菜々は普段から能力を持っていることを隠しています。使いはしますけど。例え周囲に言いふらしてもまた冗談言っているとしか思われないでしょう。事務所のみなさんから白い目で見られる覚悟も菜々にはありません。我ながらそんな生半可な気持ちで『
「おっはようござーまーすっ。キャハッ」
今日も事務所は平和、かと思ったのですがまた慌ただしいですね。今度は何でしょうか。
「菜々ちゃんおはようにゃ」
「みくちゃん。みんな何しているの?」
「乃々ちゃんが見つからないのにゃ。だから手の空いてる人で探しているのにゃ」
「菜々も探しますねっ」
「頼むにゃ」
がむしゃらに探しても効率悪いので、いる人数割る二十三で基本は探しているらしいです。菜々は後から来たので自由に探します。
「菜々さん。おはようございます」
「のあさん、おはようございますっ」
「菜々さんも探すの手伝ってくれるのかしら」
「はい、そうです」
「プロデューサーならすぐに位置を特定するわ。でも彼は生憎外出中。電話も繋がらない。この事態は想定していたけど解決策は見つからなかったわ。だから今探しているのよ」
「プロデューサーって凄いんですね。それにしても何で乃々ちゃんはいなくなったのでしょうか」
やはり元々やりたくなかったのが今に響いているのかもしれません。叔父に代役を頼まれてこの世界に入ったとは聞いています。本人の望みではなかったようです。
「端的に言うと怖いのよ。」
「怖い、ですか」
菜々はこの世界に入りたくて入りたくてやっと入れました。もしかすると、もしかしなくても菜々と対極にいるのでしょうか。この世界にいられない方が怖い菜々と、この世界にいるのが怖い乃々ちゃん。それでもお節介な菜々は乃々ちゃんにこの世界の良さを感じてほしいです。
「アイドルを全うできると思えないのでしょう。周囲の期待に応えるのがこの世界の基本。自己評価の低さが原因ね」
「菜々は少しでもアイドルの楽しさを知ってほしいです。でもそれが菜々のエゴでないとは言い切れません。だから楽しさを押し付けるのではなく自分で気付いて欲しいです。時間かけてでも」
「そうね。私達はライバルではあるけど、その前に仲間でもあるのよ。ありふれているけどね。ユニット組んだりレッスンしたり」
「菜々も支えたいです」
しかし菜々はそんなに関わりはありません。どうやって関係を築けばいいのかを考える必要があります。ってその前にどこにいるか探さないと。
「おはようございます。みなさん何をしているんですか?」
「おはようございまーす、今乃々ちゃん探しているにぃ☆」
これはこれはありすちゃん。いいところに来ました。こういうのは人手が多い方が助かります。
「乃々さんならさっき根良プロデューサーの机の下で見ましたけど」
「え!?」
この階にいた全員が凍りつきました。乃々ちゃんは机の下が好きというのはこの事務所で有名です。なので菜々が来る前に、机の下は全て入念にチェックしていたようです。つまり見つかっているはずなのに誰も見ていません。
「菜々、試しに行ってみますね!」
いやまさか。そう思いながら慎重にプロデューサーの机に向かいます。そしてゆっくりと机の下を覗きます。しかし何にも見えません。
「乃々ちゃ~ん、いますか~」
「ヒィッ」
声が聞こえました。明らかにこの机の下からです。
「あ、乃々ちゃんっ」
「な、何で見つかるんですか…」
何も無い空間から突如乃々ちゃんが出現しました。ありすちゃんの言った通り確かにここにいます。菜々は平静を装っていますが内心とてもびっくりしています。何せ人が何も無い空間から現れるところを間近で目撃したのですから。
「橘ちゃんのお陰ですよ!」
「もりくぼを探す時間がもったいないんですけど。放っておいて欲しかったんですけど」
こういう時何て言葉をかけたら良いのやら。菜々自身どんな気持ちになればいいのか分かりません。きっとまだ乃々ちゃんを本当の意味で理解していないんです。
「事務所の仲間だから放っておけないにぃ☆ それにしても橘ちゃんよく見つけたにぃ☆」
「いえ、むしろ何でみなさんには見えなかったんですか?」
きらりちゃんを始め、周りのアイドルは少し困った表情をしています。もちろん菜々もちょっと戸惑っています。
「きらりには見えなかったゆ。帰りに眼科にでも寄ってみるにぃ☆」
今度はありすちゃんが困った表情をしています。何というか言わなきゃ良かったみたいな顔です。微妙な空気への責任感から来ているかもしれません。推測なので正しさは保証できません、あくまで菜々の主観です。そして他のアイドルは依然として固まっています。のあさんはいつもと表情変わりませんが。
「も、もりくぼのせいで変な空気に」
うっ。これはどうやって収拾を付ければ。ただウサミンマジックをやっても白けるだけです。あ~何か方法はありませんかっ。
「み、みんなしっかりせぇっ。事務所には不思議なことの六つや七つあるじゃろ。他の惑星から来たアイドルとか永遠に年を取らないアイドルとかいるけぇのぉ」
