係にあるの?」
「あ、それ私も気になっていたのよ~。」
龍田も寄ってくる。
「.....」
微妙に摩耶の気配も近付いてきている。やはり気にはなっていたようだ。
まだまだ帰ってきそうにも無いし、みんなまだ人間...翔に対して完全に心を開き切っていない。
(今が“あの話”をする...チャンス、なのです。)
「じゃあ、お話しするのです。
私と翔さんが出会ったのは───」
∽
翔と電が話を始めたのは場所は違えど、ちょうど同じ時間だった。
これは偶然なのか、運命なのか。
知る者は、いない────
∽∽∽
私、電が目覚めると...そこはぼやけた世界だった。
青い海と青い空の見分けもつかない。
穏やかな波音が、そして電自身に刻まれた艦娘としての本能が、ここは海上だと伝える。
見やると細長いぼやけたものが何本か映る。
「大丈夫?」
それは私に近付いて手を引っ張ってきた。どうやら私と同じ艦娘らしい。
一人では何も出来ないので、おとなしく曳航される。
しばらくすると、青ではないものが見えてきた。
灰色というか、赤というか、緑というか、形容しがたい。
...それが消波ブロックの色だとか、鎮守府の赤煉瓦の色だとか、山の稜線ということは、電にはわからなかった。
「作戦完了。艦隊が帰投します。」
旗艦のお姉さん?の声とともに艤装をしまって陸地に上がり、建物の中へと連れていかれた。
こんこん。
「入れ。」
「失礼します。」
旗艦のお姉さん?に引かれて、司令室...と思われる部屋に入る。 少し冷たい手だった。
がちゃり。
扉を開くと同時に、煙たい空気が電の鼻を刺した。
そして豪華でカラフルな部屋なのだろうか、いろんな色がごちゃごちゃになっていて、少し酔いそうになった。
顔は見えないが、とりあえず挨拶だ。
「暁型四番艦、電です。よろしくお願い────」
「お前、どこを見ている?」
「!!」
「俺の目を見てみろ」
見ようとしてもぼやけていて、目どころか顔も判別出来ない。
声の出元を辿るようにして、司令官の顔と思われる所を見る。
「チッ、こいつメクラか...
まあいい。軍学校に連れていけ。」
「わかりました。失礼します。」
最初『め...』とかなんとか呟いた気がしたが、そんなことを考える隙もなくお姉さん?に手を引かれてどこかに連れていかれる。
...お姉さん?の声は、冷ややかで...どこか機械じみて聞こえた。
「ぁ...暁型四番艦、電です。よろしくお願いします。」
階段を苦労して上り教室を他人に聞いて、ようやく教室にたどり着いた私は自己紹介をしていた。
...見えないけれど、容赦ない視線が私の体を突き刺していくのを感じる。
「それじゃあ、電さんは窓際の一番後ろの席に着いてください。」
「...わかりました。」
ふらふらと私は席に向かって行った。
∽
ぺらり、と一ページめくる。
...なにやらいつもに増して教室が騒がしい。
軽く聞き耳を立てると、どうやら転入生がやってくる、とのことだ。
(どうだっていいが、な。)
転入生如きではしゃぐ同級生共をちらと見やる。どうせ軍学校には男か艦娘しか来ない。
そして三年生になったばかり、春に来る転入生なら大体が男だろう。
いつものように、何も受け付けない透明な壁を張るようにして、『自分だけの空間』を創り本を読む。
────私は艦娘に興味がない。
人と同じように感情があり、人と同じように物を食べ、人と同じように睡眠もとる。
唯一違うのは、海の上で戦うかそうでないか。
しかし、それを除けば人間と何ら変わりない。
...私は艦娘を、“何処にでもいるような『人間』"として捉えていた。
故に、面識もない女子をわざわざ気にする必要など無い。
独りで居るのが好きだという理由もあるが、艦娘と関わって生きていれば同じ人間から弾き者にされる。
私としては弾き者にされても構わないが、色々と面倒な奴らが絡んでくるのは御免だ。
このまま余計なことは起こさず、空気のように過ごせばいいのだ。
しかし、艦娘のおかげで人類は救われたというのに、その艦娘を恐れ毛嫌いするとは。
人間というものは何処まで傲慢な生き物なのだろうか。
...かく言う私もその人間なのだが。
そんなことを考えながら本を読んでいた時だった。
────がつん!
