メルヘン♥シンデレラウォーズ   作:びぃまP

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第6話

第三話『真実見抜く幻魚物語』

 

 菜々はやるしかありません。悪者と呼ばれてもです。

「本当にやるのね」

「はい、これは菜々にしかできませんから」

 苦しくも素敵な空間を守りたい、だから変身します。

「そう」

「それではいきます」

 ――――――メルヘンチェンジ――――――――

 衣装室から背広を借りて出発です。手当たり次第アイドルのいる場所へ向かいます。

「あ、プロデューサーさん。お疲れ様です」

「新田さんお疲れ様です」

 菜々はプロデューサーさんに変身して、一人一人心配しないでいいと伝えに行くつもりです。もし納得して貰えなかったら、してもらえるまで話し合います。あくまで予定です。

「プロデューサーさんってあまり顔を見せないのでこうやって廊下で遭うの珍しいですね」

「まぁ忙しいような」

「心配しているんですよ、私だけでなく他の子も」

「俺は大丈夫。体も心も健康」

「本当ですか?」

「もちろん、だから新田さんも他のアイドルも気にせずレッスンに打ち込んで頂ければ」

 そういえばプロデューサーさんの口調ってもっとフランクだったような。いやでも美波ちゃんに対してはどうなんでしょうか。二人が会話しているところ見たことないので何とも。声質に関してはバッチリです。『七変化』で声帯の筋肉を変形させてプロデューサーさんの声を再現しています。声優のオーディションも実は『七変化』に助けられて合格しました。菜々にしかできない理由がそこなんです。乃々ちゃんは光の反射を調整して姿は変えられますが、声は変えられません。たとえできてもこんなことやらせませんけどね。

「その……レッスンのことですけど、プロデューサーさんのことでみんな集中できていないんです」

「心配掛けてすいません。でも本当に大丈夫だから」

 大丈夫な理由が分かりません。だからどうして大丈夫かの説明ができません。

「一般的な感覚だとどうしても信じられないんです。だからこれからプロデューサーさんの事を知らせて下さい。これから関わっていけば納得できるかもしれません」

 関わり、うーん何か引っかかります。忙しい、だから関わりが薄い。そして自ら率先して忙しく……。あ、もしかしてこれは……。いやいやそんなはずは、関わらない為に忙しくさせてるなんて普通の感覚ではありませんから。

「分かった、これから関わっていくから心配しないで欲しい」

「あまり納得はできませんが、これからに期待します!」

 美波ちゃんは何とか元気を出したといいますか、少し回復した感じなので次行きます。美波ちゃんに関して言えば納得して貰えていないので、目標には届きませんでしたけど。

「お疲れ様です」

「Pチャンお疲れ!」

「調子どう?」

「絶好調と言いたいところだけど。まぁいずれPチャンはトレーナーさんから様子を聞くだろうから白状すると最悪。ごめんなさい、ユニットにも他のアイドルにも事務所にも迷惑だよね。このままだとファンにも迷惑かけてしまう」

「そ、そんな」

 返す言葉が見つかりません。どんなに変身できても、こんな時勇気付けられる言葉を紡げる人には敵いません。だから逆に変身しかできないという無力感に苛まれます。

「Pチャン今時間ある?」

「あると言えばある」

「色々言いたいことがあるんだ」

 レッスンが上手く行っていないこと、プロデューサーがアイドルと向き合えていないのではないかという事、『✽』結成を持ちかけられた時適当に組まされたと思った事、色々吐き出したけど何が言いたいのかというともっとアイドルを関わるべきだという事を聞きました。

「何か事情があるかもしれないけど、アイドルに変な心配掛けないでねPチャン」

「心配掛けてるの自覚できなかった、すまない。でも体は健康だし大丈夫だから」

 自覚できなかったなんて言い訳にしか聞こえないのが悲しいです。しかもそれをプロデューサーさんに成りすましている菜々が言うので余計に。もうこれやってる事が騙しなので内容に関わらず悪いですけど。

