メルヘン♥シンデレラウォーズ
第一話『兎は月に帰らない』
日常は本当に何気なかったりします。あまりにも当たり前過ぎて当然だと思い込んでいる事象には目もくれません。人は変化ばかりに注目しがちです。でも変化の無い当たり前の部分に一度目を向けると、それがどのような原理で成り立っているのか分かったりして違う世界が見えてきます。どうも、ウサミン星人の安部菜々でーすっ。キャハッ。あっ、引かないで下さーい。
さて、今菜々は電車に乗ってウサミン星から事務所に向かっているところです。今日は午前がレッスンで午後が番組の打ち合わせです。菜々はナウいじぇーけーですからキツイスケジュールでもへちゃらです。まぁ今日のは少し楽ですね。だからと言って気は抜きませんよ。やっとアイドルになれましたからね、真剣に活動しないわけがありません。
「おはようございますっ。キャハッ」
「菜々さんおはようございます」
今事務所で菜々に挨拶してくれた人は根良融也(ねらゆうや)さんです。この『101プロダクション』で数十名に及ぶアイドルを纏めて世話してくれています。これは並大抵の根性ではやれません。本当に尊敬します。
「何やら事務所が慌ただしいように見えますが…」
「あぁ、実はね事務所に新しいアイドルが入ることになったんだ。あまり時間に余裕はないけど顔合わせはしたくてね。今諸星さんが中心になって簡単な飾り付けしてくれている」
「楽しみですね~、菜々も手伝ってきます」
事務所の広間に行きます。
「菜々ちゃんおはよ~」
「菜々さんおはようございます」
どうやら菜々が遅く着いてしまったようです。事務所のみなさんが暖かく出迎えてくれます。そして何故か菜々より年上のアイドルも敬語で挨拶してきます。
「おはようございますみなさんっ」
みなさん細く切った折り紙を輪っかにして鎖のように繋げていますね。では菜々も失礼して。
「みんなあと三十分だから頑張るにぃ☆ 楽しい歓迎会にしようにぃ☆」
「あっ、菜々マジックやりまーすっ」
「菜々ちゃんすごーい!」
本当はマジックではありませんけどまぁ平和利用ということで…。
「みなさーん、ケーキの準備もできましたよ~」
十時愛梨ちゃんをはじめ椎名法子ちゃん、及川雫ちゃん、三村かな子ちゃんがホールケーキを運んできてくれました。いい匂いがしますねぇ~。
「それじゃあそろそろ始めようか。今仕事でいないアイドルには追々紹介するから取り敢えず今いる人でしよう。さぁ、入ってくれ」
もう時間ですか。三十分って早いですねぇ。プロデューサーさんの合図で小柄な少女が入ってきました。小学生のように見えます。
「橘、あ、ありすです。橘と呼んで下さい。よろしくお願いします」
これはクールかつキュートですね。緊張しているのでしょうか、笑顔が見られません。いえ、無理もありません。初めて来る場所ですから。
「みんなはあまり気にしないかもしれないけど、本人の希望だから呼び方には注意してくれな。それじゃあ俺は出なきゃいけないからあとは頼んだ」
ケーキを作った四人は切り分けたり紅茶を出したりしています。給仕は菜々の仕事と相場が決まってますから運んできます。
「紅茶どうぞ~」
「菜々さん、紅茶はみくが運ぶからマジックをするにゃ」
「みくちゃん」
「結構レッスンまでの時間が押してるにゃ」
「そ、それではお言葉に甘えて~」
みなさんが見えやすい位置に移動しました。マジックには大きい布が必要なんですけど、実は常に持っているんです。準備は万端です。
「橘ちゃん、
「いいぞ~☆ やったれ~☆」
こういう時にはぁとちゃんは盛り上げてくれるので非常に心強いです。
「それではウサミンいっきまーす。兎に『メルヘンチェンジ』ッ」
菜々の体全体が白く発光します。
菜々は普通の人と少しというか大分違います。『
「おおおおおおおおっ!」
菜々が布から出てくると歓声が上がりました。さて肝心のありすちゃんは。
「…」
あれ、引いてます。あれれれれれれ。驚いている感じは見受けられません。でも変身は確かに成功しています。もしかして兎が苦手だったりして。これはマズイです。一旦布の中に戻って別の動物に変身です。
「それではもう一度メルヘンチェーーンジッ」
