翌日。
まだ、春の初めか、冬の寒さが抜けない朝。
広い、広い草原にて、二つの集団が向かいあってた。
片方は、緑で統一された、左胸にその集団の学校の校章がついたパンツァージャケットを着た女子高生の集団。
もう片方は、全員学校の制服を着用しており、その全てが男子だという集団だ。
その集団は、もの凄いブーイングを受けていたが。
『負けちまえー!』
『面汚しー!』
『戦車に乗って女かお前らー!』
『やっちゃえカッシーノ!』
『そんなむさくるしい奴らなんて潰しちゃえ!』
「皆酷いなぁ・・・」
優希はそれに苦笑するしかなかった。
「それに、皆緊張しているからな」
司のその言葉通り、皆、初めての試合という事で程よく緊張している。ただ、流石にこのブーイングの嵐は答えているようだ。
ここにいるのは、クマさんチーム、サメさんチーム、タカさんチーム、オオカミさんチーム、ヘビさんチームの五チームのみ。
他のイヌさんチームとヤマネコさんチームは、応援席に言っている。
何故、この五チームだけなのか。その理由は今回執り行われる試合のルールに関係している。
ルールの内容は至ってシンプル。
五対五の殲滅戦だ。
内容は、互いに五両づつ、戦車を用意し、敵の戦車を先に全滅させれば勝ち、逆に全滅してしまえば負け。といった感じだ。
簡単に言えば、先に相手を皆殺しにしてしまえば勝ちという訳だ。
わーお、ばいおれんすー。
「ふざけてる場合かナレーター」
「誰に言ってるの総司君」
そうこうしている内に、審判役の亜美他数名が二つのチームの間に立つ。
「両チームの隊長と副隊長は前へ」
亜美がそう言う。
カッシーノからはジュアンとこげ茶色のセミロングの少女が出てくる。
それに対して、バルカンからは、いほと長門が出てくる。
「これより、カッシーノ女子学園と、バルカン工業高校の試合を取り行います。ルールは五対五の殲滅戦。さきに相手チームを全滅させたチームの勝利とします。正々堂々と戦うように」
そして、礼。
「礼!」
『よろしくお願いします!』
威勢の良い挨拶が響く。
「徹底的に叩き潰してあげるわ」
「そのまま返す」
相手からの挑発に対し、冷静に受け流す。
「そろそろだな」
「ええ」
長門の言葉に相槌を打ついほ。
いほ達は、自分たちのチームの前に立つ。
「さて、初めての試合で緊張していると思う。だが相手はそこまで有名でもなければ強いという訳じゃない。混乱せず、かつ冷静にもの事を判断していけば、勝てない事は無い。それと一つ断っておく。俺が求めるのは『必勝』の戦車道だ。勝つ為ならなんでもする。もしかしたら、お前らには知らずに囮にされているかもしれない。そこだけは覚悟しておいてくれ」
いほは、彼らに向かって、そう宣言する。
それでざわめくチームの一同。
だが、そのざわめきは一瞬だった。
「勝つ為です!」
「俺たちもとから勝つ気でこれやってるんだからな」
「好きなように扱ってくれてかまわんぞ!」
「あんたの采配に任せる」
一同、同意の意志。
それは、いほを信頼しての事だった。
「お前ら・・・・」
「やろうよ、いほ君」
優希が、そう声をかける。
「俺たちは、もともとブーイングを受ける覚悟でこれやってんだ。どんとこい!」
「俺はこの二人が心配だからな」
「俺はどうだっていいがな。ただなんとなく面白いと思っただけだ」
東馬、司、総司も、答えは同じの様だ。
それに、いほは安心したように微笑み、そして顔をあげる。
「よし!それじゃあお前ら!全員戦車に乗れ!」
『応!』
威勢の良い声が、青空に響く。
『それでは、これより試合を開始します!』
試合開始のブザー。
「
いほの声に応えるように、五両の戦車が走り出す。
一方でこちらは観客席。そこには余ったイヌさんチームとヤマネコさんチームの面々。
「う~」
「そんなに不満なのかい?勇也君?」
「当たり前だよ~!ああ、俺も試合に参加したいなぁぁぁああ」
「そないな事言っても仕方あらへんやろ?これも隊長はんの判断や。少しは大人しくしとれ」
「うう~」
唸り声をあげる勇也。
