第三話『誰が為の歪んだ世界』
乃々ちゃんのライブから三日が経ちました。今日も事務所が平和です。『Preplica』の活動も少しずつではありますが進んでいます。今日はのあさんと第三回『preplica企画会議』です。
「菜々さんこんにちは」
「のあさんこんにちは!」
「前回のライブお疲れ様。今日はプロデューサーからいくつか伝言を預かっているわ。本当は直接言いたいらしいけどあいにく予定が合わないらしいのよ」
「伝言、ですか」
「プロデューサーの伝言に関連して私もあなたに言わないといけないことがあるわ。紛れもない真実を」
何だかシリアスな雰囲気です。もしかしてこのユニット解散とかではないですよね。菜々はしたくありません。
「何ですか?」
「まずは私とプロデューサーの謝罪ね。菜々さん、本当にごめんなさい」
私は事態がよく飲み込めません。何で菜々が謝られているのか
さっぱりです。
「ど、どういう事でしょうか」
「何から話せばいいのかしら。まずは己の手の内を明かして行くわ。私も超能力者で『
いきなり色んな単語が出てきて飲み込めません。サイバー・アナライザー、スキル・エクスプローラー。大事なのは名前より内容ですが。
「だ、大丈夫です」
「私の能力で菜々さんの『
「!」
開いた口が塞がりません。頭が真っ白になります。菜々は、菜々は。
「少なくとも地下アイドル時代から、二十四時間三百六十五日その姿を保っている。しかしその代償は大きいわ。身体が常に過度な運動をしている状態になり、本来なら日常生活をこなすことすら困難なくらい体力が奪われているわ。それだけでなく、免疫力も低下し、いつ感染症を発症してもおかしくないわ。文字通り命懸けでアイドルをしているのね」
そうです、菜々は常に『
「代償がどのようなものか、それは菜々も分かっていました。それでもアイドルになりたかったんです」
「その気持ちは誰にも否定できないわ。でも私は菜々さんの体がとても心配だったのよ。いつ倒れてもおかしくないのだから」
菜々は自分だけに代償が降りかかるのなら、それがどのようなモノだろうと構わない意志でいました。しかしこうして心配させてしまっています。
「のあさん、プロデューサーさん、心配かけてすいませんっ」
「いえ、私とプロデューサーが勝手にやったことよ。それに私達はあなたの気持ちを知らずに活動を制限しようとした。本当に愚行だったわ」
「制限、ですか?」
「そう、『Preplica』はあなたの過労を抑えるために私とプロデューサーが話し合って結成されたのよ。だからテーマは『静寂』、レッスンは少なくしてあるわ。もう一つの目的は、あなたにもしものことがあったら私が然るべき処置をする為よ。ユニットになることで心の準備ができている私が傍にいることができるわ」
菜々のことを考えてくれいたんですね。そして疑問に思ってたことの真相も分かりました。楽曲やライブの予定がないのも、
「スケジュールに空きが多かったのも菜々の為に」
「それが逆にライブへの出演の布石になったのは想定外だったわ。でもそれであなたがどれだけアイドルをしたいのかが伝わったわ。どんなに体が疲れても、自らライブへの出演を志願する姿勢を見て、私はやっと本当の意味であなたを理解できたわ」
「菜々はやっとの思いでアイドルの座を掴めましたから。だから少しでもたくさんアイドルの仕事をしたいんです」
「私達が本当にするべきなのはあなたが如何にアイドルを全うできるか考え、行動すること。プロデューサーが付けた『Preplica』というユニット名は接頭語の『Pre』と単語の『Replica』を組み合わせた造語なのよ。『Pre』は名詞に付いて『それに近いもの』という意味になるわ。つまり『複製に近いモノ』または『準複製』。私達は結成の目的が目的だけに『ユニットの真似事』でしかない。けれど完全な複製ではなく、本物のユニットになれる可能性が少しでもあるのなら、プロデューサーはそういう思いで『Preplica』と命名したわ」
「だから『複製に近いモノ』なんですね」
「えぇ。プロデューサーから最後の伝言よ。『Preplica』の第二ステージ開始とのこと。あなたがこのユニットの未来を切り開いたのよ」
「ありがとうございますっ!」
確かにのあさんの言う通り体は辛いです。でも菜々はアイドルになれない方がよっぽど辛いです。能力使用の代償以外にも様々なことを犠牲にしてきました。そうしてこの日常があります。それを維持する為、菜々はこれからも辛さと戦います。
「これについては一応解決ね」
「これについては?」
「えぇ。橘さんについてよ」
「やっぱり菜々は何かしてしまってたんですね」
のあさんはすごく言いづらそうにしています。でも菜々は知らなければいけません。
「まず、橘さんも能力者で内容は『能力の顕現が反映されない世界を観る能力』ね」
「つまり、どんな世界になるんですか?」
「例えば風を操作する能力者が風で物を飛ばすとするわ。吹いた風そのものが顕現、飛ばされた物が影響ね。橘さんの場合風そのものは認識できないわ。でも物は確実に吹き飛んでいると認識できる」
「だから消えていた乃々ちゃんを観ることができたんですね。でも実際の現実との整合性はどうなるんですか?」