今度は猫に変身です。
「おおおおおおおおおお!」
周囲の反応を見る限りやはり変身は成功です。でも。
「…」
やはりありすちゃんは引いています。どうしてでしょうか。そもそもこういうの嫌いなのでしょうか。だとしたら今回のマジックは失敗です。すいませんありすちゃん。
「以上でマジック終わりますっ。キャハッ」
「さぁみなさぁん、急いで食べますよ~」
十時さんが言うとみんな一斉に食べ始めます。さて、レッスンが始まりるので気合入れていきます。本当はありすちゃんに事務所の紹介とかしたいですけど、手の空いている子に任せます。
♥
うっ。体力が持ちません。体が気持ちに付いていけません。これが歳を取るということ。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」
レッスンが終わりました。もうクタクタです。
体に力が入りません。な、菜々はここで倒れるわけにはいかないんです。まだ志半ばなんです…。
「あーっ菜々さん倒れてるにぃ、休憩室まで運ぶにぃ☆」
「ふぇ?」
「それじゃあレッツゴーッ」
「あわわわわわ」
きらりちゃんなんて力持ち。というかお姫様だっこは普通に恥ずかしいですこれ。おっ下ろしてください~。
「菜々さん軽いにぃ☆」
「誰にも見られてないですよねっ」
「大丈夫だよぉ☆ ほら、もう休憩室だゆ!」
なんだか自分が情けないです。これにしろ朝のマジックにしろ。
「な、なんかすいませんね…。ところで今朝のウサミンマジック何か変なところありませんでしたかきらりちゃん」
「マジック成功してたにぃ」
そう、マジック自体はできていました。なので結局何がいけなかったのか分かりません。動物が苦手なのでしょうか。
「橘ちゃんは怪訝な目をしていました。それが菜々には気がかりで」
「きっとびっくりしただけだにぃ、菜々ちゃんのマジックは完成度高いから」
「そう、だといいですけど」
もし菜々の責任だとしたら、そう思うと心がスッキリしません。悪いことをしてしまったのなら菜々がけじめをつけます。
こうして話している内に体力が回復してきました。
「菜々さんちょっといいかしら」
声をかけてきたのは高峯のあさんです。
「後でプロデューサーから話があるみたいよ。事務所の一階第二個室で」
これは重大なお知らせかもしれません。プロデューサーさんは簡単な連絡ならスマホのメッセージで基本は済ませます。あまり面と向かって話すことはありません。
「それと個人的に確認したいことがあるわ」
「はい、なんでしょう」
「別に無理に話せとは言わないわ。でも何か隠していたりすることあるのではないかしら。そしてそのことで大変な経験をしているのではないのかしら?」
うっ。まさかウサミン星の秘密がバレた? それとも永遠の十七歳に疑いが!? 辛くないもんっ設定じゃないもんっ。
「ウッウサミンのキャラは無理した設定ではないですよっ。なので全然辛くないですよっ」
のあさんは少し困った顔をしています。もしかして墓穴掘ってしまいましたか。いやまさかそんな筈はありません。厳重な配慮で秘密は守られています。きっと大丈夫です。
「そう。私も、そして誰も貴方の内面に干渉する資格はないわ。でも危険が差し迫った時、私は禁忌を犯すわ」
その深刻な発言と表情に圧倒されます。何か菜々が悪い事をしてしまったかのような感覚を覚えます。
「そ、そうですか」
「さぁ、行きましょうか」
「のあさんも呼ばれたんですか」
「えぇ」
歩きながら話していたのでもう部屋に到着です。部屋にはまだプロデューサーさんはいません。少し部屋の掃除でもしますかね。あまり使われていなかったようです。うっすら埃が溜まっています。
「コンコン」
「プロデューサーさんですね、どうぞ~」
「すまん遅くなった。単刀直入に言うと二人にユニットを組んで欲しいんだ」
「ユニット、ですか」
「そうだ。いきなりで面食らってるかもしれないけど一応名前は決めてある。『Preplica』これが二人のユニット名だ」
「『
菜々を呼んだのはこの為だったんですね。てっきりそろそろキャラ変更を指示するかと思いました。まだまだやりますからねっウサミン星人。キツくないですからね!
