試合開始から一時間が経過した頃。
「戦況は互角ですか・・・・」
一人の女性が、モニターを見ながら、そう呟く。
「まあ、あの子らしいといえばらしいですね。西住流の、『必勝』の部分だけを体現する、あの子らしい」
女性は、微笑ましく笑う。
「何やってんだよ歴男チームぅ!」
「ちょ、声大きいって・・・」
「サメさんチームもやられちゃったよ!?」
「負けんなー隊長!ワイらがついてるー!」
「ファイトです!」
「負けないで下さいー!」
「が、がんばれ~!」
「君も応援したらどうなんだ!」
「うるせーよ!」
「ちょっと二人とも・・・」
「西住サン!
彼のチームのメンバーだろうか。
(だとしたら、良い人たちに出会えましたね)
女性はモニターに向き直る。
そこでは、
観客は、彼の相手チームに野次を飛ばし、その存在に気付かせようとする。
だが、その存在に気付く事無く、相手チームは前進を続ける。
女性は、その戦いの先が見える。
かつて、自分の使えた人のチームで戦ったのだから、それなりに経験はあって当然だ。
まあ、今でも使えているのだが。
女性は、ただ静かに、事の顛末を見届ける。
森の中を走る、ジュアン率いるカッシーノ女子学園機甲部隊。森の狭い道を一列に並んで走っている。
基本、ジュアンの戦法は待ち伏せだ。今まで、その方法で勝利をもぎ取って来たのだから。
現在の残っているのは二両のM15/42と、彼女の乗るM16/43サハリアノの三両だ。
ただ、数の問題なら向こうも同じだ。
隊長車両であるⅣ号戦車E型、T-60、チャーフィーの三両。
T-60はさほど脅威ではない。
主砲もそうだが、何しろ走行が紙だ。簡単に倒せる。
問題は他の二両だ。
火力はほどほどあるし、それなりに機動力もある。
注意すべきは確実な情報不足。
考えてみれば、相手に対する情報が不足している。
更に思い出してみると、相手の隊長の顔。現在、戦車道界でその名を知らぬ者はいないと言われるほど有名人、『西住まほ』にそっくりなのだ。
まさかこんな所にいるはずもないし、しかも相手は男子校。女性である彼女がいる訳がないのだ。
だが、確かな話、西住まほには双子なのだ。
確か、その名前は―――――
「ッ!」
すぐさまその疑念を切り捨てるジュアン。
そんなバカな話がある訳が無い。
男如きが、戦車道をしているなど、あってはならない筈だ。
「徹底的に叩き潰してやる・・・」
呪詛の様に、放たれる言葉。
それに同意する様に、表情を引き締める、仲間たち。
しかし―――――どこからともなく飛んできた砲弾でその空気は一変する。
「な―――――ッ!?」
驚きに目を見開くジュアン。
慌ててキューポラから身を乗り出し、着弾地点を確認する。
着弾は、目の前にいるM15/42一号車のすぐ目の前。
「どこから・・・」
探す間もなく、次弾が着弾。
今度はサハリアノのすぐ右。
「なん――――ッ!?」
そちらに向く。
しかし、敵の姿は見えない。
だが、すぐさま背後から砲弾が降る。
『一体どこから撃ってきてるの!?』
『く、探せ!』
半ばパニック状態になるカッシーノ機甲部隊の面々。
正面、右、左、後ろ、位置を悟らせぬ、的確な射撃。
間違いなくこちらを弄んでいる。
「ふざけるな・・・・」
怒気の孕んだ声を漏らすジュアン。
「全車に告ぐ!一旦、開けた場所に出る!E地点に向かいなさい!」
『一号車、了解!』
『二号車も了解!ついていきます!』
発進する三両。
とにかく開けた場所に向かう。
そこで機動力戦に持ち込んで、潰す。
こちらが走り出す事で、一時的に砲撃がやむ。
それはそれで好都合だ。
このまま走り切る。
だが、目の前の分岐の左側、目的のE地点へ続く道を塞ぐように居座っていた。
「な!?」
読まれた。
そうとしか思えない。
「嘘でしょ・・・・!?」
カルナの驚愕の声が耳に入る。
全くもってその通りだった。
だが、そんな事を考える間もなく、Ⅳ号は砲撃してくる。
その砲弾はM15/42一号車の横を掠めるにとどまった。
