ヴィランが歩く   作:ヌラヌラ

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1話〜ヴィランの誕生〜

 

「クソッタレな俺の人生さん、さようならーってか……」

 

 見渡す限り瓦礫の山、遠くでは至る所で煙が上がり火災が発生していてつい数日までは街だったと言われても誰も信じないであろう。

 16.7程度の年齢の少年は数十体はいる人の形を模した鋼鉄の塊に銃口を向けられながら吐き捨てる様に言葉を発して、ポケットから煙草を取り出して残っていた最後の一本を口にして火を付ける。

 世界が終わりを告げる前から喫煙はしていたが、こんな法も何もあったもんじゃないなら思い切り吸えるなどと此の期に及んで呑気な事を考える自分が可笑しくなって笑みをこぼす。

 

 自分を取り囲んでいる機械人形共はどこから来たのか、世の通信は絶たれて目の前の惨状は世界でどの規模で行われているのか、思いつくことは尽きなかった。

 しかし自分の住処である養護施設は焼き払われ、目の前で皆が殺され、数日だけだが長かった寿命が尽きる今となってはどうでもいい。

 

 もっと幼かった時はこういった空想をしていたが実際に起こると自分は何と無力なのだと達観し、煙を吸い込んだのと機械人形の銃が発射されたのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が気怠さを覚えて意識が微睡み、開けたく無いと思いつつも本能が瞼を開ける。

 

「ここは……俺は死んだはずじゃ……」

 

 ボヤけた視界には木製の天井、体を起こして見回すと自分が寝ているベッドに火のついた蝋燭と燭台、そして木製の椅子に座り木製のテーブルに寄り掛かって眠っている薄い黄色い髪色の15歳程に見える美しい少女がいた。

 しかし少女の服装はどこか古めかしいまるで中世の庶民の服を思わせた。

 

 普段の癖で有りもしないのにポケットの中の煙草を取り出そうとすると一枚の紙が入っている事に気が付き、握りしめて引き抜いて手のひらで広げる。

 

「賽は……投げられた……お次の人生に幸福があらん事を……だとっ……巫山戯んなっ!!」

 

 少年は怒鳴り声をあげて力任せに紙を壁に投げつける。順応性が高いのか、文字を読んだだけで男は何が起こったのかなんとなく理解はできたが納得はしない。いや、出来なかった。

 

「ロクなもんじゃなかったからあんな人生に未練なんて無いが……訳もわからずッ……次どうぞだとッ……俺はコンベアで運ばれる家畜の肉か何かだとでも言うのかッ!!」

 

 心から叫ぶと本の少しだけ気が紛れ息を切らせてテーブルの方を見ると、眠っていた筈の少女が怯えた様子で此方を見ていた。

 その視線で男は我に返り、一つ大きな息を吐くと少女に向き合った。

 

「あー……お前が俺をここまで運んだのか?」

 

「えっと……はい……重くて大変……でした……でも……外に居たら……死んじゃうって思って……」

 

「そいつは悪かった、ここは一体どこなんだ?お前の他にこの家には?」

 

 少年は布団から出てベッドから降りて少女の反対側の椅子に腰をかけた。

 少女は怯えたまま少年を警戒するも、自分は何も出来ないと言わんばかりに体を強張らせて質問に答える。

 

「……此処に来た事とか……覚えて無いん……ですか?

……此処は……帝都の……ずっと西の地……でも……もう私くらいしか居ない……」

 

「帝都……お前の格好……昔の日本の様には見えないからローマ……しかしそれなら帝都って言い方はしない筈……まあ其処は後回しだ、此処にお前しか居ないって何かあったのか?」

 

 少年の問いに終始俯いていた少女の瞳から涙が零れ落ちた。

 

「グスっ……帝国の兵隊が来て……みんな……死んじゃった……ここは……隠れ家……でも……辿り着けたの……私だけ……っ」

 

 自分が一度、それもつい先ほど死んだばかりなせいか、同情もする事は無かった。しかし少女を見て何かが胸の奥に騒つく感覚を覚える。

 

「そいつは気の毒だったな。

だがなんで俺を助けたんだ?