「矛盾してることも多々あるでしょう。観測している世界が常に脈絡のないものとなるわ。能力が頻繁に使用されている世界ならね。そしてどういう意図かは分からないけど、橘さんは常に能力を使用しているわ。そしてあなたの変身前の姿を見ている」
「菜々の所為で混乱しているんですねきっと。ウサミンマジックでは人間が動物の真似をしている滑稽さに引いてたんですね。それだけではなく写真や映像の菜々と違う姿、その菜々に普通に接している周囲、その孤独は計りしれません。ありすちゃん、ごめんなさい」
本当に自分が情けないです。菜々はこの『
「『
「だから最近ありすちゃん見かけなかったんですね」
最悪の場合事務所を去ることも考えます。しかし簡単に許可が下りるとは思えません。事務所が利益を手放すのは渋るはずです。逆にありすちゃんが辞めるとなったら、もう菜々はありすちゃんに顔向けできません。
「本当に心苦しいわ。あなたは自分のことだけでも精一杯なはずなのに、面倒見も良く慕われている。可能ならより接触を持って欲しいわ」
「でも菜々はありすちゃんを傷つけました、そんな資格はありません。でもできるなら会って謝りたいです。菜々には今のところそれしかできません」
何て菜々が無力な存在か分かります。自分の罪すら自分で償えません。本当に謝ることしか。
「私達も何もできないわ。ごめんなさい」
「こ、これは菜々が自分の夢の為に突っ走ったのが原因です、のあさんやプロデューサーさんは悪くありませんっ。お願いです、橘ちゃんに謝らせてください。それで償えるなんて思いません。でも謝らない理由にはなりません」
プロデューサーさんの『
「ありがとうございます」
のあさんがSNSで菜々の会って謝りたい旨を送ってくれたようです。
「余談だけどプロデューサーは能力で私やあなたを見つけてくれたのよ」
「超能力とアイドルって関係あるんですか?」
「えぇ。彼の統計によると超能力者の中にアイドルの素質を持つ者が多いらしいわ。つまり『異能捜し』で超能力者を探し出して効率的にスカウトしているのよ」
「ありすちゃんもそのスカウトで事務所に来たんですね」
「プロデューサーは橘さんを入れる手続きを済ませてから私に会わせたわ。そこで彼女の能力について知ったのよ。そして菜々さんと今の状況になることが予想できたから予定より早く『Preplica』が結成されたわ。ユニットで縛ることで自然と接触の機会を減らしたのよ」
それでも完全に機会を断つことはできませんでした。さすがに完全は難しいですもんね。スケジュールの空きの部分までは管理
不能ですから。菜々の体調と能力使用による混乱、菜々は自分を責めても責めたりません。
「そういえばプロデューサーさん予定より早いけどって言ってましたね」
「えぇ。プロデューサーが橘さんのいる場所を教えてくれたわ。101カフェに一人でいるそうよ」
「菜々のバイト先ですね。それでは行ってきます」
「行ってらっしゃい」
待っててくださいありすちゃん。
♥
本来は101カフェで働く時間ではないですが少し手伝います。丸腰で行っては警戒されてしまいます。自然な形で話しかけなければいけません。ありすちゃんをびっくりさせないようにしなければなりません。
スタッフに聞いたところありすちゃんには十分くらい前に注文の品を運んだそうです。それでは品を下げる時に行きましょう。これなら自然に会えます。という訳で他のテーブルのコップや皿を下げつつ様子を見ます。なんか仕事を利用した感じが後ろめたいですが。
そうして五分くらいしてありすちゃんの様子を伺うともう食べ終わっているようです。紅茶を飲んでいます。
「こちらのパフェお下げしますねぇ~」
「!?」
やっぱりビックリさせてしましました。いきなり声をかけるよりはいいと思ったのですが失敗しました。
「驚かせてすいません、菜々は普段ここでバイトしているんですよ。今の時間は本当は勤務時間外ですけど。菜々は橘ちゃんに謝りたいことがあるので場所移していいですか?」
ありすちゃんは一応頷いてくれました。しかし俯いています。せっかくの休憩時間を邪魔してすいません。
♥
二人で話せる場所に来ました。101カフェの近くに芝生の広がっているスペースがあるんです。
「あ、あの、なんでしょうか」
「菜々は非常に橘ちゃんに迷惑をかけました、本当にすいませんでしたっ」
頭を下げます。
「か、顔を上げて下さい」
これ以上下げてはありすちゃんを戸惑わせてしまうので顔を上げます。
「橘ちゃんには菜々がどう見えてますか」
ありすちゃんは少し答えにくそうにしています。
「テレビや写真でみる菜々さんとは違うように見えます。あなたは何者なんですか?」
安部奈々ですって主張しても説得力ないですね。
「えっと」
なんと説明すればいいのか分かりません。
「この事務所のみなさんはあなたを奈々さんとして接しています。しかし私にはそれが理解できません。これは、わたしが、おかしいのでしょうか」
橘ちゃんの目には涙が。周囲との感覚の違いがどれだけ不安のなったことか。その孤独は人間にとってとても辛いです。
「いえ、おかしくないですよ。菜々が能力を使っているからこんなことになったんです」
「ちょうのうりょく」
もしかしてピンときてない感じですかこれは。でも確かに能力は使用しています。つまり無自覚に能力が発動されている?
