『戦車道?』
『あれか?戦車乗ってドカドカ撃つ奴』
『でもあれって女がやる奴だよな?』
『なんでここで・・・』
『戦車なんて、非力な人間が乗る奴だっての。やる訳ねえよ』
『そうそう、もしそんな奴がいたら笑ってやろうぜ!』
『ま、いたらの話だけど』
「なんか言ったか?」
『うおぉぉぉおお!?』
突然、コルクボードに張られた戦車道部員募集の張り出しに見ていた集団に、何やら黒いオーラを出して声をかけたいほ。
それに当然驚く集団。
「いほ君、構っちゃだめだよ」
「そうだぜ、言わせておけばいいんだよ」
「だけどなぁ・・・」
そんないほを無理矢理集団から引き離し、廊下を歩く優希と東馬。
「一応、他の戦車は生徒会の人たちが手伝ってくれたから見つかったかんだし、後は待つだけなんだよ?」
「それで集まらなかったら意味がねえよ」
そう様子で、三人は校舎を出て、裏手にある『工房』へ向かう。
ここで言う工房とは、主に自動車部が使う整備場みたいな所だ。
そこの裏手にある十両の戦車。
Ⅳ号中戦車E型 五人
クロムウェル巡行戦車 五人
ヤークトパンター駆逐戦車 四人
T-60軽戦車 二人
M42チャーフィー軽戦車 三人
コンカラー(FV214 Conqueror)四人
四式中戦車 三人
ルノーB1重戦車 六人
バレンタイン歩兵戦車 五人
一式中戦車 五人
以上の十両だ。
その全ての戦車の周りには、作業服を着た自動車部や工業科の面々が整備を行っていた。
「こいつらも戦車道やってくれればいいのにな」
「東馬くん。それは無理な相談だよ」
東馬のぼやきに、突っ込みをいれる優希。
「む、東馬、優希」
「よう
「司くん、整備お疲れさま」
そんな集団の中、いほたちの存在に気付いた一人の大柄な筋肉質な男。
「西住も一緒か」
「どうも」
彼の名は『
優希と東馬の幼馴染で、自動車部で、東馬の愛車の整備を担当している。
ちなみに、いほ達が乗る予定のⅣ号の整備も彼が担当している。ついでに言って、彼もⅣ号に乗るのだ。
「Ⅳ号の調子はどうだ?」
「問題無い。途中、風紀委員が賄賂でこれを動かせなくしろと言われたが、断っておいた」
「なら良し」
いほは、Ⅳ号に手慣れた様子で上る。
「おお」
「流石、戦車道経験者」
その様子を、周りの整備士たちは感心した様子で見る。
そのままキューポラの中のハッチを開け、中に入るいほ。
「ええっと・・・・」
そのまま、中の状態を確認するいほ。
しばらくすると、いほは中から出てくる。
「うん。通信機器も操縦席も全部OKだ。整備はこれ以上しなくても大丈夫だ」
「そうか」
「おーい!それならこっちのほうも見てくれ!戦車は自動車と違って勝手が違うからなー!」
「分かった、今行く」
そう言ってⅣ号から出てそちらに向かういほ。
「本当、戦車道経験者がいてくれて助かるね」
「遂に俺たちも戦車道をやるのか・・・・」
「あの風紀委員長は相変わらず反対しているみたいだがな」
そう言い合う優希、東馬、司。
その視線の先で、いほが生き生きとした表情で戦車の様子を見ていた。
翌日。
グラウンドの並ぶ、十両の戦車。
その目の前に立つ、数人の生徒。
「結構集まったね」
「全部で二十二人だな」
「俺たちや生徒会を入れて、二十九人だ」
「だが、これじゃあ最大九台、経験とかの不足とかあるから七台しか動かせないな」
「そうなのか?」
その生徒たちと戦車の間に立つ、いほ、優希、東馬、司の四人に加え、生徒会の面々。
「どうやら、僕たちがやるのに乗じて戦車道を受講する人が出てきたみたいだね」
業が眼鏡を押し上げて、どこか黒さを感じる笑みで生徒たちを見渡す。
「それならそれで良いんですが・・・・まあ、良いか」
いほは、とりあえず考える事をやめ、彼らに向き合う。
戦車道の立ち上げ。
