事の始まりは、学校のパソコン室。
普段は、部活とかに使われる事の多い部屋だが、放課後や昼休みなど、許可を貰えれば、自由に使える事の出来る部屋だ。
ただ、何を調べていたのかを調べられるという事を分かった上で、だが。
しかし、今回のは異例だ。
まさか、摘発されるのを覚悟の上で、SNSに、男子校で戦車道を始めた、それも自身の学校の事を書き込むなど思ってもみなかった。
これは完全に生徒会の落ち度だ。
だが、そこで更なるイレギュラーが起きたのだ。
本来、学園艦は決まったルートを決まった時間で、そして定期的に経過を文部省に報告しなければならない。
それを振り切って、ルートを外れ、よもや、学園艦に近付くなど、思う訳が普通無い。
実際、今、二隻の学園艦が並走しているという事実が現在進行形で起きているのだが。
そんなこんなで、連絡船を利用して、いほ及び生徒会は、『カッシーノ女子学園』なる学園艦に入っているわけだ。
そして、その学園の校門前で立ち往生している訳だ。
「えーっと、一応、待ってればいいのか?」
「はい」
無表情なのに、敵意丸出しの声音で、いほの質問に短く答える黒髪おかっぱの少女。
彼女は、この学園の戦車道履修者らしい。
「暇だね~」
「こんな事なら、トランプでも持ってくれば良かっただろうか?」
「・・・・龍三先輩、この二人、敵の本拠地なのになんかかなり余裕じゃありませんか?」
「なれれば楽しいものだ」
「そういうものなんですかね・・・」
いほが後ろにいる、かなり緊張感の感じさせない比叡と業のやり取りに呆れていると、向こうからぞろぞろと女性の集団がやって来た。
先頭に、若干目立つ格好をした少女を筆頭に。
「よく来たわね、身の程知らずの豚さんたち」
いきなりの暴言。先頭の少女だ。おそらく、戦車道チームの隊長だ。
それを軽くうながす四人。
「今回、どうして招待されたか、お分かり?」
「俺たちが、戦車道をしているからだろう?」
「あら、豚の癖に賢いのね」
「はいはい。豚のネタから離れましょーね。で?何をする気だ?」
いほは、
目の前にいる少女。
赤ピンク色のポニーテール。人を見下すような目つき。何気に綺麗な顔立ち。
どこぞのお嬢様の様な気品を感じる人物だ。
「ふん、当然でしょ?戦車道をやめなさい。今すぐに、ね?」
当然、と言われれば当然だ。
「断る、と言えば?」
「そうねぇ。お前たち」
ポニテの少女が合図を出す。
すると、どこからか黒スーツの男が数十人出てくる。
その男たちは、いほ達を包囲するように立つ。
「やれやれ・・・」
龍三は、腰のベルトに差した野太刀の様な木刀の柄に手をかける。
比叡は、余裕そうな表情で態勢を低くする。
業に至っては構えすら取らず、笑みを浮かべる。しかしその眼は、真剣そのものだ。
「大人しくしていれば、痛い目を見ないですむわよ?」
「おいおい、仮にも俺たち戦車道履修者だぜ?戦車でやり合うってのが道理なんじゃねえのか?」
「あら?どこの誰がそれを許してくれるのかしら?ブーイングを喰らって終わりよ?」
まさしくその通りだ。実際、いほはそれを受けている。
だが、今戦車道をやっているバルカンの生徒たちは、真剣に戦車道に取り組んでいる。
ならば、意地でも続けさせてやるのが、隊長としての務めだ。
「どっちにしろ、俺たちは戦車道を続ける」
「そうなの。残念」
くい、と顎をしゃくりあげる。
すると、いほの目の前にいた黒スーツの男が、いほに殴りかかる。
「ここにいるのは全員、陸軍で鍛えられた人間ばかりよ。たかが学生如きに、倒せるものじゃないわ」
勝ち誇ったように笑うポニテの少女。
だが、いほはそれを無視して軽く構えを取り、迎え撃つ姿勢を取る。
そして、黒スーツの連続したCQCがいほに降りかかる。
だが、いほは、
「な!?」
頬に突き刺さった、右ストレート。
その威力が高すぎ、吹き飛ぶ黒スーツその一。
そのままもんどりうって地面に倒れ伏す。
「ぐ、軍用格闘術・・・!?何故それを・・・!?」
黒スーツ集団の一人がそう声をあげる。
その声音には、確かな動揺が見えた。