「そ、そうですよ~。菜々が生き証人ですからっ。あは、あは
はははははは」
まさかここで菜々が出てくるとは思いませんでしたが、巴ちゃんナイスです。
「そ、そうだにゃ。これくらいで驚いていたらアイドルやっていられないにゃ」
「おっお詫びにレッスン行くんですけど~」
何とかこの場は収まりました。良かったです。それでは菜々もレッスンに行きます。その前にプロデューサーにメール送らなくては。
♥
レッスンが終わって休憩してから乃々ちゃんを探してみることにしました。恐らくプロデューサーさんの机の下にいるはずです。
「乃々ちゃんいますか?」
「ヒッ」
「驚かせてすいません。お邪魔していいですか?」
「は、はい~」
乃々ちゃんの気持ちになるですよ。
「お仕事は順調ですか?」
「い、いえ~。そ、その。上手くできないんですけど。う、うぅ。明日の打ち合わせも不安です」
「菜々は乃々ちゃんのやる仕事に個性が出ていて良いと思いますよ。この前のライブとか」
事務所でかなり話題になったんですよ。ソロライブ本番直前、会場の控え室で乃々ちゃんが衣装を持ったまま逃亡したんです。あっさりプロデューサーさんに見けられました。その時プロデューサーさん涙目で睨まれたんですけど、初めて乃々ちゃんと目が合った瞬間らしいのです。それまで誰とも目を合わせたこと無かったので、それはもう事務所中大騒ぎでした。ついでに真顔しか見せないプロデューサーさんが驚いた表情してたのも新鮮でした。その後のライブはほとんどヤケでしたね。でも頑張る姿は正真正銘のアイドルです。
「うぅ、あのライブ思い出すの恥ずかしいぃ~」
「アイドル続けるの辛いですか?」
「う、うぅ。辛くないと言えば嘘になりますけど」
「けど?」
「ぷ、プロデューサーさんを悲しませたくないんです。つ、ついでにもりくぼも」
普段はネガティブだけど、頑張りたい意志が感じられます。
「今回のライブ、辛いかもしれませんが少しやる気出してみます?」
「ちょ、ちょっとだけなら」
ちょっとずつでいいんです。小さくてもその一歩を積み重ねる内にアイドルの醍醐味とか分かってきます。
「プロデューサーさんは乃々ちゃんのサンクチュアリを造ってくれるそうです。なので色々提案してみませんか?」
乃々ちゃんの希望が実現したら前回と違った気持ちでライブできると思います。
「や、やってみたいですけど。少し恥ずかしいと言いますか」
乃々ちゃんからやってみたいって言葉が聞けるの嬉しいです。
「話すの苦手ですか?」
「そ、そうなんですけど」
菜々にいい考えがあります。
「ポエム帳使ってみましょう、それを読んでもらうんです。そうすれば話すのが苦手でも伝えられるはずです!」
「や、やってみます」
♥
次の日。乃々ちゃんとプロデューサーの打ち合わせの後、少しだけ時間を頂きました。
「あ、プロデューサーさんこんにちは。忙しいのにすいません…」
「問題ない。直接話さなければいけないということは深刻な内容になりそうか?」
「深刻ではないですよ。お願いがあるんです」
「聞こうか」
「菜々を乃々ちゃんのライブの助っ人に起用していただけませんか?」
プロデューサーさんの顔が固まったように見えます。表情はいつもの真顔なのですが。スケジュール的には可能なはずです。
「体調大丈夫か?」
「絶好調ですっ」
プロデューサーさんはしばらく考え込みます。
「確かにまだ助っ人は一人しか決まっていない。もう一人必要と思っていたところだ。それぞれ一曲しか歌わないから、ライブ慣れしていればレッスンも短くて済む。間に合うと言えば間に合う」
何か含みのある言い方が気になります。それでも菜々はライブに出たいです。何とか乃々ちゃんの助けになれれば。
「菜々、出られますか?」
プロデューサーはしばらく無言でした。菜々はその間静かに返事を待ちます。
「いいだろう。それじゃあ森久保さんともう一人の助っ人のレッスンが終わり次第ミーティングだ」
「はいっ!」
プロデューサーは一旦部屋を出て行きました。菜々はのあさんの映像を観たりCDを聴いたりして勉強です。大体の雰囲気は掴めてきました。ですがもっと深く知るには直接的な関わりが必要です。合宿とかしてみたいですねぇ。
♥
これからミーティングが始まります。菜々は最近ライブしていなかったので、アイドルらしいことできるなぁと、うずうずしています。と言っても最後にライブしたの二か月前で普通に考えたらこれくらいのブランクはよくある話ですけどね。
「失礼しますけど」
「失礼しますにゃ」
「乃々ちゃん! みくちゃん!」
助っ人ってみくちゃんのことだったんですねぇ~。
「菜々ちゃんも助っ人かにゃ?」
「はいっ。乃々ちゃんの助けになればと思って。それに久々にライブしてみたいなーて」
「やったにゃこれで勝つるにゃ!」
「か、かつる?」
最近の言葉なんですかねこれって。それにしてもいやぁ若いですねこのメンツ。いいですねぇ~若いって。自分まで若くなって気分になります。って菜々は十七歳なので十分若いです!
