戦車道全国大会抽選会会場。
その開催場所は、埼玉県にある、さいたまスーパーアリーナ。
そこへ、バルカン工業高校機甲部隊隊長である西住いほ、副隊長の帝海長門、生徒会長の北条業、そして付き添いという事で、優希と東馬、そして雷切源野がやってきていた。
「だ、大丈夫なのかなぁ・・・」
優希が心配そうにつぶやく。
「ハッハッハ!心配するでない!ちゃんと許可は貰った!」
そんな優希の心配をなんでもないかの様に笑い飛ばす源野。
妙にそのスキンヘッドが輝いて見える。
「やっべ、滅茶苦茶
「我慢しろ、少しの辛抱だ」
武者震いの様に体を震わせる東馬を落ち着かせるように肩に手をおく長門。
「随分と締まってるね」
「ええ、何度か、こういう場面には居合わせた事があるんで」
いほが幾分と落ち着いた声音で返す。
いほとて試合に出た事のある身。
大衆の視線に晒される事は何度かあった。
「さて、わしはここで待つとしよう。ジジイが女所帯にいては迷惑だからのう」
「ああ!?そういえばそうだった!?」
源野の言葉に、飛び跳ねて重大な事に気付く東馬。
何せ、戦車道は乙女の嗜み、日本では大和撫子を極める為の武芸として現代にまで伝わっており、やっている者は全員が女性。
そこに、男という異臭は存在しない。
「そ、そうだった・・・・」
優希が青ざめた表情で固まる。
「あ、じゃあお前らはここにいろよ。別に俺一人でも大丈夫だし」
そんな二人を気にもとめないいほ。
だが、この先、大会に出るのなら、女性と触れ合うのは当たり前の事になる。
今さら引き下がるという選択肢は、この二人にはなかった。
「な、なに言ってんのさいほ君!」
「そそそそうだぜ!ダチ一人いかせてたまるかっての!」
「別に無理しなくても・・・・まあいいや」
「頑張れよ~」
源野に見送られ、会場に入るいほ達。
そこには、あらゆる学校(それも女子高のみ)から、それぞれの戦車道のチームがやってきていた。
視線が突き刺さる。
「ひぃ」
「うぉ」
思わず悲鳴をあげる優希と東馬。
だが、いほは気にした様子もなく空いているスペースに陣取る。
その後を、まるで臣下の様についていく業と長門。
優希と東馬はそそくさとそれを追いかける。
その途中、色々な陰口が耳に入る。
『あれが例の男子校の人たち?』
『なんでもあの西住家の長男らしいわよ?』
『どんなコネで戦車道立ち上げたのかしら?』
『目障りね』
『どうせすぐに負けるでしょ?』
小声で言っているつもりなのか、もの静かな空間には良く通る。あるいはわざと聞かせているのかもしれない。
だからこそ、気分が悪くなる。
逃げる様に、うつむく二人。
「お前ら」
いほが口を開く。
それに、顔をあげる二人。
「気にするな。いつもの事だ」
その言葉に、二人はハッとする。
半ば勘違いな所もあるが、いほは、こんな陰口と視線を何度も浴びてきたのだ。
それは、男の身で戦車道をやる者として、当然の代価だ。
その事に気付き、優希と東馬は、気合を入れなおした。
ふとそこへ。
「こんなに早く再開するなんて思わなかったぞ、兄様」
なかなかに低い女性の声。
声が聞こえた方へ視線を向けると、そこには、黒いパンツァージャケットを着た、いほそっくりな少女が立っていた。
「俺もだよ、まほ」
いほは、その少女に向かって笑って返す。
「か、会長」
「なんだい飯盛君」
「あの人ってもしかして・・・・」
「ああ、噂に名高い、西住まほだ」
少女、西住まほは、いほと親しそうに話していた。
「最近の黒森峰での生活はどうだ?」
「忙しいかぎりだ。副隊長でも、チームをまとめるのは大変だ」
「それなりにしっかりしていると思うが?」
「錯覚だ。奧華隊長は必要最低限の事しか言わないから、打ち合わせするのが大変で・・・・」
「それはお前も同じだと思うが?」
「あの人の方がもっと堅物と思うのだが?」
なんとも兄妹らしい会話だ。
ちょっとした世間話の後、まほは、後ろにいる四人に視線を向ける。
「ところで、そっちが兄様の・・・」
「ああ、俺の戦車道チームだ」
いほが自慢する様に言う。
「こんにちは、西住いほの双子の妹、まほと言います」
「これはご丁寧に。バルカン工業高校生徒会長、北条業です」
「自分は、機甲部隊副隊長を務めさせて頂いています、帝海長門です」
「あ、僕は、いほ君の乗る戦車の砲手をさせてもらっています、飯盛優希です」
「俺は操縦手の円道東馬だ」
互いに軽い自己紹介。
「ニュース、見たぞ。本当に立ち上げたんだな」
「まあな。すげえだろ?」
「はいはい、すごいな」
「そういえば、お前の所の隊長は来ていないのか?」
「いえ、いるにはいるんだが、会う気は無いって断られて・・・」
「ああ、なるほど・・・・・」
いほは納得した様に頷く。
「会うか?」
「いや、良い」
まほの提案を、いほは断る。