話相手でも欲しかったのか?

俺が帝国の兵隊とやらだったらどうするんだ?」

 

 少女を睨む様に見据えて男は話すが、少女は俯いたまま震えている。

 自分も意味がわからない状況で混乱していたとはいえ、強く言い過ぎたと思った少年が頭を冷やす為に外へ出ようと立ち上がると、扉の方から誰かが近づく音が耳に入る。

 

「オイっ、テーブルの下に隠れてろ」

 

 少年が少女に指示すると同時に勢いよくドアが開かれて白い服の二人の男が部屋へと入って来た。一人は長剣、もう一人は銃を装備している。

 部屋への侵入者の姿を見た少女はより一層身体をガタガタと震わせて少年の後ろへと反射的に隠れた。

 

(何が次の人生に幸福だ……いきなり危ないじゃねえかっ!)

 

 心の中で毒を吐きつつも少年は少女を庇うように前へと出る。

 

「……お前達は何者だ?」

 

 少年は無駄だと分かりながらもまず対話の選択肢を取る。喧嘩は何度もしたが本格的な武術の類いの経験も無く、丸腰の自分が戦闘に入ったところで待ち受けるのは無惨な死だと理解しているからだ。

 

「貴様等、蛮族を始末する正義だ」

 

 冷たくゴミを見るような目で淡々と銃を持った兵士が吐き捨てるように言い、渇いた音と共に銃から弾丸が少年に向かって発射される。

 そして無情にも弾丸は少年の腹部に命中し、風穴を開ける。

 傷口の焼けるような痛みに少年は耐えきれず膝をつくが男達に背を向けて少女に覆い被さるようにそのまま倒れ込んだ。

 

「お前は……俺を助けた……借りは返す……」

 

 少年は途切れ途切れで強がりを言うが心中では早くも二度目の死と世界への怨嗟を募らせて憤る。

 庇われている少女の震えが少年にも伝わり、鼻をすする音で少女がついに泣き出してしまう。

 

「ハハっ命中したぜ!オイ、今度はお前が殺れよ」

 

「ああ、蛮族共は我ら帝国が殺してやらねばいかんからな、あとはこの2人だけだ。早い所始末しよう」

 

 剣を携えた男はゆっくりと少年と少女に近付き、剣先を向けると、怯えた少女の反応を楽しむように

 

(何が蛮族だ……何が正義だ……結局どんな人生を歩もうが……俺は無駄死にをして……命を軽んじるクソッタレな野郎共がのさばる……納得……できるかよっ……力が……コイツラヲコロセルチカラガアレバ!!)

 

 痛みに意識を刈り取られそうになりながらも、怒りが頂点に達したその瞬間、少年の身体に異変が起きる。

 火で炙られているような痛みが徐々に柔らぎ、身体を動かせる程度にまでなると同時に、八重歯と爪が伸びて鋼鉄を思わせる銀色の光沢を放った。

 

「フゥっ……フゥっ…………フっっ!!」

 

 少年は荒れていた呼吸を無理やり整えて止めると跳ね上がる。そして伸びた爪を剣を持つ男へと突き刺し、力任せに外側へと引き裂くと男の身体はいとも簡単に真っ二つになる。

 

「なっ……なんだお前……ばっ……化け物ぉぉ!!」

 

 銃を持った男が少年に向かって発砲し、数発の弾丸が身体に撃ち込まれるが少年は怯まない。まるで痛みに慣れたと言わんばかりにそのまま前進して爪を男へと振り下ろす。

 男は銃で受け止めようとするが、少年の爪は銃を切り裂き勢いが劣える事無く男の頭へと突き刺さり、アッサリとその命を奪った。

 

「っっ……うおおおおおおおっ!!」

 

 少年が獣の雄叫びを思い出させる咆哮をあげると身体に撃ち込まれた弾丸が体内から摘出され、瞬時に傷口すらも塞がり、完治したと同時に爪と牙のようになっていた歯も元の大きさに戻った。

