ただおととら   作:電猫

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第1話~金の獣~

「いいか、忠夫。妖怪変化は目に見えんが、ちゃーんと、いるもんなんだぞ」

 

 横島紫暮が神妙な表情で、息子である忠夫に話しかけた。

 しかし話しかけられている息子の方は、鼻をほじりながら『今日は何処で、綺麗なねーちゃんナンパしようか?』などと、明後日の方向を見ながら考えていた。

 そんな忠夫の態度を気にすることも無く、紫暮が話の続きを語り出した。

 

「現にうちの寺に祀られとる槍なんぞは、妖怪退治の名人の、ありがたーい槍なんだからな!」

 

 ピンッと鼻くそを指で弾いた後、忠夫が紫暮に真剣な顔つきで向き直った。

 

「オヤジ……駅前と女子高前、ナンパするならどっちがいいと思う?」

 

 数瞬の間があった後、忠夫の頭上に紫暮の拳が落っこちた。

 

「お前という奴はぁー! オレの貴重な話の最中に、何を考えておるのだ!」

「うるせぇー、なにが貴重な話だ! 毎日毎日朝、息子にオバケの説教たれんじゃねーっ!? オバケなんぞより、綺麗なねーちゃんの方が、百万倍も重要じゃー!!」

 

 痛みに頭を抑え唸っていた忠夫が、叫びを上げながら反撃をする。忠夫が放った蹴りが見事紫暮の顎にヒットした。

 父親を蹴り飛ばし、忠夫が言い放つ。

 

「そもそも、ありがたーい槍があるっつうけど、見せたことねーだろがよ、一回も! このボケハゲ、ホラ吹くんじゃねーぞ!」

「誰が、ハゲだって? この色ガキ!!」

 

 蹴り飛ばされた時雨がくるりと後方回転して衝撃を逃した。その後素早い動きで忠夫の背後に回り込み、忠夫の足を刈り取って転ばせ、息子の頭を踏みつけた。

 

「息子を足蹴にするとは、てめー!?」

 

 踏みつけられた忠夫がふんっと気合いを込め起きあがり、紫暮に掴みかかる。

 

「てめーとはなんだ! オレが気にしてるコトを言いやがって」

「いててて、なにすんだ、ハゲ!」

「いつもナンパに失敗しとる色ガキが! こーしてやる、こーしてやる!!」

「うるせぇー、好きで失敗しとるんじゃないわい、ちくしょー!! このヤロッ、このヤロッ!!」

 

 非常にみっともない父子の取っ組み合いが始まった。

 

「お〜ろか者が! ガキがオヤジ様の相手になるかよ!」

 

 暫くのち、醜い争いを制したのは時雨であった。KOされた忠夫が砂地に無残に横たわっていた。

 

「オレは出掛けてくるから、蔵の中の古本を虫干ししとけよ」

「く、くそ。誰がやるか、この不良住職!」

「やらなかったら、この前見つけたお前の秘蔵本を麻子ちゃんや真由子ちゃんに見せるぞ」

「なっ、て、てめー卑怯だぞ」

「じゃあな、ちゃんとやっておけよ」

「このクソオヤジーーーー!!」

 

 忠夫の罵倒を尻目に紫暮は片手を上げ、さっさっと出掛けてしまう。

 残された忠夫はがっくりと肩を落とした。

 

「もうすぐ50近くなのに、なんであんなにバカ強いんだ? あのクソオヤジ」

 

 紫暮は髪も真っ白で中肉中背。傍から見ても、どう見ても強そうで無いにも関わらず、中学二年生になっても忠夫は、いままで一度も紫暮に勝った試しが無かった。

 パンパンと普段から愛用しているジーパンとジージャンの土埃を払い、ズレてしまったトレードマークの赤いバンダナをはめ直し、ぶつぶつ言いながら寺の脇にある蔵に向かった。

 麻子や真由子を人質に取るとは、おのれいつか殺ったるぞ! などと忠夫が物騒な事を考える。

 しかしそれでも、父親の言葉に従い、律儀に虫干しをしようとするのは、やはり女友達にエロ本を見られるのが怖いためだろう。

 寺は500年の歴史を持っており、それだけの年月があると、檀家さんの寄贈品などで蔵の中の物も、かなりの規模になっていた。

 忠夫は、埃っぽく、物が所狭しとごっちゃになっている蔵の中をゴホゴホ咳をしながら、本を外に持ち出して行った。何往復かしている内に、忠夫が何かに足を引っ掛けて転んでしまった。

 

「痛てて、なんじゃこりゃ?」

 

 忠夫が転んだ所を見てみると、そこには地下に通じる鉄の扉があった。忠夫はその扉の取っ手に足を引っ掛けて転んでしまったのだ。

 地下に通じる如何にもな鉄の扉……これはもしやお宝があるんじゃないだろうか? と忠夫は思った。

 お宝を手に入れ……綺麗なねーちゃんをはべらしながら札束をぱーっとばら撒いている姿が忠夫の脳裏に浮かび上がった。

 中学生で大金が手に入ったら浮かんでくる想像が、まずキャバクラ遊びになるとは、この少年の行く末が心配である。

 

「待っとれよーー!! まだ見ぬ美人のねーちゃん達!!」

 

 妄想に取り憑かれた忠夫が、足を踏ん張り取っ手を引っ張った。んぎぎぎぃ、と声を漏らしながら力一杯引っ張るも、扉は一向に開く気配は見せなかった。

 

「こなくそぉぉぉぉーーー!?」

 