「そう」
まほも、それ以上追及しない。
『次!黒森峰女学園!』
「お、次はお前の所だぞ?」
基本、抽選会はあ行の方から順に呼ばれる。バルカン工業高校はは行なので、かなり後だ。
ステージの方を見て見ると、そこにはすでに、一人階段を上がっている人物がいた。
その人物は、暗い茶髪であり、その髪を肩甲骨あたりまでに伸ばした、なかなかに鋭い目つきの少女だった。
その服装は黒のパンツァージャケット。まるでドイツ軍のような恰好だ。
もとより、黒森峰はドイツと関係のある学校だ。その様な姿になってもおかしくはないだろう。
ただ、何より、圧力が違う。
向けられてはいなくても、息が詰まりそうだ。
「いほ君、あの人って・・・」
「ああ、現黒森峰機甲部隊隊長、桜田奧華だ」
少女、奧華がくじを引く。
それを見た進行係が、マイクに向かって、結果を伝える。
『黒森峰、二番!』
トーナメント表の二番の場所に、『黒森峰女学園』の文字が書かれたプレートがかけられる。
その隣の一番の項目には、『マジノ女学院』と書かれていた。
「黒森峰は、マジノとか」
「えーっと、マジノ女学院ってどんな所なの?」
優希が聞いてくる。
それに、いほが答える。
「基本的に、防御一辺倒な戦い方をする所だ。フラッグ戦では、まわりを他の戦車で囲み、やってきた相手を狙い撃ちにする。いわば、待ち伏せと防御といった戦法しかとらない学校なんだ」
「えーっと、たしか西住流の基本戦術って・・・・」
「突撃、突撃、また突撃、だ」
まほが割り込む。
「とにかく前進して殲滅せよって事」
「攻撃的だなぁ・・・」
苦笑いする優希。
『次!サンダース大学付属高校!』
「へえ、次はサンダースか」
「戦車保有数が日本最大。生徒の数も日本一で、その数、約五百人。確か、一軍から三軍まで持っているんだったかな」
「その通りですよ、会長。かなりリッチで、戦車の数が多い、信頼が高い、故障しにくいの三点セットで、戦車道大会で、後半戦に強いって事で優勝校の一角に選ばれている強豪校だ」
「できれば早めにやられてくれたらいいんだがな」
長門がそう呟く。
ステージにあがるのは、アメリカ人と思われるような美貌の少女。
赤、というよりも白っぽいピンクに近い色をしており、その髪を頭の後ろで結ってポニーテールとし、余った髪は耳の前に下げている。
顔もかなり良い。活発だという事が否応なしに分かる。
そんな少女がステップを刻む様にステージに上がり、くじボックスの中に手を突っ込む。
その結果を進行係が教える。
『サンダース大学付属高校、十番!』
直後、『Yeah―――――――!!』といった大勢の歓声が響く。
「うわ!?」
「おう!?」
「それともう一つ、かなりハイテンションな学校だ。だから声も大きい。てかうるさい!」
その勢いに驚く優希と東馬に加え、勢いに思わず耳を塞ぐいほ。異常聴覚者故の欠点、騒音には敏感過ぎて辛いのだ。
そんな声が収まった頃。
『次!聖グロリアーナ女学院!』
「お、今度は金髪の美人さんだぞ」
視線がステージに戻る。
「
「あーるぐれい?それって紅茶の名前じゃねえのか?」
東馬が首をかしげる。
「ああ、聖グロでは、幹部クラスの生徒には紅茶の名前が与えられるんだ。というか、良く知ってるな?好きなのか?」
「いやぁ、姉が聖グロに入っててな。それで色々とな」
「ああ、そういえばお姉さんいたね、東馬君」
納得と言った感じでうなずく優希。
「かなりの強豪校だ。出来れば当たりたくねえな・・・」
「同感だ」
いほとまほが、全く同じ顔でうなずくものだから怖い。
ステージにあがっている人物は、腰まで伸びたサラリとした金髪をなびかせ、貴婦人とも言うべき優雅な歩き方で、まるで男たちを魅了するかの様に歩みをすすめる。
その人物、アールグレイは、くじボックスからくじを引く。
その結果は・・・・
『聖グロリアーナ女学院、十一番!』
「ho・・・」
空欄の十二番の隣の十一番。
なかなかにきわどい。
そこから、いくつかの学校がくじを引き、ついに、いほの出番になった。
『次、バルカン工業高校!』
「来た・・・」
東馬がつい言葉を漏らす。
いほも、緊張した様子だ。
まほがいほの肩に手を置く。
「行ってこい」
「ああ・・・」
そうして、ゆっくりと歩き出す。
周りの視線が突き刺さる中、いほは、堂々と大衆の間を歩く。
そうして、階段を上がり、ステージの上に。
誰もが認める、しっかりとした歩き方で。
そして、くじボックスの中に手を突っ込む。
数秒後、その手を引き抜く。
その結果は・・・・
『バルカン工業高校、十二番!』
いほの中で最も当たりたくなかった番号だった。
次回『幕間的な回』
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