ここでⅣ号を倒しても良いが、それでは道が塞がれてしまう。
それではE地点に行く事が出来ない。
チャーフィーも軽戦車ではあるが、その装甲や主砲は軽戦車にしては、かなり高い性能を誇る。
背後から来ているのなら、確実に後ろにいる二号車は確実に倒される。
当たればひとたまりもないだろう。
「く、進路変更!右に逃げるわよ!」
その指示に従い、三両は分岐を右に曲がる。
だが、突如として二号車が砲撃を喰らい、白旗を上げ、沈黙する。
『M15/42二号車、走行不能!』
「ばかな・・・!?」
いつの間にか、チャーフィーが背後から来ていた。
だが、同時に目の前の一号車も撃たれる。
『M15/42一号車、走行不能!』
「嘘・・・・・!?」
進路を変えようとしていた所をすぐさま撃たれたのだ。
「く、脇を抜けなさい!」
「は、はい!」
操縦手に怒鳴り、サハリアノを動かすジュアン。
「認めない・・・こんなの・・・認めない・・・・!!」
あまりの事が短時間で起き過ぎた事により、まともな判断が出来なくなっているジュアン。
そして、その
「そろそろ潮時だね、隊長」
無線に向かって、そう不敵に笑うのだった。
しばらく走っていくと、崖に辿り着く。
「ここで迎え撃つわよ」
出てきた所を確実に撃ち貫く。
そうすれば、後は紙装甲のT-60と、Ⅳ号だけだ。
「崖のすぐそばに車体を寄せて」
そうして、指示通りに崖の車体を寄せようとした時。
「チェックメイトだぜ?お嬢さん」
「ッッ!?!?!?」
突如背後から聞こえた声。
そちらに顔を向けると、そこには、いたずらっ子な笑みを浮かべた少年の顔があった。
「キャア!?」
思わず悲鳴を上げるジュアン。
「隊長!?」
「どうかしたんですか!?」
それに思わず車体を止めてしまう隊員たち。
だが、それどころでは無かった。
だって、サハリアノの
「どうも~」
「な・・・な・・・」
驚きに声が出せないジュアン。
「あ、そうそう、崖の上、見てごらんよ?」
「え・・・」
指差された方角。ジュアンの頭より、上。つまりは、背後を指している。
振り向き、崖の上を見上げるジュアン。
そして、ぽかん、と口を開ける。
何せそこには、背後から来るはずのⅣ号がいるのだから。
「じゃあね~」
少年の乗るT-60が距離を取る。
「まさか」
そしてジュアンは悟った。
Ⅳ号から放たれた砲弾が、サハリアノを撃ち貫く。
「礼!」
『ありがとうございました』
なんとも言えない空気の中、互いに礼をするカッシーノ女子学園と、バルカン工業高校の面々。
その結果は、バルカンの勝利だった。
戦車の撤収作業を見送るいほ、優希、東馬、司、総司の五人。
比較的無傷なⅣ号ら三両はさておき、ものの見事に大破しているヤークトパンター。
「た、隊長・・・」
「ん?」
ふと、そこへ、タカさんチームの面々がやってくる。
全員浮かない表情で立っていた。
「どうした?」
一応、聞いてみるいほ。
しばらく言いよどむ四人であったが、ジェームズが一歩前に出る。
そして、腰を九十度曲げ、謝罪する。
「今回、吾輩らの勝手な行動をしてしまった事、誠に申し訳ない!」
「すみませんでした!」
「以後気を付けます!」
「ごめんなさい!」
全員の誠意のこもった、というかこもり過ぎた謝罪に、いほは苦笑で返す。
「いや、初めての試合だ。気分が落ち着かないのもしようがない。だけど、次はするなよ?」
「分かりました!」
その後、ある程度のアドバイスと共に、ジェームズたちは立ち去っていく。
「西住いほ」
タカさんチームを見送った五人の元へ、今度はジュアンとカルナ、そして副隊長らしき黒髪短髪の少女がやってくる。
その面々に身構えるいほを除いたクマさんチーム。
「何の用だ、ジュアンさん?」
「ちょっとした、謝罪と賞賛よ」
その言葉が、以外とでもいうように目を見開く五人。
「・・・なんだ、豚豚言う強情な奴かと思ったら、誠意があるんだな、あんた」
「こうみえて、自分たちより強い相手は、それなりの敬意を表するわ。それがカッシーノ女子学園の戦車道よ」