「ふにゃあ!」
転んで倒れてきた艦娘に、私の“透明な壁”はぶっ壊された。
∽
ぽふん、と誰かに抱きとめられる。
「...大丈夫か?」
「あ、ごめんなさい、ありがとうございます...」
「......」
ひゅーひゅー!と冷やかされ、少し恥ずかしくなった私は声のする方に謝って、そそくさと去る。
...が、その人のちょうど一つ後ろが私の席だった。
席につくと、先ほど倒れかかってしまった前の席の人に声を掛けられた。
「────君は、私のことを覚えているか?」
新手のナンパだろうか。ぼんやりとしか見えないが、顔はなかなかいい男の人のようだ。...しかし、ナンパを仕掛けてくるような人とはもちろん、付き合いたくはない。
「えっと、覚えているどころか、あまり目も見えなくて...」
「...そ、そうか。突然すまなかったな。」
慌てて出してしまった答えにもなっていない私の言葉に何故か納得して、くるりと前を向く。
しかし彼の震え、絞り出すような声音は...一体何だったのだろうか。
∽
馬鹿な...そんな事があっていいのか?
“あの日”、確かに“あいつ”は死んだはずだ。
燃える車の臭い、目を刺す土埃、焼け付くように痛む身体...ネックレスにつなげたピンバッジを握りしめ、震える声と溢れる記憶を抑えるようにして、聞く。
「...君は、私のことを覚えているか?」
「えっと、覚えているどころか、あまり目も見えなくて...」
...目が見えていない。それこそ、目の前の机の脚が見えないくらいに?
「...そうか。突然すまなかったな。」
どう見ても“アイツ”にしか見えない、同名の艦娘...こんな偶然があっていいのだろうか。
∽
日は流れて五月、艦娘の戦闘力を測る海上演習があった。
遠くに浮いている的に砲雷撃を当てたり、飛んでくる模擬弾を躱すものだった。が、
「お前、ほんとに艦娘か?」
「ご、ごめんなさい...」
いくら艤装で視力が良くなっても、他の艦娘よりずっと劣っている目では的も模擬弾も見えない。
そんな私がまともな成績を出せる訳無かった。
「せいぜい来月の模擬戦までに戦えるようになろうな、『不良品』さん?」
教官がにやけながら言ってきた。
私たちの演習を見に来ていた人間からの笑い声が聞こえる。
他の艦娘たちも私を見て笑っている。艤装展開時の身体能力増強効果である程度良くなった視力が、見たくないものを容赦なく映す。
その日は上を向いて、寮へ帰った。
「ただいま、なのです...」
いつも通り返事はなく、いつもより重いドアを開け、部屋の電気も点けずにぺたんとへたり込む。
「うぅ...」
私はやはり何も出来ない。助けを求めようにも、私を笑っている人にそんなこと言えるわけない。
「うあぁ...ひっく、ぐすん...」
自然と涙が溢れてくる。
同じ艦娘に相談しようにも、あの笑い声が脳裏を掠めて、どうしても言い出せない。
どんなに泣いても、慰めてくれる人はいない。
私は独りだった。
────ピンポーン。
インターホンが鳴った。
足音を殺して、そっとドアに近づく。
覗き穴から見えたのは、私の前の席の...あの男だった。
