兵庫戦記   作:兵庫県民過激派

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兵庫ローカルネタが多いです。筆者阪神民のため必然的にそちらのネタが多くなります。ご了承ください。あと「兵庫戦記」は「幼女戦記」を意識したネーミングであることをここに白状します。


あの、そろそろ喧嘩やめません?

主権者教育と平和教育を一緒くたにやってしまおうという『戦争学大会』が定着した日本。戦争学部、あるいは戦争学が選択科目として存在する高等学校は、都道府県ごとに構成された生徒主体の『政府』を構成し、そして実際に武器を片手に戦争をするのだ。

 

 戦争に使用される兵器は安全なものだが、『戦争』そして全国制覇にかける高校生たちの思いは危険なまでに暑い。

 

 それはここ、兵庫県においても同じはずだった、のだが……。

 

「で、どーすんねん! 全国どこ探しても開戦前に分裂した政府なんか聞いたこと無いで!」

 

 早口でまくしたてるのは兵庫県立西宮女子高校戦争学部部員で、臨時大統領補佐官の尼賀咲だ。

 

「知らんわ! うちかて初耳やわ!」

 

 咲につきかかるのは同じく部員兼臨時大統領書記官の西野みや。

 

「まあまあ落ち着いてーな。えべっさんせんべい食べる? 母さんがこうてきてんけど」

 

「「あんたのこと話てんねんでっ!」」

 

 二人の総ツッコミを受けたのは西女戦争学部部長、千藤佳乃。またの名を、兵庫臨時政府臨時大統領。

 

 彼女のながったらしい肩書こそ、今年度全国戦争学大会に置いて兵庫県が陥った泥沼を現しているのだった。

 

――――――

 

 戦争学大会に置いて、一都道府県につき一つの政府が置かれる。そして都道府県ごとの人口や経済力が政府や軍の力に反映されるのだ。県内総生産に大きな格差があることもあるが、それを克服する施策を考えるのも戦争学教育の一環なのである。

 

 ここ兵庫県においても、兵庫政府が組織され、独自の憲法まで制定。元々500万の人口と全国7位のGDP(余談だがニュージーランドよりも大きい)を誇る兵庫は戦争学大会でも優勝候補になってもよい実力を備えていた。

 

 そう、「なってもいい実力」である。実際はなんていない。むしろ程遠い。

 

 原因は「兵庫県」が持つ歴史的な経緯だ。

 

 標語は元々、摂津、淡路、丹波、但馬、播磨という歴史も風土も方言すらも違う5つの旧国が「神戸港発展」という明治政府の方針によってより集められただけの県であり、県民としての一体感もなけりゃそもそも同じ兵庫県民という意識すら乏しい。

 

 この県民性? は戦争学にもモロに反映してしまい、兵庫政府は5つの地域により内輪もめが絶えなかった。

 

 内輪もめが火を噴いたのは昨年1月。12月に選挙で選ばれた阪神地区出身の新大統領が播磨出身の過激派によって暗殺されたのだ。

 

 戦争学大会で言うところの『死亡』は、運営委員会の認可を受けた武器によってSSDという安全装置が反応したことを言い、一か月たてば復活できる。

 

 しかし大統領不在という異例な事態に対応するため、一時的に政府機能を担う臨時政府が発足した。

 

 この臨時政府というのが曲者だったのだ。臨時政府を構成したのが、播磨出身者であり、政府構成者もほとんどが播磨地方の人間によって占められていた。

 

 阪神地方はこれに反発し、この臨時政府(通称播磨臨時政府)は法的に無効であると宣言。独自の臨時政府を組織した。(こっちは阪神臨時政府)

 

 こうなれば、他の地域も黙ってはいない。地域ナショナリズムが爆発した結果、各地方に臨時政府が乱立。兵庫政府は事実上解体され、新大統領復帰後も元には戻らなかった。

 

 こうして年度が明け4月。兵庫は分裂状態のまま、4月29日の開戦を迎えようとしていた。

 

――――――

 

「どないすんねん! このままやったらいつも通り大阪にやられるだけやで! 何年このパターン繰り返しとんねん! 新喜劇ちゃんねんで!?」

 

 咲は激しく炎を噴き上げる。

 

「そうはいってもねぇ。統一政府樹立交渉はいっつもご破算。どこも半分あきらめとるで?」

 

 みやはため息とともにパイプ椅子に倒れ込んだ。そしてのん気にせんべいを頬張る千藤佳乃を見る。

 

「なーんで佳乃はこんな面倒な役割引き受けたんよ」

 

「いや、なんか流れで……」

 

 阪神地区兵庫臨時政府臨時大統領が突然の辞意を示したのは各臨時政府との交渉が内戦ぼっ発寸前までもつれ込んだ4月の初旬だ。

 