「仕方・・・ない・・・今回・・・五対・・・五・・・」
「それも殲滅戦なんだよね」
信次の言葉に同意する啓斗。
「チッ、図ったな」
「そんな事言わない」
「そうだぞ!これも隊長の正しい采配だ!我々はそれに従っていればいいんだ!」
「うるせぇ!お前はいつもいつもうるさいんだよ!」
「なんだと!?」
「やんのか!?」
「やめなサイ!」
「「ぐはぁ!?」」
喧嘩に発展しそうな修一と理雄を殴って止めるグラーフ。
「だ、大丈夫かなぁ・・・西住さん・・・・」
「教えるのがとてもうまい人だ。きっと大丈夫だ」
いつもの心配性が出ている芥をなだめるように帯斗がささやく。
「今は信じよう」
それに、全員が同意する様にモニターを見る。
「全車両、停止してくれ」
今回の試合の部隊は急な斜面の多い山岳地帯。
森が生い茂り、隠れるにはうってつけの場所だ。
だが、この場所はいほの乗るⅣ号には若干不利だ。
理由は、Ⅳ号のカラーリング。
青いのだ。
Ⅳ号の走行が青いのだ。
海色であり、若干目立つ。
そもそもなぜこんな色のままにしたのか。
理由は至極簡単。
いほが、この色合いを気に入ったからだ。
どういう訳か知らないが、目立つ色なら囮を引き受けやすいという事らしい。
黒森峰時代の頃、練習試合でその役目を担っていたらしい。
それはどうでもいいとして、いほは、地図を開く。
「どうするの?」
「とにかく、経験の差でいえばあちらの方が上だ。ここは山岳地帯だから、待ち伏せがしやすい・・・のだが・・・」
いほが言いよどむ。
「どうしたの?」
優希が砲手席から顔を出す。
「いや、思い出してみればあいつらは待ち伏せが得意だったな、と・・・・」
「待ち伏せって、分かってるんなら全方位から囲んじまえばいいんじゃねえのか?」
東馬が操縦席から出てくる。
「そう簡単に言うな。こっちは五両、あっちも五両。さらにスペックでいえば、T-60は火力不足だ。もともとT-60は偵察で使うつもりだったからな」
「なるほどね」
いほの説明に納得する優希。
「さて、ここからどう動くか・・・・ん!?」
その時、いほの耳に、戦車特有の走行音が届いた。
「全車警戒、敵戦車が近くにいるぞ」
『ッ!』
いほの指示に、全員が警戒をはじめる。
それぞれの車長がキューポラから出て、周囲を警戒する。
いほは、耳から聞こえてくる走行音の向きお割り出そうとする。
「東馬、車体を二時の方向に向けろ」
「え?お、おう・・」
いほの指示に従い、Ⅳ号を二時の方向に向ける。
それに気付いた他の車両がそちらに車体を向ける。
そのまま、静かな沈黙が流れる。
そして、敵の戦車が姿を現す。
「いたぁぁああ!!」
ジェームズが叫んだと同時に、パンターの主砲が火を吹く。
その砲弾は、出てきた敵戦車のすぐ目の前に着弾、直撃はしていない。
「おい・・・」
いほは、分かっていながらも呆れた表情で頭を抱える。
「いほ!あの戦車はなんだ!」
東馬がそう叱咤する。
「あれはイタリアの中戦車、M11/39だ!第二次世界大戦に作られた、イタリア初の中戦車だ!」
いほがその戦車についての説明をうながす。
「主砲の威力は40口径37mm、主砲の向きは一々車体自体を変えないといけないから、そう簡単に・・・」
『逃げたぞ!?』
長門の声が響く。
その発言通り、M11/39は逃走していた。
『逃がすかァ!』
「な!?おい、待て!」
それを見たヤークトパンター及びタカさんチームは追撃を開始。いほの静止も聞かずに前進する。
『心配しなさんな!あんや戦車、すぐに仕留めて見せるぜ!』
「深追いするな・・・っておい!?」
止まる事なく前進するヤークトパンター。
「く、分かっていた事だが、黒森峰でも深追いはしねえぞ」
「戦車道の名門と一緒にするなよ・・・・」
『どうするんだい、隊長』
頭を抱えるいほに、業が無線越しに聞いてくる。
「仕方ない、サメはタカを追いかけてくれ。オオカミとヘビはクマについてきてくれ。サメさん、陽動、頼みます」
『了解した、西住司令官』
『こっちも了承したぜ』