「よ、よ、よろしくおねがいします」
「菜々こそよろしくお願いしますねっ。キャハッ」
「おまたせ」
「Pちゃんこんにちはにゃ」
「こ、こんにちは」
「プロデューサーさんさっきぶりです!」
「三人揃っていることだしさっそく始めよう。さて、今回のライブは森久保さんが主役だけど、どうやったらライブしやすくなるか多角的に考えてきた。ライブのセットや衣装は全て森久保さんの発案だ。あとはライブの順番を決めようか。」
「あ、あのぉ、さすがにお二人の後は荷が重いんですけど」
「そうか。なら前座、森久保さん、後座という感じにしていこうか。明後日から実際の劇場でリハーサルだから三人で交代の練習とかもしていこう。観客たちには今のうちから説明しておかないとな。あくまで森久保さんメインであることを強調していかないと誤解されてしまう」
「菜々は曲どうしますか?」
「いつものソロ曲で頼む。歌いなれているだろうし。前川さんも今ソロ曲練習してもらっている。と言っても既に完成度は高いから」
なるほど。
「二か月のブランクすぐに埋めますっ」
「分かった。森久保さんはライブの順番中間だけどいいか?」
「少し気が楽になりましたけど」
「今回は森久保さんのファンが大勢来るけど、これを気に前川さん、菜々さんのファンにもなってもらえたらと思っている。助っ人は事前に伝えてあるから二人のファンがこのライブに来る可能性もある。だから逆に二人のファンが森久保さんのファンになってもらえる可能性もある。そういう意味でも助っ人はアイドル的に美味いかもしれないな」
「それは美味しいにゃ」
「それとマネージャー的な助っ人も一人呼ぶことにした。高峯さんが三人の世話をしてくれることになったからよろしく」
「それは心強いですねぇ~」
「菜々さんはこのライブと並行して『Preplica』の活動もあるからあまり無理しないように」
「はいっ。任せてください」
ライブは一週間後。本当に楽しみです。今のこのアイドルしているんだって思える瞬間がたまりません。『Preplica』の企画をしている時もそうです。やはり菜々は心からアイドルしたいんだって改めて自覚しています。
「みなさん、もりくぼの為に…」
「ウサミンも乃々ちゃんのファンですからねっ。喜んで助太刀しますね」
「そうにゃ、頑張る姿応援したくなるにゃ」
「はっ、恥ずかしいぃ~」
照れ久保いいですねぇ、需要ありますよ~。
「それじゃあこれで解散」
プロデューサーさんはそそくさと部屋から出て行きました。菜々は今日の予定ありませんしどうしましょうかね。そういえば乃々ちゃん朝と違っていつになくやる気に満ち溢れていますね。何かあったのでしょう。
「乃々ちゃんやる久保ですねぇ」
「ぷっ、プロデューサーさんがもりくぼの考えた衣装や演出を採用してくれるらしいです…。今日の昼にですね、もりくぼの理想をポエム帳に書いて出したんです…。緊張しました……」
「良かったです、菜々は乃々ちゃんが積極的で嬉しいですよ」
「で、でももりくぼは基本消極的ですし……。今朝だって。何故か菜々さんに見つけられましたけど……。なんで見つかったんですか……」
「見つけたのは橘ちゃんですよ。菜々は確認しに行っただけですね」
「そっ、そんなぁ~。プロデューサーさん以外なら見つからないはずなのに……」
やはり乃々ちゃんも超能力持っているようです。それが知られることに抵抗がないのかは分かりません。しかしこれまでの様子を見る限り、隠れることを優先させているようですね。それに周りのアイドルはこれまで隠れるのが上手くらいの認識でしょうし。今朝のでその認識は変わった可能性があります。少なくとも菜々は変わりました。ここは少し踏み込んでみます。
「乃々ちゃんは不思議な力を持ってたりします? もしかしてそれで隠れるのが得意だったり」
「多分信じてもらえないんですけど」
自分の手の内を明かさないのはフェアではないですね。
「菜々も持っていますよ。『
「みくも持っているにゃ。猫とコミュニケーション取れる能力にゃ」
「みくちゃんも持っているんですねっ。今まで菜々と小梅ちゃんだけだと思ってたんですけど結構いるんですね!」
白坂小梅ちゃんは唯一自他ともに認められている超能力者です。一般的には『霊能力』と言われています。
「みくも今朝まで自分だけだと思ってたにゃ。ウサミンマジックは本当にマジックだと勘違いしてたにゃ」
これは本当に意外です。もしかして他にも超能力者がいるかもしれませんね。
「もりくぼは『
なぜかプロデューサーさんには通用しないんですけど」
姿を消せる超能力。これ何げに強そうな能力ですね。持ち主が乃々ちゃんで良かったです。悪用しようと思えばできますからね。実は菜々も『
「不思議ですねぇ~」
そしてそんな乃々ちゃんを今までいとも簡単に見つけたプロデューサーさんは一体。そしてありすちゃんも。
「もしかしたらPちゃんも超能力者かもしれないにゃ」
「この三人でいると当たり前みたいですけど密度高くないですか…」
「それもそうにゃ。この事務所ヤバかったりするかもにゃ。でもこれまで普通に活動できてたからきっと大丈夫にゃ。それに今回三人で超能力の共有ができたにゃ。隠し事する必要なくなって安心したにゃ」
「なかなか人には言えませんもんねっ」
「まさかもりくぼや小梅さん以外に超能力者がいたとは。驚いたんですけど」
♥
いよいよ今日からリハーサルです。これから現場に向かうところです。
「なぁお主、ちょっとええか?」
巴ちゃんです。何でしょうか。
「はい、少しの時間なら大丈夫ですよ」
「わしは菜々さんを信用しとるけぇ余計に事態が分からないんじゃが。橘ありすっちゅうアイドルと何かトラブルでもあったんか?」
とっとっとトラブル!? そういえば最近会ってませんね。思い当たる節があるのは歓迎会の時のウサミンマジックくらいですが。