 諦めの悪い忠夫は綺麗なねーちゃん達と、うはうはするんじゃーと、さらなる気合いを込めて扉を引っ張った。

 忠夫の気合いに根負けしたのは鉄の扉では無く、それを床と固定していた金具の方であった。歪な音を出して金具が弾け飛んだ。

 扉を固定していた部分が壊れたのだから、重力に引かれて地下に扉が落ちて行くのは自然の摂理である。もちろん、重量のある鉄の扉を力一杯握っていた忠夫が一緒に落ちたのは言わずもがなであった。

 

「なんでじゃあーーー!?」

 

 地下に通じる階段を叫び声を上げながら、忠夫が転がり落ちて行った。

 

「うぅ、なんでオレがこんな目に……はっ、お宝、お宝は何処だ?」

 

 幸いな事に怪我一つせず、地下室に落っこちた忠夫が、キョロキョロ辺りを見回す。

 

「お宝…………………………」

「人間か……」

 

 地下室の壁に獣が一頭座り込んでいた。体長は二メートル半から三メートル位だろう。一言で言うなら金の獣。全身金色の毛並みをしており、金色で無い部分は背中まで伸びる見事な鬣の頭頂部が赤く染まっている点と、前足に虎の様な黒いシマ、それに目の淵と鼻筋に歌舞伎役者の様な黒い隈取があるだけである。

 虎もしくはライオンが一番近い様に見えるが、あくまで似ているだけであり、明らかに別種の獣である。

 いや、これを獣と言って良いのだろうか? なぜなら、こいつは忠夫を鋭い目で睨め付けた後、鋭い牙だらけの口から言葉を発したのだから。

 

「のわぁ、のぁ、なんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁこいつはぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 俺のお宝は何処にいったぁー!? 美人のねーちゃんは何処じゃー!?」

 

 忠夫が錯乱しながら絶叫を上げる。錯乱しながらも、本能は獣を恐れて座りながら両手を器用に使い後ずさっていった。

 

「やれやれ…500年ぶりの人間はずいぶんやかましいな。でも、まあいいか……」

 

 獣がふたたび口を開いた。

 

「この槍を抜けるのは、人間だけだからな……」

 

 獣の右肩には槍が刺さっていた。その槍で地下室の壁に縫い止められているようだ。

 獣が槍を左手で握り力を入れるも、槍はピクリとも動かなかった。

 

「チッ、忌々しい槍だ。この槍を抜きな…小僧!」

 

 喋る獣に、獣に刺さっている槍、忠雄の脳裏に今朝の親父の言葉がよぎった。

 

「槍……オヤジの言ってた妖怪退治男の槍って、これのことか……!?」

 

 忠夫がゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと立ち上がった。

 

「じゃ、そゆことで……」

 

 そして右手を上げ、くるりと振り向いて、スタスタ歩いていった。

 

「まて、まて、まてぇー!? なにを勝手に行こうとしている!? こういう場合はワシの経緯を聞いたりするのが、普通だろうが!?」

 

 獣が物凄い焦った顔で、忠夫を引き止める。口をあんぐり開けて忠夫を見つめている……表情が豊かな獣である。

 

「そんなん、知るかぁー!? 絶対、ロクでも無いことに巻き込まれるに、決まっとる!? わいは平凡な日常を、可愛い女の子といちゃいちゃしながら、生きていくんじゃー!!」

 

 獣に呼び止められた少年は、両手で頭を抱えてイヤイヤをするように左右に振りながら階段に向かう。

 その言葉には妙な実感を感じられた。一体この少年にどのようなロクでも無い過去があったのだろうか?

 忠夫の様子を見た獣が、このままでは本当に出て行ってしまうと思い、額に汗を浮かべて必死に呼び止める。

 

「わ、わかった。どうだ、こうしよう! この槍を抜いてくれたら、なんでも言う事を聞いてやる。わしも人間に恐れられた妖怪よ、約束は守る!」

 

 階段を登って出て行こうとしていた忠夫の足がぴたりと止まった。

 

「なんでも……それはどんな事をしてくれるんだ?」

「おお、お前の気に入らん奴でも、なんでも、殺してやるぞ!!」

 

 獣がどうだとばかりに胸を張った。

 ドヤ顔をしている獣に忠夫が言い放つ。

 

「アホかぁー!? 美人なねーちゃんを紹介してくれるならともかく、殺して欲しい奴なんぞおらんわぁ!?」

「美人? 別嬪の事か? 人間の美的感覚はわからんが……それならば、貴族の姫さんや巴だったか? 武家の娘が別嬪という話を……」

 

 獣が何かを思い出すかの様に首を捻った。その言葉に忠夫が反応を示し、キラキラと期待の眼差しを送る。

 

「おおっ、紹介してくれるのか? いまそのねーちゃん達は何処にいるんだ!」

「ふむ、900年位前の話だからな……」

 

 獣がポロリと零した言葉に忠夫が真顔に戻り、階段を登っていく。

 

「……さて、虫干しの続きをするか」

「待て!? 女を紹介してやればいんだろう……だから待て!!」

「アホか!? 人間はそんなに長く生きれんのじゃ! ミイラを紹介されて、どないせいっちゅんじゃ!!」

 

 忠夫がとうとう階段を登りきり、獣に罵声を浴びせて立ち去ってしまう。

 あとに残されたのは、左手を突き出し取り残された獣。獣の目の端にうっすら涙が見えるのは、きっと気のせいであろう。

 

「ちくしょう! あのクソガキ、絶対喰らってやるぞぉー!!」

 

 残虐な誓いを声高に叫ぶも、その言葉には隠しきれない、取り残された者の哀愁が漂っていた。




名作を穢してしまうような気もしましたが、書きたいから書いてしまいました。
GS側からは今のとこ横島だけの予定です。
うしおととらのストーリーを横島のキャラでなぞっていく予定です。
破綻の可能性がひしひしですが、頑張って更新したいと思います!
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