「ごめんね、みくにはまだその言葉信じられない」

「これから信じてもらうよう努力するから」

 駄目みたいですね。根本的にとはいかなくてもアイドルの不安を解消するのが変身の目的なんですけど、プロデューサーさんが大丈夫だと伝えて信用されないなら打つ手ないのでは。ってそんな弱音思いついたら負けです。

「分かった。じゃあねPチャン」

 煮え切らない結果が続く中、次のアイドルに行きます。

「橘さん、少し時間いいですか?」

「は、はい」

 瞼が赤くなっています。目の少し下にはまつ毛が。

「あの」

 菜々が言いかけると同時にありすちゃんも口を開きます。

「私、もう事務所にいる資格ありません」」

 ありすちゃんはレッスンが最悪だった原因が自分にあると言いました。自分が他のアイドルを巻き込む事を提案しなければと。そして自ら働き過ぎる理由を知りたいと訴えました。みんな納得できればレッスンに打ち込めるはずだと。

「レッスンが良くなかった根本的な原因は俺にある。だから責任は感じなくていい。理由は言えないけど絶対に大丈夫だから」

 実際プロデューサーさんがこう言うのか、言わないかもしれません。この返答に限らず今までのもです。無責任と言われても反論できませんね。

「理由が分からないと納得は難しいです。これまで今みたいに面と向かって話さないのであなたのことが良く知らないからです」

 かなり言われますねこれ。

「理由……」

 給料説、アイドルと関わりたい説は否定されました。しかしです、ここまで関わりがないって不自然だと思います。不自然を立証するのは難しいですが。

「そうです。私は理由を欲しています」

「『そういうもの』では駄目なのか?」

 菜々が理由知ってたらなぁ、って思いますけど知ってたならこんな事態にはなっていません。

「『そういうもの』で納得できるなら苦労しませんよ。もしかして私から逃げているんですか? いや、アイドルから逃げているんですか? 向き合うのが怖いのですか?」

 アイドルから逃げている。向き合う事から逃げている。今までのプロデューサーの行動を振り返るとそうとも言えます。

「……」

「あ、そういうことでしたか……」

「はい?」

「私はあなたにスカウトされてこの事務所に来ました。そこでやるべき事はアイドル活動であり、プロデューサーのプライベートを知るためではないのは承知しています。でも気づいたんです。プロデューサーの行動を理解してこそ私達はついて行けるのだと。私以外のアイドルも理由を知りたがっています。なるべく早く説明してあげて下さい。言いたい事は以上です、失礼します」

 ありすちゃんは去って行きました。元気になったとはとても思えません。こんなに失敗が続くと別の方法を試そうかと。あ、いつもの菜々なら『七変化(メタモルフォーゼ)』に頼らず普通に対話していたのかもしれません。きっと菜々は自分が信じられなくなっていたんです。自分の無力さから目を逸らして、プロデューサーさんの事を知らない癖にプロデューサーさんになって『理由は言わないけど心配するな』で不安を取り除こうなんて考えが甘いにもほどがありました。手段も結果も駄目駄目です。

「今は最悪です。ならばここからは良くなるしかありません!」

 忘れかけていたポジティブに火をつけます。ここでちょうどのあさんからメッセージが来ました。

「プロデューサーのドッペルゲンガーが出たと噂になっているわ」

「菜々の愚行のせいで……すぐに行って説明して謝ります」

「噂自体はそこまで深刻ではないわ。噂を聞きつけてアイドル達が集まり、そこに本物の方が出くわしたわ」

「それってプロデューサーさんも噂を聞きつけて的なですか?」

「そうよ。私のLINEには未読だから。そしてかなり緊迫している状況ね。早く広間に」

「すぐ行きます」

 

 ♥

 