いつも一人で本を読んでいて、少なくとも人と話している所を見たことがない。まるで見えない壁を張っているかのような、無愛想な男だった。
────ピンポーン
また音が鳴る。
意を決して鍵を開き、しかしドアチェーンは外さず、覗きこむように開ける。
「な、なんですか...?」
「わかると思うが、同じクラスの鞍馬翔だ。
少し君と話したい。入れてはもらえないだろうか。」
艦娘といえど乙女の部屋に真正面から入りに来るとは、なかなか度胸のある男だ。
しかし雰囲気は馬鹿にしに来た訳でもなく、下心もないようだ。
いつもなら断っていたと思うが、今の私は誰かと一緒に居たかった。
そしてこの男なら、きっと私を笑わないだろう。
...何故だか分からないが、何となく、そんな気がした。
「...どうぞ。」
ドアチェーンを外して、初めて人を招き入れる。
ひとまずテーブルを挟んで向かい合う。
「話って...なんなのです?」
「率直に言う。君は目が見えないだろう?」
ドキリ、とした。
今まで誰にも言っていないし、きっとみんなも気を遣って触れて来なかったことに堂々と触れてきた。
「私に倒れかかってきた時から、気付いていた。
先ほどの訓練にしろ、今まで苦労しただろう?」
私の苦しみを、分かろうとしてくれる人がいる。
たとえ同情だとしても、今の私を慰めるには十分だった。
枯れたと思っていたのに、熱いものが自然と溢れてくる。
「はい...暗くて、辛くて...苦しくて...寂しかった、のです...うぅっ...」
今まであったことを、全て話してしまった。
...今思えば、この男になら話せるような...なにか運命のようなものを自然と感じていたのかも知れない。
「そうだよな。ずっと一人で、寂しかったよな。」
ポロポロと零れる。
私の頭を優しく撫でてくれる。
その手から私の心に、何かが流れ込んでくる気がした。
∽
訓練演習で笑われる電を見てから、私の中の何かが騒ぎ立てる。
気が付いたら、そのドアの前に立っていた。
翔の中の“何か”は囁く。
『全てを失った“あの日”を思い出せ。“あいつ”の遺志を継ぐことが出来るのは、お前だけだ。』
インターホンに、手が伸びる。
しかし、こんな囁き声も響いてきた。
『引き返すなら今だ』
私の中のもう一つの何かが語りかける。『今引き返せば、平穏な日々を送ることができる』と。
『死人の言葉に憑かれて、自分のこの先二年間の学校生活を棒に振り、艦娘と歩む道を選ぶのか?』
手が止まった。
しかし、今一度『私自身』が考える。
私の学校生活を棒に振る?
今までに私が動いたことはあるか?
ずっと本を読みながら達観しているだけの人間だろう?
翔は気づいてしまった。自分には振る棒もないことに。
『“あいつ”がいた頃からいつも艦娘と人間の関係をおかしいと思っているお前が、口先だけの人間になるか、それとも常識をひっくり返す人間になるか、今が分かれ目なんだぜ?』
ずきり、と背中の火傷が疼く。
『待て!うまくいかなければ、お前はずっと変人扱いだぞ?艦娘と関わったらどうなるかはわかっているはずだ。それでもいいのか?』
『『さあ選べ!鞍馬翔ッ!』』
そして私は、インターホンを───
∽
「もう大丈夫か?」
「その、すみません。こんな姿見せちゃって...
