ガールズ&パンツァー ブルー・スティール   作:幻在

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幕間的な回

戦車喫茶るくれーる。

そこは、どこにでもある喫茶店。

そこで、バルカン工業高校機甲部隊の隊長車両『Ⅳ号E型』を操る、クマさんチームの面々がいた。

その車長であり、バルカン工業高校機甲部隊の隊長である西住いほは――――かなり落ち込んでいた。

「・・・・・・はあ」

溜息一つ。

その重さが、他四人に図らずも重圧をかけてしまう。

「ど、どどどどうしよう東馬君」

「お、俺に振るなよ!?つ、司!どうすれば良い!」

「俺に、言われても困るぞ」

「しようがないだろう。何せ一回戦の相手はあの聖グロなんだからよ」

混乱する優希、東馬、司の三人を他所に、総司は持ってきていたノートパソコンにとある画像を出す。

「聖グロリアーナ女学院。今までに準優勝の経験もある強豪校だ。そんな相手に、まともな経験を積んでいない俺たちが勝てると思うか?」

「「「・・・・」」」

それを言われて黙りこくる三人。

「すまない・・・俺のくじ運が低いばかりに」

「あああ!?そ、そんな事ないよいほ君!」

「そうだぜ!どんな敵だろうと、俺の操縦テクニックで蹂躙してやるぜ!」

いほの気分が更に落ち込むのを持ち直そうとする優希と東馬。

「まあ、甘いものでも食え。少しは気分が晴れるだろう」

と、呼び出しボタンを押す司。

すると、その呼び出しボタンから戦車の砲撃音が響く。

「うお!?」

「うわ!?」

「ぬあ!?」

「なん!?」

「ああ、ここは呼び出しに戦車の砲撃音使うんだよ」

「心臓に悪いぜ・・・」

「だけど戦車マニアには嬉しいものだぜ?」

そうこうしている内にウェイターがやって来た。

それぞれの注文を聞いたウェイターは、さっそうと去っていく。

そこから数分後、なんと窓際から、『M25戦車運搬車』、愛称『ドラゴンワゴン』が上にケーキを乗っけてやってくる。

しかもそのケーキ全部が戦車の形に作ってある。

「うわぁ」

「すげぇ」

「これは」

「んむ・・・」

その出来栄えに感嘆する四人。

「さ、食えよ。ここのケーキは絶品だぞ?」

「じゃあ遠慮なく・・・」

それぞれがそれぞれの品を口に運ぶ。

「おいしい!」

「美味い!」

「これはなかなか」

「悪くない」

そのおいしさに、さっそうと食べていく。

いほも、自分のチョコレートケーキを落ち着いて食べる。

「そういえば、前にもここに来たことがあるの?」

優希が思い出したかの様に尋ねる。

「まあな。何度か、まほやみほ、後輩と一緒に来たことがあるんだ。まあ、誘ったのは俺の方だけどな」

「で、一番一緒に来たことがあるのが逸見エリカという訳だ」

「そうそうエリカと・・・・なんで分かったし・・・」

じろりと総司を睨むいほ。

「何、ただお前が誘いそうな人物を探してそれを出してみただけだ」

「誘導尋問かこの野郎」

してやったりとかすかにどや顔をする総司に、拳をぎりぎりと握りしめるいほ。

「でもさ、いほ君ってさ、いつもエリカさんの話しかしないよね」

「そうか?」

「ああ。黒森峰の時の事話す時に、必ずって程にエリカが出てくるんだ。本当にどんな関係だったんだよ?もしかして先輩と後輩での禁断の関係か?ええ?」

「違うっての。ただの師弟関係だ。それ以上でもそれ以下でもない」

いほは本当になんでもないという様に笑いながら否定する。

「う~む・・・・」

「お似合いだと思うんだけどなぁ・・・」

唸る司と苦笑する優希。

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

「逸見さん、風邪?」

「そんな事はないけど・・・・誰かが噂でもしているのかしら?」

「お兄ちゃんがしているのかもね?」

「ハア!?え、ああ、いや、せ、先輩が・・・・」

「・・・」

「にっこりするのやめなさい!」

 

 

 

 

 

 