『では始めようか』
「全員のご武運を祈ります。パンツァー・フォー!」
一方、ここは扇の様に開けた平地。
唯一の入り口である一本道の反対側には断崖絶壁。
ただし、その両側は急な斜面になっており、すぐ横は森。
否、全方位森だ。
だからこそ、待ち伏せにはもってこいだ。
「ふふ、バカな豚さんたちね。こんな簡単な誘導に引っかかるなんて」
『どうやらヤークトパンターとクロムウェルが付いてきているようです』
「Ⅳ号とチャーフィー、それとT-60が来ていませんね」
M16/42サハリアノに乗るジュアンがそのように呟く。
「まあいいわ、そのまま誘導なさい」
『了解』
相手は至って冷静に、かつ、面白そうに笑っていた。
「さて、まずは二両、て所ね」
「そういえば」
ふと、ジュアンの乗るサハリアノに乗る砲手の『カルナ・リアノ』が何かを思い出したかの様に口を開く。
「あっちの隊長の西住いほって人、さっき思い出したんだけどさ、あの西住まほに似てるんだよね」
「西住まほ・・・あの黒森峰でMVPに選ばれた、天才戦車乗りの事?」
「そうそう、その西住まほ。それでさ、そのまほって人には双子の兄がいるって噂だよ」
「双子の・・・・まさか・・・・」
表情が曇り出すジュアン。
「でもまさかこんな所にいる訳ないよね」
「そう・・・よね・・・・」
『M11/39が戻ってきました!ヤークトパンター、クロムウェルも一緒です!』
「ッ!」
随伴車両の報告を受け、キューポラから身を乗り出すジュアン。
双眼鏡を持って、囮役を視認。
その背後から砲撃している
「ふふ、まずは二両、いえ、豚二匹ね」
もとの笑みを取り戻し、ジュアンは、何も知らずに入り込んでくる
「待て待て待てい!イタ公!」
興奮しているジェームズ。
『おいジェームズ!落ち着け!』
長門の静止も聞かず、とにかく興奮しきったジェームズ以下タカさんチームの面々。
「アハハハハ!!!」
「ほらほらどうしたぁ!」
「待てぇぇぇええ!!」
完全に興奮している。
「どうするんだよ・・・」
陸奥が完全に呆れた様子でつぶやく。
「馬鹿の世界チャンピオンか何かか?」
「いやそんな事を言ってる場合じゃないだろ!?」
「じゃあどうすればいいんだよ圷津!」
そうこうしている内に開けた場所に出るM11/39、Yパンターとクロムウェルが出る。
「ッ!?マズイ!」
長門の顔が青ざめる。
「パンターに車体ぶつけろ!正気に戻す!」
「了解!」
長門の命令通り、名取が加速させたクロムウェルが、Yパンターの背後に正面から体当たりをかます。
「ぬお!?」
「逃げろ!これは罠だ!」
「なぬ!?」
先ほどの体当たりで頭の血が下がったのか、すぐさま周囲を見渡すジェームズ。
直後、Yパンターに集中するように砲弾が浴びせられる。
『うわぁぁあああ!?』
集中砲火を浴びせられたYパンターが、即座に白旗をあげる。
『ヤークトパンター、走行不能』
「く!」
Yパンターの敗北を告げる放送が流れる。
「やはり脳の無い豚さんたちね」
「さっそく一両、クロムウェルの方もやりましょう!」
「ええ。全車両、クロムウェルを狙いなさい。完膚なきまでにね」
ジュアンの不吉な笑みと共に出された指示に従い、他の戦車たちが、標準をクロムウェルに定める。
『サメさんチーム!聞こえるか!?サメさんチーム!』
「ッ!こちらサメさんチーム!すまない!タカを守れなかった!」
『謝罪は後だ!今どこだ!』
「場所はE地点!開けた場所で今狙われている!」
『分かった!そこで粘れ!背後から攻撃する!』
「了解!頼んだぞ!司令官!」
いほの命令を飲み、長門は、すぐさま自分のチームに指示を出す。
「いきなりパンターがやられたねぇ」
「会長、そんな事言ってる場合じゃありませんよ・・・」
業の呑気な言葉に若干呆れた様子でツッコミをいれる比叡。
「とにかく急ぎましょう。ヘビさんチーム、さっき言った事、出来るな?」
いほの言葉に、すぐさまヘビさんチーム、T-60の車長兼装填手兼通信手兼砲手である征矢が返してくる。