「それがどうした?」
だが、いほはその動揺を一言で一蹴する。
「龍三、比叡、戦闘の許可を出す。相手の戦意を喪失させるだけで良い」
「了解!」
「承った」
比叡がフットワークを始め、龍三が木刀を抜く。
それから数十分をしないうちに、黒スーツ集団は全滅した。
「はあ・・・はあ・・・・予想以上に手こずった」
「中々に強かったな・・・・西住は全然平気そうだが・・・」
「鍛え方が違う」
龍三の疑問をたった一言で一蹴するいほ。
汗どころか呼吸さえも乱れていないいほの様子に、畏怖を感じるのだろう。
「それで、流石にお前たちも襲い掛かってこないよな?そうであっても返り討ちするがな。まあ、こいつらの様にぼこぼこにはしないが」
ちなみに、いほが相手した黒スーツは一撃
しかし、女子たちは冷や汗を流しているにも関わらず、目の前のポニテの少女は余裕な感じだ。
「分かったわ。貴方たちの強さに免じて、戦車道で勝負しましょう?ただし、貴方たちが負けたら、貴方たちの戦車を全て譲りなさい。そして、今後一切、戦車に関わらないで頂戴」
「OK。審判などの手配は任せる。だがルールはその審判に決めて貰え。良いな」
「豚が私に命令しないで頂戴。でも良いわ。そうしてあげる。精々、戦車との最後を嘆いていなさい」
相変わらず上から目線な態度は変えず、立ち去っていくポニテの少女。
「待て」
だが、そんなポニテの少女を引き取める。
「何かしら?」
「名乗っていなかったな。俺の名前は西住いほ。バルカン工業高校機甲部隊の隊長を任されている」
いほの行動に、ポニテの少女も答える。
「西住・・・まさかね。私は『ジュアン・フォンス』よ。このカッシーノ女子学園機甲部隊の隊長を務めているわ」
「ジュアン・フォンス・・・・覚えておこう」
「別に覚えなくても良いわ。どうせ、豚レベルの記憶力だもの」
相変わらず、豚から離れる気は無いらしい。
そのまま、彼らは別れた。
数日後。
福岡県いわき市小名浜町。
その県にある、小名浜港にて、いほ達は、その街を観光していた。
「本当に、やるんだよね?」
優希が、たった今スマホをまじまじに見るいほにそう問いかける。
「ああ。やらなきゃいけないからな」
「皆の答えは、徹底抗戦。例えブーイングを受けようとも、やる気である事には変わりない」
「最も、あの風紀委員長はクビみたいだがな」
町中を五人並んで歩く、いほ、優希、東馬、司、総司の五人。
「まったくだ」
「ま、こういう事は、誰にでも予想できた事だと思うがな」
呆れ声をあげる司と総司。
風紀委員長である正義は、最後にパソコン室を使ったという事に加え、自らやったと暴露した為に、当然の様に生徒会権限でクビ。
ただ、当然の様に、SNSである為に、その事が世界中に拡散され、日本ではすでにニュースや新聞に大体的に取り上げられている。
『おい、あいつらじゃねえか?』
『男の癖して戦車に乗ってるっていう・・・』
『最近、試合するみたいだぜ?』
『どうせコテンパンにされて終わりだ』
まわりからの陰口が嫌でも耳に入ってくる。
いほは、それに反応せず、ただ、聞くだけ。
しばらくして、人気の多い広場に出るいほ達。
その中心にある一本杉の根元にて、立ち止まるいほ。
「よし、この辺りだな」
「この辺りって・・・誰かと待ち合わせしてるの?」
「ああ、黒森峰の時の友人なんだが・・・」
いほが、持っていたスマホの液晶画面に映し出されているメールの内容を見せる。
内容は以下の通り。
『次の停泊場所の、広い広場の一本杉の下で落ち合いましょう。久しぶりに会いたいし、貴方のバルカンでの話も聞きたいわ』
語尾からして女性。それも大人だろう。
「誰?」
「陸上自衛隊の――――」
「いほくーん!」
いほが何かを言いかけた時、どこからか、元気な女性の声が響く。
声が聞こえた方を見ると、そこには一人の
「じ・・・!?」
「自衛隊・・・!?」
その人物に驚愕する四人。
いほは、その姿を見て、返すように手を振る。
「亜美さん、お久しぶりです」