その話は、たちまちこのバルカン工業高校中に広まった。
この学園艦で見つかった十両の戦車。
それを使って、この男子校で戦車道を立ち上げようというのだ。
当然、戦車道は乙女の嗜みとうたわられている為に、非難する者が多い。
だが、その中でいほ、優希、東馬がやる事を決意。
それだけなら、周りは彼らを馬鹿にしただろう。
だがそこに生徒会が入るとなると、話が大きく変わる。
生徒会長である北条 業ほどのカリスマ性を持つ人物が戦車道をやる。
更にその周りには、鬼の剣道部長である土方龍三、影の番長と噂される刻間比叡がいるのでは、誰もが押し黙るしかなかった。
だが、そのお陰で、周りの目を気にしないでやれると思った生徒たちが数人出てきて、今に至るのだ。
「えー、俺が、今日からこのバルカン工業高校機甲部隊で隊長を務める、西住いほだ。よろしく」
とある学校の一室にて。
一人の風紀委員の腕章をつけた三人のうち、一人がパソコンに向かって、何やらSNSに書き込みをしている。
「ほ、本当にやるんですか?」
「本気だ」
片割れの問いに、そう返す一人。
「下手すれば、我が校のイメージダウンにも繋がりかねませんよ?」
「我が学校が弱小と思われるよりはマシだ」
書き込んでいた文章にネットにあげる。
「ほ、本気やりやがったこの人・・・」
もう一人が、信じられないといった表情でパソコンの液晶画面をみつめる。
「くくく・・・・これでいい。これで我が校も安泰だ・・・・」
笑い声を漏らす少年に、他の二人は、血の気のうせた表情で見ていた。
グラウンドにて。
「それじゃあ、まずは自己紹介から」
「あ、それでは自分から!」
いほの言葉に賛同するように、一年の中で、小柄な少年が手をあげる。
「自分の名前は『
「ん?サッカーが趣味なら、部活は?」
「自主退部しました!」
「ああ、そう・・・」
いほは追及する事をやめた。
次は、同じ一年でいほ以上に目付きの悪い不良っぽい男子。
「俺は一年D組『
「裁縫!?」
「よくされますその反応」
どうやら、かなり女子力の高いようだ。
次は眼鏡の黒髪の普通そうな少年。
「僕は『
「ああ、よろしく」
随分と礼儀正しい。
次は、大阪生まれだと言うバンダナを頭に巻いた男子。
「ワイは『
「期待してるよ、善治郎」
次はあからさまにニコニコしている無害そうな男子。
「俺は『
「あ、うん、そうですか」
(警戒しておこう)
そう心に思ういほであった。
次は一見して女と見紛う程の顔付きをした男子。
「どうも、僕は『
「だろうな」
高い声に、下手すれば女と勘違いしそうだ。
次は、なんだか淡い色の髪をした、表情がどことなくぼーっとした少年。
「・・・・『
「了解、よ~く分かった。お前が無口だって事が」
次は、ほどよく緊張している男子。
「あ、僕、一年C組の『
「ああ、よく教室の隅で・・・ま、よろしくな」
かなりがちがちに緊張している。
次の生徒は、かなり長身だ。
「沖縄出身の『
「一応、聞くが、部活は?」
「かじった程度ですし、地元では才能がなくて破門にされました」
「それは大変だったな・・・・」
「慣れてます」
申し訳無さそうな顔で頭をさげる帯斗であった。
次は最初の勇也と同じように
「吾輩は『ジェームズ』である!好きな戦闘機は『B29』である!汝の采配に大いに期待しておるぞ!」
「あ、ああ・・・一応、日本を火の海した爆撃機だよなB29って・・・」
「気にするな!」
かなり個性的だ。
以下、三人は同じような人たちだった。
「小官は『グスタフ』であります。西住様とご一緒に戦車道できるなんて感激です!」
「拙僧は『クライスト』だ。砲撃なら任せてくれ」
「『ヴィットマン』です。あの、ドイツの戦車に乗れますか?」
彼ら曰く、『ソウルネーム』というものらしい。
次に、二年だ。