「了解、出来るよね、薫君」
「や、やってみるよ・・・・」
いつも道理、気軽な様子の征矢とは反対に、目から涙を流している薫。
何せ、前代未聞の行為をこれからするのだから。
「よし。速く行こう。サメさんチームがくたばる前に、背後から強襲する。パンツァー・フォー!」
前進を始めるⅣ号、チャーフィー、T-60の三台。
砲撃音の大きくなる方向。
そちらへ急ぐように走る三両の戦車。
そして・・・
「敵車両発見!」
いほの眼に、一両の戦車を見つける。
「あれは・・・M13/40だな」
「あれもイタリア戦車なの?いほ君」
「ああ。さっきタカさんチームが追いかけていったM11/49の改良型だ」
その姿を視認したいほは、すぐさま指示を出す。
「オオカミさんチーム、あの戦車をお願いします。標準を定めたまま、ある程度近付いて、出来る限り近付いてください。こちらの合図で砲撃、相手が気付いたと思ったらすぐさま撃っても構いません。とにかく確実に貫けると思ったら撃ってくれ」
『了解、任せてくれ』
チャーフィーが動き出す。
「ヘビさんチームはクマと一緒に行動。俺が良いと言ったら
『オッケー。じゃ、行きますか』
指示に従い、別行動になるⅣ号とT-60、そしてチャーフィー。
「東馬、なるべく音を殺すように走行、木をなぎ倒す音も、きこえるかもしれない。
「了解」
慎重に進むⅣ号とT-60。
やがて、目の前に、三台の戦車を発見する。
うち、一両は周囲を警戒するように背を向けている。
「あれは・・・」
「右からカルロ・アルマーロM15/42、M16/43サハリアノ、P40だな・・・・うっわ、重戦車も持ち出してきたのか。本気だな」
「脅威度は?」
「火力でいえばP40、機動力で言えばサハリアノだ。最高速度はⅣ号を超えるぞ」
『こちらオオカミ、準備完了。いつでも撃てるよ』
「了解」
いほは、三両を見据える。
「優希、P40を狙え。あれの火力は厄介だ」
「了解」
一息つくいほ。
向こうの戦車から、砲撃音がやまない。
『こちらサメさんチーム!そろそろまずいぞ!』
「すぐに援護します!全車両、砲撃開始ィ!」
合図とともに、複数の砲撃音が響く。
「ッ!?」
背後から聞こえた突然の砲撃音。
それにジュアンは目を見開く。
直後、一つのアナウンスが聞こえた。
『P40、M13/40、クロムウェル、走行不能!』
「な!?」
それに驚きを隠せないジュアン。
自身の乗るサハリアノが、クロムウェルを捉えた瞬間、同時に隣のP40が撃破された。
それだけならまだ良い。
だが、同時にもう一両撃破されるなど思ってもみなかったのだ。
「隊長!」
「クロムウェルは倒した。一旦引くわよ」
「了解!」
ジュアンの指示に従い、サハリアノの操縦手は向きを変えるべく操作を始める。
(なかなかやるようね。だけど、ここまでよ。徹底的に叩き潰してあげるわ)
元々、機動力の高い戦車の多いイタリア戦車。それを中心に編成している。
だから、機動力戦に持ち込めば、奴らに勝ち目はない。
互いに二両損失。
「く、遅かったか!」
いほが悔しそうに顔を僅かに歪める。
『すまない、最後の砲弾を避け切れなかった・・・』
『吾輩たちもすまない・・・つい興奮してしまって・・・』
「気にしないでくれ。あとはこちらで片付ける。東馬、バックで反時計回りに
「お、おう!?」
すぐさまギアをバックに入れ、片方のレバーを倒す。
Ⅳ号は急速に旋回を始め、向きが斜めになってところで、正面に砲弾が直撃する。
見ると、そこには逃げるサハリアノを援護する様に、砲塔をこちらに向けているM15/42の姿があった。
「オオカミさんはこちらに同行!ヘビは
『了解した』
『オッケー、薫君、出番だよ』
「さあ、ここからが正念場だ。全員気を引き締めろ!」
『了解!』
カッシーノ、残存車両、三両。
バルカン、残存車両、三両。
決着がつくまで、そこまでない。
『決着 ひっつき作戦』
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