「久しぶりね、いほ君。最後に会ったのは、貴方が十八両抜きした試合の時以来かしら?」
「あの時は大変でしたよ。皆、良く頑張ってくれたと思いますよ」
「うんうん!最も、同じ戦車に乗る仲間たちの技量を最大限に引き出せたのは貴方の采配のお陰よ」
「褒めすぎです」
「照屋さんめ」
なかなかにぶっ飛んだ会話をするいほと、自衛隊の制服を着た女性。
「い、いほ君?この人は?」
「ああ、この人は・・・」
「陸上自衛隊戦車教導隊所属、『蝶野亜美』一尉よ。よろしくね」
「・・ちなみに、俺をバルカン工業高校への手引きを助けてくれた一人だ」
「ど、どうも、飯盛優希です」
「円道東馬っス」
「牛塚司です」
「鬼経総司、です」
互いに自己紹介する。
「それと、今回の試合で審判を務めてくれる人だ。結構すごいぞこの人」
「どのくらいなの?」
「単騎で敵戦車を十五両倒したり、十二時間に渡る激闘の一騎打ち、あとは・・・・」
「オーケーオーケー、よ~く分かったぜ」
「む、そうか」
そのまま、互いに向き合う亜美といほ。
「それにしても、貴方ならやってくれると思ったわ。この問題児め!」
「貴方には言われたくありませんよアバウト教官。いくら優秀でもいきなり試合だとかアバウト過ぎるでしょう?」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてません」
照れる亜美に突っ込みをいれるいほ。
「さて、そろそろ近くに喫茶店にでも行きましょうか。つもる話はそこで、ね。それと、昔みたいにため口でいいわよ」
「へいへい、分かったよ」
「あ、僕たち邪魔かな・・・」
たじろぐ四人。
それに顔を見合わせる二人。
「どうするの?」
「そうだな・・・・その内にバレる事だろうし、来いよ」
亜美の問いに、いほは、そう答えた。
とある喫茶店にて、いほ、亜美、優希、東馬、司、総司の六人は、いほと亜美が向かい合う形で、出されたコーヒーやら紅茶やらを飲んでいた。
「家元がこの事を知っているのは分かっているわね」
「ああ、数日前に電話をよこしたよ。居場所は残すだと」
「珍しいわね、鉄血と呼ばれたあの人が、ね」
二人の交わす会話には、微かに、重さというものを感じる。
その重さに、上手く口を開けない、優希、東馬、司、総司の四人。
「世間は、かなり荒れてるわ。男が戦車道をする事に対して、批判的な人たちが多いわ。今まで、日本では大和撫子の嗜みとして受け継がれたきた戦車道に、突然、男が入ってくるんですもの。驚かない方がおかしいわ」
「連盟はどうなんだ?」
「やっぱり批判的な意見が多いわね。貴方たちの行動で、他にも戦車に乗りたがる男が出てくるかもしれない、他にも、日本の他の国に対する信頼が落ちるとかいう
「まだ意見で止まっていてくれて助かるな。それが命令だったら、いよいよ抵抗できないからな」
「そうねえ。まあ、連盟もそう簡単には動けないのよねえ」
「理由は、雷切財閥現当主がバックについてるからだろ?」
「その通り。最も、呼び出されはしたみたいだけどね」
「知ってる」
あのニュースが放送された直後に、雷切源野は文部科学省に呼び出された。
理由は分かっていると思うが、当然、自らの学校で始めた戦車道の事だろう。
そこで何か騒ぎを起こしたみたいだが・・・
「あの人、戦車道の在り方を変えるって言い放ったわよ?それも、文部科学大臣や連盟理事長の目の前で、堂々と、ね」
「やり過ぎだろあの人・・・・」
乾いた笑みを浮かべるいほ。
それに構わず亜美は続ける。
「そこで、文部科学省は、こんな条件を出してきたわ」
「条件?」
そこで一息つく亜美。
「戦車道全国大会で優勝、もしくは、優秀な成績を納めたら、男子戦車道の始動を許可するって」
『優勝!?』
「いきなり大きくでたな・・・」
声を張り上げる四人に流石に冷や汗を流すいほ。
「本当に全国大会の参加の許可取り付けるの、大変だったらしいわよ?島田家の助力が無かったら跳ね返されてた所よ」
「島田って・・・・・もしかして千代さんか?」
「そうよ。島田流家元、島田千代の、ね」
「良く手伝ってくれたな・・・・」