ところで、どうして鞍馬さんは、私にここまでしてくれるのです?」
涙が収まって冷静になった私は、ずっと謎だったことを聞いた。
「ふむ...長くなるが、いいか?」
「はいなのです。」
「率直に言うと────私が“電”と出会ったのはこれで二回目だ。」
「え?」
「あれは私が中学生の時だったか。まだ艦娘が現れ始めた頃の話なんだが、一度第三鎮守府に迷い込んだことがあってな。
...そこで電と出会ったんだ。
私は電に案内を無理矢理頼んで、どうにか家に帰ることが出来たんだが...意外と私の家から近い場所に鎮守府があってだな。
その日から時々私の家に遊びに来るようになったんだ。」
「第三鎮守府の提督さんには、怒られなかったのです?」
「まぁ、そこの提督も杜撰な奴でな...駆逐艦の一人や二人居なくなっても気付かないような男だった。
...それから、電をよく鎮守府の外へ遊びに連れ出すようになったんだ。
ㅤ最初はコンビニでアイスを食べたり、公園でブランコに座って駄弁る程度のものだった。
まあ親にバレてからはもっと遠くに遊びに行けるようになったが、な。
艦娘に優しい両親だったよ。」
「......」
「んで、内地へ買い物に連れていってもらった帰り道、車に揺られていた時だ────」
────────────────
────第二次深海勢力侵攻。
ㅤ至近弾の爆風で私たちの乗っていた車は吹っ飛ばされた。
運良く私と電は衝撃で車外に放り出されたからよかったものの、私の両親はひっくり返った車の中で潰れていた。
悲しむ暇も与えないと言わんばかりに砲撃が飛んできて、私と電は必死になってトンネルの出口まで走った。
その出口が目と鼻の先って所で電が突然、艤装展開して私を投げ飛ばした。
艤装を着けた艦娘の力はやはり凄い。
中学生とはいえ、たぶん10m近く私は空を飛んだ。
ぎりぎり受け身をとれたから良かったものの、何するんだ!って言おうと振り返った瞬間、私の目の前で爆発が起こった。
また10m程吹き飛ばされた。
土煙が晴れると、トンネルの出口が岩で塞がっていて、その岩に電が挟まっていたんだ。
私は電に駆け寄って腕を引っ張ったが、もう手遅れだった。
...明らかに駆逐艦の力や艤装では破壊できない、大きな岩だった。
まあ、それでも生きていたあたり艦娘だ。
電は私に言った。
ㅤ────私は幸せだったのです。
鎮守府という檻の中にいた、独りぼっちの私を、あなたが引っ張り出してくれたのです。
最期まで、私の手を握ってくれて、私の傍にいてくれた、誰よりも優しいあなたがいたから...
私はいつだって、独りじゃないって、信じてこれたのです────
呆然と私は、最後なんかじゃないとか、これからも二人一緒だ、とか呟いていたが...また至近弾が飛んできて我に返った。
ㅤ電はもう助からないと、わかってしまった。
────もう、大丈夫なのです。
私は、幸せすぎたのです。
もし...もし、次に生まれてくるときは...
ㅤ幸せすぎて、だれも不幸にならない、平和な、世界だと...いい.........な────
電が喋り終える前に私は言葉でもなんでもない、叫び声を上げながら50m近く走った。
また後ろで爆発が起こった。いくつかの礫片が背中に刺さった。
もしかすると岩が割れていて電を助けることが出来るかも知れない...!
一縷の希望を見出した私が振り返ると、砂塵が目に入った。
うろたえた私が下を向くと、一枚の赤い布切れが足元に転がってきた。
震える手で拾い上げると、何かがくっついていた。
────────────────
「────それが...これだ。」
と、首飾りを外す翔。
「こ、これって...」
それには私が付けているものと同じ、暁型...特Ⅲ型を表す『Ⅲ』のバッジが繋げられていた。手に取って近づけてよく見ると、赤黒く煤けていた。
何が付いているのかは...あまり予想したくない。
「そのとき、私は全てを察した。
あぁ、岩は割れていた。
────粉々に、道路もろとも。
海軍が深海棲艦を撃退した後ずっとその道路を探っていたんだが、結局電は見つからなかったし、物も無かった。
見つけたものを強いて言うなら、私の両親の惨死体ぐらいか。」
「......」
「あの時私は手を離してしまった。
人を...それも女子を見捨てて今までのうのうと生きのさばってきたが、君が倒れかかってきた時から心が疼いてたんだ。
そして先月、演習場で笑われていた君を見て...
言葉では表しにくいが、今度こそ、動かなければならないと感じたんだ。
...そこで、提案だ。
────私とともに、この世界を変えてみないか?」
鞍馬が唐突に放ったその一言は、妙に重い響きがあった。
「今、とてもこの国では艦娘と人間が手を取り合って、仲良く幸せに生活するなんて想像も出来ない。
深海棲艦との戦いが終わればじきに徒党を組み、反逆する艦娘も出て今度こそ日本は滅亡するだろう。
...あくまで私の予想だが、な。」
世界を変える?
