おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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ララバイの怪物

 大渓谷と呼ばれる谷の真ん中を線路が走っている。線路はやがて谷を抜け一つの駅にたどり着く。クローバー、この町はギルドマスターが一堂に集まりギルド間での交流を深めるための報告会を行っている場所である。こういえば聞こえがいいが、実際はギルドマスター達が参加する宴会である。会場のテーブルには所せましと料理が並び、当然酒も出る。そもそもフェアリーテイルを見てもわかる通りギルドの多くは酒場を本拠地としている。これは酒場には情報が集まりやすく魔導士達がクエスト情報を集めるのによく足を運んでいたからという理由もあるが、基本的に魔導士はお祭りが好きである。情報は組織間で管理され酒場に集まる理由はなくなった。しかし、どうせならどんちゃん騒ぎをしても誰にとがめられることもない場所がいいと多くのギルドが酒場を本拠地にするようになったわけである。

 

「……で、お前さんはなんでララバイをハッピーにここへと運ばせたんじゃ」

 

 全く手紙にも書いたというのにマスターももう年だな連絡事項をド忘れするなんて。さて、現実逃避のため定例会には不必要と思われる酒や料理について考えていたのだが、マスターがひきつった笑顔でこっちを見つめている。正座した俺の頭を魔法で巨大化した手でつまむ、まるで万力で締め付けるような痛みが俺の頭に襲いかかっている。ハッピーに渡した念糸でぐるぐるまきになったララバイが俺とマスターの間で瞳のない目でこちら見つめている。相変わらず悪寒が止まらない、こんなやばいものは早急に封印できそうな人に渡すというのは間違っているだろうか。

 

「……ここが一番安全だと……フゴっ」

 

 聞かれたことに答えている最中だというのにさらに力が込められる。

 

「嘘をつくでない――お前さんのことじゃどうせこんな危ないものはそばに置きたくないとかゆう理由じゃろう!!」

 

 馬鹿な――見抜かれているだと!!

 

「どうしたのナツそんな怪我して、エルザとグレイも疲れてるみたいだけど…」

 

 向こうではハッピーと再会したメンバー達がクヌギ駅での鉄の森《アイゼンバルド》の連中との戦闘について話している。ルーシィは、ギルドマスターに交じって料理に舌鼓を打っている。お転婆そうな子だけど食べ方はとてもきれいで、どこかのお嬢様のように見える。しかしこちらに目を合わせることはない。もしもーしこのでかいマスターに暴力をふるわれている仲間がここにいるんですけど。あ、なんか頭がメキメキいってる、誰か助けてー。

 

 マスターにこってり絞られた俺は床に身を横たえていた。いや、正直頭が痛すぎて座る元気もないんです。心なしか頭蓋骨の形が変わっている気さえするし。

 

幸いにも今回の鉄の森(アイゼンバルド)が起こした事件での死者はゼロである。最初にエリゴールに切られた人も意識はまだ戻っていないものの応急処置が間に合い今は病院で治療を受けている。ほかの人たちもとりあえず命に別状があるようなけがをした人はすぐに治療したのでじきに回復するだろう。だが駅は壊滅状態になってしまった。

俺達がたどり着いた時にはもうすでにボロボロのありさまっだったが、まだ骨組みは残っていた。しかし、鉄の森(アイゼンバルド)との戦いでその骨組みさえも吹き飛ばされがれきの山というありさまになってしまった。エリゴール達を逮捕しにきた検束魔導士達いわくすぐにでも復興のため魔導士が派遣されてくるそうだ。また、元の活気ある駅街に戻ってほしいと切に願う。

 

「それにしても俺が持っていたララバイがまさか偽物だったとはな」

 

 倒れている俺の頭の上からグレイのすこし不機嫌そうな声が聞こえる。だましたような形になってしまったのは悪いと思うっている。まさか運んでいる最中に襲撃されるとは思いもしなかったのだ。エルザとカゲヤマの話から鉄の森(アイゼンバルド)がララバイを狙っていることは知っていた。しかし、カゲヤマが持っていた切符はオシバナ駅までのものであり受け渡し場所がそこであると推測した。だからハッピーにララバイを持たせて手紙と一緒にマスターのもとへ送ったのだが、グレイ達に黙っていたのはハッピーに危ないものを持たせるなんて……とか反対意見を出させないようにするためだ。決してだます様なつもりはなく――あの、先ほどから首から下がとても冷たいのですが、感覚が!!体の感覚が!!