太っており、ぽっちゃりとした体型であり、同じように膨らんだ顔には眼鏡をしている。
身長もいほと同じくらいだ。
「二年の『
「ああ、よろしく」
次は、なんとも根暗な表情の男子で、髪はわかめみたいに垂れている。
「
ズイ、と威圧してくる。
「どうも」
いほは、それを気にも留める様子も無くに返し、次に行く。
次は留学生の様だ。
「
「
まだ日本語に慣れていないらしく、ドイツ語が混じっている。
その次は、男としては髪が長く、その後ろでみつあみにしている垂れ目の少年。
「二年A組の『
「ああ、どうも、よろしくお願いします」
フレンドリィな態度に、思わずたじろいてしまういほ。
次は三年だ。
しかし、次に紹介する二人がまさかの兄弟なのだ。
「三年の『
「その弟の『帝海
兄の長門はかなりの武人っぽさを思わせる品格を持っており、対する陸奥はなごやかな雰囲気を漂わせてくる。
なんでも、長門が四月生まれ、陸奥が三月生まれらしい。
どこの最強兄妹だ。下の方妹じゃなくて弟だけど。
次は、その二人の後ろに控えていた男子。
「『
あまり自己主張するタイプではないらしい。
次は、猫背で身長が低く見える理系男子。
「
「え?」
「冗談だよ。すまないね」
(いや冗談に聞こえなかったんだけど!?)
ハッハッハと笑う堂満に動揺を隠しきれないいほ。
そして最後は、なんだか顔色の悪い様子の男子。
「三年D組の『
「ええ・・・一応聞きますけど、顔色悪いですよ?」
「ああ、大丈夫大丈夫、貧血なだけだから」
「貧血でそこまで白くなるものなのか・・・」
なんとも言えない気持ちをぬぐえない。
「これで全員か・・・・」
いほの様子を見て、そう呟く司。
「司くん。本当に良いの?」
「何がだ?」
優希の問いかけに、首を傾げる司。
「本当に、戦車道、する気なの?」
「それを言うならお前もだろう?『家』の事はどうする気だ?」
「・・・・僕は出奔者だ・・・・もう、気にも留めて貰えないよ」
そう、暗い表情でつぶやく優希。
「だー!暗い!暗いぜ優希!」
「うわ!?」
そんな優希の背中を叩く東馬。
「今は目の前の事に集中しようぜ!やるからには、全力でだ!」
「東馬くん・・・うん、そうだね」
東馬の言葉に、元気を取り戻す優希。
その様子を、ノートを使ってチーム分けをしながら聞いていたいほは、安堵する。
そこへ、一つの足音がやってくる。
「ん?」
音からして、身長はいほと同じぐらい。
歩き方からしても普通。武道をやっている訳では無い。
だが、明らかにこちらに近付いてきている。
振り返れば、そこには、黒髪の眼鏡をかけた目付きの鋭い少年が立っていた。
「あれは・・・・」
その姿に見覚えのあるいほ。
ふとその少年はいほの方を見ると、こういった。
「ここか?戦車道をやるっていう場所は?」
その問いに、いほは良く通る声で返す。
「ああ。そうだぜ」
「そうか・・・」
その少年はいほの方へ向かって歩き出す。
そのまま、いほの一メートル手前で止まり、懐からとある書類を出す。
「俺も受ける。良いか?」
それは、『戦車道受講用紙』。
「ああ、大歓迎だ」
いほは、笑顔でそれを迎える。
「ふん、『
そんな訳で、いほがメンバー訳をした結果。
勇也、浩一、啓斗、善治郎、信次、芥の六人が『ルノーB1』。
征矢と薫の二人は『T-60軽戦車』。
ジェームズ、グスタフ、クライトン、ヴィッカマンの四人は『ヤークトパンター』。
理雄、修一、グラーフ、時雨の四人は『コンカラー』。
長門、陸奥、千利、堂満、名取の五人は『クロムウェル巡行戦車』。
業、龍三、比叡の三人は『チャーフィー(M24軽戦車)』。
そして、いほ、優希、東馬、司、総司の五人は『Ⅳ号中戦車E型』。
この様な編成となった。
いほは、全員を一旦、学習室に集め、説明会を実施した。