「へっくし!」

「あれ?いほ君、風邪?」

「そんな筈は・・・・誰かが噂でもしているのだろうか?」

「もしかしたら、逸見かもな」

「だとしたらみほと一緒だな」

微妙といった感じで納得するいほ。

((((あ、かなり鈍感なタイプだ))))

全員が察する。

「さて、そろそろ行こうか」

ケーキを食べ終わり、店を出る五人。

「でも、本気で次の聖グロとか言う学校と戦うのだろう?大丈夫なのか?」

「だからどうにか効率良く練成(レベル上げ)しているんじゃないか。あいつら相手に、半端な作戦じゃ勝てないからな。やるからには、『必勝』あるのみだ」

ここで、優希たちが学んだ西住いほという人物。

彼の掲げる戦車道は、とにかく勝つ事を前提とした『必勝』の戦車道を志している事だ。

勝てる可能性が高い方へ、勝てるのならどんな事でもやり、勝てるのなら相手を助ける。

とにかく、勝てるならなんでもする、『強くなる為の戦車道』ではなく、『勝つ為の戦車道』なのだ。

ふといほは、ブレザーのポケットから、みるも見事な銀時計を取り出す。

「ん?お前、そんなもの持っていたか?」

「ああ。後輩からの誕生日プレゼントだ」

と、自慢するように見せびらかす。

「へえ。で、どうしてそれ取り出したの?」

「今何時なのかを確認しようと思ってな」

そう言い、銀時計の蓋を開け、時間を確認するいほ。

「よし、そろそろ学園艦に戻ろう」

「あ、もうそんな時間か」

「じゃあ帰ろうか」

「そうだな」

「やれやれ、やっと帰れる」

そうして、学園艦の戻ったクマさんチーム御一行。

本日、休日だという事で、喫茶店に寄っていた訳だが、それでも戦車の様子は見ておきたい。

そんな訳で、戦車倉庫に行ってみると。

「よっしゃぁ!新記録だぜ!」

「ホンマか!ワイなかなか才能あるやないけ!」

「クライトス!もう少し仰角あげろ!」

「分かっている!これでどうだァ!」

「命中だ!」

「陸奥、加速しろ!」

「くっそ!ぬるぬるとした走り方しやがって!」

「ひぃぃ!!」

「アハハハハ!スゲェ!めっちゃスリルある!」

「興奮してないで、タイミング教えてよ!こっちはかなりハラハラしてるんだよ!?」

「だいたい!君はもう少し言い方を変える事は出来ないのか!?それと西住隊長に失礼だろ!」

「うるせえ!お前は暑すぎなんだよ!大体、年下に従う事が納得いかねえんだよ俺は!」

「ふ、二人とも、喧嘩は・・・・」

「やめなサイ!」

「「ぐはぁ!?」」

「龍三、次」

「はい」

そこでは、バルカンの戦車道チームが、全力で練習をしていた。

「皆・・・・」

「すげえ・・・」

「朝からずっとやっていたのか・・・」

「良くここまでやるな」

その光景に驚くクマさんチーム。

「皆、もっと君たちの役に立ちたいんだって」

茫然としている彼らの元に、一人の整備服を着た少年がやってくる

平均からは低く、中学生ぐらいに見える、こげ茶色の髪をした少年だ。

「ぶ、部長!」

「え、江間さん!?」

司と優希が飛び跳ねる。

この男こそが、自動車部部長、『江間(えま)(ひかる)』なのだ。

「次は強豪って聞いたら、いてもたってもいられなくなったみたいでね。ついでに、理事長から君たちにプレゼントがあるそうだよ」

『プレゼント?』

「ついてきて」

光についていくと、そこには、青でカラーリングされた、いほ達、クマさんチームのⅣ号があった。

だが、あきらかに変わっている所があった。

 

主砲の長さが変わっているのだ。

 