島田流。
忍者戦法、変幻自在の戦車道と呼ばれる、西住と並ぶもう一つの戦車道の名門。
圧倒的火力と一糸乱れぬ統率力で敵を殲滅する『力』を求める西住流に対し、臨機応変に変幻自在な戦術を多彩に駆使する『技術』を求めるのが島田流だ。
その現家元なのが、『島田 千代』だ。
いほが、西住家と島田家との面会の時に居合わせた時に、千代がいほの事を何故か気に入ったらしいのだ。
その時の会話はどこか肉食獣染みた恐怖を感じたのを、いほはまだ覚えている。
ただ、千代は島田流の人間。
男とは言え、西住の直系であるいほを手伝う道理など無い筈なのだが・・・・
「あの人、なんだかおもしろいものを見る様な眼だったわ」
「かなり能天気だからな、あの人」
思わず苦笑が零れる。
それに、結構甘い人なのだ。
「それで、今回の試合がその第一歩って訳か。これで勝てれば、練習試合や親善試合もやりたいほうだい・・・という訳では無いにしても、一応、試合に参加する許可ぐらいは貰える訳だ」
「その通り、反故にされる可能性も捨てきれないけど、とにかく、全国大会で優勝すれば、一部の国民には賛同意見がもらえるはずよ」
「それを期待するしかないか」
話題転換。
「それで、ここから話は変わるけど、どう?今回の試合。勝ち目はあるのかしら?」
コーヒーを一口、口に運んだあとで、いほは答える。
「カッシーノ女子学園。イタリアの戦車を中心にそろえた学園だ。イタリア戦車といえば、アンツィオ高校も同じだが、あっちはノリと勢いが物凄い学校だからな、それに対してカッシーノの場合は、まるで中世のヴェネチアやフィレンツェみたいな所だ。とにかくいいとこのお嬢様が多い。その気品とプライドの高さから、自身より格上の相手には敬意を、格下の相手には見下しの態度。
金の無いアンツィオと違って、あちらは火力の高い中戦車や重戦車を持っている。こっちにはヤークトパンターや四式の80mm相当の火力はある。あとは、機動力で最速のクロムウェルがある。だけど、こっちには、決定的に不利な点がある」
「経験不足、ね」
亜美が、重々しく答える。
「試合もまともにやってない、ルールも分からない。アドバンテージとしては、工業高校故の体力自慢って所か・・・・」
「どちらにしろ、指揮官だよりね」
その亜美の言葉を聞いて、優希たちは、表情を暗くする。
「その上、貴方、また無茶してるのね」
「え?」
「貴方、寝てないでしょ?」
「!?」
亜美に言われ、いほは、眼を見開く。
右手首を左手で掴む。
「本当に・・・・・している努力が
「・・・俺が勝手に無理してるだけだ。前日には、しっかり寝る」
「そう・・・」
最後の一口を飲み干す亜美。
そうして立ち上がる。
「貴方たちの試合、楽しみにしてるわ。見せてよね、貴方の、『必勝』の戦車道をね」
「
亜美は自分の分の支払いを済ませ、店を出ていく。
そのまま、沈黙。
今気づいたが、まわりから、批判的な視線を浴びせられる。
当然、自分たちが戦車道をやっているからだろう。
「・・・えっと・・いほ、君?」
「なんだ?」
「無理してるって聞いたけど・・・・・」
「ああ、心配するな。ただの寝不足だ」
いほは笑って誤魔化す。
だが、その笑顔が、作り笑いだと、優希は見抜いていた。
かつて、その表情と同じ顔をした人物を、見た事があるから。
「西住」
そこで、司が口を開く。
「自分一人で背負おうとするな。お前は一人じゃない」
そう、言った。
その言葉に、いほは茫然とする。
そして、噴き出す。
「く、はは」
「なんだ?」
「いや、エリカにも言われたよ、そのセリフ」
「へえ、そうなのか?」
東馬がニヤニヤとした表情で笑う。
そして、いほは、前かがみになって、両肘を机につける。
「そうだよな。俺は、一人じゃない」
吹っ切れたような表情で、いほは、四人に向き直る。
「勝とうぜ、明日の試合」
「うん」
「おう」
「まかせておけ」
「了解だ」
いほの言葉に、しっかりと返す四人だった。
次回『バルカン工業高校機甲部隊、初陣』
感想、ご指摘、おねがいします