「語呂がいいと覚えてもらいやすいしな」
「それにしても菜々とのあさんって意外な組み合わせですねぇ」
大丈夫でしょうか。菜々のこと引いたりしていないでしょうか。というかユニットの一員として認めてくれるでしょうか。菜々の方向性を心配しているようですし。
「そうね。私はこのユニットだからそ可能な新境地の開拓を目標にしたいわ」
「そうだな。うん。詳しい話は後日することにしよう。高峰さんはこれから『NOA・STUDIO』の収録があるから現場まで送っていくよ」
何でも実況番組『NOA・STUDIO』はのあさんの冠番組です。のあさんの独特の語彙選択が視聴者の心を掴んで離さないようです。
「菜々はこれから101カフェでバイトですね~」
なかなかアイドルだけでは食べていけません。なので元々メイドやって経験を活かしてなんとか採用して頂きました。これでなんとか生きていけます。厳しい世界ですがとても充実しています。
♥
菜々とのあさんのユニットはこれまで菜々が組んできたそれとは様相が違いました。なんと言いますか、温度差があるといいますか。決して周囲のやる気がないわけではないのです。
「それでは詳しい説明を始める。事情があって練習時間はそんなに取れないが、いつかライブできればと思っている。まず二人を選んだ理由だが今回のテーマは『静寂』だ。まぁ仰々しく『静寂』と銘打ってるけど静かめの曲みたいな雰囲気をイメージすればいい。高峯さんはもちろんだが、菜々さんもカバー曲を出した際儚い感じが良かったからいけると思ってな。だからと言って普段からしているキャラを捨てろとは言わない、どうにか活かしていく方向だがどうだろうか」
静かな雰囲気でライブというのは菜々がこれまでしてきたのとは全然違います。ユニット、グループだろうとこれまでは元気があって盛り上がる感じでした。これは新鮮です。
「私は賛成よ」
「菜々も頑張ってみます」
まぁ様相が違うのは大丈夫です。菜々も新しい自分を見つけたいです。菜々が気がかりなのは説明の前に渡されたレジュメに載ってある内容にあります。
「それじゃあ当分のスケジュールは書いてある通りだから」
そう、スケジュールが明らかに問題です。すっかすかなのです。特にレッスンの項目が。打ち合わせはこれまで通りですがレッスンの量が激減しています。ライブの予定にもよりますが、この事務所は基本的に早く仕上げようと短期詰め込み型で練習しています。
「プロデューサーさん、レッスンの時間が少ないのですが」
「まぁ曲が完成してないしライブの予定も未定だからね。当分は既存の曲を使って二人の息を合わせていこうと考えている。本来ならもっと後にこの『Preplica』が結成されるはずだったが事情があって早めた」
確かに曲が無ければ本格的なユニットのレッスンはできませんからね。でもどうして曲が無いまま『Preplica』は結成されたのでしょうか。そういう場合がないわけではないのです。既存曲でライブをするケースがそれです。でもライブをする予定はプロデューサーさんが言ったようにありません。こういった事態は普通ないのです。
「そ、そうですか」
「テーマと日程は伝わったと思う。そして今日は『静寂』と高峯さん、菜々さんの個性をどう融合させていくか話し合って欲しい。そこからユニット曲へのイメージが生まれるかもしれない」
「分かりました!」
色々事情があったとしても菜々はアイドルとしての本分を全うするのみです。それが目指していた自分です。
「しかし俺はこれから営業に行かないといけない。かと言って二人が行き詰まったら誰も助けてくれない。そこで助っ人を呼んでおいた。そろそろ来る時間だな。それじゃ俺はこれで失礼する」
プロデューサーさんが出て行ってから三秒後くらい経った時ノックが響きました。
「失礼するぞ」
「どうぞ~」
入ってきたのは村上巴ちゃんです。
「今日はオフじゃが事務所に来てみたけぇ。そしたらプロデュー
サーに頼まれてのぉ、いざという時は助け舟出したるけぇ」
「これは心強いですっ」
「まぁ基本は黙っとるけぇのぉ」
「それではpreplica企画会議』始めましょう!」
そんな訳でどうして行きましょうか。何にも考えていません。
「具体的には何を考えればいいのかしら」
「衣装のイメージとかですかね。菜々が個人で方向性を決める時はスケッチブックにステージ衣装とか小道具、演出を描きました」