 

鉄の森(てつのもり)が起こした今回の一件は闇ギルドに指定された恨みからギルド連盟を狙ったものでした」

 

 確かにギルドのリーダーであるマスター達は強い。マカロフのような老人でも、魔法を研磨している時間が俺達とは比べものにはならない。そのため普通の魔導士がマスターが今使った巨人(ジャイアント)を使っても一分ほどしかあのサイズになることはできないだろう。もともとの魔力もさることならば魔力の運用効率が優れているのだ。それほどの戦力を相手にするために致死力の高いララバイを持ち出したのだろう。

 

「わしたちを殺したところで何も変わらんというのに、他者を見下し排除してえた力など支え合うことで得られる強さにはかなわないというのに」

 

 鉄の森(アイゼンバルド)のように闇ギルドに指定されてしまったギルドは依頼やギルド間での取引が評議会の名のもとに禁止される。自分たちが高めていた名声がすべてなくなったのだ。なじみの仕入れ先も知り合いもみな彼らを避けるようになる。町へ出れば顔を背けられ速く出て行けというように言葉少なく目も合わせようとしない。こんな世界は間違っていると考えるのも無理のない環境だ。普通ならば闇ギルドに所属していた過去を捨てギルドから離れていくのだろう。だが今回の事件を起こした彼らは鉄の森(アイゼンバルド)にしがみついた。仲間と一緒にいたい、昔の栄光が忘れられない、残った理由はわからない……でもギルドを見捨てたくない、と思うその気持ちだけは否定したくない。

 

「なんだあの魔導士どもはこないのか、いい加減腹も減ってきたしおあつらい向きに獲物もたーんといる。ならばワシがおとなしくしている必要はないわな」

 

 誰も死ななくてよかったなーなどと、今回の依頼について思いをはせていると不気味な声が響いた。こういう異常事態を今起こしそうなものといえば――。

 

 ララバイに目を向けると今までは閉じていたはずの髑髏口が開きそこから煙が噴き出ている。煙は形を持ち始めおまけに質量も持っているようだホールの屋根を崩しテーブルが倒れ上からがれきが落ちてくる。ちょ俺今動けないんですけど。

 

「さあ、誰から魂を食らってほしい」

 

 笛から出現した怪物は俺達を見下ろしてそういった。

 

 

 

 

 

 

 定例会の会場より大きくなったララバイの怪物は笛と同じように三つ目の顔をしていた。笛のときには空洞だったその部分には紫色の光がともり灰色の体は胸の部分に空洞が開いている。足は地面をつかむように床にめり込み。その姿はまるで枯れた強大な大木のような威圧感を与えてくる。

 

「なんでぇーどうしてぇー笛から化け物がでてくるの――」

 

 他のギルドのマスター達のアイドルになっていたルーシィは突然の状況の変化についていけず涙目で右往左往している。

 

「あの怪物がララバイそのものなのさ。長い魔法界の歴史の中でもあんな魔法を使えるのはただ一人しかいない――黒魔導士ゼレフ最悪の魔導士として歴史に名を遺した男、奴だけさ」

 

「ゼレフの書と呼ばれる生きた魔法。何百年も前の遺産を目にすることになるなんてほんとにびっくりねー」

 

 黒い帽子に黒いローブおとぎ話に出てきそうな姿をした四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のマスターとキャミソールをしたいい年のおっさんという目をそむけたくなるような恰好をした青い天馬(ブルーペガサス)のマスターが冷や汗をかきながら化け物を見つめている。その様子は十秒前までルーシィにセクハラをしようとしていた二人とは思えないような真剣さだ。

 

「封印からワシを解放したあいつが笛を吹くのを今か今かと待っておったがワシを使う前に奪われるとわな。久々の食事だ、全員の魂を喰らってやろう」

 

 まさかララバイの呪殺とはあいつに魂を喰らわれることなのか。笛のときの能力がそのまま奴の能力になるというのなら奴の体の穴から流れる音すべてララバイになってしまう。

 

「――まずい、ララバイだ、逃げろ」

 

 ギルドマスターの一人が背を向け逃げ出した。無理もないあんな化け物を前に、どんな強力な魔法も無意味なものに感じてしまう。しかし、周囲が立ち尽くしている中で一人だけ逃げるというのはとんでもなく目立つ。

 

 当然ララバイにも気づかれたようで狙いを逃げたマスターに合わせて飛来する魔法弾、魔法障壁を張るには詠唱の時間が足りない。だが逃げ出したマスターと同時に全く別の動きをした人間が三人いた。彼らはあろうことかララバイに向かって走った。

 

 その中の一人であるグレイは魔法弾とマスター達との間に立ちふさがる。

 

「アイスメイク…“(シールド)”」

 

 八枚の花弁をかたどった大盾がグレイの前方に出現する。奴の魔法弾をすべてあたってもひび割れることなくそのすべてを防いでいる。

 