 この状況といい最近の失敗といい菜々は空回りが多いです。

「プロデューサーさんはどうして答えてくれないんですかぁ」

 アイドルの全員とプロデューサーさんが偶然会い、もうきっぱり問いただそうという流れになったらしいです。

「本当に申し訳ないが答えられない」

「プロデューサーさんはまゆの能力を知っているはずですよねぇ。そして乃々ちゃんの首に赤いリボンが巻いてある意味、分かりますよねぇ」

「佐久間さん……」

 あ、佐久間さんそれは! 一人で悪役担おうなんて

「最近アイドルがプロデューサーさんの後を付けていたの

もまゆが人質をとっているからです。プロデューサーさんはまさか乃々ちゃんを見殺しになんかしませんよねぇ」

「ヒィッ」

 佐久間さんは乃々ちゃんの首に巻いてあるリボンを指でなぞります。

「佐久間さんっ、後をつけたのは…んぐっ」

 言い終える前に口を塞がれました。佐久間さんの左腕に巻かれているリボンが口に何重にも巻きついています。

「まゆが脅したからですよぉ。プロデューサーさんが白状しないから菜々さんも危なくなりましたねぇ」

「二人を開放するんだ」

「んぐぐぐぐ、ん~!」

「プロデューサーさんが話したらって何度も言いましたよねぇ。まゆもそろそろ限界なので」

「も、もりくぼは人質になんかなってないんですけど!」

 部屋が白い閃光に包まれた次の瞬間、菜々の口に巻かれていたリボンは外れていました。何が起こったのか確認すると分かりました。

「乃々……ちゃん」

 リボンの色が赤から薄黄緑に変わっていました。『木を隠すなら森の中(ハーミット・シェルター)』でリボンを反射する光を調節したのだと思われます。糸は赤くなければ操れないですからね。

「もりくぼは積極的にプロデューサーさんを尾行していました。そして勝手にプライベートを探っていました。プロデューサーさん……す……すいま……せんでした」

 調査組を結成した時、のあさんが放った言葉を思い出します。

「今から私達がする行為は目的が何であれ問題があるわ。皆それを理解した上で降りるなら降りても大丈夫よ」

 その時菜々は覚悟しました。自分が非難される身になろうとも尾行すると。悪者になろうと。受けるべき罰は受けると。

「菜々も積極的に尾行していました。プロデューサーさんが働く理由を知りたくて。本当にすいませんでしたっ」

「プロデューサー。全面的に協力した私にも責任があるわ。普段から能力管理を任されていた身でありながら、プロデューサーを裏切る行為をしてしまった。許しが得られなくても謝罪するわ」

「俺の所為で重荷を背負わせてしまった。その事は自分の責任であり、本当に申し訳なく思っている。でもこれを話したらプロデューサーを辞めないといけなくなる」

 プロデューサーのプライベートが分からず、ようやく面と向かって話す機会で直接訊いても答えてもらえず、もう成す術は無いように思われました。

「あ、あの、少し良いですか?」

 皆さんがありすちゃんに注目します。

「橘さん何かしら」

「具体的な事は分かりませんが、今までの情報で類推はできるかと思います。可能性の高い方を選択していったにすぎませんが」

「詳しく聞かせてください」

 これは気になります。もう本当にどうしようもないと思っていたので。

「まず過労のメリットですが、給料説と、アイドルと関わりたい説は否定できます。ですが後者について考える余地が残ってします。逆にアイドルと関わらない事がメリットだとしたら。私達のプロデューサーとの関わりの薄さが偶然ではないとしたら」

「それは忙しい故の副産物ではなかったということですか?」

「そうです。根拠はあります。遠井社長が数人雇おうとプロデューサーさんに打診した際断ったようですね。遠井社長から直接聞きました。もう一つ根拠があります。それはプロデューサー一人に対してアイドルの人数を増やしている、です」

「えぇっと、それはつまり」

 話について行けてるような行けていないような。

「この二つの根拠それぞれは一見根拠足りえないかもしれません。しかし、アイドルと関わらない事を目的だと仮定すると、プロデューサーを余計に雇われたら目的は破綻します。アイドルの人数が少ないと、それだけ一人と関わる余地が生まれるので、アイドルを増やします。これで二つの事実が繋がります。それぞれ他の可能性もあるかもしれませんけど」

「……」

 誰も言葉がでません。ありすちゃんは続けます。

「そして何故プロデューサーは私達と関わらないようにしているのか。それは過去にアイドルと何かあったのだと思われます。大まかに考えてみましょうか。もしアイドルとマイナスな関係になったのだとしたら。例えばトラウマになるほどの喧嘩。そうだったら現在までプロデューサーを続けているでしょうか。少なくともアイドルに対してマイナスイメージを抱くはずです。熱心に仕事できるとは思えません」