「トラブルかはわかりませんが、心当たりはウサミンマジックでかなり引かれたくらいですね」
巴ちゃんは困った顔をして無言になります。私は突然のことでびっくりしています。
「う~ん、そこからしてオカシイんじゃが取り敢えずあったことを話すけぇ。実はな、ありすにお主がどういう人間なのか聞かれたんじゃ。変じゃろ? 何かあったと思って一応こうしてお主に訊いてみたんじゃが」
菜々は何かとんでもないことをしてしまったのかもしれません。何が起こっているのかも把握できません。ただ深刻なことだけは理解できます。
「菜々はこれからどうすれば」
「わしは一見痛いが気配りのできる世話好きな姐さんと答えたがのぉ。多分わし以外にも同じ質問しとる」
姉さんですよね? 姐さんではなくて。菜々は痛くも痒くもないですからねっ。グスンッ。
「ありすちゃん」
「わしは原因がさっぱりじゃが、ありすがお主と接していくうちにお主を理解していくと思っとる。そうじゃろ?」
そう在りたいとは思います。しかし菜々は自分の過ちに気づけません。どうしても不安が残ります。むしろ不安が大きくなるばかりです。もしかしてありすちゃん以外も傷つけていないかって。
「そう、思いたいです」
「しっかりせぇ菜々さん。お主がわしらと築いてきた関係が何よりもお主の人格を証明してるじゃろ」
巴ちゃん。何て心強いのでしょう。
「そうですねっ! これから接していけば菜々のこと分かってもらえます。それではリハーサル行ってきますっ。キャハッ」
「おうっ」
♥
リハーサル会場に来ました。二千人くらい収容できる規模ですねこれは。
「私が案内するわ。今はこのステージには何もないけど当日は木の飾りを施して森みたいにするわ」
のあさんがタブレットで完成予想図を見せてくれています。これが乃々ちゃんの理想郷。
「い、いいですね。もりくぼの世界です。目は合わせられないですけど頑張ります」
本番に向けてのイメージが湧いてきました。菜々と森、今までにない組み合わせです。しかし曲も衣装もいつものです。大丈夫ですかね。
「これは凄いにゃ。こだわりのステージにゃ」
「このイメージを持ってリハーサルをしましょう。前座は前川さん、後座は安部さんとプロデューサーが指示したわ。いいかしら」
「任せるにゃ」
「任せて下さいっ」
着々と準備が進んでますね。
「本番でのイメージはできたかしら。それでは交代も含めて通してみましょう。音楽流すわ」
三人とも順調に歌い終えました。乃々ちゃんバッチリです。無理だと言いつつもちゃんとレッスン積んでるんですね。こだわりのステージというだけあってモチベーションも高いです。
「乃々ちゃんパフォーマンスが向上してたにゃ。レッスンの成果が出てるにゃ」
「あ、ありがとうございます…」
「これでファンも喜ぶにゃ。もちろん前回のライブもあれはあれでファンを魅了してたにゃ」
これはいいステージになりそうです。菜々も負けていられませんね。まだまだこれからってところを見せていきたいです。
「そういえば乃々ちゃんっていつから能力使えるようになったんですか?」
「もりくぼは小学生の時無理矢理鬼ごっこに誘われて、隠れたいと思った時使えるようになりました。もりくぼ運動とか苦手なので」
「そうだったんですね! 実に乃々ちゃんらしいです。菜々は三歳の頃アニメのヒロインに憧れて変身の真似をしたらできてしまったのが始まりですね。超能力って案外願望と一致するものなんですかね。不思議です」
「確かに不思議ですね、都合がいいと言いますか」
能力を授けられた理由は分かりません。そもそも授けられたという言い回しが適切ではないかもしれません。それでも菜々は与えられた力をフルに使っていきます。
「三人ともリハーサルお疲れ様。今日はゆっくり休んで。明日からプロデューサーも見に来るわ。それでは解散ね」
「お、お疲れ様です」
「お疲れ様にゃ」
「お疲れ様でしたっ。キャハッ」
充実した疲労を噛み締めて帰宅の準備に取り掛かります。事務所には寄らないでも大丈夫らしいのでバスで帰りましょうか。一応ここまでは事務所の自動車で来たのですが、一旦事務所に帰ってから駅に行くより、ここからバスで行った方が早いんですよ。
「菜々さん少しいいかしら」
「はい、何かあったんですかのあさん」
「森久保さんの能力についてよ。本人は『木を隠すなら森の中』つまり『姿を消せる能力』だと思っているけど、それ自体は本来ある能力の一部に過ぎないわ」
知りませんでした。というかのあさん詳しいですね。
「本来の能力ってどんなのですか?」
「『光を操作する能力』よ。『光子使い』とも言えるかしら。これが能力の全体像、すなわち本質。その一部を使って森久保さんは『光学迷彩』を自身に施していたのね」
「なぜそのことを菜々に教えてくれるんですか?」
「もし力が必要になった時、このことを伝えられる人が少しでも多くいたら助かるからよ。あまり公にできるものではないけど、あなたなら能力について一定の理解があるわ」
なるほど、だから菜々に。
「それではまた明日会いましょう」
「はいっ。お疲れ様でしたっ」
♥
本番当日。舞台袖から観客席を覗くと、物凄い数の人が見えます。乃々ちゃんへの弾幕があちらこちらに見えます。ステージが本当に森みたいになっていて壮大ですね。現在みくちゃんが前座をしています。
「乃々ちゃん衣装似合ってますねぇ」
全体的に緑色で所々に木の柄がプリントされています。このドレス風の衣装も乃々ちゃん考案なんですね。
「こんなにもりくぼの願いが実現しました。もうこれはやり久保です」
「せっかくですし目線をお客さんの方に向けてみませんか?」
「さ、さすがに前見るのはむぅ~りぃ~」
「とっておきの秘策があるんですよ乃々ちゃん。それはですね」
乃々ちゃんは少し驚いた顔をしていましたが、
「もりくぼ、やってみますけど」
そろそろみくちゃんの歌が終わります。お疲れ様でした!