「さっそく全員に聞くが、戦車はどうやったら戦えると思う?」
「はい!」
勢いよく手をあげたのは、元気溌剌な勇也。
「どうぞ」
「がががー!って動かしてドカーンと撃つ!」
「あーうん。もう少し具体的な事を入れようか」
「はい」
「どうぞ浩一くん」
「それぞれが役割分担をして、戦車を動かす人、主砲を撃つ人、指示を出す人に分けるのだと思います」
「その通りだ」
いほは、黒板に戦車の役割を書き込む。
その書いている途中で、いほは説明を挟む。
「戦車の役割は、最低三つ、最大五つに分かれる。
戦車を動かす『操縦手』。
主砲を撃つ『砲手』。
そして、戦車を動かす為の司令塔ともいえる『車長』の三人だ」
曰く、操縦手は車長の指示に従い、戦車を動かすだけでよい。
曰く、砲手は車長の合図で、狙いを定め、引金を引くだけでよい。
曰く、車長の命令は絶対であるが、その分、車長には戦車を動かす責任が重大である。
「三人入れば、戦車は戦える。これが四人、五人となると、そこに『装填手』と『通信手』が加わる」
曰く、装填手は、砲手が撃ったらすぐさま次弾を装填しなければならず、かなり力のいる仕事である。
曰く、通信手は車長の耳となり、車長の手助けをするべし。
「三人乗りなら、車長がこの二つを兼任するんだが、四人の乗りのチームは、車長が通信手をやる事。良いな?」
はーい、とまわりから返事が出る。
「よし、それと、ルノーに乗るチームは主砲が二つあるので、どっちか一つ、一人ずつつくように」
そこで一旦切るいほ。
「さて、それじゃあそれぞれのチームで役割を選んでくれ。出来たら俺か生徒会に報告する様に」
そうすると、周りがそれぞれで集まって相談し始める。
「当然、車長はいほだよな?」
早速、東馬がその様に言ってきた。
「そうだね。僕は砲手で良いかな?」
「俺は通信手。もともと肉体労働は嫌いだ」
「となると、俺は必然的に装填手か」
「俺は運転手だな!」
「あっという間に決まったな・・・」
いほが入る余地も無く役割が決まってしまったⅣ号チーム。
「いほ君」
「ん?会長」
そこへ業がやってくる。
「どう思うかね、このチーム」
「そうですね・・・・」
いほは、一同を見渡す。
「俺が前に特別入学という事でいた黒森峰中等部では、ここまで騒ぐ事が無かったですね」
「え?お前黒森峰に言ってたのか!?」
「流石に高校は行けなくてな。しぶしぶと言った感じでここに来たって訳だ」
東馬の驚きの声に、苦笑して返すいほ。
「ま、そこでも色々な事があったけど、どうにか楽しく戦車道やってきたんだぜ?」
「西住家の人間で戦車道経験者・・・・教官を頼めない我が校には頼もしい人材だね」
そういほを賞賛する業。
「隊長ー!決まりましたー!」
優希が叫びながら役割決めの紙を持ってきた。
「ああ、分かった」
いほはその紙を受け取る。
「西住たいちょー、決まりましたぜ~」
「隊長殿、吾輩らも決まったぞ!」
「西住くん。俺たちも決まった」
「西住司令官、俺たちも決まったぞ」
どうやらほぼ同時に決まったらしく、思いっきり殺到してくる。
「わ、分かりましたから!順番に来てくれぇぇぇええ!!」
どうにかまとめ終わり、いほはごほん、と咳払いをする。
「それじゃ、早速で悪いが試合をやろう」
『え?』
いきなりのいほの言葉に驚く一同。
「まずは経験だ。ルールは戦車一台ずつ、チーム対抗戦での
『ばんつのあほー!?』
いほの意味不明な言葉に、空耳的な解釈で聞き返す一同。
その中で、グラーフだけはその言葉を理解していた。
「『Panzer vor』。戦車前進って意味です」
『ああなるほど』
笑いが漏れる。
それが、どうにも楽しいと感じてしまういほ。
ここまでの事は、黒森峰では無かった。
いほは、かつての仲間たちや妹たちの顔を思い浮かべ、天井を仰ぐ。
黒森峰中等部。