「プラスの可能性だったらどうなるんですか?」

「プラスの関係、いえ、プラス過ぎたからこそかもしれません。アイドルとプロデューサーが良い関係になりすぎて……これが真相だと思われます」

「なりすぎて?」

 ありすちゃんはそこから先を躊躇います。あ、もしかして……。プラスの関係だからこそ……。確かにこれは言いづらいです。

「交際に発展してス、スキャンダルが報じられたと思われます。私はこの可能性が高いとみます」

 信じたくはありません。でも菜々達と関わりを持とうとしない理由としては十分でした。恐らく同じ間違いを二度としない為の措置なのでしょう。

 

 ♥

 

 そこからの沈黙はなかなか破られませんでした。否定しない、それは肯定の沈黙かもしれません。

「まぁ、点数で言えば30点か」

 ありすちゃんは点数を聞いてあからさまに嫌な顔をします。学校でこんな悪い点取ったことないのにといった感じでしょうか。

「減点の理由を聞かせていただきます」

「スキャンダルにはなったが交際はしていない。その日アイドルのオーディションが良くできたからご褒美にカフェに行っただけだ。それでも、記者からしたら交際しているかのような写真が撮られるからな」

「そ、そのアイドルはスキャンダル後どうなったんですか?」

「引退したよ。俺は一人のアイドル人生を潰してしまったんだ。墓場まで持って行きたかったのはそれが大きい。こんな奴にプロデュースされたくないだろう」

 知りたくなかったという思いはあります。ただ、今は心の整理がつかなくて自分が何を考えるべきか分かりません。

「たとえアイドルとの関係が良かった故のスキャンダルでも、プロデューサーを辞めてしまう可能性はあります。私がプラスの関係だったと結論付けたのは、どちらがより続けていられるかを考えたからです。プロデューサーを続けなくてはいけない、でもアイドルとの接触は避けたい。そこまでしてプロデューサーを続ける理由は何ですか? 辞めて他の職に就く事は選択肢になかったんですか?」

「記事を調べられたら再就職は難しい、だから俺にはここしかない。むしろスキャンダルを起こしたのにも関わらず首を切らない事務所に恩を返したい。だから働いて働いて働きたかった。間違いを起こさないよう気をつけながら」

「…………」

「プロデューサーさん何やってるんですかっ」

 !? 急に大きな声がしたのでびっくりしました。声の主はちひろさんです。

「え、何故ここに」

「プロデューサーさんのドッペルゲンガーが出たという噂を聞いたので101ダイアリーに取り上げようと思って来たんです」

 へ、変な騒動起こしてしましました。

「ド、ドッペル?」

「そんな事よりこうしてアイドルに心配掛けるプロデューサーが何処にいるんですかっ。確かにあの事件は不幸でした。でもあなたのやり方は結局別の問題を生んだだけの自己満足ですっ」

 こんなに怒ったちひろさんを見たことありません。

「返す……言葉がありません」

「君の真意がようやく解ったよ」

「遠井社長……」

「プロデューサーを数人雇おうか打診した際、雇う代わりに浮いたお金でちひろ君の給料を上げてくれと頼んだのをよく覚えているよ。それだけではなかったとはね」

「!? 道理で事務員の割には給料が良いと思ったらプロデューサーさんからの持ち掛け……」

「ちひろ君には黙ってたんだ。それを知ったら君も辛いだろう」

 もしかして引退したアイドルって……。

「確かに辛いです。でもずっと引きずっているプロデューサーさんの方がもっと辛いです。今まで口にしませんでしたけど、週刊誌に撮られて引退してから社長に事務員として拾わ