「乃々ちゃん、いってらっしゃいっ」
「森久保さん、心行くまで楽しんで下さい」
今日はプロデューサーも応援に来てくれました。
「もりくぼ、いってきますけど」
乃々ちゃんが舞台に立った瞬間歓声が沸き起こりました。そしてその直後に騒めき始めます。いつも目を逸らしている乃々ちゃんが前を向いているのですから。その破壊力は測りしれません。
「のあさん、さっそく役に立ちましたね!」
「そうみたいね。舞台にはアイドルを照らすライトがあるけれど、その光を操作して客が視界に入らないようにする。なかなかの妙案よ」
乃々ちゃんがこれまでにない楽しそうな表情で歌っています。お客さんも盛り上がっています。菜々はこのライブに携われたことを誇りに思います。あ、そろそろ乃々ちゃんの出番が終わりますね。本当に一瞬です。
「乃々ちゃんお疲れ様!」
「お疲れにゃ」
「お疲れ様」
「森久保さん、お疲れ様です」
乃々ちゃんすごくやりきった表情をしています。
「ど、どうも~」
「そう遠くない未来では、楽しんでいるお客さんの顔を見てあげてくださいねっ! きっと素晴らしい光景ですから」
「いつか、いつか頑張ってみますけど」
そのやりきった表情いいですよ。もしアイドルの楽しさ感じてくれたのなら、菜々は嬉しいです。
「それでは後は任せてください! ウサミンいっきまーすっ!」
第二話『森は光に包まれる』
菜々は普段から能力を持っていることを隠しています。使いはしますけど。例え周囲に言いふらしてもまた冗談言っているとしか思われないでしょう。事務所のみなさんから白い目で見られる覚悟も菜々にはありません。我ながらそんな生半可な気持ちで『
「おっはようござーまーすっ。キャハッ」
今日も事務所は平和、かと思ったのですがまた慌ただしいですね。今度は何でしょうか。
「菜々ちゃんおはようにゃ」
「みくちゃん。みんな何しているの?」
「乃々ちゃんが見つからないのにゃ。だから手の空いてる人で探しているのにゃ」
「菜々も探しますねっ」
「頼むにゃ」
がむしゃらに探しても効率悪いので、いる人数割る二十三で基本は探しているらしいです。菜々は後から来たので自由に探します。
「菜々さん。おはようございます」
「のあさん、おはようございますっ」
「菜々さんも探すの手伝ってくれるのかしら」
「はい、そうです」
「プロデューサーならすぐに位置を特定するわ。でも彼は生憎外出中。電話も繋がらない。この事態は想定していたけど解決策は見つからなかったわ。だから今探しているのよ」
「プロデューサーって凄いんですね。それにしても何で乃々ちゃんはいなくなったのでしょうか」
やはり元々やりたくなかったのが今に響いているのかもしれません。叔父に代役を頼まれてこの世界に入ったとは聞いています。本人の望みではなかったようです。
「端的に言うと怖いのよ。」
「怖い、ですか」
菜々はこの世界に入りたくて入りたくてやっと入れました。もしかすると、もしかしなくても菜々と対極にいるのでしょうか。この世界にいられない方が怖い菜々と、この世界にいるのが怖い乃々ちゃん。それでもお節介な菜々は乃々ちゃんにこの世界の良さを感じてほしいです。
「アイドルを全うできると思えないのでしょう。周囲の期待に応えるのがこの世界の基本。自己評価の低さが原因ね」
「菜々は少しでもアイドルの楽しさを知ってほしいです。でもそれが菜々のエゴでないとは言い切れません。だから楽しさを押し付けるのではなく自分で気付いて欲しいです。時間かけてでも」
「そうね。私達はライバルではあるけど、その前に仲間でもあるのよ。ありふれているけどね。ユニット組んだりレッスンしたり」
「菜々も支えたいです」
しかし菜々はそんなに関わりはありません。どうやって関係を築けばいいのかを考える必要があります。ってその前にどこにいるか探さないと。
「おはようございます。みなさん何をしているんですか?」
「おはようございまーす、今乃々ちゃん探しているにぃ☆」
これはこれはありすちゃん。いいところに来ました。こういうのは人手が多い方が助かります。
「乃々さんならさっき根良プロデューサーの机の下で見ましたけど」
「え!?」
この階にいた全員が凍りつきました。乃々ちゃんは机の下が好きというのはこの事務所で有名です。なので菜々が来る前に、机の下は全て入念にチェックしていたようです。つまり見つかっているはずなのに誰も見ていません。
「菜々、試しに行ってみますね!」
いやまさか。そう思いながら慎重にプロデューサーの机に向かいます。そしてゆっくりと机の下を覗きます。しかし何にも見えません。
「乃々ちゃ~ん、いますか~」
「ヒィッ」
声が聞こえました。明らかにこの机の下からです。
「あ、乃々ちゃんっ」
「な、何で見つかるんですか…」
何も無い空間から突如乃々ちゃんが出現しました。ありすちゃんの言った通り確かにここにいます。菜々は平静を装っていますが内心とてもびっくりしています。何せ人が何も無い空間から現れるところを間近で目撃したのですから。
「橘ちゃんのお陰ですよ!」
「もりくぼを探す時間がもったいないんですけど。放っておいて欲しかったんですけど」
こういう時何て言葉をかけたら良いのやら。菜々自身どんな気持ちになればいいのか分かりません。きっとまだ乃々ちゃんを本当の意味で理解していないんです。
「事務所の仲間だから放っておけないにぃ☆ それにしても橘ちゃんよく見つけたにぃ☆」
「いえ、むしろ何でみなさんには見えなかったんですか?」
きらりちゃんを始め、周りのアイドルは少し困った表情をしています。もちろん菜々もちょっと戸惑っています。
「きらりには見えなかったゆ。帰りに眼科にでも寄ってみるにぃ☆」
