「き、菊代さん・・・・」
あり得ないといった表情で、目の前の女性、『井手上 菊代』を見つめるいほ。
「お久しぶりです」
一方で、菊代の方は分かっていたかのように柔らかく笑う。
「あー、いほ君?」
優希が声をかける事で正気に戻るいほ。
「この人は・・・?」
「あ、ああ・・・西住宗家で女中をしている、井手上菊代さんだよ。一応、戦車道経験者」
「へえ・・・あ、僕は飯盛優希といいます」
「俺は円道東馬」
「牛塚司です」
「鬼経総司だ」
「こんにちは、井手上菊代と申します」
菊代の優しい笑みと言葉に、思わず見惚れてしまう四人。
と、そんな菊代をいほがづかづかと引っ張り連れ去っていく。
「どうしてあんたがここに!?」
いほが声を抑えながらも完全に興奮した状態で菊代に尋ねる。
「貴方の通うバルカン工業高校が試合をすると、
「ああ、なるほど・・・・わざわざ邪道である俺の戦車道を見に来たわけか・・・・」
「ふふ、確かに西住流としては邪道ですね」
呆れてものも言えないいほに、笑みを零す菊代。
「で、母さんはなんて?」
菊代の眼の色が変わる。
「・・・・『承諾はした。ただし、やるからには、こちらも全力でやる』・・・との事です」
「今の黒森峰の隊長は、確か、桜田さんか・・・」
「まほお嬢様以上の冷徹。下手すれば、しほ様に迫る程に、西住流を体現している人。その人相手に、勝つ事は出来ますか?」
菊代が、それなりの威圧のある眼光で、いほを見る。
それに対し、いほは笑って返す。
「何言ってんだよ。俺の戦車道はいつだって『必勝』。ただそれだけの為に、使えるものは全部使うまでだ」
「ふふ、それを聞いて安心しました」
いつもの表情に戻る。
「さて、今回の試合の事を家元に報告しなければなりませんね」
「おう、隅々まで、びっしり報告してくれ。まあ、俺の
「そうでしょうか?」
「あくまで『家元』としてだよ」
ふと、間が空く。
「私は応援していますからね?」
「ありがとう。出来れば、今日の事、まほやみほに教えといてくれ」
「分かりました。では」
そうして、去っていく菊代。
ふと、優希たちの横を通り抜ける時に、菊代は、彼らに言った。
「あの子は結構、無茶をするので、支えてあげて下さいね」
「は、はい」
「分かりました・・・」
「承りました」
「ん」
そうして、菊代は行ってしまった。
港を離れる学園艦。
その艦尾部分から、いほは、離れていく港を見届ける。
その右手には、ドイツ国旗が刻まれた銀時計が握られていた。
「・・・・あいつら、今頃何やってんだろうな」
菊代が着た事で、ふと思い出した、黒森峰での生活。
一緒に入学したまほとの日常。
そこでの、戦車に乗って、走りまわした時の爽快感。
練習試合で、実力を見せつけた時の、会場の歓声。
二年目にて、入学したみほとの再会。
説明会の時に見た、後輩たちの動揺。
そして――――逸見エリカとの、最初の決闘。
そこから始まった、エリカとの師弟関係。
「・・・・」
つい回想に浸ってしまういほ。
だが、やはり黒森峰での生活で、一番、印象的だったのは、『先輩』と呼んで必死についてきてくれた、エリカの鬼気に迫るほど真剣な表情。
そして、終わった後に、誉め言葉と同時に頭を撫でた時の、子犬の様な笑顔。
やはり、忘れられるものでは無い。
「今頃なにやってんだろうな。あいつ」
そんな言葉が、口からこぼれた。
今度、メールでも送ってみようか?
そう思案し、自分の家に戻るために振り返る。
そこには、優希、東馬、司、総司の四人が立っていた。
「・・・帰ろうか」
すでにその足音が聞こえていたから分かっていた。
だから聞いた。
「うん」
「おう」
「ああ」
「ふん」
それぞれがそれぞれの返事で返す。
今は、ここでやっている。
新しい戦車道を。新しい仲間と共に。
ここから始めよう。
西住いほの『必勝』の戦車道を。
次回『抽選会だ』
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