れ、これはこれで幸せな日々を送れています。決して目指していた未来ではありませんでしたけど、それ以外の未来も捨てたものではないと今なら思えます」

「当時ではよくある行動が、それっぽく切り取られてああなってしまったのだ。私はさすがに同情して事務員として採用したのさ」

「あの時はちひろさんにも、ちひろさんのファンにも、プロダクションにもご迷惑をおかけしました」

「『今』も掛けているんじゃないですか。自己犠牲で償おうなんて考えが甘過ぎますっ」

「そ、その通りです」

「私の給料なんか上げなくていいのでアイドルの面倒をちゃんと看て下さい」

「承知しました……」

「やれやれ、もうこれでプロデューサーを雇わない理由は無くなったな。後、事務所のメンバーで旅行にでも行くかな。根良君はそこでこれまでの肉体的、精神的疲れを解消するんだ」

「社長分かりました」

 社長の一言で重く張り詰めた空気は消えました。しかし、

「あ、皆さん喜んでいるところ水を差して申し訳ないのですが」

「何だねありす君」

「橘です。プロデューサーはこれまで肉体的には事務所の栄養ドリンクの支給もあって、耐えられるかもしれません。でも精神的にはどう考えても……」

「気づく人は気づくでしょうね」

「高峯さん知っているんですか?」

「そうよ。プロデューサーを陰で長い間支えていた鷺沢さん、貴女がいたから」

 え、文香さん!? 

「ちょ、ちょっと話に着いていけませんが!」

「菜々さんの言う通り事情を知らなければ理解できませんね」

「橘さんもそう言っているので説明お願いします!」

 鷺沢さんとのあさんがアイコンタクトを取ります。そういえば二人って何か絡みとかありましたっけ。

「私から説明します。私は『幻魚物語(フィッシュストーリー)』、『記憶改変』の超能力を持っています。実はプロデューサーさんが精神的に潰れないよう最小限に改変をしていました。こういう力を持ちながら、人が積み重ねてきた記憶を変えるのは倫理的に問題があるのであまり使いたくありませんでしたので。しかしプロデューサーさんの異変を感じ、記憶を探り、私は改変を決意しました」

「私は鷺沢さんの能力の使用履歴を観て事態を察したわ。鷺沢さんがプロデューサーさんのどの記憶を覗いて、どう変化させたのをかを知った。その中にはプロデューサーの思考、つまり行動原理が含まれていたわ」

「えっ、のあさん実は真相を知っていたんですか!?」

「黙っていて悪かったわ。ただあの段階で事実を知るのはとても危険だったのよ」

 

 ♥高峯のあの回想

 

 それは偶然だった。鷺沢さんの能力は人の人生を大きく揺るがすことが可能故、頻繁に使用履歴を観ている。その中に『改変』を発見した。プロデューサーの記憶を定期的に、僅かに変化させている。時間帯は共通して深夜。仕事している記憶を帰宅している記憶に。何故彼女はその行為をしているのか。記憶を読んだだけの履歴、内容を鑑みて検証。事実確認完了。即刻LINEで本人に連絡した。

「鷺沢さん、率直に言うわ。プロデューサーへの記憶改変の危険性は認識しているかしら」

「やはりあなたには見抜かれていましたか。覚悟はしておりました。危険性に関しては十分理解しているつもりです。個人の自我同一性を破壊しかねません。しかし、あのままプロデューサーが続けていればいつか破綻します」

「そうね。ただ手段については考える余地があるわ」

「私のしている行為がプライバシーの侵害なのは承知しています。それでも今回の場合はさすがに見過ごせませんでした。一旦事情を知ってしまったら事務所に来るのが辛いのです」

「自分には記憶改変できないようね」

「そうです。プロデューサーの精神を保たせることは、アイドル達の活動を何とか回すことに繋がります。全体的に考えてもやむを得ない行為でした」

「確かに現在プロデューサーが前線から離脱したらアイドル活動は崩壊する」

「私、よくこんな事を考えます。悲しい記憶を持ち続け、憂鬱になっている人に対してその記憶を消せば救えますが、それは正しい行為なのか。どんな記憶でも糧になりえるのなら、消去は正しくないかもしれません。だからこそ最低限の改変で精神が正常を維持できるよう調節しています」

「そういうことね。私も人の能力を見抜くというプライバシー侵害を犯している以上鷺沢さんを責める資格はない。ただ自分の行為の意味を把握しているのか知りたかったのよ。行為の意味が分かっていれば最悪の間違いは生じないはず」

