つまりは、この小説で、まほの双子の兄であるいほの誕生日でもある。
なので書いたぜ!イエア!
これは、熊本県熊本市にある、西住家宗家にて、まだ小学二年生のいほとまほ、一年生のみほの日常の一幕である。
それは、夏の暑い日。
セミが勢いよく鳴き、夏の日差しが大気を温め、息をすつのが辛い程に暑い日の事だ。
そこにある、一つ、でかい屋敷。
その屋敷の和風な造りの縁側で、一人、新聞紙を広げて、その上に座り込み、『センチュリオン』のプラモデルをかなり真剣な表情で組み立てている少年の姿があった。
その表情に、地元の人間であるからか、汗は見られず、一つ一つのパーツを丁寧に組み立てていく。
「よし、完成だ」
最後のパーツを取り付け、素組みではあるが、かなりの完成度のセンチュリオンがそこにあった。
「いほ様、出来たのですか?」
「あ、菊代さん」
そこへ、着物を着込んだ女性『
女中である。
「何か用ですか?」
「ええ、スイカを切ったので、もうみほお嬢様とまほお嬢様は食べていますよ」
「げ、まほはともかくみほの奴は食い過ぎるからな・・・今すぐ行くよ」
いほは、若干慌てる様に立ち上がり、速足で居間に向かった。
「ふふ」
その様子に、思わず微笑む菊代。
その半袖のフード付きの赤いメンズジャケットの背の部分には、『必勝』の二文字。
いほは、とにかく、こういう文字の入ったものが好きなのだ。
とにかく好奇心旺盛な子。
双子の妹のまほと、顔立ちも髪型も趣味も好物も、全てが同じなのに、考える事だけは全く違う。
それはやはり、女と男の間に生まれた、差なのか。
それでもやはり、菊代にはこう見える。
元気な子、だと。
「ふぅ、終わった」
西住家の格納庫にて、戦車の整備を終わらせた西住常夫。
西住流家元の西住しほの唯一、惚れた男にして夫。
職業は整備士。主に戦車の整備を担当している。
分かり切った説明はすっ飛ばして、丁度、この家の傍にある格納庫にて、そこにある戦車の整備を終わらせた常夫。
そして、とある部屋の状態を見て、半ば唖然としていた。
「あ、常夫様」
「菊代さん・・・・何があったの?」
「ふふ、見て分かると思いますけど?」
意味有り気な菊代の笑みに困惑しながらも、しかし全く持って察しのつく惨状に思わず苦笑を浮かべる常夫。
そこは台所。
普段は菊代が朝昼晩と食事を作る場所なのだが、そこから黒い煙が主にオーブンから立ち込みあげており、他にも、何かの失敗ではないかと思うほどの卵の殻やドロドロの生地が飛び散っていた。
そして、その中心には、おそらくオーブンから出てきた黒煙によって煤だらけになったみほとしほの姿があった。
常夫は、料理に使われたであろう材料を見て、何を作っていたのかを察する。
「ケーキを作っていたんだね・・・・」
「私も手伝おうとしたんですが、みほお嬢様が『私とおかあさんだけでやる!』ていって聞かなくて。しほ様もそれなりに気合が入っていたようでしたので」
「それで結果がこれですか・・・」
そこでみほとしほが二人の存在に気付いた。
「おどうざぁぁああん」
「つねおさぁぁぁあん」
みほはともかくいつものの威厳はどこへやら。
情けない声で常夫に抱き着くみほとしほ。
どうやら早速挫折したらしい。
「それで?十分に反省した?」
「はい・・・・」
「ええ・・・・」
今日は七月一日、いほとまほの誕生日である。
その為か、今回はみほだけでなく、しほも本気になってケーキを作ろうとしたのか、みほは経験不足、しほはそもそも戦車一筋で生きてきたので料理に長けている訳が無く、卵の黄身と白身を分ける部分で早速失敗。