「これは・・・・43口径75mm砲か・・・?」

「いんや、それよりも大きい48口径だよ」

「つまりH型仕様か」

「それって、強化されたって事か?」

「その通りだよ、東馬」

「すげえ!」

東馬が興奮した様子を見せる。

「これなら、徹甲弾で遠くの敵を撃ち抜ける。感謝します、江間先輩」

「なーに、あの理事長がやれやれうるさいから、やっただけさ」

「でも、これで聖グロのマルチダの装甲を貫ける」

いほは、気分が高揚した様子を誤魔化せていない。

だけど、確かに、勝利への道へ近づけたのは確かだ。

「よし!他の皆に遅れていられない!クマさんチーム!乗車だ!」

『応!』

威勢の良い返事と共に、戦車の乗るクマさんチーム。

「パンツァー・フォー!」

前進するⅣ号。

「ぬ、もう練習に行ったのか」

「あ、理事長」

そこへ源野がやってくる。

「もう良いんで?」

「ああ。どうにか、他の会社との契約を保てたわい」

「まあ、戦車の製造にも携わってますもんね、雷切財閥は」

日本有数の財閥、雷切財閥。

その影響力は世界にも響く程。

契約会社は日本企業のみならず、世界各国の会社とも契約も結んでいる。

しかもその契約の条件がえげつなく、もし切れば、下手すればその会社は破産に追い込まれてしまうほどの条件を結ばれているのだ。

だから、雷切財閥との契約を切ろうと考える会社はまずない。

「さて、あと三日だったかのう?」

「ええ。かの強豪、聖グロリアーナ女学院との試合。どんな展開になるんでしょうか」

主砲を撃ちまくる六台の戦車を翻弄する青い戦車。

そのキューポラから身を乗り出すのは、楽しそうに笑う、一人の少年。

夕日の差し込む中、戦いの時を、演習にて、待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院。

「これが、バルカン工業高校の機甲部隊の情報です、アールグレイ様」

「ご苦労様、キーモン」

紅茶の園、と呼ばれる、幹部クラス、あるいは、将来に期待された生徒に与えられる、『ティーネーム』を与えられた者にしか立ち入りを許されない、聖グロリアーナ女学院の広間。

そこにある一つの円テーブルで、紅茶を嗜む、金髪の女生徒が、渡された資料を読み進めていた。

「西住いほ・・・・あの西住流の、噂の長男・・・・そして、西住まほの兄・・・ですか」

「どう思いになりますか?」

金髪の女生徒、アールグレイの向かいに座るのは、同じ様に金髪であり、ギブソンタッグなる髪型の一年生がそう声をかける。

「そうね・・・・彼、あの黒森峰に入学していたみたいね。会う事は叶わなかったけど、そうとうの策略家だと聞いたわ。やる相手、だというのは確かね」

「そこまで言わせる程なのですか?」

「ええ。この資料から見ると、彼の出た練習試合は、味方の練度に合わせた確実な作戦を立て、かつ、被害を最小限にした戦い方をする。それは、西住流としては邪道ともいうべき戦い方。だけど彼はその戦い方を選んでいる。勝つ為に、手段を択ばない。だけど、それは全て、全員の力で勝ち取る勝利を前提とした、少し矛盾した戦い。その事に、揺るぎなき信念を持っている。例え何者にもその生き方を否定されようとも、彼は自分の道を突き進むでしょう。この手の相手は、例え出来たばかりの急造チームでもまとめ上げるカリスマ性と指揮能力を発揮する程の強敵よ。肝に銘じておきなさい、ダージリン」

アールグレイは、『ダージリン』に向かって、そう言う。

そのアールグレイの様子に、ダージリンは冷や汗を流す。

「分かりました」

「ふふ。そうだ、彼に合う格言、何か知らないかしら?」

突然、態度の変わるアールグレイに、ダージリンは動揺した様子もなく、答える。

「そうですね・・・これなんかどうでしょう?『絶えずあなたを何者かに変えようとする世界の中で、自分らしくあり続けること。それがもっとも素晴らしい偉業である』。アメリカの思想家、エマーソンの言葉です」

「良いわね!ああ、ダージリンの格言集はいつ聞いても教訓になるわね」

「そんな・・・・恐縮です」

ダージリンが頬を赤くする。

アールグレイが、ソーサーに空になったティーカップをおく。

「今のうちにリラックスしておきなさいダージリン。過度な緊張は失敗を招くだけよ。次の相手は、これまでの敵とは、一線を凌駕する」

「分かりました。アールグレイ様」

不敵に笑うアールグレイの目は、獲物を狙う獣そのもの。

その目を見たダージリンは、確かな返事で返すのだった。




次回『大洗』

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