「つまり、その“電”さんの言っていた、平和な世界をつくりたい...と?」
「ああ。そういうことだ。」
「そうですか。
......もちろん私も、やってみたいのです。
もし、そんなことが出来たら、さぞかし面白くて、幸せ...なのです。」
そんなことできる訳がないけど、という意味を裏に込めて、鞍馬に返す。
「分かっているじゃないか。普通出来ないことを今、君に提案したんだ。
...でも、
“出来たらさぞかし面白くて幸せ”...だろう?」
鞍馬はどこか遠くを見ながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
訳が分からない。
確かに、その“電”との話には感動した。実際私は今、涙をこらえている。だが、他人の...それも死んだ人のために、出来ないことをやろうとするなど馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。
だが、理性では理解しているのに、やってみたい...夢を追いかけたいという思いが強まっていって、ぐるぐると電の頭の中を掻き回す。
そんな電の心を読んだかのようにニヤリと笑い、鞍馬は長い棒のようなものを手渡した。
触ってみれば持ち手がついている。
「目が不自由な人のための杖だ。
まずはこいつの扱いをマスターしてもらう。
世界を変えるからには...
────“それなりの覚悟”はしてもらうぞ?」
そんな鞍馬の顔を見て、私の心は決まってしまった。
「いえ、ただでさえ駆逐艦で、しかも目の見えない私が、世界を変えるだなんてそんな覚悟、私にはとても出来ないのです。
わざわざ私に言わなくても、戦艦や空母のお姉さんに言えばいいのに。」
「うっ...」
「────でも、
あなたに慰められた時、とっても嬉しかったのです。
もし鞍馬くんがそばにいて、目の見えない私を引っ張ってくれるなら、私は...その...
...どんな事でも、出来そうな気がするのです。
どんな結果になろうとも、迷わずに進める気がするのです。
たとえどんな苦痛が待っていても────
たとえ、世界を変える事だとしても────
最後に、悲劇が待っていたとしても────
────あなたが手を引いてくれるなら。」
「......あぁ。今度こそ絶対に離さない。君の『覚悟』、確かに見せてもらった。」
「はい...これから、よろしくお願いしますね、鞍馬さん。」
「────翔、で大丈夫だ。」
「電で、大丈夫なのです。」
......
「「ふふっ」」
どちらともなく、自然と笑いが起きた。
「折角だから明日、一緒に登校しようじゃないか。」
「はいなのです!」
「じゃあ改めて、電。よろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願いするのです、翔さん!」
∽
「...ところで、どうやって“世界を変える”のです?」
「そこについては考えてある。
私たちが“常識を変える”には、やはり名声を挙げなければならない。
私と電が一緒に居るだけで、学校にいろんな噂が流れるはずだ。
そしてその噂が十分に流れてから、一気に爆発させる。」
「爆発、なのです...?」
「そうだ。ちょうど来月、全校生徒から注目を集める“あれ”があるだろう?」
あっ!と、電も気付く。
「そうだ。私が電の司令官代理になって、来月の模擬戦で最優秀賞を取る。
明日二一〇〇より、訓練所に通うぞ。」
「さ、最優秀賞なんて────」
「────大丈夫だ。
私が電を、引っぱってやる。
だから...信じて付いて来てくれ。」
「...っ、はい!」
『独り』の『二人』が、
『二人』で『一人』となった。
後書き・電
「ここまで読んでくれた読者の皆さん、ありがとうございます。電なのです。
今回の話はコンブさんが考えに考えた大ネタらしいのですが...確認すると誤字が酷くて上げるまでに2時間かかってしまったのです。
次回・サブタイトル予想『ほのぼのご飯回』。
...とてもほのぼのできるとは思えないのです。」