今度はありすちゃんが困った表情をしています。何というか言わなきゃ良かったみたいな顔です。微妙な空気への責任感から来ているかもしれません。推測なので正しさは保証できません、あくまで菜々の主観です。そして他のアイドルは依然として固まっています。のあさんはいつもと表情変わりませんが。
「も、もりくぼのせいで変な空気に」
うっ。これはどうやって収拾を付ければ。ただウサミンマジックをやっても白けるだけです。あ~何か方法はありませんかっ。
「み、みんなしっかりせぇっ。事務所には不思議なことの六つや七つあるじゃろ。他の惑星から来たアイドルとか永遠に年を取らないアイドルとかいるけぇのぉ」
「そ、そうですよ~。菜々が生き証人ですからっ。あは、あは
はははははは」
まさかここで菜々が出てくるとは思いませんでしたが、巴ちゃんナイスです。
「そ、そうだにゃ。これくらいで驚いていたらアイドルやっていられないにゃ」
「おっお詫びにレッスン行くんですけど~」
何とかこの場は収まりました。良かったです。それでは菜々もレッスンに行きます。その前にプロデューサーにメール送らなくては。
♥
レッスンが終わって休憩してから乃々ちゃんを探してみることにしました。恐らくプロデューサーさんの机の下にいるはずです。
「乃々ちゃんいますか?」
「ヒッ」
「驚かせてすいません。お邪魔していいですか?」
「は、はい~」
乃々ちゃんの気持ちになるですよ。
「お仕事は順調ですか?」
「い、いえ~。そ、その。上手くできないんですけど。う、うぅ。明日の打ち合わせも不安です」
「菜々は乃々ちゃんのやる仕事に個性が出ていて良いと思いますよ。この前のライブとか」
事務所でかなり話題になったんですよ。ソロライブ本番直前、会場の控え室で乃々ちゃんが衣装を持ったまま逃亡したんです。あっさりプロデューサーさんに見けられました。その時プロデューサーさん涙目で睨まれたんですけど、初めて乃々ちゃんと目が合った瞬間らしいのです。それまで誰とも目を合わせたこと無かったので、それはもう事務所中大騒ぎでした。ついでに真顔しか見せないプロデューサーさんが驚いた表情してたのも新鮮でした。その後のライブはほとんどヤケでしたね。でも頑張る姿は正真正銘のアイドルです。
「うぅ、あのライブ思い出すの恥ずかしいぃ~」
「アイドル続けるの辛いですか?」
「う、うぅ。辛くないと言えば嘘になりますけど」
「けど?」
「ぷ、プロデューサーさんを悲しませたくないんです。つ、ついでにもりくぼも」
普段はネガティブだけど、頑張りたい意志が感じられます。
「今回のライブ、辛いかもしれませんが少しやる気出してみます?」
「ちょ、ちょっとだけなら」
ちょっとずつでいいんです。小さくてもその一歩を積み重ねる内にアイドルの醍醐味とか分かってきます。
「プロデューサーさんは乃々ちゃんのサンクチュアリを造ってくれるそうです。なので色々提案してみませんか?」
乃々ちゃんの希望が実現したら前回と違った気持ちでライブできると思います。
「や、やってみたいですけど。少し恥ずかしいと言いますか」
乃々ちゃんからやってみたいって言葉が聞けるの嬉しいです。
「話すの苦手ですか?」
「そ、そうなんですけど」
菜々にいい考えがあります。
「ポエム帳使ってみましょう、それを読んでもらうんです。そうすれば話すのが苦手でも伝えられるはずです!」
「や、やってみます」
♥
次の日。乃々ちゃんとプロデューサーの打ち合わせの後、少しだけ時間を頂きました。
「あ、プロデューサーさんこんにちは。忙しいのにすいません…」
「問題ない。直接話さなければいけないということは深刻な内容になりそうか?」
「深刻ではないですよ。お願いがあるんです」
「聞こうか」
「菜々を乃々ちゃんのライブの助っ人に起用していただけませんか?」
プロデューサーさんの顔が固まったように見えます。表情はいつもの真顔なのですが。スケジュール的には可能なはずです。
「体調大丈夫か?」
「絶好調ですっ」
プロデューサーさんはしばらく考え込みます。
「確かにまだ助っ人は一人しか決まっていない。もう一人必要と思っていたところだ。それぞれ一曲しか歌わないから、ライブ慣れしていればレッスンも短くて済む。間に合うと言えば間に合う」
何か含みのある言い方が気になります。それでも菜々はライブに出たいです。何とか乃々ちゃんの助けになれれば。
「菜々、出られますか?」
プロデューサーはしばらく無言でした。菜々はその間静かに返事を待ちます。
「いいだろう。それじゃあ森久保さんともう一人の助っ人のレッスンが終わり次第ミーティングだ」
「はいっ!」
プロデューサーは一旦部屋を出て行きました。菜々はのあさんの映像を観たりCDを聴いたりして勉強です。大体の雰囲気は掴めてきました。ですがもっと深く知るには直接的な関わりが必要です。合宿とかしてみたいですねぇ。
♥
これからミーティングが始まります。菜々は最近ライブしていなかったので、アイドルらしいことできるなぁと、うずうずしています。と言っても最後にライブしたの二か月前で普通に考えたらこれくらいのブランクはよくある話ですけどね。
「失礼しますけど」
「失礼しますにゃ」
「乃々ちゃん! みくちゃん!」
助っ人ってみくちゃんのことだったんですねぇ~。
「菜々ちゃんも助っ人かにゃ?」
「はいっ。乃々ちゃんの助けになればと思って。それに久々にライブしてみたいなーて」
「やったにゃこれで勝つるにゃ!」
「か、かつる?」
最近の言葉なんですかねこれって。それにしてもいやぁ若いですねこのメンツ。いいですねぇ~若いって。自分まで若くなって気分になります。って菜々は十七歳なので十分若いです!