「え~っと・・・今日の練習はチーム対抗のフラッグ戦にしようかな。ああでも、その前に射撃訓練だよね。うん」
明るい茶色をした少女が、ボードに貼り付けられた紙を見ながら頭を悩ませていた。
「ああ、でも、新入生たちの為に、戦車の運転練習とかも、ああ、通信器具とかの使い方とかの復習も実施・・・・でもでも」
ガリガリと練習メニューに新たに書き加えたり、線を引いて却下したりとかなりの思考錯誤にふけっていた。
そんな彼女に、背後からずかずかと歩み寄る人物。
「悩みすぎよ」
「あう!?」
その頭に強烈なチョップを叩き込む、銀色の髪をした、目付きの鋭い少女。
「い、逸見さん・・・」
「しっかりしなさいよ。今は貴方が隊長なんだから、そんなんじゃ、いずれ先輩に呆れられるわよ?」
「う・・・」
銀髪の少女『逸見エリカ』の言葉に反論出来ない、いほの一つ年下の妹『西住みほ』。
その才能ゆえに、現在この黒森峰中等部戦車道チームの隊長を務めているみほだが、その性格ゆえに、とても頼りなさそうに見える。
「こ、これでも指揮の方はお兄ちゃんに褒められてるんだよ・・・」
だが、ひとたび戦車に乗れば、『軍神』と見紛う程の指揮能力を発揮する。
それが彼女の唯一の褒められる点なのだが、悪く言えば、戦車以外、からっきしなのである。
成績は普通、運動も普通。とにかく戦車以外は全く普通。
ただ違うとすれば、子供の頃から戦車に乗り、普通の女子中学生の生活をしてないという事だけ。
「指揮だけでしょう?それだけ認められても意味ないでしょう?」
「うう・・・・」
この学校唯一の友達であり、副隊長であるエリカの言葉に何も言い返せないみほ。
「ほら、そろそろ始まるわよ。さっさと来なさい」
「あ、待って~!」
先に行ってしまうエリカを慌てて追いかけるみほ。
その時、みほは、窓の外の空を見上げた。
それに気付いたエリカは、立ち止まり振り向く。
「どうしたのよ?」
「あ、ううん。なんだか、あの止まる事を知らないお兄ちゃんが、今とんでもないことやってるんじゃないのかな~って思ってさ」
「あの人ならやりかねないわね」
そのみほの言葉に、苦笑して同意するエリカ。
西住いほの逸話は、この黒森峰中等部の全校に広まっている。
この学園の、唯一の男子生徒。
その生徒が、機甲科を取り、かつて隊長を務めていた西住まほの双子の兄、その上、戦車の事ならなんでも知っている。
更に、今までの西住流とは思えないような戦い方をする事でも有名だ。
公式な試合、つまりは大会などには出ていないが、練習試合や親善試合で、まほに代わり、隊長を務めた時、偵察を持って、徹底した作戦を持って勝ちを取りに行く。
それは、『強くなる為の戦車道』では無く、『勝つ為の戦車道』を貫くいほらしい戦い方だった。
会場に姿を現せれば非難を浴びる。しかし、それでもいほは勝ちを取りに行った。
例え負けても、それを他人の所為にはせず、自身の采配の問題として戒め、勝利すれば、全員褒める。
自身には厳しくし、他人には安全を取らせる。
その人気は、彼を知る、機甲科の後輩たちには絶大だった。
ただ、その人気が出てきたのは、夏休みの間に行われたある大会を通しての事だが。
威厳のあるまほと、尊敬を持ついほ。
当然の様に、上級生と下級生の間で亀裂が入るのは当然の事。
だから、いほは、別の学校に行ってしまった。
泣いて引き留める後輩たちをなだめながら、彼は行ってしまった。
これ以上亀裂が入れば、いずれチームの崩壊につながる。
それを分かっていたからこその判断だ。
沢山の贈り物と共に、彼は、行った。
『必勝』の名を残して。
「さ、そんな空耳的な事を言ってないで行くわよ」
「うん!」
エリカの言葉に賛同し、ついていくみほであった。
いほが残したのは『必勝』の戦車道。
次回『練習試合だ』