続くかき混ぜる行程でボウルをひっくり返し二度目に失敗。
二度ある事は三度あるとでもいうのか、やっとこぎ着けたオーブンの所で、温度と時間を間違えるという失敗を持って、とうとう挫折したのだ。
「全く、意地を張るのもいいですが、みほお嬢様はともかく、しほ様は料理に乏しくないのですから、無理をしないで下さい」
「あう・・・」
「う・・・」
それに更に恐縮みほと、何も言えないしほ。
互いに、姉と兄、娘と息子の誕生日だという事で張り切っていたのだ。
「まあ、いほやまほの為に頑張る事は、悪い事じゃないよ。ただ、それで失敗しちゃ元も子もないよね」
そんな首を垂れる二人の頭を撫でる常夫。
件のいほとまほは、珍しく二人だけで外で遊んでおり、夕方まで帰ってくる事は無いと菊代に告げていたらしい。
「さ、もう一度、一から作りなおそう。今度は、僕と菊代さんも手伝うからさ」
「うん・・・」
「分かったわ」
みほはともかくとして、本当にいつもの覇気がないしほも同意するしかなかった。
一方でいほとまほは・・・・・
「「雪の進軍、氷を踏んで、どれが河やら道さえ知れず~♪」」
全く持って季節外れな軍歌を歌いながら土手を歩いていた。
夏の暑さの中、元気に行進するいほとまほ。
この度、喧嘩した事など、カレーの争奪戦以外ではした事の無い二人。
性格は違えど、趣味や好物、容姿や髪型や身長までも同じなこの二人。
ただ違う事といえば、戦車道の為にしてきた努力の量と仕方か。
そんな二人の服装は、いほは半袖の赤いメンズジャケットに中には『鉄壁』の文字がプリントされたTシャツ。ジャケットの方にも、背中に『必勝』の文字がプリントされている。
一方でまほは、オレンジのシャツに短パンといったシンプルなもの。
これも違う点の一つだ。
全く似ているようで違う。それがこの二人だ。
「なあ、兄様」
「なんだまほ?」
「今日、何か大事な事を忘れていないかな?」
「なんかあったっけ?」
ついでに言って、純粋である。
「まあいいや。よし、次は森へ行くぞ!パンツァー・フォー!」
「おー!」
威勢の良い二人の声。
そのまま、双子は森へと歩いていく。
兄妹仲良く、歩いていく。
夕刻
「「ただいま~」」
「あ、おかえりさない、いほ様、まほお嬢さ・・ま・・?」
帰って来たいほとまほを出迎えにいった菊代。
だが、二人の状態を見た菊代の表情が徐々に唖然としていき、言葉も歯切れが悪くなっていく。
理由は単純明快。
二人が泥だらけだからだ。
「いやぁ、森で派手にすっ転んでしまって」
「そのままひたすらゴロゴロと・・・」
「あらら・・・・・」
苦笑いを浮かべるいほとまほ。
その様子に、思わず笑みがこぼれる菊代。
「分かりました。二人とも外でいっぱい遊んで疲れたでしょう?お風呂、沸いてますよ」
「「本当ですか!?」」
「ええ」
思わず声を張り上げる二人に、微笑む菊代。
「行くぞまほ!」
「行こう兄様!」
靴を脱ぎすて、風呂場へ走っていく二人。
「全く」
その様子に、微笑ましいのか呆れているのか、そんな溜息をもらす菊代。
台所へ向かう。
そこでは、綺麗に歓声したケーキのスポンジに、かなりの集中力を注いで飾りつけをしているしほとみほ、それを手伝っている常夫の姿があった。
「いほ様とまほお嬢様が帰ってきましたよ」
「分かっているわ菊代。あともう少しで出来るから待って頂戴」
「お母さん、頑張って」
かなり気合を入れているのか、丸いスポンジに、クリームを塗りたくり、その上に、複数の苺を乗せ、もう歓声である筈なのに、その上にのった板チョコのプレートに、白いチョコレートで文字をかなり真剣になって書き込んでいた。