「よ、よ、よろしくおねがいします」
「菜々こそよろしくお願いしますねっ。キャハッ」
「おまたせ」
「Pちゃんこんにちはにゃ」
「こ、こんにちは」
「プロデューサーさんさっきぶりです!」
「三人揃っていることだしさっそく始めよう。さて、今回のライブは森久保さんが主役だけど、どうやったらライブしやすくなるか多角的に考えてきた。ライブのセットや衣装は全て森久保さんの発案だ。あとはライブの順番を決めようか。」
「あ、あのぉ、さすがにお二人の後は荷が重いんですけど」
「そうか。なら前座、森久保さん、後座という感じにしていこうか。明後日から実際の劇場でリハーサルだから三人で交代の練習とかもしていこう。観客たちには今のうちから説明しておかないとな。あくまで森久保さんメインであることを強調していかないと誤解されてしまう」
「菜々は曲どうしますか?」
「いつものソロ曲で頼む。歌いなれているだろうし。前川さんも今ソロ曲練習してもらっている。と言っても既に完成度は高いから」
なるほど。
「二か月のブランクすぐに埋めますっ」
「分かった。森久保さんはライブの順番中間だけどいいか?」
「少し気が楽になりましたけど」
「今回は森久保さんのファンが大勢来るけど、これを気に前川さん、菜々さんのファンにもなってもらえたらと思っている。助っ人は事前に伝えてあるから二人のファンがこのライブに来る可能性もある。だから逆に二人のファンが森久保さんのファンになってもらえる可能性もある。そういう意味でも助っ人はアイドル的に美味いかもしれないな」
「それは美味しいにゃ」
「それとマネージャー的な助っ人も一人呼ぶことにした。高峯さんが三人の世話をしてくれることになったからよろしく」
「それは心強いですねぇ~」
「菜々さんはこのライブと並行して『Preplica』の活動もあるからあまり無理しないように」
「はいっ。任せてください」
ライブは一週間後。本当に楽しみです。今のこのアイドルしているんだって思える瞬間がたまりません。『Preplica』の企画をしている時もそうです。やはり菜々は心からアイドルしたいんだって改めて自覚しています。
「みなさん、もりくぼの為に…」
「ウサミンも乃々ちゃんのファンですからねっ。喜んで助太刀しますね」
「そうにゃ、頑張る姿応援したくなるにゃ」
「はっ、恥ずかしいぃ~」
照れ久保いいですねぇ、需要ありますよ~。
「それじゃあこれで解散」
プロデューサーさんはそそくさと部屋から出て行きました。菜々は今日の予定ありませんしどうしましょうかね。そういえば乃々ちゃん朝と違っていつになくやる気に満ち溢れていますね。何かあったのでしょう。
「乃々ちゃんやる久保ですねぇ」
「ぷっ、プロデューサーさんがもりくぼの考えた衣装や演出を採用してくれるらしいです…。今日の昼にですね、もりくぼの理想をポエム帳に書いて出したんです…。緊張しました……」
「良かったです、菜々は乃々ちゃんが積極的で嬉しいですよ」
「で、でももりくぼは基本消極的ですし……。今朝だって。何故か菜々さんに見つけられましたけど……。なんで見つかったんですか……」
「見つけたのは橘ちゃんですよ。菜々は確認しに行っただけですね」
「そっ、そんなぁ~。プロデューサーさん以外なら見つからないはずなのに……」
やはり乃々ちゃんも超能力持っているようです。それが知られることに抵抗がないのかは分かりません。しかしこれまでの様子を見る限り、隠れることを優先させているようですね。それに周りのアイドルはこれまで隠れるのが上手くらいの認識でしょうし。今朝のでその認識は変わった可能性があります。少なくとも菜々は変わりました。ここは少し踏み込んでみます。
「乃々ちゃんは不思議な力を持ってたりします? もしかしてそれで隠れるのが得意だったり」
「多分信じてもらえないんですけど」
自分の手の内を明かさないのはフェアではないですね。
「菜々も持っていますよ。『
「みくも持っているにゃ。猫とコミュニケーション取れる能力にゃ」
「みくちゃんも持っているんですねっ。今まで菜々と小梅ちゃんだけだと思ってたんですけど結構いるんですね!」
白坂小梅ちゃんは唯一自他ともに認められている超能力者です。一般的には『霊能力』と言われています。
「みくも今朝まで自分だけだと思ってたにゃ。ウサミンマジックは本当にマジックだと勘違いしてたにゃ」
これは本当に意外です。もしかして他にも超能力者がいるかもしれませんね。
「もりくぼは『
なぜかプロデューサーさんには通用しないんですけど」
姿を消せる超能力。これ何げに強そうな能力ですね。持ち主が乃々ちゃんで良かったです。悪用しようと思えばできますからね。実は菜々も『
「不思議ですねぇ~」
そしてそんな乃々ちゃんを今までいとも簡単に見つけたプロデューサーさんは一体。そしてありすちゃんも。
「もしかしたらPちゃんも超能力者かもしれないにゃ」
「この三人でいると当たり前みたいですけど密度高くないですか…」
「それもそうにゃ。この事務所ヤバかったりするかもにゃ。でもこれまで普通に活動できてたからきっと大丈夫にゃ。それに今回三人で超能力の共有ができたにゃ。隠し事する必要なくなって安心したにゃ」
「なかなか人には言えませんもんねっ」
「まさかもりくぼや小梅さん以外に超能力者がいたとは。驚いたんですけど」
♥
いよいよ今日からリハーサルです。これから現場に向かうところです。
「なぁお主、ちょっとええか?」
巴ちゃんです。何でしょうか。
「はい、少しの時間なら大丈夫ですよ」
「わしは菜々さんを信用しとるけぇ余計に事態が分からないんじゃが。橘ありすっちゅうアイドルと何かトラブルでもあったんか?」
とっとっとトラブル!? そういえば最近会ってませんね。思い当たる節があるのは歓迎会の時のウサミンマジックくらいですが。
「トラブルかはわかりませんが、心当たりはウサミンマジックでかなり引かれたくらいですね」
巴ちゃんは困った顔をして無言になります。私は突然のことでびっくりしています。
「う~ん、そこからしてオカシイんじゃが取り敢えずあったことを話すけぇ。実はな、ありすにお主がどういう人間なのか聞かれたんじゃ。変じゃろ? 何かあったと思って一応こうしてお主に訊いてみたんじゃが」
菜々は何かとんでもないことをしてしまったのかもしれません。何が起こっているのかも把握できません。ただ深刻なことだけは理解できます。
「菜々はこれからどうすれば」
「わしは一見痛いが気配りのできる世話好きな姐さんと答えたがのぉ。多分わし以外にも同じ質問しとる」