「あれほどの造形魔法を一瞬で」「しかも全然壊れないぞ」「速さだけでなく堅牢さも一級か」

 

 魔法を使う上で必須なのが起動詠唱である。これは上級の魔法ほど長い詠唱が必要になる。しかし、グレイは起動のキーを動きの中に組み込んでいる。さっきの(シールド)なら包んだ手を広げる動作、そして流れるように手のひらを交差し相手に突き出し。構える――

 

「アイスメイク…“槍騎兵(ランス)”」

 

 手から放たれた無数の氷の矢が突き刺さる。その破壊力はララバイの体に風穴を開けるほどだ。

 

 エルザが駆け出した時にはすでに鎧の換装を完了していた。黒羽の鎧(くれはのよろい)一撃の破壊力を増加させる鎧だ。全体は黒を基調としており蝙蝠のような翼と背中と腰のプレートに十字架が描かれている。

 

 最後の一人であるナツはやつの体をよじ登る。ララバイがグレイの攻撃でよろめいたのと同時に空中に跳躍する両手に炎を集め巨大な火の玉を作りしだすとそれをララバイに向かって叩きつけた。

 

――「火竜の煌炎(かりゅうのこうえん)

 

 エルザの斬撃とナツの火球、二人の攻撃のすさまじい破壊力が周りの空気を震えさせ、奴の体の周りには攻撃の影響で煙がもうもうと立ち込めている。

 

 グレイ、ナツ、エルザというフェアリーテイルの中でも上位の戦闘力を誇る三人の攻撃をまともにくらったのだ。いくら相手が伝説の魔導士の魔法だろうが無事ですむわけがない。

 

「……バ、バカな…」

 

 立っていたララバイがその巨体をゆっくりと傾けていく。煙から出てきた奴の体はその右半身を吹き飛ばされており、その威力を物語っている。アブな!!巨体がグレイによって凍らされており動けない俺のほうに倒れてくる。幸いにも下敷きになるようなことはなかったが地響きを体全体で感じる。奴も自分の体を維持することがかなわなくなったのだろう、だんだんとその巨体も出てきた時とは逆に煙へと変わり笛へと戻っていく、とりあえずこれで一安心してもいいだろう。しかし、こんな化け物えを倒してしまうとはしばらく組んでなかったが、ナツトグレイもフェアリーテイルのエース級の実力を身に着けているようだ。マスターは機嫌よく大笑いをあげておりとてもご満悦だ。まわりからの畏怖の視線が心地よい、当然だこれがフェアリーテイルの魔導士の力だ!!だからいい加減この氷状態から解放してくれませんかねえ……

 

「すさまじいな……」「驚いたわい」「あらら……あの子たちうちに来てくれないかしらかっこいいわー」「ゼレフの魔法をこうもあっさり倒すとは」

 

「どうじゃ、うちの魔導士たちはすごいじゃろう」「すごーい、すごい――あんな化け物を、倒すなんて」

 

 マスターが周りのほかギルドのマスター達にドヤ顔で自慢している。周囲のマスターも拍手や感謝の言葉を送ってくる。

 

「――ハァーァハッハッハ……は?」

 

 マスターが俺のほうに目を向けると同時に突然今までの調子にのった顔を引っ込め、そろーり…そろーりとこの場から離れていく。飛び跳ねて喜びの感情を爆発させていたルーシィも目を大きく見開きエルザやナツのほうに駆け出した。

 

 満足そうに賞賛を受けていたエルザ達も何かに気づくとマスターと合流しこちらを一切振り替えることなく走り出した。そして他のギルドマスターに囲まれる氷漬けにされた俺、は?なんだ状況――もしかしてこの氷を解いて胴上げでもしてくれるのだろうか?

 

「ハザマ君、君さえ残って来ればまあいいか」「ララバイの魔物を倒してくれたことには礼をいおうしかし――この惨状の責任をだれがとるのかというとフェアリーテイルだろうな」

「聞けば、ララバイをここに運ぶように指示したのは君そうじゃないか」

 

 そこまで聞いてやっとこの状況を理解した。ララバイの巨大化とともに崩れた大広間、倒れたときに()()()に倒れた来たことから定例会の会場はもはやがれきの山だ。

 

逃げ出したマスター達の前方に夕日が見える今、夜だけど……それほどに誰もが見事なフォームで走り去っていく。

 

「――嫌だー。俺を家にかーえしてぇー」

 

「「「帰れるよこれを直せばね」」」

 

 氷漬けにされて物理的に動けないこの状況。マスター達に囲まれた俺に断るという選択肢は存在しなかった。

 




 これで鉄の森編は終了です。次はガルナ島編を書こうと思っているので、よろしくお願いします。
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