 噂では対大阪を見据えて早期の統一政府樹立を望む兵庫陸軍阪神軍官区司令部が暗躍したとも言われている。最もこの噂は、司令の真矢真紀将軍により公式には否定されているが。

 

 ともあれ対播磨強硬派だった前臨時大統領の辞任によって、阪神地方では穏健派代表を選出し、早期にこの混乱を収めるべきだという意見が出た。

 

 結局この論調は政府内で支配的となり、2年生で穏健派であった千藤佳乃に白羽の矢が立ったのだ。

 

 佳乃は対抗馬のほとんどいない選挙に勝利し、(臨時政府の選挙、というのも妙な話だが、全県下で選挙が行われない限り臨時政府のままなのだ)臨時大統領に就任した。

 

 現在行われているのは、千藤臨時政権の閣僚会議である。

 

「えーっと、とにかく会議を再開しましょう」

 

 なんとなく中だるみしつつあった会議を、佳乃はパチン、という手拍子とともに再開させた。もっともこの空気を作ったのはほかならぬ佳乃自身である。

 

 だが誰もそのことには触れず、陸軍の軍服を着た一人の少女がそっと手を上げた。

 

「どうぞ、真矢臨時陸軍大臣兼参謀総長兼教育総監」

 

「発言の許可感謝する、閣下。閣僚会議の場では陸相の呼称のみで結構です」

 

 真矢真紀は軽く礼をすると立ち上がった。

 

「現在阪神政府の隷下にある部隊は陸軍2個歩兵連隊と一個砲兵大隊。対して大阪は二個師団を動員出来る実力を持っている。開戦となれば、敵は領有権問題のある伊丹空港から攻めてくるのは必須。手持ちの軍勢だけでは防衛はほぼ不可能だ」

 

「そんなことは言われなくてもわかっとるわ!」

 

 小林一子臨時交通大臣兼商工大臣からのヤジが飛ぶ。彼女は伊丹空港を管轄する関係上、この伊丹空港呼称・領有問題に対しては軍以上に精通しているのだ。

 

 小林交通相は続ける。

 

「播磨軍管区隷下の第二師団と、丹波、但馬軍管区をかき集めて、うちと淡路の兵数合わせたら3個師団編成できる。そうなったら大阪なんぞ敵やないって話やろ。もう耳にタコができるぐらい聞いたわ! このタコでタコパ出来んで!?」

 

「耳にできるタコとたこ焼きに使うタコは違うぞ、小林交通大臣」

 

「わかっとるわそんなもん! 冗談の通じへん奴やな!」

 

「まぁまぁ、真矢ちゃんがバカ真面目なのはいつものことでしょ?」

 

 険悪な雰囲気の二人に佳乃が割って入った。

 

「いやあれは普通にアホやで?」

 

 今だ食い下がる、というか若干呆れているように見える一子。

 

「とにかく、兵庫統一は臨時政府の総意ってことには変わりはないんやから、ま、押さえてね?」

 

「だいとーりょーっっ!!!」

 

 閣議室のドアが勢いよく開かれた。

 

 束ねられた書類を持って駆け込んできたのは、臨時大蔵大臣を務める切間留美である。

 

「おー、きり丸ちゃん。お疲れ~」

 

「切間留美っす! どっかのどケチ忍たまと違います!」

 

 佳乃がニコニコと出迎えるが、切間臨時蔵相は恐ろしいほどの剣幕でその書類を佳乃の前に叩きつけた。

 

 

「やばいですよ大統領! 月間物価上昇率がついに60パーセントを超えました! 完全にハイパーインフレーションっす!」

 

 佳乃は大げさに顔をゆがませる。

 

「マジで? デノミしたばっかじゃん」

 

「もう意味ないっすよっ!」

 

 インフレとは、物の価値が上がりお金の価値が下がることだ。は? と思われる方もいるだろうが。ざっくり行っちゃえば物価が上がるのである。

 

 この物価の上がりようがとんでもないことになった時、これをハイパーインフレーション、とかハイパーインフレ、という。パン一個買うのに札束を積まなければならない、という話を聞いたごとがあるだろう。これがハイパーインフレだ。

 

 ハイパーインフレの原因は、一言で言ってしまうと政府の信用がなくなることである。

 

 お金、というより通貨がなぜ通貨としての価値を持つのか、なぜおっさんの似顔絵が描かれているだけの紙が1万円の価値があるのか。それはつまり、日本政府が「このおっさんの似顔絵の紙は1万円の価値があります」と言っているからである。ただそれだけの、いわば魔法のようなものなのだ。

 

 政府の信用がなくなった時、つまり国民が「は、そんなの嘘じゃねえの?」と思った瞬間、魔法は解ける。おっさんの似顔絵はおっさんの似顔絵としての価値しかなくなってしまうのだ。

 