「あと少しなんだけどね」
常夫が苦笑いしながら、その様子を腕組みしながら見守っている。
「ふふ」
その様子に思わず微笑んでしまう菊代。
女中である筈なのに、慈愛に満ちた表情で、丁度、現在完了形で板チョコに文字を書き終えたしほとみほがやり切ったといった表情で喜び合っていた。
それは、すでにこのころから異常聴覚者として目覚めつつあったいほの耳に届いていた。
「・・・何が出来たんだ?」
「出来たって、何が?」
「さあな」
隣で
湯気の立ち込める広い風呂場にて、一糸纏わぬ姿にて、風呂に入っているいほとまほ。
双子として共に
「そろそろ体洗おうぜ」
「あ、背中流すよ」
そのまま、互いに体を洗い、風呂場から出て脱衣所に入る二人。
互いにシンプルな服装(見分けをつける為にまほは黒、いほは白のTシャツを着ている)で風呂から出て、二人は、いつの間にかまほの着替えの上に乗っかっていた紙の指示に従い、いつも食事をとる居間に向かっていた。
「ん?」
まだ発展途上なので、良くは聞き取れないが、何やらこそこそとしている音を聞き取るいほ。
「兄様?」
「ああいや、なんか、母さんや父さんたちが何か仕掛けてきそうな予感がしてな」
「何かを?何をする気なのかしら?」
首をかしげるまほ。
「まあ、それは開ければいいだけの話だろ?」
「そうね」
そして、襖を開けた直後。
何かの炸裂音が連続で鳴り響き、いほとまほに紙吹雪が降りかかる。
「いほ、まほ」
「お誕生日おめでとう」
「おめでとー!」
「おめでとうございます」
「「・・・・」」
それに唖然とするいほとまほ。
目の前にいる家族(一人は女中)であるしほ、常夫、みほ、菊代の四人が、いきなりクラッカーを鳴らしたのだ。
それでいほとまほは、今日が何の日なのか思い出す。
「あ、今日俺たちの誕生日だった・・・」
「うかつだったわ・・・・」
思わず苦笑を浮かべてしまういほとまほ。
そんな二人に、みほが二人のそれぞれの手を手に取る。
「ケーキ出来てるよ!早く早く!」
「あー、はいはい」
「みほ、落ち着いて」
はしゃぐみほに引っ張られながら、二人は、机の上に置かれたケーキの前に誘導される。
そこには、ごく普通のショートケーキが1ホール。その上に、蝋燭が八本。その中心に、板チョコのプレートに、ホワイトチョコで、戦車のイラストと、『おたんじょうびおめでとう いほ まほ』と、不器用に書かれていた。
その不器用さに、思わず吹き出し掛けるいほとまほ。
電気が消され、蝋燭の灯りだけが、その部屋を明るく照らす。
定番の歌の終わりと共に、蝋燭、同時に息を吹きかけ、消すいほとまほ。
そこからはどんちゃん騒ぎと、その西住家は大変賑わったとの事――――
――――そんな事を思い出しながら、いほは、黒森峰学園艦の隅にて、潮風に当たっていた。
「先輩、せんぱーい・・・・・先輩!」
「うお!?い、逸見、いたのか・・・・」
黒い、黒森峰の制服を着込んだいほに、逸見エリカが背後から声をかける。
「むぅ・・・」
それでなぜか不機嫌になるエリカ。
「? あ、悪い、
それに気付いたいほは、すぐに呼び方を変える。
他意はない。
いほは、他人に対しては必ず名字呼びにさん付けなのだ。それは、年上年下関係無く、こういう感じだ。
だが、特に親しくしてくるエリカは、年下なのだから名字呼び、それもさん付けするなと言われ、いほの要望で、他人がいる時、あるいは授業、戦車道の練習の時は、『逸見』と呼び捨て、二人きりの時は『エリカ』と呼ぶようにしているのだ。
本当に、他意はない。