姉さんですよね? 姐さんではなくて。菜々は痛くも痒くもないですからねっ。グスンッ。
「ありすちゃん」
「わしは原因がさっぱりじゃが、ありすがお主と接していくうちにお主を理解していくと思っとる。そうじゃろ?」
そう在りたいとは思います。しかし菜々は自分の過ちに気づけません。どうしても不安が残ります。むしろ不安が大きくなるばかりです。もしかしてありすちゃん以外も傷つけていないかって。
「そう、思いたいです」
「しっかりせぇ菜々さん。お主がわしらと築いてきた関係が何よりもお主の人格を証明してるじゃろ」
巴ちゃん。何て心強いのでしょう。
「そうですねっ! これから接していけば菜々のこと分かってもらえます。それではリハーサル行ってきますっ。キャハッ」
「おうっ」
♥
リハーサル会場に来ました。二千人くらい収容できる規模ですねこれは。
「私が案内するわ。今はこのステージには何もないけど当日は木の飾りを施して森みたいにするわ」
のあさんがタブレットで完成予想図を見せてくれています。これが乃々ちゃんの理想郷。
「い、いいですね。もりくぼの世界です。目は合わせられないですけど頑張ります」
本番に向けてのイメージが湧いてきました。菜々と森、今までにない組み合わせです。しかし曲も衣装もいつものです。大丈夫ですかね。
「これは凄いにゃ。こだわりのステージにゃ」
「このイメージを持ってリハーサルをしましょう。前座は前川さん、後座は安部さんとプロデューサーが指示したわ。いいかしら」
「任せるにゃ」
「任せて下さいっ」
着々と準備が進んでますね。
「本番でのイメージはできたかしら。それでは交代も含めて通してみましょう。音楽流すわ」
三人とも順調に歌い終えました。乃々ちゃんバッチリです。無理だと言いつつもちゃんとレッスン積んでるんですね。こだわりのステージというだけあってモチベーションも高いです。
「乃々ちゃんパフォーマンスが向上してたにゃ。レッスンの成果が出てるにゃ」
「あ、ありがとうございます…」
「これでファンも喜ぶにゃ。もちろん前回のライブもあれはあれでファンを魅了してたにゃ」
これはいいステージになりそうです。菜々も負けていられませんね。まだまだこれからってところを見せていきたいです。
「そういえば乃々ちゃんっていつから能力使えるようになったんですか?」
「もりくぼは小学生の時無理矢理鬼ごっこに誘われて、隠れたいと思った時使えるようになりました。もりくぼ運動とか苦手なので」
「そうだったんですね! 実に乃々ちゃんらしいです。菜々は三歳の頃アニメのヒロインに憧れて変身の真似をしたらできてしまったのが始まりですね。超能力って案外願望と一致するものなんですかね。不思議です」
「確かに不思議ですね、都合がいいと言いますか」
能力を授けられた理由は分かりません。そもそも授けられたという言い回しが適切ではないかもしれません。それでも菜々は与えられた力をフルに使っていきます。
「三人ともリハーサルお疲れ様。今日はゆっくり休んで。明日からプロデューサーも見に来るわ。それでは解散ね」
「お、お疲れ様です」
「お疲れ様にゃ」
「お疲れ様でしたっ。キャハッ」
充実した疲労を噛み締めて帰宅の準備に取り掛かります。事務所には寄らないでも大丈夫らしいのでバスで帰りましょうか。一応ここまでは事務所の自動車で来たのですが、一旦事務所に帰ってから駅に行くより、ここからバスで行った方が早いんですよ。
「菜々さん少しいいかしら」
「はい、何かあったんですかのあさん」
「森久保さんの能力についてよ。本人は『木を隠すなら森の中』つまり『姿を消せる能力』だと思っているけど、それ自体は本来ある能力の一部に過ぎないわ」
知りませんでした。というかのあさん詳しいですね。
「本来の能力ってどんなのですか?」
「『光を操作する能力』よ。『光子使い』とも言えるかしら。これが能力の全体像、すなわち本質。その一部を使って森久保さんは『光学迷彩』を自身に施していたのね」
「なぜそのことを菜々に教えてくれるんですか?」
「もし力が必要になった時、このことを伝えられる人が少しでも多くいたら助かるからよ。あまり公にできるものではないけど、あなたなら能力について一定の理解があるわ」
なるほど、だから菜々に。
「それではまた明日会いましょう」
「はいっ。お疲れ様でしたっ」
♥
本番当日。舞台袖から観客席を覗くと、物凄い数の人が見えます。乃々ちゃんへの弾幕があちらこちらに見えます。ステージが本当に森みたいになっていて壮大ですね。現在みくちゃんが前座をしています。
「乃々ちゃん衣装似合ってますねぇ」
全体的に緑色で所々に木の柄がプリントされています。このドレス風の衣装も乃々ちゃん考案なんですね。
「こんなにもりくぼの願いが実現しました。もうこれはやり久保です」
「せっかくですし目線をお客さんの方に向けてみませんか?」
「さ、さすがに前見るのはむぅ~りぃ~」
「とっておきの秘策があるんですよ乃々ちゃん。それはですね」
乃々ちゃんは少し驚いた顔をしていましたが、
「もりくぼ、やってみますけど」
そろそろみくちゃんの歌が終わります。お疲れ様でした!
「乃々ちゃん、いってらっしゃいっ」
「森久保さん、心行くまで楽しんで下さい」
今日はプロデューサーも応援に来てくれました。
「もりくぼ、いってきますけど」
乃々ちゃんが舞台に立った瞬間歓声が沸き起こりました。そしてその直後に騒めき始めます。いつも目を逸らしている乃々ちゃんが前を向いているのですから。その破壊力は測りしれません。
「のあさん、さっそく役に立ちましたね!」
「そうみたいね。舞台にはアイドルを照らすライトがあるけれど、その光を操作して客が視界に入らないようにする。なかなかの妙案よ」
乃々ちゃんがこれまでにない楽しそうな表情で歌っています。お客さんも盛り上がっています。菜々はこのライブに携われたことを誇りに思います。あ、そろそろ乃々ちゃんの出番が終わりますね。本当に一瞬です。
「乃々ちゃんお疲れ様!」
「お疲れにゃ」
「お疲れ様」
「森久保さん、お疲れ様です」
乃々ちゃんすごくやりきった表情をしています。
「ど、どうも~」
「そう遠くない未来では、楽しんでいるお客さんの顔を見てあげてくださいねっ! きっと素晴らしい光景ですから」
「いつか、いつか頑張ってみますけど」
そのやりきった表情いいですよ。もしアイドルの楽しさ感じてくれたのなら、菜々は嬉しいです。
「それでは後は任せてください! ウサミンいっきまーすっ!」