地下アイドル時代から続いていたイメージを継承させて頂いたんです。プロデューサーさんもそのつもりでしたから希望はすんなり通りました。
「何をすべきかは把握したわ。問題は発想ね。どう私達は『静寂』と融和していくかよ」
「いつもの菜々はウサミンパワー全開ですけどあれは『静寂』とはほど遠いですしう~ん」
それでいてウサミン星人を活かすってハードル高くないですかねぇ。でもやります。
「もう一つ問題があるわ。タイプが違う私と安部さんの調和よ。でもこれは良い前例があるわ」
もしかしてあのユニットかもしれません。これはすぐにピンと来ました。
「『
「そう。前川さんと多田さんは個性を活かしたまま調和を完成させた。彼女達から学ぶことは大きいわ」
あ、ちょっとアイデア思い浮かんだかもしれません。まだ朧げですが何となく。
「『
なかなか具体的なイメージまでたどり着けません。でもサイバーウサ耳とかいいですよね。
「私は仕事でバニーガールの衣装着たことあるから、兎の耳を付けるのに抵抗はないわ」
これは嬉しいです。何とかユニットとしての形はまとまりそうです。
「ウサ耳付けていただけるんですねぇ!」
「勿論よ」
のあさんは菜々の方向性をよく理解してくれています。今までそんなに関わりは無かったんですけど、菜々のことを見てくれてるんだって伝わってきます。ならば菜々ものあさんのスタイルを理解しなければいけません。
「すいません、菜々はもっとのあさんについて知りたいのですけど」
「ライブ映像でも観るかのぉ。わしが取ってくるけぇ待っとれ」
「巴ちゃんありがとう」
そう言えばあの二人も一緒に過ごすことでお互いのスタイルを知っていったんですね。
「菜々さん本当に熱心ね」
「菜々はやっとアイドルになれましたから。小さい劇場でライブ後にプロデューサーさんに拾ってもらったんです。それまでずっと地下アイドルで、いつ活動ができなくなるか分からないくらいキッツキツでした。感謝しています」
「プロデューサーは何て言ってスカウトしたのかしら」
「『ウサミンの理想郷でメルヘンデビューしないか?』って言って下さいました。その時菜々のこれまでは決して間違っていなかったんだって思えたんです」
あの時を思い出すと涙が出ます。やっと不安な日々から抜け出せたんです。もちろんアイドルになってからの不安も少しありましたが、それよりも一歩進めた悦びが大きかったんです。
「あの人の言葉は熱く人を扇動する力を持っているわ」
「菜々にとっては『アイドルにならないか?』でも十分だったんですけどねぇ」
ウサミンの理想郷はライブ会場だけではありません。事務所やテレビ局、ロケ現場などアイドルだからこそ味わえる場所全てです。
「ほれ、持ってきたけぇ観るかのぉ」
「はいっ」
それでは視聴します。
「やっぱかっこええのう。近未来的な演出に個性あふれとる」
「これがのあさんのスタイル…すごいです。バックの映像にプロ
グラミングのコードが書かれています。何を表しているのかは全く分かりませんがイメージは掴めました」
「どうやらわしは要らんかったようだのう。まぁ企画が誕生する瞬間に立ち会えたっちゅううのはわしにはプラスじゃが」
「巴ちゃん…」
「もし想像を形にできるなら絵にしていましょう。小物でも何でもいいわ」
「始まるんですね、『Preplica』」
♥
今までと少し違う日々になりそうです。それは私だけではありません。
「今日集まってもらったのは二ヶ月後にライブをすることを伝えるためだ。『
「助っ人って決まってないんですか?」
菜々、参加してみたいです。アイドルでいられる内にアイドルのできる経験をたくさんしたいです。
「日程の調整が難しくてな。でもいないってことはないようにしたい。条件はライブ慣れしていること、スケジュールが空いていることの二つだ。森久保さんをメインのライブなんだけど、一人では心細いと思ってな。前回の反省も踏まえて」
「あれはやり過ぎたのぉ根良プロデューサー」
「返す言葉もない。この前はいきなり単独ライブさせて悪かった。だから今回は少しでもライブしやすいように工夫するつもりだ。造ろう、森久保のサンクチュアリ」
たまに言い回しがキザなんですよねプロデューサーさん。聞いているこっちが恥ずかしいというか。いえ、菜々も別の意味で人のこと言えた義理ではありませんが。
「えぇ…はいぃ~…」