「何してるんですか?」
それで何か満足気に聞いてくるエリカ。
「いや、今日は俺とまほの誕生日だという事を思い出してな・・・・」
「先輩も隊長と一緒に祝ってもらえばいいのに」
「無理言うなよ。三年の先輩方がいるんだぜ?虫の居所が悪いんだよ」
いほが皮肉たっぷりな口調でそういう。
ただ、それで不満が無い訳では無い。
戦車道は本来、女がするもの。
そんな風習の中、いほは耐えてきた。
異常聴覚者であるが故に、誰かの陰口はいつも耳に入って来た。
指揮の能力は抜群で、まほを凌ぐのではないかと言われる程だ。
だが、それでもはやり、チームの中ではいほの存在は異端だと思われている。
母に頼み込み、どうにか特待生として黒森峰女学院中等部に入学する事に成功したいほだが、やはり現実とは残酷なもの。中傷は当然の様にあった。
それでも腐らなかったのは、一年の時は持ち前の精神力と、同じ戦車に乗る仲間たち、そして頼れる
今年は、放っておけない世話焼きな
ただ、やはり『空気』というのはそう簡単に覆せるものではなく、みほとまほ、同じ戦車に乗るチームメイト、そして、エリカを含めたごく少数の後輩たちだけが、いほに付き従ってくる。
その為に、今行われているであろうまほの誕生会には、いほは参加する事を躊躇っていた。
しかし、それでも、家族以外にも祝ってもらいたいものだ。
「仕様がないですね」
「え?」
突然、エリカが少し顔を赤くさせ、懐から一つのラッピングされた箱を取り出した。
「仕方ないから、私が祝ってあげます」
その箱を、いほに差し出した。
「え、あ、な・・・」
それに思わず困惑してしまういほ。
その様子に、浮かない表情をするエリカ。
初めての家族以外からの誕生日プレゼント、それも異性。
いほは生まれてこのかた、家族以外で誰かに誕生日の贈り物を送ってもらった事が無い。
それもそうだろう。
何せ、友達いなかったのだから。
更に、みほやまほ以外の女性(妹だけど)からだという事で、いほの動揺をさらに大きくしていたのだ。
「あの・・・ダメ・・・ですか・・・?」
いつまでも受け取らないいほに業を煮やしたのか、それとも悲しくなったのか、表情が曇っていくエリカ。
「えあ!?ああいや受け取る受け取るよ!いやなにせ初めて誕生日プレゼント、それも女の子から貰うからさ!」
慌てて奪い取る様に受け取るいほ。
「そう・・なんですか・・・・
ぼそり、と嬉しそうに呟くエリカ。
「いや、その、ありがとうな、エリカ」
「ふふ、はい」
互いに照れたようにそう相槌をうつ二人。
「で・・・開けてもいいか?」
「どうぞ」
即答。
なので早速丁寧に開けてみるいほ。
すると、中に入っていた、ものの見事なドイツ国旗の柄が刻まれた、高値のしそうな銀時計だった。
「うお・・・」
「どう、ですか・・・?」
「これ、高くなかったか?」
「いえ、こう見えて懐事情暖かいんで」
「ああ、そうなんだ・・・」
いほは、時計の部分を空ける。下にふたがあくのではなく、横に開くタイプの奴だ。
そこには、ローマ数字で時間を示し、これまた独特な形の長短三本の時針が、時、分、秒をそれぞれ刻みながら動いていた。
秒を刻む度に、響く音が、何故か聞き心地が良い。
「・・・・良いな、これ」
「本当ですか?」
いほは、それを大事そうにポケットに入れる。
そして、ニカッと笑い、改めて、感謝の言葉を告げる。
「ありがとうな、エリカ」
その笑顔に、見惚れてしまうエリカ。
だが、すぐに我に返るも、心臓がバクバクと音を鳴らしているにも関わらず、エリカは微笑む。
「どういたしまして、先輩」