 自分の身体の変化、そして普通なら出来ない動きに少年は戸惑うも、その身体の変化には見覚えがある。それは架空の存在でしかないが、伸びて銃と男を容易く切り裂く金属の爪と、服には血がベットリと残っているものの銃で撃たれたはずの身体がもう何事も無かったかのように完治している事を省みるとそうなのだとしか考えられない。

 

「……なぜセイバートゥースの能力が俺に?」

 

 ポツリと呟いた少年は視界の端に先ほど丸めて投げ捨てたメモ用紙が目に入ったので改めて拾い広げてみる。すると先ほどは無かった文字が追加されている。

 

「君にこの能力を与える……悪役の魂(ヴィランズ・ソウル)……ふふっ……ふはははは!

誰でどんな奴だか知らないが、随分と気前の良いヤツがいるもんだな」

 

「あ……あの……」

 

 声のした方へと目を向けると、結果的に貸し借りの無くなった少女が怯えた様子で少年の方を眺めていた。

 

「これで恩は返した、俺は帝都とやらへと行く事にするがお前はどうする?」

 

「私は……私は…………分からないよっ!

みんな……死んじゃって……一人ぼっちになって……人を助けたと思ったら……兵隊が来て助けた人は撃たれて……でも生きてて……兵隊を殺して……もう分からないっ!!」

 

 初対面の時に丁寧に敬語を使って話していた少女だったが、今は泣き、息を切らせて途切れ途切れになりながらも感情の全てを少年に吐き出した。

 少年は何も言わずに只々泣き続ける少女を見続けて、境遇が同じせいか少女に自分の姿を映していた。

 少年は頭を掻くと座り込んでいる少女に近付いてしゃがみ、手を握り少女と自分の額を合わせる。

 

「……俺だって何も分からねぇでいる。ここがどこなのか、なんでこんな事が出来たのかだってな。

だがな、俺もお前と同じで知り合いみんな死んじまって1人になった結果此処にいた。

何言ってるかも分かんねえだろうが少なくとも死のうとだけは思わなかった。お前に言いたいのはそれだけだ」

 

 少女から身体を離して少年は立ち上がり扉まで歩くと開いて外に出ようとした所で再び少女の方を向く。

 

「1時間だ、1時間経ったら俺は帝都へ向かう。着いて来たいなら連れてってやる。此処に残りたいなら残れ。

準備もあるだろう、1時間後もう一度此処に寄るから着いて来たいならそれまでに外に出ていろ。1時間経過したら残りたいものだと解釈して俺は1人で行くからな」

 

 無自覚だが心の片隅では少女がついて来る事を期待して少年は隠れ家の外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女を待つ1時間の間に少年は手に入れた能力の解析をしていた。

 そして粗方試し終えるとある程度の事が分かった。

 まず能力の指すヴィランの範囲がマーベルコミックのヴィランである事。

 能力とは特殊な能力のみならず、体術や射撃の腕前などの技能も含まれる事。

 能力を行使している最中は身体の一部、または服装が元のキャラクターを思わせるように変わり、キャラクターによっては銃や剣などの装備が増えること。

 科学の力を駆使して戦うヴィランの能力を使った際は自分で架空の理論を理解して無くても使える事。

 能力を使うにはキャラクターの名前か異名を口に出して強く念じなければ使えない事。

 最後にそのコミックの世界の最上位の存在、コズミック・ビーイングと呼ばれるヴィランの力は一切使えない事。それでも磁界王マグニートー、Dr.ドゥームと言った最上位の存在には劣るがとても強力なヴィランの能力が使えるので然程問題では無かった。

 

「今わかるのはこれくらいか、つっても可笑しなもんだな。経験なんて無いのに能力使ってる間は撃てば百発百中、剣の斬り方も身体が覚えてるなんてな。

さて、そろそろ1時間か……あの女はどうするのか……」

 

 少し離れた場所で色々試していたため少年は適当なヴィランの能力で空を飛んで隠れ家へと戻る。

 そこに少女の姿は無かった。

 少年はそのまま飛んで立ち去ろうとしたが、心の中に何かが引っかかる。頭を捻り少し考えて少年は頭を掻いて扉の前に降り立つ。

 