 戦争学では経済も重要な要素であり、各政府は独自の貨幣も発行している。

 

 今回、兵庫政府が発行していた通貨「ハバタン」の価値が大暴落したのだ。

 

 その原因はいたって簡単、兵庫政府なんてものがもはや存在しないからである。

 

 大統領暗殺事件当初は、すぐに混乱が収まるだろうと考えられていた。しかし臨時政府が乱立し、そのうえ統合される気配がないとなれば、市場は兵庫政府再興は不可能とみる。

 

 よって「ハバタン」は通貨としての価値を失い、ただの紙切れと化してしまったのだ。

 

 それでもあきらめ悪く、阪神臨時政府は「ハバタン」を公式通貨として使用していた。前臨時大統領の時代には通貨単位切り下げ、「デノミネーション」を行って延命を図ったぐらいだ。

 

 しかし分裂はほぼ固定化。加えて播磨臨時政府が独自通貨「シロマル」を発行し始めた。

 

 兵庫5政府の中で最も力を持つ播磨のこの行動で、阪神、ひいては「ハバタン」は息の根を止められた。

 

 そして今週運営委員会が発表した経済シュミレーションの結果、100日本円=1兆5千億ハバタンというアホみたいな数字をたたきだしたのである。

 

 切間蔵相はこのシュミレーションの速報値を手に入れるため会議を中座しており、届いた瞬間ダッシュで駆けこんできたのだった。

 

「もはや『ハバタン』に通貨価値はありません。うちは商業と工業で成り立ってる国。早く何とかしなければ取り返しがつかなくなります!」

 

 広田は息巻いて佳乃に詰め寄る。

 

「もはや『ハバタン』を放棄すべきです」

 

「それはならんっ!」

 

 真矢陸相がいきり立った。

 

「『ハバタン』を使用することは我々が兵庫政府の正当な後継政府であることの証だ! それを放棄するなど言語道断であるっ!!」

 

 ハイパーインフレを解消する方法はいくつかある。そのうちの一つが、自国通貨の使用を放棄して、他国の通貨に切り替えることだ。

 

 現にハイパーインフレに襲われたジンバブエでは、独自通貨「ジンバブエドル」の使用を放棄。外国通貨により公務員の給与支払いなどを始めた。

 

 丹波や但馬などはこの方法を使ってとっくの昔にこの通貨危機を克服している。

 

 だが自国通貨の破棄という手段が情緒的に受け入れにくいことも確かだ。特に陸軍は、阪神臨時政府の正当性を訴えるために「ハバタン」放棄に強硬に反対していた。

 

「しかしですねぇ、『ハバタン』はもはや紙くずっ! お金がっ! お銭が紙くずになっちゃったんすよっ!? 何の手も打たなけりゃこのまま内部崩壊待ったなしですっ!」

 

「もう一度デノミを行えばいい!」

 

 デノミネーション、日本語では通貨単位切り下げ。つまり、今まで『十万円』と言っていた額を、「今日から10円ね」といってインフレを抑えることだ。

 

 しかし切間蔵相はその提案をたたき捨てる。

 

「紙くずはもはや紙くずとしての価値しかないんっすよっ!」

 

 そして再び佳乃に向きなおった。

 

「千藤大統領! 何とか……、何とかしてくださいっ!」

 

 佳乃は切間の勢いに若干後ろに仰け反りながら、それでも小声でつぶやいた。

 

「……案はね、あるんだよ、一応」

 

「本当っすかっ!?」

 

「でもねぇ、ちょーっと色々根回しとかあるからさぁ。後でこっそり教えるね?」

 

「お、お願いします大統領っ!」

 

 そんな様子を、真矢陸相は見逃さない。

 

「くれぐれも、兵庫統一という当面の重大目標をお忘れなきよう、千藤臨時大統領」

 

「あー、了解了解」

 

 佳乃はへらへらと笑って、真矢の厳しい視線を交わしたのだった。

 

 




兵庫臨時政府(阪神地方)メンバー

臨時大統領 千藤佳乃(西宮女子高校)

臨時内務大臣 鶴屋汐海(県立北高校)

臨時陸軍大臣 真矢真紀(宝塚女学院高校)

臨時海軍大臣 共栄円美「ともざかえ まるみ」(神戸女子海洋学校)

臨時大蔵大臣 切間留美(仁術学園高校)

臨時保健大臣 猪名寺蘭(同)

臨時食糧大臣 福富真(同)

臨時教育大臣 谷崎詢(県立芦屋川高校)

臨時交通大臣兼商工大臣 小林一子(近畿学園大学付属高校)

臨時外務大臣 得瀬レミ(ワッフル学院高校)

大統領補佐官 尼賀咲(西宮女子)

大統領書記官 西野みや(西宮女子)

 なお、このほかにも多数の役職が存在するがその多くが空席、兼職となっている。
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