「もう一つ大事な連絡がある。俺は今まで以上に事務所にいる時間が少なくなる。一時的であればいいのだけどな。もちろん送り迎えはこれまで通りするからそこは心配しないでいい。各自なるべく連絡が取れるようにして過ごしてくれ。と言ってもレッスン中や仕事中は難しいだろうけどな。話は以上だ。それぞれ持ち場についてくれ」
「あ、プロデューサーさん、『Preplica』は『PROJECT・X@NADU』に出る予定ありますか?」
「今のところ未定だな。まだユニットとしての完成度がライブに出せる程度まで達する見通しが立ってないからな。曲はなんとかなるんだろうけど」
「分かりましたっ頑張りますっ。キャハッ」
まぁそうですよね。菜々は人にパフォーマンスを魅せることがどういうことなのか理解しているつもりです。お客さんはお金、時間をつぎ込んで会場に来てくれます。アイドルはそれに見合った、いや、その対価以上の歌やダンスを届けて当たり前なのです。決してがっかりされるようなパフォーマンスは見せられません。だからライブへの出演が厳しいのは重々承知です。
それではレッスンでも行きますかね。と言っても決められた日程にあるレッスンではありませんが。いわゆる自主練習って言うんですかね。菜々は体力が保たないので日頃の鍛錬が必要です。
「菜々ちゃんちょっといいかにぃ?」
「何ですかきらりちゃん」
「今時間あるかにぃ?」
「あると言えばありますよ」
自主レッスンなら多少の時間の融通が利きますからね。
「一緒にありすちゃんを案内しようかなーって。この事務所は広いからきっと迷っちゃうにぃ」
これは挽回のチャンスです。これで仲良くなれたら嬉しいです。
「やりましょう!」
「早速迎えに行くにぃ☆」
という訳で三人揃いました。ありすちゃんの表情はこわばっています。どっちかと言えば真顔に近いんですけど筋肉に力が入っているように感じます。
「一気に覚えようとしなくてもいいからにぃ☆」
「分かりました。よろしくお願いします」
礼儀正しいですねぇ~。いいですよ~菜々はこういうの大好きです。
「こちらそよろしくお願いしますね、キャハッ」
この建物は地上二十三階と地下一階で構成されています。地下は滅多に行かないので菜々ときらりちゃんは二十三階を案内します。四階までは順調に案内できていたように思えます。そう、四階までは。
「うーん、困ったのぉ」
「どうしたんですか巴ちゃん」
ここは多目的室です。角の方に配置されているので外の景色が見えます。景色のほとんどが葉っぱですけど。
「おぉ、菜々さんきらりさんに橘さん。実はな、猫が降りられなくなってるんじゃ」
巴ちゃんはここから見える大きな木を指さします。葉っぱが生い茂っていて少し確認しにくいですが、確かにいます。
「届きそうで届かない距離だにぃ」
きらりちゃんがここから手を伸ばしてもあと一メートル半くらい足りません。どうにか猫を助けたいです。
「どうにか助けられないかのぉ」
「あ、あの、網とか竿が事務所にないでしょうか。繋げれば届きそうです」
ありすちゃんの言う通りその二つがあれば。でも小道具箱にはないですね。他の場所にあるかもしれないですけど、どこにあるかは把握してません。こうなったらあの手を使います。
「菜々、探してきますね。ついでに大人の人呼んできます」
それでは近くの物置部屋に向かいます。そしてきらりちゃんにスマホで長い柄の網が見つかったと連絡すれば準備は万端です。
猫を助ける為、網にメルヘンチェンジッ!
変身の精度は対象によって差が出ます。人間から離れるほど低下していきます。特に無機物は苦手ですが頑張ります。ちなみに変身前に歓迎会で使った大きな布を巻いたので、寒さ対策はバッチリです。あ、きらりちゃんが来ますね。
「あ、網あったにぃ! これで猫助かるにぃ」
きらりちゃんに運ばれて再び現場に到着です。猫はまださっきと同じ位置にいます。
「これで助けられるのぉ」
「猫ちゃ~ん。もう大丈夫だゆ」
きらりちゃんは三回空振りましたけど何とか網の中に入れました。菜々落とさないように気を付けないと。手の部分を網に変えているので少しは安定しています。あ、でも爪痛いです。引っかかないでぇ~。
「三人ともでかしたのぉ。感謝しとる」
何とか役に立てて良かったです。きらりちゃんが菜々を立てかけてくれたので部屋がよく見えるのですが、ありすちゃんが怪訝な表情をしているのに気づきました。