「ふん、よくよく考えたら帝都とやらがどっちの方かも分からんな。それくらい聞いてから行くか」

 

 扉を開けて中に入るが少女の姿は無く、無残に転がる自分が手を下した二つの死体が転がっている。思えば、こんな鼻と口を押さえつけたくなる異臭を放つ空間に居るはずも無いと思い、少年は能力を行使する。

 

「チェンジ、ホワイトクィーン」

 

 少年の黒い髪が長いブロンドに変色する。

 ホワイトクィーン、作中でも有数の強力なテレパシー能力を持つヴィランだったが現在ではヒーロー側の人間。しかし少年の能力はヴィランである時期がある人物ならば現在はヒーローでもその能力を得る事が出来る。

 少年は顳顬に指を当てて意識を集中させる。森林などで小鳥の囀りを聴くように人間の放つ心の声や波長を拾おうとするが少年には何も聞こえず、静寂のみが辺りを包む。

 おかしい。

 人間の中で五指に入ると言われているテレパス能力なら広い範囲が探れるはずであるが、少女の心が放つ波長は届かなかった。

 

「……まさかっ!」

 

 ふと床に目を向けると、兵隊の1人が持っていた剣が何処にも無い。死体を蹴り退かすもその下にある訳でもない。

 少年は能力を解除して外へと飛び出して走り出す。

 先ほど空を飛んでいた時に近くに文字通りの死体の山が有るのを見かけた。恐らく帝国の人間が殺した少女の身内や周りの人間の成れの果てなのだろう。

 焦燥感に駆られながら少年はその場所へと走る。

 そしてその場所へと辿り着いた時、少年は足から力が抜けてしまいその場に膝を着いた。

 

「…………クソっ!」

 

 少年は拳を握りしめて何度も地面を殴りつけた。やがて声をあげて叫びながら、手の皮が剥けても暫くその行為を止めることはなかった。

 少年は見てしまった。

 死体の山の麓の骸に寄りかかり、腹部に剣が突き刺さり、血を垂らして瞼を閉じている少女の姿を。

 どれ程の時間が流れたのか分からないが、少年が少し落ち着きを取り戻し、少女の手に一枚の紙が握られている事に気が付く。

 冷たく硬直している少女の手を開いて少年は紙を取った。

 紙にはこう書かれていた。

 

 名前を知らない貴方へ

 貴方が兵士から私を助けてくれて嬉しかったです。でも、憎みもしました。貴方が兵士を止めた事で私がみんなの所へは行けなくなったから。

 それでも貴方が私の手に触れてかけてくれた言葉はとても暖かかったです。貴方は誘ってくれましたが私は強くない。1人で行く勇気が無い。みんなと同じ所へ行きたい。だから貴方と一緒には行けません。

 でも変かもしれませんが、貴方からもらった人の温もりで私はみんなの所へ行く事が寂しくなくなりました。ありがとう、そしてさようなら。

 

 文書の最後には名前が書かれていたのであろうが、彼女の血でそれを読み上げる事は不可能だった。

 

「ハハっ……なんでヴィランの能力なのか……ヒーローじゃないのか分かったよ……力だけもらい調子に乗って何も成せないからか……。

……チェンジ、磁界王」

 

 自嘲気味に笑う少年の服装が血濡れの服から同じように赤い鎧、そしてヘルメットに姿を変える。世界最強のミュータントの1人、磁界王マグニートーの物へと。

 そして磁界を操作して身体を上空へと浮かべると、地面を操作して地殻変動を起こし地面を隆起させてある事をする。

 

「俺の過去は前の世界で全て死んだ……名前が要るな……この世界で生きる俺の名前……そうだな……救えない奴(ノーセイヴァー)ってとこか……。

……俺は……俺は生きるぞ……たとえ1人でもだ……」

 

 誰に聞こえる訳でも無いが1人呟き、この場を一刻も早く離れたかったため少年は方向も分からず1人でこの場を後にした。

 背後にあった死体の山は無くなり、大きな土で固められた十字架が聳え立っていた。

 

 今日、この世界でたった1人の異能の力持ったヴィランが誕生した。

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