一息間を置くジュアン。
「まず、謝罪から。正直言って侮っていたわ。貴方、あの西住流の長男でしょ?」
「そうだ。良く知ってるな。それほど目立ったつもりじゃないんだが?」
「戦車道やっている、それも中等部で知らない人はいないほど有名よ?貴方」
「そうなのか?」
首を傾げるいほ。
「中等部で、黒森峰女学園に入学して、一年目で数々の練習試合で、西住流とは遠い戦い方で勝利を収めたり、二年の時にはまだ入学したてだった新入生を一気にプロレベルまで鍛え上げるその指導力。そして何より、単騎で十八両を倒す強さ。かつて戦車道で十五両抜きをした蝶野亜美の記録を塗り替えた異例の超新星。男に生まれた事が最も悔やまれるって言われてる程よ?」
「俺そんな風に噂されてんのか・・・?」
「噂じゃない。事実よ」
「言っておくが、非公式だったと思うんだが?」
「ネット舐めない方が良いわよ?」
あまりの事に思わず苦笑してしまういほ。
「その異例の超新星の顔を知らなかったとは言え、名前ぐらいは知ってんだから、貴方があの時名乗った所で気付くべきだったわ」
「そこはどうでもいいだろ?」
「そうね。貴方にとってはね。そして、ここからは賞賛よ。正直言ってやられたわ。まさか、あんな方法でこちらの動きが筒抜けになるなんてね」
あんな方法。
それは、
ただ一両の戦車を敵の司令塔らしき車両にくっつける。ただそれだけ。
本当に、言うだけなら簡単だ。
だが、そう簡単な方法じゃない。
この作戦の最大の要点は、
つまりは、気付かれないように対象に近付き、そして終始、対象に引っ付き、自軍に最後まで情報を伝え続ける。
だが、問題は近付く事だ。
普通、自分のチームに、全く違う戦車が紛れ込んでいれば、普通はばれるものだ。
例え、車長がキューポラから出ていなくても、操作を誤って、他の戦車にぶつかれば、それだけでキューポラから出かねないし、間違えて、操縦席の窓の前に出てしまえば、即バレる。
それに以前に、止まっている状態、あるいは動き続けている状態の敵に近付くのは、至難の技だ。
しかも、必ず一度は周囲を見渡す為のどれかの戦車の車長が顔を出す。
しかし、それこそが、T-60を操る、木下薫の才能だ。
まるで、相手の波長に合わせるかの様に、あるいは、無意識の領域へと入り込むかの様に、戦車をその部隊にすべり込ませる。
それに、気付く事は無いのだ。
まるで、森にて得物を狙う、ヘビの様に。
自らの体色を変え、得物に近付くカメレオンの様に。
ただ、静かに、そして大胆に、敵の無意識へと入り込む、スパイの様に。
それこそが、いほが考案した『くっつき作戦』の内容だ。
「前に一度、練習試合でやられた事があったからな、十分に使えると思ったんだ」
「それにまんまと引っかかって訳ね。とんでもないわね。一度、T-60の運転手に会ってみたいものね」
「それはまた後だな」
「それは残念」
ほんの少しの気の抜けた会話。
だが、ジュアンはすぐに表情を引き締める。
「次は負けないわよ」
「望むところだ」
そうして、去っていく。
「なんだかんだ、良い人たちだったね」
「ああ」
去っていく三人を見送るいほ達。
「さぁて、そろそろ俺たちも帰ろうぜ」
「祝勝会しようか?」
「なるほど」
「あまりバカ騒ぎは好きではないのだが」
と、これからの事を話し合う仲間たち。
その後を着いて行こうとするいほ。
だが、今度は以外な人物に声をかけられる。
「いほ様」
ピタリと脚が止まる。
それに一拍遅れて足を止める優希たち四人。
振り返り、いほと、いほの後ろに立つ人物に、何故か苦笑を浮かべている四人。
そして、遅れていほも振り返る。
そこには、柔らかい笑みを浮かべる、着物姿の女性が立っていた。
「・・・・菊代さん?」
「お久しぶりですね」
予想外の人物が、そこに立っていた。
次回『『必勝』の戦車道』
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