「そうです。『
「そんな、まさか。非科学的です」
まぁ信じられないですよね。やはり自覚ないようですが、だとすると『
「まぁそうですよね。これはのあさんからの説明で知ったんですけどね、橘ちゃんも超能力を使っていてそれが今の状況に起因しているみたいです」
「どういう、ことですか」
「菜々は常に『
これを受け入れるのは難しいかもしれません。ありすちゃんにとっては突然過ぎます。
「え」
「急には受け入れられないですよね」
彼女の涙は流れ続けます。
「私、どうしたらいいんですか。私が超能力使ってるなんて」
「菜々が、菜々が何とかしますっ」
菜々がどうにかしたいです。でも菜々もどうしたらいいのか分かりません。考えなければ。そもそもどうして無自覚で能力が発動しているのか。どういう場合でそうなるのか。常時発動型かと思っていたのですがのあさんの
「なぜ常に能力を使用しているのか分からない」
この言葉は裏を返すと、のあさんはありすちゃんが能力をコントロールできるってことですよね。なのでそこは菜々や乃々ちゃんと同じと考えていいはずです。
「何とか、できるんですか」
分かりません。でも何とかしようとせずにはいられません。コントロール可能かつ無自覚での発動、この謎を解かなければ。
「う、うぅ。断言は、ちょっと」
能力は基本的に使おうと思って使います。当たり前ですが。あ、そういえば乃々ちゃんは『
「でも、何で」
「え?」
「何であなたは私が困ってるって分かったんですか」
「困ってると言いますか菜々に対して警戒してるのかなって。歓迎会の時とかですね。決定的だったのはのあさんに橘ちゃんの能力を教えられた時です。その時周りが変身中の菜々と接している中、橘ちゃんには変身前の菜々しか見られないって知ったんです」
「ちょ、超能力なんて。何で私が。」
持っている理由は分かりません。でも無自覚に発動する理由は閃きました。
「橘ちゃんはさっき菜々が超能力を持っているという発言に対して、非科学的と言いました。いつからかは定かではありませんが能力というベースの元で、超能力の存在を否定する思考・価値観が能力の発動に起因したと考えられます。しかし能力の発動が自覚できないまま、その思考を持ち続けているが故に『
まだ仮説に過ぎないですけどじっくり検証している時間はありません。これが本当だと仮定してすべきことを考えます。どうしたら橘ちゃんは救われるのか。
「確かに超能力は滑稽だと思っています。でもこの状況に説明がつくのは事実です。それにこのままでいるのは怖いです」
「菜々が原因なので何かをお願いするのは筋違いです。でも、もし橘ちゃんが受け入れてくれるのなら、超能力のある世界を受け入れてくれませんか?」
押し付けと言われても反論できません。これだけ迷惑かけておいて価値観変えろなんて道理通りません。でもこれで感覚の違いが埋められるなら。
「もし信じて超能力を見られるのなら、少なくとも私の中では存在することになります。信じてみなさんと同じ世界を共有できるなら、私は歪んだ世界を見たいです」
菜々は少し安心してありすちゃんの涙を拭います。これでぼやけてた視界がクリアになります。超能力の保有を自覚し、存在を受け入れることで『
「菜々が見えますか?」
「はい、テレビで観る姿と一緒です」
これできっとありすちゃんが孤独から開放されるなら嬉しいです。そしてこんな菜々を受け入れてくれてありがとうございまsう。うっ、最近菜々は涙腺が緩くてですね、もう限界です。
「うっ、そ、それでは改めまして、永遠の十七歳、メイドアイドルヒロイン、ウサミンこと安部奈々ですっ。キャハッ」