「私は私を律しているつもりですから。この件は他のアイドルに伝えるおつもりですか?」

「現段階では隠すわ。解決策が存在しないまま事実だけ知られても混乱するだけよ」

「分かりました」

「一つお願いがあるの」

「何でしょうか」

「恐らく異変はいつか誰かが気づくでしょう。そして解決策のないまま現状を知り、パニックが起こった場合、『問題に関わっている』部分の記憶を変えてその場を収めてくれないかしら」

「本人の了承は必要ですか?」

「必要ね。パニックまではいかないにしても、活動に支障が出るようであれば実行してもらうわ。勿論、解決策がないという前提の元」

「引受けましょう」

 

 ♥

 

「そうか……俺はもっと前から迷惑を掛けていたのか」

「のあさん……。これで当分力は使わなくて良さそうですね。改変した記憶は元に戻します。プロデューサーが今後積み上げる物語、素晴らしいモノになることを願っています」

 フィッシュストーリー、これは直訳するとホラ吹き話ですけど、『幻魚物語』があったからこそこれからの物語に繋がるのって感慨深いですね。

「正直トラウマはまだあるけど、少しずつアイドルと関わっていって、良い記憶を重ねていきたい。今はこの件に対する自責の念が強いからすぐには変われないけど、もう心配なんてさせないから」

 謎が一通り解けたので一件落着と見て良さそうですね! 皆さんお疲れ様でした!

「と、ところで良い空気を壊しそうで恐縮ですが」

「なんですか菜々さん」

「実は先程のドッペルゲンガー騒ぎは菜々の仕業です、すいませんでしたぁっ」

「はああああ!? 恥ずかしいにゃあああああああああ」

「えぇ……」

 みくちゃんは絶叫し、ありすちゃんは引いています。

「鷺沢さんっ、今すぐ菜々さんの記憶を消してくださいにゃっ!」

「後生ですからあああ~ごめんなさい~~」

 

 

 ♥

 

 一件落着とは言ったものの、少し気になる点がありました。

「佐久間さん少し良いですか?」

「何でしょうか菜々さん」

 二人きりになれる場所で話をします。

「どうして入ったばかりの佐久間さんがプロデューサーさんの異変に気づけたんですか?」

 今回の件、元々は佐久間さんの相談から始まりました。

「まゆ、事務所に入ってからプロデューサーと一緒に居られる時間が少なくて寂しかったんですよぉ」

 な、なるほど、これで解りました。菜々達はプロデューサーさんをよく知らないということもあって、恋愛対象者とし

て見ていませんでした。だから一緒にいられなくて当然で、問題意識も薄かったんです。でも佐久間さんの場合、プロデューサーさんを恋愛対象で見たため、問題に即気づけたんです。

「そ、そうだったんですね。でもプロデューサーへの菜々達の行動の持つ悪性を背負おうとしたのはどうしてですか? プロデューサーさんへのアピールにはマイナスになる気がしますが」

「それはですね……。まゆがあんな行動を取ったのはプロデューサーさんが原因なので、『責任』を取ってもらう。そういう算段でした」

「OH!」

 この場合の『責任』は何となく想像できます。恐らく結婚とかでしょうか。ちょっとぞくってしました。

「でもまゆは実力で振り向かせますから」

「ど、どうしてそんなにプロデューサーさんの事が好きなんですか?」

「まゆ、プロデューサーさんに出会った時こう言われたんです。突然すいません、アイドルしませ……って読者モデルの佐久間まゆさん!? まゆ、その時既に事務所に所属していたんですけど、プロデューサーさんの悔しがる姿を見てこの人についていきたいって思ったんです。自分をこんなにも必要としてくれる方がいる、その事実がまゆを動かします」

 プロデューサーさんが表情を変えるなんてよっぽどのことですよ!

「だから読者モデルを辞めてまで」

「はい。まゆを必要とする人に付いていきます。まゆはそんなプロデューサーが好きですけど、ライバル増えそうですね」

「そ、そうですね!」

 この101プロダクション、今までもこれからも戦場のようです。

 

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